So-net無料ブログ作成
前の10件 | -

東京零年 [日本の作家 赤川次郎]

東京零年

東京零年

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/08/05
  • メディア: 単行本

<裏表紙側帯あらすじ>
殺されたはずの男が生きていた――。
電車のホームから落ちた生田目健司を救った永沢亜紀。
二人が出会ったとき、運命の歯車が大きく動き始める。

脳出血で倒れ介護施設に入所している永沢浩介が、TV番組に一瞬だけ映った男を見て発作を起こした。呼び出された娘の亜紀は、たどたどしく喋る父の口から衝撃の一言を聞く。「ゆあさ」――それは昔殺されたはずの男・湯浅道男のことだった。元検察官の父・重治が湯浅の死に関与していた事を知った健司は、真相を解明すべく亜紀とともに動き出す。時は遡り数年前、エリート検察官の重治、反権力ジャーナリストの浩介、その補佐を務める湯浅。圧倒的な権力を武器に時代から人を消した男と消された男がいた――。


今年5月に読んだ2冊目の本です。
単行本です。2015年8月に出た本なので、もうすぐ文庫化されるかもしれませんね。
2016年第50回吉川英治文学賞受賞作です。
「これは、自由の失われた近未来の話ですが、同時に若い人々に「あなたは未来を変えられる」と呼びかける希望の物語でもあります。」
という作者の言葉が表側表紙才サイドの帯に書いてあります。

新書で出ることが多い赤川次郎の本ですが、今回は単行本というだけでなく、500ページもありまして、力が入っているな、と読む前から分かります。吉川英治文学賞も受賞していますしね。
長くて力が入っているとはいっても、いつもどおりの読みやすさはキープされていますし、監視社会、検察・警察等権力の横暴を描いているあたりも、三毛猫ホームズや花嫁シリーズのようなシリーズものではあまり例がなくても単発作品ではよく取り上げられているテーマですし、赤川次郎らしい作品に仕上がっていると思います。
とはいえ、それで受賞に値する出来栄えの作品か、と問われると答えに困ってしまうのが正直な感想です。

権力を用いて人を消す、というのが絶対にない、とは言いません。
人類の歴史をみればそういった例はいくつもあるのでしょう。日本でも戦前の特高などはそういう権力の例といえるかもしれません。
しかし、この「東京零年」で取り扱われているような事態は、今の世の中から見るとちょっと行き過ぎ感が強いんですよね。
吉川英治賞の受賞決定の会見で「近未来小説として書いたが、現実が追いついてしまった」と危機感を赤川次郎は述べたらしいですが、うーん、どうでしょうか。
特定秘密保護法や共謀罪、はてまたマイナンバー制度など、国家による国民の管理、統制と結びつけて言われること・事態が最近多くなっており、そういうことを念頭に置いた発言なのかもしれませんが、これもずいぶん先走った発言だなといった感があります。
監視社会や管理社会の恐怖を訴えかけ、かつ、若者に選択の重要性を訴える、というのであれば、こんな行き過ぎた事態を取り扱うのではなく、些細なことでもよいからもっともっと身近な事例で、息苦しい社会になってしまっているというのを感じさせるような手法のほうが効果的ではないかと思うのです。まだまだ大丈夫だと思っている間に事態はどんどん悪化し管理は強化されていってしまうんだとも言いたいのだろうと考えますが、ここまで極端と思える事案だと、「いくらなんでもこんなことにはならないよ」とか「まあ、絵空事だよな」という、作者の狙いとは逆の感想を持たれて終わってしまう可能性のほうが高いのではなかろうかと思うのです。

赤川次郎自身、昔はそういう感じで作品を組み立てていたと思います。
たとえば、「真夜中のための組曲」 (徳間文庫)に収録されている「危険な署名」なんか、短くても「東京零年」よりももっともっと監視社会の恐怖を感じることができました。(「危険な署名」も「東京零年」とは違った角度で極端な例と言えますが、「東京零年」と比べてまだまだ抑制が効いていると思います)

最近の赤川次郎は(といってもいつからかはっきり言えませんが)、この種のテーマを取り扱う場合、あからさまに書くことが多くなっているように思います。
わかりやすいこと、よく伝わることと、あからさまであることは同値ではありません。
久しぶりの力作だったのだとは思いますが、この点が非常に残念です。



nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:

煙で描いた肖像画 [海外の作家 は行]

煙で描いた肖像画 (創元推理文庫)

煙で描いた肖像画 (創元推理文庫)

  • 作者: ビル・S. バリンジャー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2002/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ある日、偶然に見つけた思い出の少女の写真。彼女は今どうしているのだろうか? そのちょっとした好奇心はいつしか憑かれたような思いに変わり、ダニーはわずかな手掛かりを追って彼女の足跡を辿り始める。この青年の物語と交互に語られていくのは、ある悪女の物語。二人の軌跡が交わるとき、どんな運命が待ち受けているのだろうか? サスペンスの魔術師の代表作がついに登場。


いったりきたりしておりますが、5月に読んだ1冊目の本の感想です。
バリンジャーといえば、「歯と爪」 (創元推理文庫)「赤毛の男の妻」 (創元推理文庫)を読んだことがあります。
分類すると、「歯と爪」は二つのストーリーをカットバックで交互に語っていく手法を用いた作品、「赤毛の男の妻」は叙述トリックを用いた作品です。
技巧派として知られる作者ですが、この「煙で描いた肖像画」 は、カットバックで交互に語る手法を初めて使った作品(らしい)です。

一つ目のストーリーは、偶然見つけた写真から思い出の少女クラッシー・アルマーニスキーの今を突き止めようとするダニー。
そしてもう一つが、その探されるほうの女の成り上がりストーリー。
しかし、若いころ一度見ただけの女性に、いくら美しかったとはいえこれほどの執着を見せるとは、すごいぞ、ダニー。今でいうストーカーに近い執念を感じますが、ピュアといやあ、ピュアですね。
一方のクラッシーのほうは次から次へと名前を変え、男を踏み台にして金を、よりよい暮らしを手に入れていく。
ダニーとクラッシーの対比が見どころなのでしょう。
そしてこの二人が交差するラスト。
今となってはあまり新味も衝撃も感じないラストになっていますが、当時のインパクトはすごかったのでしょうね。
一種のファム・ファタールものとも言えますし、いびつなボーイ・ミーツ・ガール物語とも言えます。
なかなか味わい深い面白い作品だと思いました。

「消された時間」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)も読みたいので、ぜひ復刊してください。


原題:Portrait in Smoke
作者:Bill S. Ballinger
刊行:1950年
翻訳:矢口誠




<蛇足>
この作品、創元推理文庫版が出るとほぼ同時に、小学館からも別訳で出版されました。
こういうことが起こると、どちらも売り上げに影響が出たでしょうね...
煙の中の肖像 (SHOGAKUKAN MYSTERY―クラシック・クライム・コレクション)

煙の中の肖像 (SHOGAKUKAN MYSTERY―クラシック・クライム・コレクション)

  • 作者: ビル・S. バリンジャー
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 単行本




nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:

チャーリー・モルデカイ (4) 髭殺人事件 [海外の作家 は行]

チャーリー・モルデカイ (4) 髭殺人事件 (角川文庫)

チャーリー・モルデカイ (4) 髭殺人事件 (角川文庫)

  • 作者: キリル・ボンフィリオリ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/01/24
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
憧れの口髭をたっぷりとたくわえ上機嫌なモルデカイのもとに大学時代の恩師ドライデン博士がやってきた。カレッジの女性研究者が不審な死をとげたという。依頼を受けたモルデカイは特別研究員として潜入し、調査を開始する。やがて、事件前後に被害者の周囲で目撃されたあやしい男たちの足取りや、不審な金の動きがあったことなどを突き止めるが、それは関わるには危険すぎる、ある事件とのつながりを示唆していて……!?


コミックス2冊の感想を挟んで10月8日に感想を書いた「ヒートアップ」 (幻冬舎文庫)(感想へのリンクはこちら)で9月に読んだ本の感想が終わりました。9月は5冊しか読めなかったんです。
10月の感想に入る前に、「刑事マルティン・ベック ロセアンナ」 (角川文庫)(感想へのリンクはこちら)でとまっていた4月に読んだ本の感想を終わらせます。
4月3冊目の本、「チャーリー・モルデカイ (4) 髭殺人事件」 (角川文庫)です。
4月は3冊しか読めていなかったんですね。

「チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「チャーリー・モルデカイ (2) 閣下のスパイ教育」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「チャーリー・モルデカイ (3) ジャージー島の悪魔」 (角川文庫) (感想のページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4弾にして最終巻。
カバーの裏側袖の作者紹介欄によると「シリーズ四冊目は、著者の死後、ほぼ書き上げていた未完の作品にクレイグ・ブラウンが一章ぶんを書き足して99年に発表された。」とのことで、絶筆なんですね。
本国では補遺してでも出してほしいと思われるような人気シリーズだった、ということですね。

今回はカレッジへ潜入(?)ということで、カレッジでのバカ騒ぎの巻、という感じです。
まあ、大学時代馬鹿をやっていました、というのは洋の東西を問わずあるのでしょうが、イギリスの雰囲気をぜひ味わってください。(もっともこの作品の通りとは保証できませんが...)
事件のほうも人は死にますが、悪ふざけ満載ですので、そのあたりお気を付けください。

文字通り、髭に始まり、髭に終わる本でしたが、事件はそこにあんまり関係なく(笑)、チャーリー・モルデカイとジョハナに関する話、です。

このシリーズの文庫カバー、続き物になっている趣向だったので、並べてみました。
チャーリー・モルデカイ (1) 英国紳士の名画大作戦 (角川文庫)チャーリー・モルデカイ (2) 閣下のスパイ教育 (角川文庫)チャーリー・モルデカイ (3) ジャージー島の悪魔 (角川文庫)チャーリー・モルデカイ (4) 髭殺人事件 (角川文庫)








<蛇足>
「モルデカイ家の縦割り半分邸宅」(13ページ)
というのが出てきます。
これ、ひょっとして “semi-detached” だとすると違和感ありありの訳語ですが、かといって、じゃあどう訳すんだよ、と言われてもなかなかしっくりくる語がありません。訳者も苦労されたんでしょうねぇ、きっと。

<蛇足2>
「検認済み送金」というのが106ページ以降出てきます。
一応説明もされているのですが、この仕組みが非常にわかりにくい。何度も読み返しましたが、結局わかりませんでした。ちょっと困った...



原題:The Great Mortdecai Moustache Mystery
作者:Kyril Bonfiglioli and Craig Brown
刊行:1997年
翻訳:三角和代






nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

C.M.B.森羅博物館の事件目録(25) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(25) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(25) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/17
  • メディア: コミック


この第25巻は、
「掘り出し物」
「バッグストーリー」
「その朝、8時13分」
「香木」
の4話収録です。

「掘り出し物」は、くそ田舎(失礼)のペンションを、宝があるとして買ったのに見つからないのを見つける、という話。
でも、これで客がいっぱい来ますかねぇ? 宝物見つかっても、ちょっと心配。
まあ、ペンション1軒分のお客さんがくればいいので、そこは大丈夫か...

「バッグストーリー」は、ロダンの彫刻「考える人」は一体何を考えているのか、というなぞかけを受ける話。
これ、いい話でしたよ!

「その朝、8時13分」は、どうでしょうねぇ...これは苦しい。
彼女とケンカ別れした男が、行方不明になっているとTVで報じられていた女性を駅で見かけ、追いかけるが消えてしまう。何度も......それで、彼女と行ったことのある博物館の館長である頭のいい森羅に相談に行ったが。
さすがにこの作品は無理ですね。

「香木」は、香道を扱っています。
香道の美人師匠を狙った不届きものを懲らしめる部分は笑えてよいのですが、謎の香木の正体が強烈ですね。
しかし、このトリックで廊下が水浸しだと思いますかねぇ??




タグ:加藤元浩 CMB
nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:

Q.E.D.証明終了(47) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.証明終了(47) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(47) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/17
  • メディア: コミック



この第47巻には「陽はまだ高い」と「坂道」の2つの話が収録されています。

「陽はまだ高い」はバリ島にある米国国家安全保障局の研究所で起きた機密漏洩事件を扱っています。
と書くとものものしいですが、バリ島にあるというのがポイントで、崖以外はすべて高い塀で囲んで、カメラと対人センサーを死角のないように配置、門番が24時間警備で、入退館にはIDカードと暗証番号が必要、となってはいても、研究所と言って別荘のようなもの。天才的な数学者・論理学者ギーデル博士のために準備した、という設定です。
この雰囲気こそが重要なんですね。
というわけでかなりわかりやすい犯人が導き出されるわけですが、すり替え部分のトリックは、大学時代を思い出してちょっと楽しくなりました。
最後に博士が言うセリフ
「なぜだろうな? こんなに美しい場所で好きなだけ数学ができるのにもっと欲しがる」
が哀しいですね。

「坂道」は、世界的なモデルとして羽ばたこうとしている少女が、中学時代の可奈とのエピソードを確かめようとする話です。
中学時代可奈が自分を信じてくれたのはなぜか。そして現在の現金盗難事件。
しかしなぁ、よくできているように思えると同時に、こんなことするかなぁ、とも思える物語になっているのですが、可奈の性格・キャラクターがどーんと浮かび上がってくる作品になっていてシリーズ読者にはたまらない作品です。
「上に素晴らしい景色が待ってると思わなきゃ坂道は登らない」
なかなか深い言葉ですね。

タグ:加藤元浩 QED
nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

ヒートアップ [日本の作家 中山七里]


ヒートアップ (幻冬舎文庫)

ヒートアップ (幻冬舎文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/08/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
七尾究一郎は、おとり捜査も許されている厚生労働省所属の優秀な麻薬取締官。製薬会社が兵士用に開発した特殊薬物“ヒート”が闇市場に流出し、それが原因で起こった抗争の捜査を進めていた。だがある日、殺人事件に使われた鉄パイプから、七尾の指紋が検出される……。誰が七尾を嵌めたのか!? 誰も犯人を見抜けない、興奮必至の麻取(マトリ)ミステリ!



「レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密」 (講談社タイガ)に続いて読んだ、9月5冊目の本です。
「魔女は甦る」 (幻冬舎文庫)(感想ページへのリンクはこちら)の続編です。

前作の感想を書いたとき、薬物「ヒート」の存在をぼかして書いたのですが、この「ヒートアップ」では当たり前のことながら、あっさり明かされていて、上に引用したあらすじにも明記されています。
そのほかにも「魔女は甦る」の設定をいくつも引き継いでいますので、順に読まれることをお勧めします。

今度はその「ヒート」を麻薬捜査官(麻取)が追いかける、という枠組みです。
中山七里のことですから、一筋縄ではいきませんよ。
第一章で書かれていますので、明かしてしまいますが、なんと、組織暴力団(ヤクザ)・宏龍会の幹部山崎岳海と手を組むというのです。
異色のバディもの、という感じ? バディという語を使って感じましたが、中山七里は作品を頭の中で映画でも作っている感じで組み立てているのかもしれませんね。

(麻取と仲の悪い)警察、暴走族、チャイニーズマフィアと様々な関係者が入り乱れて進んでいって、
途中、主人公である七尾が警察に殺人犯として捕まってしまいます。
そして紆余曲折を経て、最後は舞台をある場所に移して、大活劇となります。
うーん、どうでしょうか、この活劇は。なんとなく、主人公たちは都合よく逃れられたような気がしてなりません。絶体絶命で本当に絶命しちゃうんじゃないなぁ。(が、対半のハリウッド映画もよくやった、というよりは都合よくいったなぁと思うほうが多いので、こういう作品はそういうものなのかもしれませんが)。

七尾が陥れられる際の、指紋のトリックはまったく重きが置かれていませんので明かしますが、実につまらないですね。採取した指紋そのものを複製することができる、と言われてもなぁ...こんな夢のないトリック、いやだ。
ミステリのトリックって、(ある程度)現実的でないといけないものの、現実的であっても楽しめないものですね。

そして中山七里お得意の最後のどんでん返し。今回は小規模でしたでしょうか。不発とまでは申しませんが。

粗いところも多々ありますが、全般にはスピーディに読める良い作品だったと思います。
脱サラで転職でヤクザになった山崎のキャラクターが家族も含めておもしろかったので、彼らにはまた別の作品で出会ってみたいですね。





nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密 [日本の作家 篠田真由美]


レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密 (講談社タイガ)

レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密 (講談社タイガ)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/18
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
デヴォンシァの田舎町からロンドンへやってきた新米メイドのローズ。奉公先は使用人も働き方も型破りで、毎日が驚きの連続。なぜかご主人のレディ・シーモアは、顔も見せてくださらない。
仕事のかたわら、消息不明の兄を捜そうと、うさんくさい探偵の手を借りてイーストエンドの阿片窟へ飛び込んだローズ。ただの人捜しのはずが、待ち受けていたのは思いもよらぬ事件だった!


「χの悲劇」 (講談社ノベルス)感想を間に挟みましたが、「ダマシ×ダマシ」 (講談社ノベルス)の次に読んだ本で9月4冊目です。

講談社タイガで始まった、篠田真由美のシリーズの「レディ・ヴィクトリア アンカー・ウォークの魔女たち」 (講談社タイガ)(感想ページへのリンクはこちら)に続く第2弾です。

いやあ、まいりました。
前作「レディ・ヴィクトリア アンカー・ウォークの魔女たち」 感想に書いたこと、まったくの見当はずれでしたね...
この「レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密」ではタイトル通り、レディ・ヴィクトリアのところに新米のメイドであるローズがやってくる、というお話なんですが、なんとこのシリーズのヒロインは、レディ・ヴィクトリアではなく、ローズだというのです!!
あとがきでびっくりです。
「一巻目には敢えてヒロインを出さず、この奇妙なヴィクトリアン・レディ、先代シーモア子爵未亡人と、彼女の周辺の一癖も二癖もある人々を語る、長めのプロローグにしてしまう」(313ページ)
ひゃーーーー。なんて充実したプロローグだったことでしょう...

ローズによる兄捜し、というのがメインのお話ですが、貴族社会の病巣ともいうべき実態が描かれています(って大袈裟か...)。
詳細は読んでください、というところですが、
「身も蓋もなくいっちまやあ、ここはそういう国だ」(151ページ)
という点に、どう落とし前をつけるか、という話ですね。悪代官をどう成敗するか、と言い換えてもいいかもしれません。

まず、この本を読んで感心したのは、阿片窟のイメージが変わったこと、です。このあたりはあとがきでも触れられていますね。これだけでも得した気分です。
貴族と従兄弟の確執とか要素をいくつか盛り込んでもすっきりと仕上がっています。さすが篠田真由美。
薄い本ですが、しっかりとヴィクトリア朝のイギリスに浸れました。

続刊「レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件」 (講談社タイガ)も出ていて楽しみです。


<蛇足>
しつこいようですが、
「一生懸命お仕えします」(180ページ)
ってやめてほしいですね。一所懸命でないと。
あと、
「弑する」(311ページ)
って会話で使いますか? このあたりちょっと篠田真由美らしくないかなと思いました。



nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

χの悲劇 [日本の作家 森博嗣]


χの悲劇 (講談社ノベルス)

χの悲劇 (講談社ノベルス)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/07
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
あの夏、真賀田研究所でプログラマとして働いていた島田文子は、いくつかの職を経て、香港を拠点とする会社に籍を置いていた。人工知能に関するエキシビションの初日、島田は遠田長通という男に以前、愛知で起きた飛行機事故に関する質問をされる。トラムという動く密室で起きる殺人。その背後に感じられる陰謀。静かだった島田の生活が、その日を機に大きく動き始める。Gシリーズの転換点。後期三部作開幕!


9月17日に「ダマシ×ダマシ」 (講談社ノベルス)感想を書いた際、本当は(?) この「χの悲劇」 (講談社ノベルス)の感想を先に書かなきゃな、と思ったので、同じ作者の本の感想を続けて書くことになりますが、書いてしまうことにしました。

この「χの悲劇」、出版されたのが2016年5月、手元の記録によると読んだのが2016年7月で、わりとすぐに読んだほうですが、感想を書かずにずっと放置しておりました。
Gシリーズの第10作。
この「χの悲劇」のχ、フォントによって見え方が違うのだと思いますが、英語のアルファベットのXに見えますね。ギリシャ文字のΧ(カイ)です。
もちろん、エラリー・クイーンの「Xの悲劇」 (創元推理文庫)を意識したタイトルですね。
章ごとの引用も「Xの悲劇」 からです。
あらすじに後期三部作、と書かれていますから、この後も「Ψの悲劇」、「ωの悲劇」と続くのでしょうか!? と書いてから気づきました。カバーの見返しのところに、次巻以降の予定にちゃんと書いてありますね...

前作「キウイγは時計仕掛け」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)が出たのが2013年11月だったようなので、3年半間が空いていますね。
「キウイγは時計仕掛け」 がなんだかシリーズのオールスターキャストみたいな雰囲気でしたが、この「χの悲劇」は、さらに時間が経っている設定で、主人公を島田文子にしています。ダイレクトに真賀田四季を感じられるという意味で、貴重な人物ですね。

そっか、時の流れが重要な要素だったんですね...

事件のほうは、トラムだし、ダイイングメッセージ(?) でXだし、「Xの悲劇」 臭がぷんぷんして素敵ですが、ミステリとしては取り立てて言うほどのことはない感じです。でも、シリーズ読者、あるいは森ミステリィの読者としては味わい十分。
島田とカイの推理(憶測?)だけで、これが真相ということが明示されていませんが、真相は島田の推理通りだと思います。
「知ってしまったけれど、納得できるという気分ではない。世の中の問題の多くはそういうものだ。疑問が解決すれば、また別の疑惑が生まれる。」(269ページ)
なんてさらっと書かれていますが、奥が深いのか浅いのか、絶妙な感じです。
ひょっとして、ちょっぴり「Yの悲劇」 (創元推理文庫)に対するオマージュも入っているのでしょうか。

シリーズという点で、やはりある登場人物の正体がこの本の重大なポイントですね。
さすがにネタバレ中のネタバレなので書きませんが、ちょっと読んでいる途中にそうなのかな、と思えたので気づいた読者の方多いのではないでしょうか?
わざとわかりやすく書かれているのだと思います。
ここで君が出てくるかぁ... なるほど。タイトルもなにか関係が?

時間の経過というのもポイントになっているようですが、次巻の刊行まで、また時間がかかると嫌だなぁ。100年後とか言われたら、読めません...(次巻以降の予定に書かれているので、そんなに間は空かないとは思うんですが。)

「ダマシ×ダマシ」 の時と同様、いいなあ、と思ったHPがあったので、以下に勝手にリンクを張っています。
ただ、強烈にネタばれしまくっていますので、ご注意ください。
灯台杜と緑の少年




nice!(8)  コメント(0) 

地球の歩き方 Plat アイスランド [その他]


11 地球の歩き方 Plat アイスランド (地球の歩き方ぷらっと11)

11 地球の歩き方 Plat アイスランド (地球の歩き方ぷらっと11)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド・ビッグ社
  • 発売日: 2016/11/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


一昨日、映画「ハートストーン」の感想にも書きましたが、8月末にアイスランドに行ってきました。
その時に使ったガイドブックが、これです。

実は以前にもアイスランドに行きたいなぁ、と思ったことがありました。
映画「LIFE!」にアイスランドが出てきて興味を持ったから、でした。
ところが当時、アイスランドのガイドブックが日本には存在しませんでした。
Lonely Planet の「Iceland」を買えばよかった、と言ってしまえばそれまでなんですが、やっぱり日本語のガイドブックが欲しいではないですか。
それに、観光地とはいっても日本人が見たいところと海外の人が見たいところでは違ったりもするんですよね(だから逆に英語のガイドブックがよい、という人もいらっしゃるでしょう)。

今回改めて旅行先の候補としてアイスランドを個人的に挙げてみて、本屋をうろついてみたところ、ありました!
偉いぞ、地球の歩き方! ダイヤモンド・ビッグ社!
叢書的には、地球の歩き方 Plat ということで、通常の地球の歩き方と判型が違い、薄い本です。
ここもいいポイントですね。
地球の歩き方は、非常に特徴のあるデザインなのですが、それがために海外では非常に目立ちます。
たとえば、スペインやイタリアなどすりや盗難が多いと言われているような国・都市では、地球の歩き方を周りから見えるように持っていると狙われるほどです。油断の多い日本人だと、あからさまにわかるからでしょうか。

いまやインターネットでなんでも調べられますし、Trip Advisor やExpedia など旅行・観光関係のサイトもいっぱいありますが、それでも手元でさっと見られるガイドブックは役立ちます。

諸般の事情ありまして、現地3泊という限られた時間でしたが、今回もとても役に立ちました。
通常の海外旅行のスタイルは、日本からのツアーは使わず、個人手配で航空機とホテルを予約というパターンで、今回はホテルも諸般の事情ありまして、3泊ともレイキャビクの同じホテルにしました。なので現地ツアーにするか、レンタカーにするか、と迷った結果、レンタカーに。
おかげでガイドブックが特に役立ちました(現地ツアーに参加すると、バスで連れて行ってくれるのであまりガイドブックのありがたみを感じませんね...)。

雨がずっと降っていて晴れ間が少ししかなかったのが残念でした。
今年訪れたのは、
ゴールデンサークル(グドルフォス、ゲイシール、ケリズ火口湖に行きました)
LAVA TUNNEL(火山性の洞窟)
ブルーラグーン(温泉と言われていますが、地熱を利用して沸かしているそうです)
あとハットルグリムス教会、ハルバ(多目的ホール)、レイキャヴィーク871±2(遺構)、首相官邸、国会議事堂などのレイキャビク市内観光をしました。

ガイドブックがないから、ではないと思いますが、今回の旅行でアイスランドではほとんど日本人を見かけませんでした。
どこに行っても、海外旅行中に日本人を(あまり)見かけないことは珍しいと思いますので、その点でも貴重な旅行だったな、と思いました。

アイスランドは今回見た以外にもまだまだ見どころがいっぱいありますし、夏と冬では楽しみや見どころも変わってくるようなので、季節を変えて、また行ってみたいです。
その時には、その時点での最新版のこのガイドブックをもって。

本の感想を書くブログに、海外旅行のガイドブックというのはあまりないと思いますが、とても役立ちお世話になったので、あえて書いてみました。
あとこの本、朝倉めぐみのイラストを使っているんですよね。ミステリファンにとっては、ドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」 (創元推理文庫)にはじまるニール・ケアリーのシリーズや、S・J・ローザンの「チャイナタウン」 (創元推理文庫)にはじまるビル&リディアのシリーズの表紙に使われているので、お馴染み感あり、ちょっぴりうれしかったです。


nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

ハートストーン [映画]

ハートストーン T0022052p.jpg


今年8月の終わりに、夏休みを利用して、アイスランドに旅行に行ってきました。
ちょうど旅行に行く前に、アイスランドの映画が日本にやってきていましたので、観に行きました。1ヶ月以上も前に観た映画ですが、感想を書いておきます。

映画のHPからあらすじを引用します。
東アイスランドの美しく雄大な自然が広がる小さな漁村、ソールとクリスティアンは幼なじみでいつも一緒の大親友。
ソールは美しい母、そして自由奔放なラケルと芸術家肌のハフディス、対照的な二人の姉妹に囲まれて暮らしている。
思春期にさしかかり、ソールは大人びた美少女ベータのことが気になりはじめる。クリスティアンはそんなソールの気持ちを知り二人が上手くいくよう後押しする。そしてクリスティアン自身もベータの女友だちハンスからの好意を受けとめ、4人は行動を共にするようになる。
自然とソールとベータの距離は縮まり二人は心を通わせ合う。ただそこには二人を見守りつつ複雑な表情を浮かべるクリスティアンがいた…。
そんなある日、ソールの姉たちが開いたホームパーティーで、姉ハフディスがソールとクリスティアンに懇願しモデルになってもらい描いた二人が見つめ合う意味深な画が見つかってしまい、そこに居合わせた友人たちは騒然となる。
大人から子供までみなが顔見知りで、古くからの慣習を尊重する村の環境は些細なことが大きな火種となる。
ソールとクリスティアンに向けられた好奇の眼差しは二人の関係をぎこちなくさせていった。
「普通にしてくれよ、そしたら元に戻れる」そう言い放つソールに悲しげな顔でこたえるクリスティアン…。
そして思いつめたクリスティアンは―――。


アイスランドの美しい風景を背景に、思春期の少年たちを描いた映画でした。
いつも引用するシネマトゥデイから、見どころとあらすじを引用します。

見どころ:豊かな自然が広がるアイスランドの漁村を舞台に、思春期を迎えた少年たちを描いた青春ムービー。本作が長編初監督作となるグズムンドゥル・アルナル・グズムンドソンが、自身の少年時代の思い出をベースに描いた自伝的ラブストーリーは、第73回ベネチア国際映画祭をはじめ、世界各地の映画祭で高く評価された。バルドゥル・エイナルソンとブラーイル・ヒンリクソンが、仲のいい幼なじみを演じる。

あらすじ:東アイスランドの漁村に暮らすソール(バルドゥル・エイナルソン)とクリスティアン(ブラーイル・ヒンリクソン)は、幼なじみの親友。思春期に差し掛かりソールは大人びた美少女ベータ(ディルヤゥ・ワルスドッティル)に夢中になる一方、クリスティアンはそんなソールの気持ちを知りベータとの仲がうまくいくよう後押しするが、自らの内にある親友への特別な感情に気付き……。


こういう映画、普通だったら観に行かないので、こういうきっかけで観られてよかったかな、と思いました。
あまたの賞を受賞している作品ですが、ベネチア国際映画祭クィア獅子賞(最優秀LGBT映画賞)、シカゴ国際映画祭ゴールドQヒューゴ賞(最優秀LGBT映画賞)、などを受賞した、とのことで、ベースとして、同性の友人に対する特別な思いを取り扱っています。
ある意味屈折した感情を抱くものと、一方でまったくそういうことに頓着せず、無邪気といっていいくらいなふるまいをするもの。この残酷な対比が見どころなのでしょうか。ソールはちゃっかり(?)初体験を済ませちゃったりします。
LGBT映画賞ということで、あえて「同性」と書き加えましたが、同性だろうと、異性だろうと、恋なんて一方的になりやすいもの。こちらにとって相手は特別な存在なのに、相手にとってこちらはまったくの one of them。恋愛ストーリーの王道ではないですか。
俺は/私はLGBTなんてわかんないよ、と身構える方でも、そのあたりは伝わってくるのではないでしょうか。
もっともそんなことを言いながら、同性への気持ちというのは、周りや相手の理解という点で異性への気持ちとは比較にならないくらい困難でしょうから、個人的には、クリスティアンの選択が今一つぴんとこなかったのも事実ですが。

あとこの映画は、同性への思いに揺れる少年を描いただけのものでは決してありません。
どちらかというと、思いを寄せる方のクリスティアンよりも、視点は思いを寄せられる方のソールになっていることが多いです。
アイスランドの閉鎖的な寒村で、閉塞感ある大人たちの世界を子供の視点から覗き見ている映画でもあります。
風景も、美しいけれども、荒涼としたというか、厳しい感じを漂わせてもいます。だからこそ美しいといえるのかもしれませんが。

たぶん消化不良のところが多々あるのだとは思いますが、それなりに楽しめました。

で、実際に行ってみたアイスランドは、首都レイキャビク中心だったので、この映画のような寂寥っぽい風景はあまり見ませんでした。ただ、8月末ごろでしたが、雨が多く、火山性の土壌で、ごつごつしていたりして、農業や居住には向かないエリアが多そうで、ちょっと寂しいような、ちょっと荒れたような自然の風景は美しかったです。



原題:Hjartasteinn
英題:HEART STONE
製作年:2016年
製作国:アイスランド/デンマーク



nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:
前の10件 | -