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夏服パースペクティヴ [日本の作家 な行]


夏服パースペクティヴ (角川文庫)

夏服パースペクティヴ (角川文庫)



<裏表紙あらすじ>
都筑台高校2年生にして弱小映研部長の遊佐渉は、気鋭の映像作家・真壁梓が夏休みに企画した撮影合宿に参加することに。しかし、キャストの女子生徒が突然倒れ込む。なんとその胸にはクロスボウの矢が深々と突き刺さっていた。セミドキュメンタリーの撮影現場で起こる虚構の殺人が、いつしか本物の惨劇へ。交錯する思惑、驚愕のトリック、慟哭の真実。“美少女”探偵・樋口真由が、難攻不落のクローズド・サークルに挑む!


「燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら)に続いて今年3月に読んだ本7冊目で、3月最後の本です。
横溝正史ミステリ大賞「消失グラデーション」 (角川文庫)に続き、樋口真由を探偵役としています。

文庫のカバーには、
樋口真由“消失”シリーズ 少女洋弓銃殺人事件
と書かれています。“消失”シリーズっていうんですか...消失と通してつけるのは違和感があるなぁ、と最初思ったのですが、読後はなるほど、と思えました。ただ、この後もシリーズを消失とつけられるかは疑問を感じますが...
あと、少女洋弓銃殺人事件って、サブタイトルなのかな、と思ったんですが、書いてあるのはカバーにだけで、文庫本本体にはどこにも書いてないんですね。不思議。

それにしても、樋口真由を探偵役とするシリーズが読めるなんて...「消失グラデーション」を読み終わった時には、魅力的な探偵役ではあるけれど、ラストからしてシリーズ化は無理だろうなぁ、と思っていたんですが、なるほどねー、時代(時間)を遡りましたか。時系列的に、本書「夏服パースペクティヴ」は、「消失グラデーション」よりも前に起こった話なんですね。
ということは、樋口真由は転校したんですね、高校生で。
まあ、時代を遡ったところで、シリーズ化が簡単になるわけではなく、作者の筆の冴えというか、苦労しているところがわかってそういう楽しみ方もシリーズ読者にはありました(もっとも、「消失グラデーション」を読んだ身からすると、あれっ、いいのかなと思うところもあって、たとえばラストの1行なんてものすごーく意味深なんですけど...)。

さっと上で引用したあらすじを読んでから本書に取り掛かったのですが、オープニングはあらすじとは大きく異なり、かなり残虐そうな事件からスタートします。
おいおい、と思っていると(あんまり残虐なものは好みでないので)、16ページからの第1章であらすじに記載された物語が始まります。よかった。(とはいえ、折々、残虐な感じのエピソードがつづられるのでそこはちょっと警戒しながらお読みください)
あらすじにも触れてありますが、虚構を作り上げる最中の現実で起こる殺人、というのは、実はあんまり好きじゃないプロットなんですよね。
よほどうまく組み立ててもらわないと、虚構サイドのストーリーや事件が、現実サイドのストーリーや事件をわかりにくくするためだけのものになってしまうことが多いからです。
で、「夏服パースペクティヴ」の首尾はどうだったかというと、さすがは「消失グラデーション」の作者だけあって、周到です。「うまく組み立て」られた作品ですね。
この種の作品では当たり前のことですが、現実と虚構がきちんとリンクしています。現実の謎解きが、虚構の仕掛けと不可分になっているところは、とてもいいです。

ではありますが、全体としての建付けを考えると、ちょっと冗長になったかなぁ、と思います。
虚構と現実に加えて、過去の事件の関係者が現在の誰に相当するか、ということまで盛り込んであるので、なかなか窮屈です。
前半ゆったり進むのは、このあたりを踏まえて、読者に登場人物をきちんと印象付ける目的があるのだと思いますが、そしてそのことは、青春小説としての色合いを打ち出すのにも役立ってはいるのですが、それでもやはり、長いかな、と感じました。
ミステリとしては、早めに事件が起こったほうが、なにかとね。

とはいえ、巧緻というか精緻というか、非常に練りこまれた作品だと感じ入りました。
この作者の本は続けて読んでいこうと思います。


「消失グラデーション」のときに続き、ここでもリンクを貼っておきます。(またもや勝手リンクです。すみません)
a picture is worth a thousand words
*the long fish*
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積読本は積読け!!
とある暇人の感想日記


<蛇足1>
177ページに、「位置シーン」と書いてあるのは、「一シーン」のタイプミスですね。

<蛇足2>
「全裸探偵」というふざけた作中作が挿入されるのですが、その作中作について
「解決自体はロジカルな手順が踏まれしっかりと描かれていた」(302ページ)
と僕の視点で評されるのですが、うーん、作中作も一部だけだからなんとも言えないのかもしれないけれど、見た感じそれほど「しっかり」とは思えませんでした。自画自賛はほほえましかったですが。




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燔祭の丘 [日本の作家 篠田真由美]


燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: 文庫


『僕は――ヒトゴロシ』。謎の詩を残して姿を消した桜井京介は、久遠アレクセイの名に戻り、14歳まで育った屋敷にいた。神代宗の話を聞いた蒼は、京介を捜し歩き、20年前の忌まわしき事件を知る。久遠家のルーツが明らかになった時、父グレゴリの狂気が京介を襲う!「建築ミステリ」の金字塔、ついに完結!


「化学探偵Mr.キュリー4」 (中公文庫)(ブログへのリンクはこちら)に続いて今年3月に読んだ本、6冊目です。

引用したあらすじにも書いてある通り、まさしく、ついに完結、です。
ここまでくると、建築探偵とか本格ミステリとかあんまり関係なくなってきていますね。
前作「黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)で過去に遡ってみた物語は、現在時点に戻ってきます(解かれる謎は過去のものにせよ)。

『僕は――ヒトゴロシ』という京介は本当に人殺しなのか、という謎は、ミステリ読者なら当然「実は違った」という着地を想定して読むわけですが、さて、篠田真由美はどう料理したか、さすがに究極のネタバレになるので実際に読んでみてください、としかここでは書けませんが、なるほどそう来ましたか、という読後感でした。

たぶん、シリーズもここまで続いてくると、ミステリとしての解決云々もさることながら、シリーズのレギュラー登場人物たちがどうなるのか、にも読者は相応に興味を持つので、その意味でも意義深い完結編となっていると思いました。
作中、神代教授が振り返って
「血の繋がらない、だが心は結ばれた疑似家族」(439ページ)
と考えるシーンがありますが、まさにこれこそがシリーズのポイントだったのでしょう。

京介=アレクセイとの対決の相手であるラスボスたる久遠グレゴリは、親子なわけで、上で引用した部分とは対比になっている、と考えるのはさほど見当外れではないのでは、と思います。
言ってみれば
「血はつながっている、だが心はまったく結びついていない家族」
というわけですね。
とすると、この「燔祭の丘」で明かされる真相は、かなり印象に強く残りますね。

それにしても、グレゴリ、すごすぎ。
「お父様は人間ではないわよ!」
「お父様は疾うに、人間の限界を超えておられる」(660ページ)
なんてセリフも出てきますが、いやあ、本当に、人間を超えていますよ。

シリーズ番外編、スピンオフがいろいろと出ているようです。
文庫化を待って読み進めていきたいと思っています。



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MIDNIGHT DRINKER



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化学探偵Mr.キュリー4 [日本の作家 喜多喜久]

化学探偵Mr.キュリー4 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー4 (中公文庫)


<裏表紙あらすじ>
大学で暗躍する『互助組合』の謎。反応を掻き混ぜる以外に使い道のない《スターラー盗難事件》。切断された銅像と雪の上の足跡。そして今回、Mr. キュリーこと沖野春彦がなんと被害者に!? この事件の謎に立ち向かうのは、イケメン俳優にして「春ちゃんラブ」の美間坂剣也。沖野リスペクトによる化学的知識を駆使して新たな名探偵となれるのか!?


「シャーベット・ゲーム オレンジ色の研究」 (SKYHIGH文庫)(ブログへのリンクはこちら)に続いて今年3月に読んだ本、5冊目です。

シリーズ第4弾です。
しかし、数字がついていくだけのタイトルって、わかりやすいですが、ちょっとさびしいですね。
この第4巻には
「化学探偵と猫騒動」
「化学探偵と互助組合の暗躍」
「『化学探偵』の殺人研究」
「沖野春彦と偽装の真意」
「七瀬舞衣と三月の幽霊」
の5話収録。

「化学探偵と猫騒動」は、「大学猫を守る会」というサークルに入っていた女の子が、猫アレルギーになってしまって、好きな会長と一緒にいられなくなると困るなぁ、と思っている、という話です。ところが、アレルギー検査をしてみたところ...という風に話が転がっていくわけですが、この真相はどうでしょうか。いくらなんでも、これはなしだと思います。
犯人(と呼んでおきます)の心理ととった手段のあまりのアンバランスさに、ちょっと気持ちが悪くなってしまいます。

「化学探偵と互助組合の暗躍」は、スマホゲームの課金アイテムを利用した資金略取が取り上げられていますが、そちらよりも焦点はやはり互助組合とは何か、なのでしょう。
互助組合の発想は昔からあるものですし、ここまでの規模ではなくても同様のことは割とよく行われているのではないだろうか、と思いますが、それとスマホゲームの課金という新しい切り口とを同じ作品の中に置いてみたところの構図が面白かったです。

「『化学探偵』の殺人研究」は、美間坂剣也主演のTVドラマにつかうトリックを考えてくれ、とMr. キュリーこと沖野春彦が頼まれるところからスタートします。
使われているトリックは、あまりにも専門的すぎて、普通のミステリには使えないですが、こういう形だと有効活用できますね。
驚きは、やはり沖野が襲われて入院してしまう、というところでしょうか。
全体に対してひねりが仕掛けられているのはご愛敬でしょう。   

「沖野春彦と偽装の真意」は盗んでも使い道がないスターラー(攪拌子を回すための装置)が盗まれる、という素敵な謎が扱われています。
だから、と言ってしまっては少し申し訳ないですが、割と定型的な着地を迎えます。

「七瀬舞衣と三月の幽霊」は、四宮大学初代学長の胸像の首が切り落とされるという事件です。
雪が降って一面真っ白の世界で、なのに胸像へ向かう足跡のようなものは途中で途切れていた...
うわー、絵になる事件!! トリックも、すっきりしていて素敵です。
なにより、この作品ですごいのは動機でしょうか。
ミステリ的にすごいのではないですが、シリーズ的には絶対に見逃せない動機ですね!!

シリーズはこのあと、
「化学探偵Mr.キュリー5」 (中公文庫)
が出ていまして、今月6巻が出るようです。



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小山荘のきらわれ者〜リターンズ〜 2 [コミック]




<裏表紙あらすじ>
下宿館・小山荘は相変わらず毎日が賑やか!
成介&麻里カップルと彰吾&安古カップルはそれぞれの将来に向けて奮闘中。
一方、家主の娘・千夏の恋に新展開!
さらにパリから懐かしのあの人がやって来ます♪
そんな住人達の未来の形は──!?
幸せいっぱいの恋愛事情、感動の完結です!


「小山荘のきらわれ者~リターンズ~ 1」 (花とゆめCOMICS)が出たのが2015年7月で、この「小山荘のきらわれ者~リターンズ~ 2 」(花とゆめCOMICS)が出たのが2016年3月。割とほどなく出たんですね。
「小山荘のきらわれ者~リターンズ~ 1」 は出ているのに気付くのが遅れたんですが、「小山荘のきらわれ者~リターンズ~ 2 」はすぐに買って読んだんです。ただ、引っ越しでどこにしまい込んだかわからず、感想が書けませんでした。
ようやく見つけたので、感想を。ちなみに、第1巻の感想はこちら

第2巻にして完結、ということなので、ちょっと嫌な予感はしたんですが、うーん、正直ちょっと期待外れでしたね。
「この1巻は、復活篇の顔見世みたいなノリ」と前作の感想で書きましたが、この第2巻もそのまま。
懐かしい面々の紹介だけで終わってしまって、あんまり新しい展開がなかった...
せっかく復活させたのだから、もう少し相互に絡み合ったストーリー展開を期待したのですが。
だって、成長した面々が繰り広げる新たなドラマ、見てみたいとおもうじゃないですか...

もちろん、オールドファンとしては懐かしい登場人物たちに再び出会えて、そして、それぞれの人物がそれぞれに夢をかなえて力強く人生を歩んでいることがわかって、十分楽しみました。
でもね、それだけだと、新しいファンは生まれてこないように思うんですよね。
だから2巻なんて早々に終わっちゃったんじゃないかなぁ、と若干失礼なことまで考えてしまいました。

それにしても小山荘の面々の健全さはすばらしいですね。
すきだからこそのないものねだりはせず、この素晴らしい面々に再び出会えたことを寿ぐべきなんでしょうね。


タグ:なかじ有紀
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人間消失殺人事件 [日本の作家 赤川次郎]


人間消失殺人事件 (講談社ノベルス)

人間消失殺人事件 (講談社ノベルス)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/05/07
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
毎朝同じバスで通学していた高探生の南尾小百合は、ある朝、いつもの駅で降りずに行方不明になってしまう。失踪直前、少女と一緒にいて疑いを掛けられたのは、一人の男性だった。しかし一年後、少女は旅芸人の一座で発見される。喜びもつかの間、彼女の失踪事件はさらなる悲劇を呼び寄せて……!? 偶然、現場の温泉宿に居合わせた大貫警部が事件に関わらないワケがない! 読むと元気がわいてくる、人気ミステリーシリーズ最新作!


大貫警部シリーズ第16弾の本書「人間消失殺人事件」 (講談社ノベルス)には
「人間消失殺人事件」
「有名無実殺人事件」
「寄生生物殺人事件」
「上昇志向殺人事件」
「高温多湿殺人事件」
の5話が収録されています。

表題作は、まず、タイトルがちょっと...
これだと、単なる失踪であって、人間消失とは言わないでしょう...
で、中身もちょっと困りもの、です。
そもそも家出して旅芝居の一座に入って、というかたちで一年ほどもわからないまま、なんてありうるのでしょうか?
それはありうる、としても、小百合が家出し姿を現さないばっかりに、小百合を殺したのだろうと警察に取り調べを受けた男性が死んでしまう(もともと心臓が弱かったために)、という事態。もちろん、一番悪いのはひどい取り調べをした警察ではありますが、17歳にもなって自分が引き起こしたこと(=自分の好きなことだけをして、まわりのことはちっとも考えないことから起こった出来事)の結果をまるで他人事のように感じるのでは困りもの、ではないでしょうか。小百合の両親の反応・対応もかなりひどい。

そう感じていると、第二話「有名無実殺人事件」も、困りものです。
中学生に薬を飲ませて不届きなことをしようとしてた六十五歳の社長が殺され、その中学生が殺したと目されている状況。社長の娘(大人です)がその中学生に非難をぶつけたところに、井上が
「あなたのお父さんは、この子に薬を飲ませて、一緒に風呂に入ったりもしたんです。その方がまともじゃなりませんよ」(84ページ)
警察がこのセリフはだめでしょう。まるで殺されてもいいみたい。確かに、社長のした行為は許されることではないと思いますが、だからってその方が殺すことよりも「まともじゃない」というのは常軌を逸していないでしょうか。
「あら、いつから警察は人殺しの味方になったの?」
と返した娘に、今度は直子が
「敵、味方の問題じゃありません」「人間の倫理の問題です」
いつから、人殺しが正当化されるようになったのでしょうか? 人殺しも立派な倫理上の問題ですけどね。
もちろん、この種のミステリのことですから、中学生がやったのではなく真犯人が現れるわけですが、そして読者は当然そのことを予想しているので、↑の部分の違和感は軽減されるのですが、それでもこの一連のやり取りはアウトだと思います。

弱いものの立場に立つのは結構ですが、そしてそれはエンターテイメント上とても大切なことですが、一方でそれ以外のものの立場や権利(人権)にも必要な配慮というのはあると思います。
あまりに一方的にストーリーを組み立てているようでは支持されないでしょう。
ちょっと最近の赤川次郎は、このあたりのバランスを崩してしまう例が多くなっているように思えます。心配です。

似たようなことは第五話「有名無実殺人事件」にも出てきます。
囮に赤ちゃんを使うなんて、あり得ますか? ふとした拍子に簡単に殺されてしまいますよ。
殺人犯に対する囮は、当然危険で、ミステリや映画ではちょくちょく用いられる手法ですが、やはりそれは、囮になるもの自身がきちんと危険を理解したうえで、大げさに言えば覚悟を持って挑む必要があると思うんですが、赤ちゃんだとそんなこと望めない...
こういう展開を使うこと自体がアウトだと思います。

「寄生生物殺人事件」と「上昇志向殺人事件」についても触れておくと、どちらもあまりにも戯画化され過ぎた登場人物の設定で白けてしまいます。
倫理観が歪んでそちらに井上や直子が肩入れする、なんてことはありませんが、それでもここまで極端な性格の人物では...
大貫警部がデフォルメされた設定で、それと対峙させるという意味合いもあるかもしれませんが、すこしやり過ぎでしょう。
このシリーズはもともと危なっかしいところを秘めているので、慎重に書いていってもらいたいです。



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魔法の色を知っているか? [日本の作家 森博嗣]


魔法の色を知っているか? What Color is the Magic? (講談社タイガ)

魔法の色を知っているか? What Color is the Magic? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/01/19
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
チベット、ナクチュ。外界から隔離された特別居住区。ハギリは「人工生体技術に関するシンポジウム」に出席するため、警護のウグイとアネバネと共にチベットを訪れ、その地では今も人間の子供が生まれていることを知る。生殖による人口増加が、限りなくゼロになった今、何故彼らは人を産むことができるのか?
 圧倒的な未来ヴィジョンに高揚する、知性が紡ぐ生命の物語。


Wシリーズの第2作です。
このシリーズ、あらすじ書きにくいでしょうねぇ。

舞台がチベットに移っています。
「人工細胞、人工生命体、人工知能に関する技術と、それらの応用分野がテーマの」(30ページ)シンポジウムが開かれ、そこへハギリ達が赴きます。
ラサ空港から、シンポジウム会場の途中に、ナクチュ特別区というところがあり、そこでは今も人間の子供が生まれている、という設定になっています。

あらすじに書かれている「生殖による人口増加が、限りなくゼロになった今、何故彼らは人を産むことができるのか?」 という点は、前作「彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?」 (講談社タイガ)でも触れられており、感想のページに伏字代わりに色を変えて記録しておいたのですが、この「魔法の色を知っているか? What Color is the Magic?」 (講談社タイガ)でも出てきます(出てくるのは当たり前ですね...)。今回も色を変えておきます。
世界中の人間が子供を作れなくなったのは、ウィルスなどの原因によるものではなく、まったくその逆なのだ。つまり、古来の人類がなんらかの問題を抱えていたからこそ、子供を作ることができた。あれは生物として異常な状態だった。現代の人類は、人工的にピュアな細胞を実現し、その障害から解放された。結果として、子孫を作れないという新たな問題が顕在化した」(34ページ)

この背景のもとウォーカロンが増えていて、人間とウォーカロンの区別というシリーズのテーマがいろいろと考察されていきます。
「思考回路のハードが何であれ、信号の種類がたとえ違っていても、意識は生まれると思っています。それが単なる錯覚であれ、自己観測ができる知能とデータ量を持てば、それを意識と呼べるでしょう。ですから、いつから生まれるという閾値はありませんね。意識は、低級な機械にさえあるということです」(47ページ)
ちょっと、くらっと来るような意識論ですね。

また人間がなかなか死ななくなったことを受けて
「すなわち、人類のインテリジェンスの時間的限界とはどの程度か、精神はどのくらいまで崩壊せずに耐えられるのか、という問題」(172ページ)
も出てくる、と。これも「彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?」 で出てきた考察ですが、確かに大きなテーマかも。「死すべき存在」でなくなるというのは、ありがたいけれど、大ごとですね。

テーマとはずれるとは思いますが、「魔法の色を知っているか? What Color is the Magic? 」でクーデターが扱われているのを受けての
「いわば、平和というレンガを、戦争というモルタルで積み上げていく構造に近い」(249ページ)
というのも、皮肉が効いていてちょっとドキリ。

真賀田四季としか思えない人物? (ウォーカロン?)がちょくちょく出てくるのも印象的です。
我々をどこへ導いてくれるのでしょうね?

英語タイトルと章題も記録しておきます。
What Color is the Magic?
第1章 一連の問題 Sequence of matters
第2章 一連の危険 Sequence of crises
第3章 一連の生命 Sequence of lives
第4章 一連の伝承 Sequence of legend


<蛇足>
①「サンドイッチに似せた簡易なランチ」(26ページ)ってどんなものなんでしょうか? 気になりました。

②「片脚だけミニスカートで、真っ白のドレスだった」(85ページ)ってどんな服装なんだろ? 気になりました。

③「間髪を容れず」(85ページ)に、きちんと「かんはつ」と振り仮名が触られていました。
講談社なら当たり前なんでしょうが、一般には「かんぱつ」と読まれることが多いようなのでちょっとうれしかったりして...





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迫りくる自分 [日本の作家 似鳥鶏]


迫りくる自分 (光文社文庫)

迫りくる自分 (光文社文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
総武線で隣を並走する電車に乗っていた、自分に瓜二つの男。後日その男と再会した俺は、気づけば犯罪者にさせられていた。顔が同じことを利用して周到に仕組まれたらしい冤罪。あいつはいったい誰だ? なぜこんなことを? 日常を突然奪われた俺の、必死の逃走劇が始まった。自分から過去から警察から、逃げて逃げて逃げまくれ。疾走する新感覚のエンタメ小説


似鳥鶏さんらしい部分もいっぱいありますが、それでも基本ラインとして似鳥さんらしくない作品だと思いました。
文体とか、キーとなる人物で主人公の同僚である朴さんのキャラクターとかは、いつもの似鳥さんなんですが、自分と瓜二つの人物と出会ったことから陥れられ、はじまる逃走劇、というあたりのサスペンス風の展開は、似鳥さんのいつもの手触りとは違います。
これがおもしろかったんですよ。
まあ、こういうストーリーの場合、最後には主人公が勝つ、と考えながら読まれると思うので、ここでも書いてしまいますが、特に、234ページの「反撃は、ここからだ。」以降に痺れました。
なんと、そう来ますか...
似鳥さんの作品は、やわらかな語り口にくるまれていても、芯には棘があるというか、そういう部分もきちんと拾い上げて作品になっていることが多いですが、やわらかな語り口を控え目にして、もっとサスペンス色を盛り込むとこういう風になるんですね。

あと個人的にいいなと思ったのは、ネタバレになりそうなので色を変えて書いておきますが、主人公が陥れられるという状況は不条理というか、単に似ていたからって...ということかと思いきや、きちんと犯人サイドでは主人公を狙う理由が用意されている、ということです。しかも、その理由から判断するに、いくら子供の頃の話とはいえ主人公も清廉潔白とはいいがたい設定になっているわけです。このあたり、物語設定上のバランス感覚としていいですよね。
「平穏な日々というのは、トラブルとトラブルの間の休憩時間のようなものにすぎないのだ。こちらがいくら真面目に暮らしていても、トラブルはいずれまた、勝手に降りかかってくる。そういうものなのだ」(270ページ)
なんて言っていますが、今回のトラブルは「勝手に降りかかって」きたわけではない、ということですね。 こういう風に、平凡な読者の平穏な日々を確保したうえで、物語が構築されている、というのは美点だと思います。

いつもの似鳥節が大好きですが、たまにはこういうブラック似鳥も読んでみたいです。



タグ:似鳥鶏
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C.M.B.森羅博物館の事件目録(24) [コミック 加藤元浩]







この第24巻は、
「二笑亭」
「ダイヤ泥棒」
「レース」
の3話に、「C.M.B. 森羅博物館の事件目録」番外編として『M.A.U. “ブラックマーケットの魔女”の事件目録』として
箪笥の中の幽霊」
を加えた4話収録です。

「二笑亭」は、遺産を食いつぶそうとするかのように、昭和初期に東京・深川に大地主・渡辺金蔵が建てた二笑亭を模した建物を建て始める兄を心配する妹の事件です。
森羅を待つまでもなく「なにか考えがある気がする」わけですが、うーん、これはどうでしょうか。
いずれにせよ金持ちの酔狂であることに変わりがない気がしてしまいます。もっともっと現実的な方法があったのでは?

「ダイヤ泥棒」は、その名の通り、美術館でのダイヤ泥棒事件を描いていますが、森羅サイドではなく、泥棒サイドからの視点となっているところがミソですね。
ちょっと真相は安直ではありますが、この視点が効いていて、楽しめました。
コミックの特性を活かした良い作品だと思います。

「レース」は、アンティーク・レースを扱っています。知りませんでした、レースの奥深い世界。
近世ヨーロッパで富と権力を誇る上でかなり重要なファッションだった、とは。
そしてその最高峰(?)が、「妖精のレース」。死に際して家宝でもあるそれを燃やそうとした富豪の真意は?
いやいや、ありふれた話といっては失礼ですが、それがレースひとつで耀きを放つ。ステキですね。
ただ、最後の結婚式のシーンはちょっと違和感あるんですが...

最後の番外編「箪笥の中の幽霊」は、森羅ではなく、マウが謎解きをします。
降霊術を扱った作品は、ミステリでは定番中の定番ですが、視覚的なものは実は初めて読む気がします。
なかなかいい感じに仕上がっているではありませんか。
謎が軽いので(箪笥の中で、降霊術の最中殺されるトリックは平凡と言わざるを得ませんが、視覚に訴えてなかなか読みごたえを感じます)森羅ではなく、マウが解くのがちょうどよいのかも。
この番外編もときどき描いてほしいですね。


タグ:加藤元浩 CMB
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Q.E.D.証明終了(46) [コミック 加藤元浩]





この第46巻には「失恋」と「巡礼」の2つの話が収録されています。

第45巻の「初恋」で予告(?)されていた「例の落語家の人たちの事件」を扱っているのが「失恋」です。
「初恋」に対して「失恋」と、タイトルも対になっていたのですね。
こちらにもサム・ロイドのパズルトリック・ドンキー」が引用されています。こちらは、まずまずうまく使われているように思いましたが、その分ネタが割れやすくなってしまっていますね。これでは、わかりやすすぎます。
扱われている謎は、一種の密室状態ともいえる楽屋での現金紛失事件なのですが、状況的には可能性が限られており、そのうえ「トリック・ドンキー」を受けて燈馬が「意外な人間同士がつながっている」というなんて、ちょっと読者のレベルを低く想定しすぎているのではないでしょうか?

謎の部分は置いておくとして、落語家を中心とした芸人が扱われていますが、角丸師匠のセリフがなかなか印象的です。
人間に幸せになる2つのスイッチを持っていて、1つ目は美味い飯を食ったり趣味に興じたり…自分だけで押せて幸せになれるスイッチ、2つ目は他人にほめられたり認められたりして他人に押してもらわない限り幸せと感じられねェスイッチ。
2つ目のスイッチは、喜びが強烈で、とめどなく推してほしいと思うしやみつきになるので、次第にスイッチを押してもらうためならなんでもしたいと思うようになる、と。
その上で、舞台とは他人にスイッチを押してもらう場所で、気が付くと大事なモノを失ってるかもしんねェ、とならないよう、お客さんに出すものと出さないものを分けることを説きます。
出すものが“芸”だと。
これを、まざまざと示す結末を猫柳あやめは迎えるわけですが、なるほどねー、と思いました。
<余談1>
現金(1万円)のことを、「戦闘力1万の諭吉カード」と読んでいるのは笑えました。

「巡礼」は、戦時中はるばる仏領インドシナのハノイまで赴き(しかも重慶近くの南昌からハノイまで歩いて!)自分の妻を殺した男の裁判で慈悲を乞うた外務省官僚雨水の心理の謎と、その雨水を書こうとしていたノンフィクション作家が原稿をお蔵入りさせたのはなぜかという謎を扱っています。
心理の謎、というのは、どこまでいっても探りきれないものではありますが、この作品は上手に手紙を使っていていたく感心しました。すばらしい。
凌遅刑(身体を少しずつ削って殺す、中国の一番重い刑罰)なんて言葉も出てきますが、被害者の遺族の気持ちは考えるのが難しいですね。
重いテーマですが、コミックという形態がすごくうまくマッチしているように思いました。
さすが加藤元浩です。
シリーズ第46巻にして、惰性に陥らずこのクオリティ、すごいですね。
<余談2>
サイゼリアをもじって、サイぞリアというのが出てきて看板にサイがうつ伏せの状態から背をそらすイラストが描かれていて笑いました。
どうせなら、サイぞリ屋にしてくれた方が、イラストにマッチしていたのに、残念。
<余談3>
燈馬が心ひかれた(?)カエルの置物、楽器を演奏しているもので、なんだかかわいいですね。
ぼくも欲しくなりました。






タグ:加藤元浩 QED
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世界記憶コンクール [日本の作家 ま行]

世界記憶コンクール (創元推理文庫)

世界記憶コンクール (創元推理文庫)


<裏表紙あらすじ>
ある日、萬朝報に載った『記憶に自信ある者求む』という求人広告。見たものを瞬時に覚えられる博一は、養父の勧めもあって募集に応じた。見事採用となり、高い給金を得て記憶力の訓練を受けていたのだが――。心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、二人の青年をはじめ明治の世に生きる人々の姿を人情味豊かに描いた、〈帝都探偵絵図〉シリーズ第二弾。表題作を含む五話収録。


「人魚は空に還る」 (創元推理文庫)に続くシリーズ第2弾は、以下の5話収録。
「世界記憶コンクール」
「氷のような女」
「黄金の日々」
「生人形の涙」
「月と竹の物語」
今回も表紙が非常に印象的ですね。
イラストは下村富美さんという方が描いていらっしゃいます。

シリーズ第2弾といいつつ、作品構成は異色(?) です。
心優しき雑誌記者:里見高広と超絶美形の天才絵師:有村礼の二人組の物語というふうにシリーズをとらえると、第1話である表題作「世界記憶コンクール」はその通りなのですが、第2話「氷のような女」は高広の父基博の話、第3話「黄金の日々」は高広・礼ではなく、以前登場した森恵(サトシ)の話。第4話「生人形の涙」と第5話「月と竹の物語」は高広・礼に戻りますが、通常のシリーズなら番外編とでもいう感じの周辺の人たちの物語が2つ挟まれています。
このシリーズはこうやって輪郭を拡げていきながら続いていくのかもしれませんね。
特に、「氷のような女」での基博、いい感じです。

『「赤毛組合」「ボヘミアの醜聞」の真相に触れています』と巻頭に掲げられていますが、「世界記憶コンクール」は裏表紙のあらすじ読んだらそのまんま「赤毛組合」ですもんねぇ。
「ボヘミアの醜聞」の方は、第4話「生人形の涙」です。
下敷きにしたものがあると批判的になる読者もいらっしゃるかもしれませんが、このシリーズはこれでよいのです。なぜなら、礼がホームズ物語のファン、で、ホームズばりの推理を高広に強要する、というのがコンセプトですから。ホームズ物にインスピレーションをもらったような物語が多くてもそれでよいのです。
それに、いずれの話もオリジナルをそのままコピーしているのではなく、物語の溶け込むようにきちんと加工してありますから。
むしろ、この2作の方が、ほかの作品より出来がいいように思います。またその方がミステリ度もアップするみたいです。
その証拠に(?)、「生人形の涙」がこの作品集の中では一番好みです。

解説で大矢博子が登場人物の相関図を掲げているのですが、これがとてもよくできている、というか、わかりやすいです。手元に置いておいて、シリーズを読むときに観るのがいいかも。

シリーズは
「人形遣いの影盗み」 (創元推理文庫)
「怪盗の伴走者」 (ミステリ・フロンティア)
と続いています。
のんびり追いかけることとしましょう。

<蛇足>
「人魚は空に還る」 に出てきた怪盗ロータスが出てこなかった!! 期待してたんですけどね。






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