So-net無料ブログ作成
検索選択

八月の魔法使い [日本の作家 石持浅海]


八月の魔法使い (光文社文庫)

八月の魔法使い (光文社文庫)



<裏表紙あらすじ>
洗剤メーカー・オニセンの役員会議で、報告されていない「工場事故報告書」が提示され、役員同士が熾烈な争いを始めた。同じころ経営管理部員の小林拓真は、総務部の万年係長が部長に同じ報告書を突きつけるのを目撃。たまたま役員会議に出席し騒動に巻き込まれた、恋人の美雪からのSOSも届く。拓真は限られた情報だけで“存在してはいけない文書”の謎に挑む!


まず言っておきたいことは、おもしろかったということです。
読んだのが9月で、なにしろもう半年も経っているので忘れちゃっていることもあり、この感想を書こうと、ぱらぱらと飛ばし飛ばし読み返したんですが、やはりおもしろかった。
なのに、感想を書こうとすると、まず思い浮かぶのはマイナス点ばかり...。困った。

この作品、殺人はおきません。
それを言うなら、殺人どころか、事件らしい事件もおきません。ここは長所といえます。
舞台は、メーカーであるオニセンの役員会議と、そこでの騒動に巻き込まれた恋人を救おう(?)と推理を巡らせる(?) 拓真のいる会議外の場所(総務部だったり、経営管理部だったり)です。
役員会議で提示された、あるはずのない「工場事故報告書」の謎を追うわけですが...

うーん、この会社の役員会議、ひどすぎませんか?
出世争いだか何か知りませんが、こんなに愚かしいことを、役員会議の場でするのでしょうか?
「仮にも東証一部に上場している製造業」(266ページ)なんですよ。
また、副社長が次期社長になる。副社長は社長が決める。もちろん、社長の意向というのは大きいとは思いますが、こんなに社長が独断で決めてしまえるようになっているのでしょうか? 
だから、社長のいる役員会議での発言、立ち居振る舞いは命取り、という設定になっているのですが、そうでしょうか?
たとえ社長がそういう権力を握っていても、一回の会議での失言でだめになるということはないのでは?

作中、自らの担当部門で絶大な権力を握る常務が出てきて、まわりが彼を恐れ、自ら判断できない状況が描かれるのですが、であれば、社長こそ超絶大な権限、権力を持っており、その社長の前での言動は、この作品の役員会議でのようには決してならないと思います。
一方で、社長とは別に、前社長=会長というのがいることも触れられており、会長の懐刀は「社長交代によって」「影響力が衰えたわけではない」(267ページ)とも書かれていて、社長に権力が集中しているわけでもなさそうで、あら、矛盾していますねぇ、というところ。

そして、この「工場事故報告書」には、ミステリである以上仕掛け人がいるわけですが、あまりにもその狙い通りになっている点、???、です。
いくら切れ者でも、こんなに複数の人間の言動を予測できるとは思えません。
しかもそれぞれの人物が、通常想定される行動ではなく、奇矯と読んでもいいくらいのことを言ったり、しでかしたりするのです...
ミステリとして楽しむためには、想定外の発言や行動をされても、バックアッププランが用意されていました、ということが感じ取れるようにしておいてもらう必要があるでしょう。
ここまで読み切っていたら、まさに「魔法使い」。

そもそも主人公である拓真が本件とかかわるのは、役員会議に出席しちゃっている恋人を救うため、というのですが、拓真の行動自身も目的とずいぶんずれちゃっていて、あれれ。

というふうに、マイナス点ばかりあげつらってしまいましたが、実はこういう点は、石持浅海には常につきまとっている点であって、この作品において著しくおかしいというわけではありません。
石持浅海の作品に出てくる人は、どことなく“おかしい”人が多く、奇矯な言動をするのが常です。
だから、これらの点は物語の前提だ、と呑み込んで読んでいくのが吉なのでしょう。
これらの点を前提として読めば、ロジックをもてあそぶ楽しさを満喫できます。
拓真がああでもない、こうでもない、とこねくり回していくのが楽しい。だから、冒頭申し上げたように、おもしろかった、のです。
この「八月の魔法使い」 、実は、石持作品の中でもかなり好きな方に入ります。


<蛇足>
解説で小池啓介さんが
「一般常識で考えれば」、「会社の常識としては」と、相反する“常識”が登場すると述べたうえで、
サラリーマンの日常とともにある“会社の常識”。それはいっていれば特殊なルールである。その観点から本書は、作品内だけで通用する特殊ルールを設定した謎解きミステリーの系譜に連なる作品ともいえる」
と書いていますが、↑ の感想でも書いたように、扱われているのは会社の常識は会社の常識でも、作品内だけで通用する特殊な“会社の常識”なので、いわゆる「会社の常識」を「作品内だけで通用する特殊ルール」として取り扱った作品とは言えないと思います。

<2016.4.10追記>
上の蛇足の部分、読み返してわかりづらかったので補足します。
小池さんの記載は、まとめると
「ミステリーには、作品内だけで通用する特殊ルールを設定した系譜があるが、本作品は、“会社の常識”をその特殊ルールとして利用したミステリーである(とも考えられる)」
ということだと思っています(1)。
でも、こういうことを言う場合、“会社の常識”は普通の“会社の常識”、一般読者が読んで、「そうだよな。会社って、一般社会じゃ通用しない論理や考え方があって、うちの会社も同じ常識があるよ」と思えるようなものでないと困るのではないでしょうか。
作品で使われる“会社の常識”が、特殊な会社の常識、一般の会社ではちょっと考えづらいものだったら、それは単なる特殊ルールであり、“会社の常識”とは言えないと思います。
と、こう考えて蛇足を書いたのですが、(1)のようなことを小池さんは言いたいのではないのかもしれませんね。「特殊な“会社の常識”を、作品内だけで通用する特殊ルールとして設定したミステリー」ということだけを言いたかったのかも。ただ、だったら、こういうことはミステリーに限らずフィクションでは当たり前のことで、あえて解説でわざわざ書くようなことではないような気もしますが...



タグ:石持浅海

Q.E.D.証明終了(40) [コミック 加藤元浩]




<帯裏表紙側あらすじ>
書店の金庫から売り上げ金が盗まれた。居合わせたのは、四角関係の男女二組。四人の出会いサポートした燈馬と可奈は、一方通行の恋愛模様の中にヒトの不思議を見る!
(『四角関係』他一編を収録)

この第40巻には「四角関係」と「密室 No.4」の2つの話が収録されています。

「四角関係」は、妙なかたちで成立してしまっている四角関係を背景に(?)、書店での盗難騒ぎを描いています。
うーん、この真相、簡単すぎませんでしょうか? と同時に、ちょっと犯人の振る舞いに無理があるように思えてしまいます。燈馬が動機について推理をめぐらせる端緒となるエピソード、犯人だったら言わないでしょう。
それと、最後の方の犯人のアップはかなりインパクトあるんですが、最後もちょっと不思議な終わりかたです。
四角関係というアイデアがちょっとうまくこなれていませんでしたね。
ところで舞台となった土鯉書店、やっぱり「どっこいしょてん」って読むのかな?

「密室 No.4」では、離れ小島で連続する密室事件を扱っています。
ミステリツアーとして、3つの密室事件の謎を解く。そういう構想のツアー体験会で、実際に密室殺人が1つ起こる、というもの。
ツアーのなかの3つの密室トリックが、それぞれあまりにもあんまりなトリックなのでおいおいと思ったら、そのトリックそのものが犯人特定に資する、という構成になっていて感心しました。できる!
ありふれた錯覚トリックも、効果的に使われていたように思います。
ただ、あれを消すのは無理だと思います。いろいろと痕跡が残るでしょうから。
とはいえ、密室をめぐる部分は十分の楽しみました。
コミックスへの描き下ろしにふさわしい力作です。



タグ:加藤元浩 QED

マインド・クァンチャ [日本の作家 森博嗣]


マインド・クァンチャ - The Mind Quencher

マインド・クァンチャ - The Mind Quencher

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/04/24
  • メディア: 単行本




単行本です。
〈ヴォイド・シェイパ〉シリーズ第5作目で、シリーズ最終作のようです。
前作「フォグ・ハイダ - The Fog Hide」 (中公文庫)のときには、作者のHP(だと思われます)に
「シリーズは5冊で完結しそうにない、というのが今のところの印象です」
と書いてあったので、油断していましたが、単行本を買ったときに、HPを見てみると、「マインド・クァンチャ」 のところに、
「シリーズ5作めです。当初予定していたストーリィはここまででしたので、これでシリーズ完結としても良いと思っています。次も書くかどうかは、まだ決めていません。お話は、またも山の中で展開します。主人公が強さを求めるとき、欠けていたものが偶然にも手に入ります。カバーは、満を持しての桜です。もちろん、『桜にして下さい』と僕が依頼してこうなりました。それでも、その桜がまた想定外に綺麗でした。シリーズもこれで終わりにするのが、綺麗かもしれません」
と書いてあって、終わるのかなぁ? と思っていたら、先日、シリーズ全体について
「単行本が5巻で完結」
と書いてあるではありませんか。
シリーズの世界観に馴染んだところで終わっちゃったなぁ。

この第5巻 は、ゼンが闘いに負けるところからスタートします。
滝から落ちて記憶を亡くし、山奥で姉弟に助けられて生きていた。
いつものゼンの思索の世界が拡がります。
そしていくつかの戦いを経て、都へ。

でも、作者の言う通り、ここで終わりというのが綺麗かもしれません。
主人公ゼンは、なにもないところからスタートし修行を積み(?)、ついに都へやってくる。
そこでは大きなものを得たけれど、逆に失ったものもある。失ったものを得るためには、大きなものを失うこととなる。
乱暴にまとめてしまうと、こういうことで着地を見せているわけですから。
静謐な世界観にずっと浸っていたいという気にさせるシリーズでしたが、この世界観が変容することなくぴたりと着地したので、これでよし、ということかと思います。


P.S.
「尊い方を、名前ではお呼びできません」(296ページ)なんて、当たり前のことですが忘れている人が多いことをさらっと書いているのも、やはり素晴らしい。


タイトル 単行本 文庫本
1 ヴォイド・シェイパ ヴォイド・シェイパ ヴォイド・シェイパ - The Void Shaper (中公文庫)
2 ブラッド・スクーパ ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper (中公文庫)
3 スカル・ブレーカ スカル・ブレーカ - The Skull Breaker スカル・ブレーカ - The Skull Breaker (中公文庫)
4 フォグ・ハイダ フォグ・ハイダ - The Fog Hider フォグ・ハイダ - The Fog Hider (中公文庫)
5 マインド・クァンチャ マインド・クァンチャ - The Mind Quencher 未刊














群衆リドル Yの悲劇’93 [日本の作家 は行]


群衆リドル Yの悲劇’93 (光文社文庫)

群衆リドル Yの悲劇’93 (光文社文庫)

  • 作者: 古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
浪人生の渡辺夕佳の元に届いた、壮麗な西洋館への招待状。恋人で天才ピアニストの、イエ先輩こと八重洲家康と訪れた『夢路邸』には、謎を秘めた招待客が集まっていた。そこに突如現れた能面の鬼女が、彼らの過去の罪を告発し、連続殺人の幕が切って落とされる。孤立した館に渦巻く恐怖と疑心。夕佳とイエ先輩は、『マイ・フェア・レイディ』の殺意に立ちむかうことができるか!?


古野まほろの作品を読むのは、「天帝のはしたなき果実」 (幻冬舎文庫)(感想のページへのリンクはこちら)に続いて2冊目です。
「天帝のはしたなき果実」 がかなり強烈だったので、天帝シリーズ以外だとどうかな、と思って手に取りました。
で、冒頭「夢路邸招待客等一覧」と題された登場人物リストを見て、うーん、と思いました。
東京帝国大学、勁草館高等学校...天帝シリーズと地続きなんだ...そうとわかっていたら、買っていなかったかも...

裏表紙側の帯が象徴的です。
「吹雪の山荘、死を告げるマザー・グース、密室の生首、ダイイング・メッセイジ、足痕のない殺人、ミッシング・リンク、読者への挑戦状、そして名探偵--
絢爛たる本格ミステリの饗宴!

目次で、プレリュード、アンコールに挟まれているのが、第1章、第2章ではなく、第一楽章、第二楽章...となっており、順に、鬼、瘴、點、抉。
起承転結、というわけですが、凝りすぎでしょう。
第三楽章 點の途中に第1の読者への挑戦状が、第三楽章のおわり、第四楽章の手前で第2の読者への挑戦状が挿入されています。
基本的には渡辺夕佳の一人称というかたちで、「天帝のはしたなき果実」 に比べると穏やかではありますが、それでもまだ読みにくいですね。

中身は、上で引用した帯にもある通り、ミステリのガジェットをこれでもかと詰め込んだ作品で、クリスティの「そして誰もいなくなった」を思わせる展開です。
それぞれの殺人が不可能犯罪というのはいいんですが、そのトリックが、あれ、ですか...
たしかに、あれ、は有名な古典(ネタバレになりますが、リンクを貼っておきました)へのオマージュとして使われているのでしょうが...
まあ、繰り返し使った点は、あっぱれ、というべきですか。
しかしなぁ、そんなにうまくいくかなぁ...

犯人は誰か、というのも、「そして誰もいなくなった」的展開をすると、どんどん登場人物が減って行ってしまうので、それほど難しい謎解きではありません。
ただ、それぞれの殺人に、それぞれ犯人特定の手がかりが忍ばせてあるという"こだわり"は注目。
また、おもしろいのは、
読者への挑戦状--2 に
「誰が四人を殺したのか---
 何故四人は殺されたか--
 四人を結ぶ共通点は何か--」
とあるように、被害者のミッシング・リンク(四人を結ぶ共通点)を推理でつきとめようという趣向です。
これ、新しい試みなんじゃないでしょうか? (試みの斬新さの割には読者に届きにくい趣向のような気もしますが)
ミステリではわりとよくある動機ですが、この趣向には似合っています。(現実には、こんな動機で殺されては嫌だと思う人が多いと思いますが)
あと、個人的には、ダイイング・メッセージが好みでした。ダイイング・メッセージなんて不自然だという意見に対して、開き直ってみせたかのような解決がいいですね。

ぎくしゃくしたところの多い作品で、有栖川有栖が解説で
「ロジカルな推理を駆使することで完成するパズルは、美しい一幅の絵画というよりは、一種グロテスクな風景だ」
と指摘しているようにグロテスク、ではありますが、なんとなく惹かれるものがあります。
読了2冊目にして、作者の術中に嵌ったのかもしれません。




曲がった蝶番 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]


曲がった蝶番【新訳版】 (創元推理文庫)

曲がった蝶番【新訳版】 (創元推理文庫)



<裏表紙あらすじ>
1年前、25年ぶりにアメリカから帰国し、爵位と地所を継いだジョン・ファーンリー卿は偽者であり、自分こそが正当な相続人であると主張する男が現れた。渡米の際にタイタニック号の船上で入れ替わったのだと言う。あの沈没の夜に――。やがて、決定的な証拠によって事が決しようとした矢先に、不可解極まりない事件が発生した! 巨匠カーによるフェル博士登場の逸品、新訳版。


このところ続いているカーの新訳。今回は「曲がった蝶番」
旧訳のタイトルは、「曲った蝶番」 でしたから、「が」が増えました。新訳のタイトルは「まががったちょうつがい」? (笑)。

新訳を読むたびに、以前旧訳を読んだ記憶がほとんどないことに我ながら感心するのですが、この作品もそうで、見事に忘れ去っていました。
タイタニック号での入れ替わり、というロマンチック(?) な設定、自動人形《金髪の魔女》、そして魔女崇拝・悪魔主義。
道具立ては完璧ですね。カーらしい。
そしてトリックがすごいです。なんと言ったらいいんでしょうね? 豪快というか、剛腕というか、反則ですね。正直、今風にいえば、バカミスの境地かと思います。
第四部で真相が明かされる前の第三部で、フェル博士が偽の解決を展開して見せるのですが、そこで披露されるトリックもバカミスの資格十分のトンデモ系で、これはこれで味わい深いトリックなのですが、真相の方はさらに上を行く馬鹿馬鹿しさ(一応、褒めています)。
よく、こんなの忘れていたな、と我ながら感心します。
不可能味を示すための証人が弱い点はちょっと残念ですが、いやぁ、楽しんじゃいました。
第四部の扉の所に、チェスタトンの引用があるのですが、カーはこれを読んで、なんとか解決策はないものかとあれこれ考えて、この「曲がった蝶番」のトリックを思いついたんでしょうか? 
なんか、してやったり、とニヤついているカーの顔を想像してしまいました。

あと印象深いのはタイトルですね。
タイタニック号での「曲がった蝶番」のエピソードはかなり鮮明です(どうして忘れてしまっていたのでしょうね?)

愉快な作品でしたが、これを傑作と呼ぶのはためらわれてしまいます。
そんなところも含めて、カーらしいかな、と思える作品です。


原題:The Crooked Hinge
著者:John Dickson Carr
刊行:1938年
訳者:三角和代




オデッセイ [映画]

オデッセイ①T0020248p.jpgオデッセイ②T0020248p1.jpg

いつものシネマ・トゥデイから引用しておきます。

チェック:『グラディエーター』などのリドリー・スコットがメガホンを取り、『ボーン』シリーズなどのマット・デイモンが火星に取り残された宇宙飛行士を演じるSFアドベンチャー。火星で死亡したと思われた宇宙飛行士が実は生きていることが発覚、主人公の必死のサバイバルと彼を助けようとするNASAや乗組員たちの奮闘が描かれる。共演は、『ゼロ・ダーク・サーティ』などのジェシカ・チャステインや『LIFE!/ライフ』などのクリステン・ウィグなど。スコット監督による壮大なビジュアルや感動的なストーリーに注目。

ストーリー:火星での有人探査中に嵐に巻き込まれた宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)。乗組員はワトニーが死亡したと思い、火星を去るが、彼は生きていた。空気も水も通信手段もなく、わずかな食料しかない危機的状況で、ワトニーは生き延びようとする。一方、NASAは世界中から科学者を結集し救出を企て、仲間たちもまた大胆な救出ミッションを敢行しようとしていた。

映画化されるというので、あわてて(?) 原作「火星の人〔新版〕」(上)  (下) (ハヤカワ文庫SF)を読んでから観ました。
原作の感想を書くことになるのは一体いつのことやら。
原作を読んだのは2月でしたが、今年のベスト13に該当すること間違いなしのおもしろさだったので、ストーリー展開が楽しめることは保証付き。安心して映画を観ることができました。
映画もおもしろかったですね。
やはり映像で観る火星がきれい。いや、取り残されてしまえば、きれい、なんて言ってられないだろうけれど、映画として観る分には、すこぶるきれい。
普通の2Dで観たのですが、3Dでもよかったかもしれません。G(重力)がかかる部分がそれなりにあるので、MX4Dだといらいらしたかな。

よくできたお話だとあらためて思いました。
生き延びるための仕掛けというか、手掛かりがちゃんとあるところがすばらしい。だからこそ、知恵と勇気で乗り越える主人公に見入ってしまうのです。
この点で、主人公を演じているのが、マット・デイモンというのはちょっと惜しいところ。
というのも、マット・デイモン、ジェイソン・ボーンを演じてから、肉体派というかサバイバル能力が高いイメージがつきまとっています。
ところが、この主人公ワトニーは植物学者。もちろん、選ばれて火星に派遣されるくらいなので、体はきちんと鍛えてはいるでしょうが、アクションものの映画に出るようなそういうイメージではありません。
もちろん、助かることはわかっているわけですが、マット・デイモンが演じてしまうと、そのあたりがちょっと...
無名の役者を起用すればよかったのに。

あと映画にしてしまうと、原作の最大の武器ともいえる、語り口、ワトニーのめげないユーモアが薄れてしまいます。
このあたりはマット・デイモン、うまいもんですが、それでもやはりね。
あと、試行錯誤というか、生き延びるための知恵の部分が、映像ではあっさり流されてしまいますね。中国の関与もあっさり、あっさり。
原作にない後日談が付け加わっていて、そこはかとなくユーモラスな点はよかったです。
とまあ、これは原作を読んでいたからこその感想で、映画を映画として観る分には十二分におもしろい映画だと思います!

それにしても
原作原題:THE MARTIAN
原作邦題:火星の人
映画原題:THE MARTIAN
で、どうして映画邦題がオデッセイなんでしょうね?
原作邦題に合わせろとはいいませんが、なんとかならなかったものか?


原作の書影です。

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)
  • 作者: アンディ・ウィアー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/12/08
  • メディア: 文庫


ぼくが読んだのは、1冊ものの旧版です。
火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

  • 作者: アンディ・ウィアー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/08/22
  • メディア: 文庫




原題:THE MARTIAN
製作年:2015年
製作国:アメリカ


百瀬、こっちを向いて。 [日本の作家 な行]


百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2010/08/31
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは――。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。
「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。


解説で、瀧井朝世が、中田永一が覆面作家であること、そして「現在もなおその素顔は明かされていない」と書いていますが、現段階では公開されているのでここでも書いてしまいますが、中田永一が、乙一の別名義だということ、知らなかったんです。
なので、この「百瀬、こっちを向いて。 」は、映画にもなったし、本屋さんでどーんと積み上げられていたんですが、恋愛小説、というふれこみだし、スルーしていたんです。でも、乙一だとわかれば、話は別です。
ミステリであろうとなかろうと、乙一の本なら、読まねば。

表題作のほかに
「なみうちぎわ」
「キャベツ畑に彼の声」
「小梅が通る」
が収録されています。

表題作は、やはり乙一というか、現在と過去の話の切り替えのテンポが絶妙で、すっと世界に入り込めました。
かろうじてレベル1ではないだけのレベル2である底辺に近い僕が身代わりの恋人を頼まれて、「知らなけりゃよかった」気持ちを知ってしまう。
乙一らしい、「切なさ」があふれています。

「なみうちぎわ」は、1997年の9月から5年間昏睡状態だったわたしの物語。
当時16歳だったわたしは、小学六年生の男の子の家庭教師をしていた。5年後、小太郎は高校2年生。当時のわたしを追い越している。いまのわたしは21歳になっているけれど、気持ちは16歳。
これでだいたい想像つくでしょう?  はい、そういう話なんです。
でも、ほかの作家なら、こういう味わいにはなりません。

「キャベツ畑に彼の声」は、バイトテープおこしをした女子高生が、国語教師の本田先生が覆面作家の北川誠二であることを知ったことから始まります。
一種の叙述トリックのような効果が狙われていて、そしてそれが見事なくらいきれいに決まっていて、なのに、ちゃんと切ない。さすがです。

「小梅が通る」の主人公柚木は、美少女です。
でも、見事なまでに控え目というか、目立ちたくない性格で、「夕方からドラマの再放送があり、それをながめながらしぶいお茶を飲むのがわたしの日課である」(207ページ)なんていうありさまで、素顔を隠して変装で毎日すごしている。
「あなたのことを好きになる人なんていない。あなたにちかづく人は、あなたの顔が好きなだけで、あなた自身にはこれっぽっちも興味がないんだからね」と昔の友だちにいわれた言葉が、呪いとなっている。
そこに軽薄な山本寛太というクラスメートがぶつかってくる。後日、変装をとった柚木は、寛太と会ってしまい、とっさに柚木の妹・小梅だと嘘をついてしまう。
なんだか、よくある設定みたいに思うんですが、考えてみると、こういうのってなかったかも。似ているけど、違う。そして、その違うところが、ドラマを生む。
解説では、瀧井朝世が「(『小梅が通る』のほかは)終盤で意外な事実が明かされる、という展開が待っている」と書いていますが、個人的には十分意外性ありましたよ。

やっぱり乙一、いいですね。
中田永一名義の作品も、さらに別名義の作品も追いかけていきたいです。


海街diary 4 帰れない ふたり [コミック 吉田秋生]


海街diary 4 帰れない ふたり(flowers コミックス)

海街diary 4 帰れない ふたり(flowers コミックス)

  • 作者: 吉田 秋生
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/08/10
  • メディア: コミック


<裏表紙あらすじ>
三姉妹が四姉妹となって二度目の秋-。最近は同じチームの風太が気になるすず。そんな中、仲間と出かけたお十夜(じゅうや)で意外な人たちを見つけて…!? 古都・鎌倉を舞台に家族の「絆」と情緒ある景観を描いた、大好評シリーズ第4巻!

このシリーズ第4弾「海街diary 4 帰れない ふたり」には、
「帰れない ふたり」
「ヒマラヤの鶴」
「聖夜に星降る」
「おいしい ごはん」
の4話 収録。

「帰れない ふたり」は、面掛行列の日からスタートし、すっとお十夜に移行してしまうところに感心しました。こういう場面の切り替え、ステキだなぁ。
そのお十夜で、すずは幸ねえの最後のデート現場を目撃してしまいます。シリーズ的には、ここですずと風太の仲が深まっていくのがポイントでしょうか?
このタイトル、「帰れないふたり」ではなくて「帰れない ふたり」なんですね。間が空いている。いろいろな意味が込められているんでしょうねぇ。
いま読み返して気づいたんですが、泰の表情、ちゃーんと伏線になってるんですねぇ。
しかし、苺を食らわば皿までとか、海苔かかった鮒とか、風太の間違い、ちょっと変!!

「ヒマラヤの鶴」は、三女・千佳の恋人である、スポーツ用品店スポーツ・マックスの店長のエピソードから。
煮つまった裕也ととりまく人間模様、というところでしょうか。
「自分たちがどうすることもできないことはわかってるんだ
 それでもじっとしていられない
 …それで十分なんじゃないの?」
こういう大人が周りにいて、すずたちは幸せですねぇ。

「聖夜に星降る」は、すずへのクリスマスプレゼントに風太が悩むのがスタート。
将志に相談しちゃぁ、いかんだろう、風太。111ページの将志の顔、できすぎ。将志の篤兄もいいキャラ。
まず裕也に相談しなかったことを後悔する風太、気づくの遅すぎ。後の祭りです。
ま、ちゃんといいプレゼント買えたみたいだし、よかったね。
で、じゃーん、クリスマスイブに、尾崎商店(風太の兄がやっている酒屋)で大集合(笑)。

「おいしい ごはん」では、前話「聖夜に星降る」での遭遇を佳乃と幸ねえが振り返ったりしてますねぇ。
シリーズ的には、海猫食堂の近くの喫茶店「山猫亭」をやっているオヤジ・福田仙一登場。
「山猫亭」に出てくる、しらすトーストって、おいしいんですかね? ジンジャーミルクティはおいしそうな気がするんですけど。
この食べ物で、すずが両親のことを思いだす仕掛けになっています。
タイトルにもなっているだけあって、「おいしい ごはん」には、アジフライに始まって、しらすトーストやジンジャーミルクティ含め、いろいろな食べ物が出てくるんですが、幸ねえたちの祖母が作っていた、ちくわカレーというのも、あんまりおいしそうじゃない... ヤスが回想する屋台での焼きそばも、きっとまずいんだろなぁ(笑)。
このタイトルも、おいしい、と、ごはん、の間に空白が。なんだろ?

この4巻は、ふんわりと終わりました。

PRIDE プライド 池袋ウエストゲートパーク X [日本の作家 石田衣良]


PRIDE プライド―池袋ウエストゲートパーク〈10〉 (文春文庫)

PRIDE プライド―池袋ウエストゲートパーク〈10〉 (文春文庫)

  • 作者: 石田 衣良
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/09/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
自分をレイプしたワンボックスカーの4人組を探してほしい―ちぎれた十字架のネックレスをさげた美女はマコトにそう依頼した。広域指名手配犯B13号を追うさなか、若者ホームレス自立支援組織の戦慄の実態が明らかになる表題作ほか3篇、最高の燃焼度で疾走するIWGPシリーズ第1期完結10巻目!


前回感想を書いた赤川次郎の「幽霊審査員」までが去年の8月に読んだ本で、この「PRIDE プライド  池袋ウエストゲートパーク IX」からようやく9月に読んだ本の感想になります。うーん、半年遅れ...

前作「ドラゴン・ティアーズ 龍涙 池袋ウエストゲートパーク IX 」(文春文庫)の感想(リンクはこちら)で、
「この解決策は、シリーズにとって非常に重い意味を持つものでもあり、シリーズの今後に俄然興味が湧いてきました」
と書いたのですが、そんなことはあっさり忘れ去られてしまって、まるでなかったかのようなシリーズ第10弾です。あらら。このシリーズは、完全読みきりの積み重ね、という形式だったんですね。

「データBOXの蜘蛛」
「鬼子母神ランダウン」
「北口アイドル・アンダーグラウンド」
「PRIDE -プライド」
の4編収録。
あらすじにも書いてありますが、シリーズ第1期の最終巻のようです。

今回扱われている社会問題(?)は、それぞれ
携帯電話紛失にともなう情報漏洩
自転車事故(自転車による歩行者を巻き込む事故)
地下アイドル
貧困ビジネスとレイプ団

キャッチーな話題を取り上げて、堂々のワンパターン(こちらをご参照)。さすがの安定です。
これで10冊乗り切ったんですから、石田衣良はすごいです。

第2期は、違うパターンで楽しませてくれることを期待します。


<蛇足1>
自転車事故にあった15歳がいうセリフが
「チキショー」(92ページ)
なかなか、「チキショー」なんて、言えませんよね...

<蛇足2>
池袋の氷の王・タカシと東京一のトラブルシューターであるこのおれ」(172ページ)
アレ? おれ、は池袋ではなく、東京一、なんですね。