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イデアの影 [日本の作家 森博嗣]


イデアの影

イデアの影

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/11/21
  • メディア: 単行本




去年の11月に出た森博嗣の新刊で、単行本です。

カバーに
「作品数でいえば最も多く僕が読んだ日本人作家の一人が、谷崎潤一郎だ。」
と書かれていて、巻頭や各章のはじめに「細雪」 (上) (中) (下) (角川文庫)からの引用が掲げてあります。
浮遊工作室
『谷崎潤一郎のメモリアルとして企画された本です。』
と書かれているのですが、谷崎潤一郎を教科書でしか読んでいない身には、そのあたりはわかりません。
浮遊工作室に続けて
『内容としては、幻想小説といえると思います。ただ、どの作品の「リスペクト」というわけではありません。そもそも、谷崎の影響を受けているといっても、谷崎のようには書かない、という方向性もあるわけです。これもリスペクトなのですが、文芸界で使われている「リスペクト」とは意味が違いますね。』
とありますが、幻想小説、という部分は理解できても、「リスペクト」うんぬんの部分はよくわかりません。
いや、それを言うと、作品そのものの、よくわからない。
でも、それがいいんですね。
ってコメントも我ながらすごいですが、でも、森博嗣の作品って、そうですよね。
文章のリズム、物語のリズム、ストーリー展開のリズム。
いろいろな小説のピースが、きらきらと輝く光の破片となって、さまざまなきらめきを見せてくれる。

ストーリー自体は、金持ちの後妻である主人公のまわりで次々と人が死んでいく、というもので、ミステリっぽいですが、作者も言う通り、幻想小説、なのでしょう。
現実的、理知的な立脚点を持つミステリとは違う地平に立つ作品だと思います。
小説の技法(?) に信頼できない語り手というのがありますが、この作品の主人公「彼女」も、信頼できない語り手といえると思います。

森博嗣版胡蝶の夢??
というよりはやはりタイトル通り、イデア、なんですから、プラトンなんでしょうねぇ。
有名な洞窟の喩えを小説にしたらこうなるってところでしょうか??








タグ:森博嗣
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C.M.B.森羅博物館の事件目録(20) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(20) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(20) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/06/15
  • メディア: コミック




この第20巻は、
「12月27日」
「転落」
「木片」
「犀の図」
の4話収録です。

「12月27日」は、12月27日に開かれた仮装クリスマスパーティーで、フズリナの化石がなくなってしまう事件(?) を描いています。
事件や真相がしょぼいのはいいとしても、これ、被害者となるワンダーフォーゲル部の八合目暁彦が好きになれない...

「転落」は、いわゆる倒叙形式のミステリになっていて、帳簿の操作がいやになった経理主任を殺した社長を、森羅が追いつめる、という物語です。
しかしなぁ、このトリックというか、犯人あまりにも阿呆でしょう。
こんな偽装工作、すぐに見抜かれてしまいますよ。
ま、そういう設定だからいいのかもしれませんが。

「木片」は、CMBらしいストーリーです。
江戸時代の仏師が抱えた謎を解きます。
「なぜ自分の用意した最高の木材を彫ると弟子は仏師をやめてしまうのか?」
魅力的な謎が、きわめて理にかなった形で決着します。
ミステリの枠をすこーしはみ出た形が、CMBらしくてよいです。

「犀の図」には、ついに(?) 森羅の3人目の父親モーリス・ランドが登場します。
こともあろうに、拘置所で囚われて。
変人ちゃあ変人で、「必要と思うこと以外は全くしゃべろうとしない」という設定ですが、ほかの2人と比べると、地味ですね。
鍵のかかったファイル棚から絵を盗み出すトリックも、その後の隠し場所も地味ですねぇ。
まあ、モーリスだったら、真相とっくに見抜いていただろうに、どうしてみすみす捕まることを許容したのか、の理由がかわいかったのでよしとしましょう。

この20巻、「12月27日」と「木片」に、ちらっとだけヒヒ丸がでてきてうれしかったです。
でも、本当にちょっと出てくるだけ。もっと活躍させてあげたい。




タグ:加藤元浩 CMB
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Q.E.D.証明終了(42) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.証明終了(42) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(42) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/06/15
  • メディア: コミック




この第42巻には「エッシャーホテル」と「論理の塔」の2つの話が収録されています。

「エッシャーホテル」に、エッシャーの絵をモチーフにデザインしたホテルが登場します。
泊まってみたいなぁ。
トリックも、実現は無理なんじゃないかな、と思いつつも、楽しいもので大好きです。こういうトリック、いいですよねぇ。しかも、絵で描いてもらわないと呑み込みにくいというのもコミックスの特徴を活かした長所ですね。
犯人を追いつめる手がかりも、簡単ですっきりしています。(もっとも、この点だけで陥落しますが、犯人限定の手がかりとしては不十分で、いくらでも言い抜け可能だと思います...)
写真のトリックは、絵画的で楽しいですが、うーん、無理ですよね、というか、すぐ見抜かれてしまいますよね...

「論理の塔」は、論理パズルに近い謎を採り上げてはいるんですが...
「探すモノは奇数の階にはない」と同時に「探すモノは偶数の階にはない」
「探すモノはビルの中にはない」と同時に「探すモノはビルの中にある」「それは外から見える」
魅力的な謎ですが、真相には満足できませんでした。
ビルが解体された後、エピローグに相当するエピソードはほっこりできたんですけどね。




タグ:加藤元浩 QED
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パラドックス実践 雄弁学園の教師たち [日本の作家 か行]


パラドックス実践 雄弁学園の教師たち (講談社文庫)

パラドックス実践 雄弁学園の教師たち (講談社文庫)

  • 作者: 門井 慶喜
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/01/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
初等部から大学院までをそなえた伝統ある名門校、雄弁学園。最大の特色は通常の科目の他に「雄弁」を学ぶこと。新任の教師、能瀬雅司は生徒から難問を突きつけられ、雄弁術で証明しなければならなくなった。失敗したら生徒たちに失格の烙印を押されてしまうだろう。新米教師は無事「試験」に合格できるのか?


「パラドックス実践 - 高等部」
「弁論大会始末 - 初等部」
「叔父さんが先生 - 中等部」
「職業には向かない女 - 雄弁大学」
の4編収録の連作です。

第1作目の「パラドックス実践 - 高等部」は、第62回日本推理作家協会賞短編部門の候補作です。
これが協会賞の候補作ですか...意外。
意外とは言いましたが、おもしろいんですよ。楽しみました。
生徒から
「テレポーテーションが現実に可能であることを証明せよ」
「海を山に、山を海に変えられることを証明せよ」
「ほんとうにサンタクロースがこの世にいることを証明せよ」
という3つの命題を突きつけられて、はてさてどうやって回答すべきか煩悶する教師、という話です。
相手の言説を土台に、というか、逆手にとって話を展開していくところとか、ミステリっぽいというか、ミステリにもみられる要素もちゃんとあります。
でもね、肝心の中心的アイデアが、どうでしょう、これ? これで納得しますか? しないと思うんですよね。
でも、黙り込んでしまう生徒、強引にするすると話を進めていってしまう主人公。
たまたま(?)教室にいた部長(普通の学校でいうところの校長)が、すっと話を引き継いで展開させていってしまうところは、むしろ主人公を追いつめる立場かと思われた人物が助けるサイドに回るという意外性(?)を演出したりもしますが、いかんせん弱いですよねぇ、アイデアが。

他の作品もその点いずれもなんだか喰い足りない印象です。

おもしろいのは、学園を舞台にしていても、生徒ではなく教師に焦点が当たっていること。
副題にもある通り、「雄弁学園の教師たち」なのです。
また、「日常の謎」というには日常的ではない設定ですし、パラドックスというか、もはや詭弁の領域の論旨が展開されていきますが、結局のところ教師の普通の悩みが、普通でない経路をたどりつつも、普通に解決されます。
こういうひねくれたフォーマットはいいですね。

あっ、そうか、ここまで書いて気づきました。
そういう狙いの作品だったんですね。
パラドキシカルな言説を弄じつつ、きわめて平凡な(失礼)問題を平凡に解決して見せる。
フォーマットそのものが逆説的に組み立てられていたわけですね。



<蛇足>
ぼくは個人的に宮沢賢治があまり好きではありません。
ミステリとは相性の良い詩人・文学者なんですけどね。
特に、「雨ニモマケズ」が嫌いです。
「雨ニモマケズ」は、「パラドックス実践 - 高等部」でも触れられていますが、「職業には向かない女 - 雄弁大学」において、「雨ニモマケズ」の叙述が秘める厭らしさ(レトリックの下品さと言ってもいいかもしれません)を暴き立てているのは、(視点人物とは対立する観点の人物による言説ではあるものの)、すごくツボでした。ああ、すっきりした。
宮沢賢治がお嫌いな人は、ぜひ(笑)。


タグ:門井慶喜
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海街diary 5 群青 [コミック 吉田秋生]


海街diary(うみまちダイアリー)5 群青 (flowers コミックス)

海街diary(うみまちダイアリー)5 群青 (flowers コミックス)

  • 作者: 吉田 秋生
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/12/10
  • メディア: コミック


<裏表紙あらすじ>
お彼岸の頃、香田家に響いた一本の電話。すずの叔母と名乗る女性は彼女を捜していたという。会ったこともない親類の出現で、戸惑うすずに三姉妹は…。家族の「絆」と美しい鎌倉の景観を情緒豊かに描いた、大人気シリーズ第5巻!


このシリーズ第5弾「海街diary5 群青」 (flowers コミックス)には、
「彼岸会の客」
「秘密」
「群青」
「好きだから」
の4話 収録。

「彼岸会の客」では、すずの叔母さん登場。すずの母、そして祖母の思いをすずに伝える役目となります。

「秘密」では、すず、と風太がそれぞれ秘密を抱えます。それぞれ誰にも言うな、と言われて。
風太の抱える秘密は、裕也の考え。
すずの抱える秘密は、すずの三姉妹のうち、幸ねえ、佳乃とも関係します。
「いろいろとめんどくさいことをするのが私たちの仕事ですから」って、佳乃の上司(坂下課長)はさらっと言いますが、信金ってこんなに面倒見いいんですか。すごいですね。

「群青」は、「秘密」で抱えた秘密がそれぞれ決着を見せます。
「山猫亭」のオヤジ・福田さんがいい味全開。この人、すごい。
タイトルは、スポーツ用品店スポーツ・マックスの店長が撮ったヒマラヤの写真(「海街diary 4 帰れない ふたり」(flowers コミックス)収録の「ヒマラヤの鶴」に出てきた写真です)の空の青、がベースですね。
「あそこはエラい空気が薄い
 だから よけい青が鮮やかになる
 まさに群青や」
と説明されます。
福田オヤジは
「どんなサイアクな気分の時でも
 晴れれば世界で一番蒼い空やし
 その下には神様の住んどる世界で一番高い山や」
とも言っています。テーマに関連するセリフですね。
この「群青」と次の「好きだから」は、印象に残るというか、ぐっとくる言葉がいっぱい出てきます。
「でも神様は人の事情をいちいち考えてはくれない
 だから神様はありがたくて…恐ろしいんでしょうね」
(続けて「神様が考えてくれないならこちらが考えるしかないでしょう」って、課長、かっこいい...)
「神様は気まぐれで時々ひどい意地悪をするので振り回されてエラい目に遭うこともあります
でも晴れた日は空が青い
どんな気持ちのときもそれはかわらない
それだけは神様に感謝したいと思います」
あと、裕也と風太のやりとりもなかなかいいですよ。悩める若者よ、どんどん悩めっ、て感じ。悩んだ末にすっきり解決しています(周りが見たらそうなだけで本人はそれでも悩み続けるんでしょうが)。
風太の観察眼とそれをきちんと評価できる裕也。こういう友だちっていいですねぇ。

ラストの「好きだから」は、一つの山場が過ぎた後の話。
登場人物それぞれに、「好きだから」という言葉をキーに気持ちを眺めていく。
幸ねぇにちょっとした(と言っては失礼ですが)事件が起きますが、無事解決します。
ここでもまた福田オヤジのセリフがいいんですよねぇ。
「病気は治らんでもアメちゃんでもなめとこかなー思うこともあるよってな」
って、よりによってこのセリフを抜き出すのかいって言われそうですが、これ象徴的なセリフだと思います。

ということで、このシリーズ大満足。



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ミレイの囚人 [日本の作家 た行]


ミレイの囚人 (光文社文庫)

ミレイの囚人 (光文社文庫)

  • 作者: 土屋 隆夫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2000/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
推理作家・江葉章二は、大学時代に家庭教師をしていた、白河ミレイに、監禁されてしまった。江葉の足には、重りの付いた鎖が……。彼が監禁されているとき一人の新人作家が殺された。現場に残る謎。殺人者はだれだ? 江葉はどうなる?
事件の結末は、恐ろしく、そして悲しい過去に遡る。そこには非道な犯罪に対する底知れぬ怒りがたぎっていた……。


引っ越し効果とでも言うのでしょうか。引っ越し前は、本棚の奥の方にひっそり追いやられていた本が、引っ越したらどこになにがあるかわからないので逆に表の方へ出てきます。
この「ミレイの囚人」 (光文社文庫)もそんな一冊。
土屋隆夫を読むのは、いつ以来でしょうか?? 手元の記録をみると2009年に「華やかな喪服」 (光文社文庫)を読んでいますね。意外と最近。
7年ぶりの土屋隆夫となるわけですが、この「ミレイの囚人」 は単行本が出たのが1999年。文庫が出たのが2000年ですから、ずいぶん古い本ですね。
端正な本格推理で昔は好きで読んでいたのですが、やはり古めかしいですね。

この作品を書かれたとき、作者は82歳だった、ということで、すげーって感じはしますが、古めかしいのは古めかしい。
冒頭、かなりおっさんくさい作家の視点で物語が始まるのですが、その江葉の年齢が32歳(14ページ)。こんなに老けた32歳、いますか?

作家が閉じ込められる、というのは「ミザリー」 (文春文庫)ですが、あちらはホラーで、こちらは本格ミステリ。ずいぶん手触りが違いますね。
本格ミステリに転じてからの謎解きは、ちょっとアンフェアというか、バカミスというか...楽しみましたけど。
なにより、途中まで読んだところで、「犯人は××なんじゃないの?」と思ったら、その通りだった、という個人的には脱力感あり、だったのですが、この作品のポイントはそっちよりもむしろ叙述にあると思います。
叙述トリック、というほどの仕掛けではないのですが、土屋隆夫にしては珍しい(?) 流れに注目です。
文中に、神の視点ともいえる作者の視点があちこちに顔を出すのに違和感を感じていたのですが、これも土屋隆夫による「仕掛けがあるよ~」というメッセージだったのでしょうね。

一時期(この作品が発表された頃なのかもしれませんね)ミステリで流行った◯◯法の問題を扱っているところも、作者の年齢を考えるとすごいことですね。ありきたりの主張であっても、貪欲に自らの作品に取り込んでいく心意気がいいですね。
でも、考えてみれば、「盲目の鴉」 (光文社文庫)の犯人像の裏返しともいえるメッセージですから、流行りを取り入れた、というよりは、もともと土屋隆夫がもっていた問題意識を作品に盛り込んだ、ということなのかもしれません。

土屋隆夫は、このあと、
「聖悪女」 (光文社文庫)
「物狂い」 (光文社文庫)
「人形が死んだ夜」 (光文社文庫)
と発表しているのですが、いずれも買えていません。
絶版になっているようなので、買っておけばよかったかなぁ。

タグ:土屋隆夫
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貴婦人として死す [海外の作家 た行]


貴婦人として死す (創元推理文庫)

貴婦人として死す (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/02/27
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
戦時下イギリスの片隅で一大醜聞が村人の耳目を集めた。俳優の卵と人妻が姿を消し、二日後に遺体となって打ち上げられたのだ。医師ルークは心中説を否定、二人は殺害されたと信じて犯人を捜すべく奮闘し、得られた情報を手記に綴っていく。やがて、警察に協力を要請されたヘンリ・メリヴェール卿とも行を共にするが……。張り巡らした伏線を見事回収、本格趣味に満ちた巧緻な逸品。


この作品はハヤカワ・ミステリ文庫版で読んでいます。

創元推理文庫の常(?)として、裏表紙のあらすじと、表紙扉の部分のあらすじがずいぶん違います。
扉の方もおもしろいので引用します。

私はルーク・クロックスリー、長らく医者をやっている。旧知のアレックは六十、妻のリタと年は離れているが、バリー・サリヴァンという若造が来るまでは平穏だった。リタは私に行ったのだ、バリーに惚れた、諦めきれないと。カード遊びに呼ばれアレックを訪ねた夜、海へ真っ逆さまの断崖まで続く足跡を残してリタとバリーは突如姿を消した。思い余って身を投げたのか。遺体は二日後に発見されたが謎は多々残っている。その話題で持ちきりの村を電動車椅子で暴走中の男は警察関係者らしいが、てんで頭が回らないとみえる。ふむ、ヘンリ・メリヴェール卿とやらに私が真相を教えてやるか……。

ね? おもしろいでしょう?
語り手である私は、「真相を教えてやるか」なんて感じではまったくなく、むしろリタもアレックも気に入っているので、やきもきしているばかりですが、これもミスディレクションになっているんですね、さすがはカー。
タイトルもかっこいい。読んでみるとあんまり「貴婦人として死す」って感じじゃないんですが...

再読のはずですが、すっかり忘れてしまっていて、ラストのトリック解明シーンになってようやく、トリックを思い出しました。最初に読んだとき、がっかりしたトリックだったんですよね。
でも今回はがっかりしませんでした。
むしろ、このトリックが、ヘンリ・メリヴェール卿の優しさ(?) を物語るエピソードの要素になっていることに感心してしまいました。
犯人の隠し方がおもしろい作品だったと思います。

被害者の不倫が物語の底流にあるので、いつものロマンスは控え目ですが、ちゃーんとあります! 
H・M卿といえばつきものの、ドタバタシーンもしっかり!
カーはぬかりないですね。

この本、解説にあたるところに、山口雅也が「結カー問答」というのを書いています。
これが素晴らしい。
カー問答といえば、江戸川乱歩に松田道弘で、どちらも何度も読んだなぁ、と。
カーは、創元推理文庫の巻末に掲げてあった顔写真が怖くて避けていたのですが、松田道弘のカー問答を読んでから、俄然読む気になったことを思い出します。江戸川乱歩のカー問答を前提に、乱歩にはなかった視点を繰り出してくるところが、興味を引いたんです。
山口雅也のカー問答もおもしろいですよ。
それぞれが挙げるカーの特徴というのも、違いを並べるとなかなか楽しい。

江戸川乱歩の挙げたもの
①空想派的作風(チェスタトンからの影響)
②密室・不可能犯罪のトリックメイカー
③怪奇(オカルト)趣味

松田道弘の挙げたもの
①ロマンス(伝奇騎士物語)好み
②奇術愛好癖による趣向だて
③職人作家としてのサービス精神

そして山口雅也が挙げているのが
①フーダニット(誰がやったか? =犯人隠蔽)の名手
②神のごとき視点の高さ
③ユーモア--取り分けスラプスティック・コメディに長けている
④世界大戦の影

山口雅也だけ4つというのはちとずるい気もしますが、戦争も中に取り込む意欲というのはおもしろい着眼(瀬戸川猛資も指摘していたと思います)ですし、偶然の解釈も楽しかったので、〇。

創元推理文庫はカーをじゃんじゃん復刊してくれているので、これからも期待しています!



<蛇足1>
104ページに「猥(みだ)りがわしい」という語が出てきます。
はじめて見ました。辞書引いちゃいました。
「みだらである。好色でいやらしい」とか「 規律・礼儀・風紀などが乱れている」という意味なんですね。

<蛇足2>
157ページに
「最後に見えたのはH・M卿の見事に禿げ上がった後頭部で、車が走り去っていく時いかにも意地悪そうにぎらりと光った」
とありますが、意地悪そうに光る禿げ頭って...
思わず笑っちゃいました。



原題:She died a lady
著者:Carter Dickson
刊行:1943年
訳者:高沢治


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20億の針 [海外の作家 か行]


20億の針【新訳版】 (創元SF文庫)

20億の針【新訳版】 (創元SF文庫)

  • 作者: ハル・クレメント
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/05/21
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
2隻の宇宙船が南太平洋に墜落した。1隻に乗っていたのは捜査官、もう1隻に乗っていたのは犯罪者。両者とも人間ではない。高度な知性をもったゼリー状の生物であり、彼らは宿主なしには生きられない。捜査官は一人の少年の体内に宿り、犯罪者は別の人間にとりついている。だがいったい誰に? 容疑者は地球上の人間全員、20億人。様々な寄生生命SFの原点となった歴史的傑作。


無茶苦茶久しぶりの更新となりました。
仕事が忙しくなって...というのもあるのですが、なにより6月頭に引っ越したのが影響大。
マンガを除いてだいたい読んだ順に感想を書いていたのですが、読み終わった本がさてさていったいどの段ボールに潜んでいるのやら...ちゃんとつきとめられていない状態です。
前回感想を書いたのが、「雨恋」で、「雨恋」は2015年10月に読んだ最初の本ですから、まるまる9か月分の本が感想を書けないままです。
このままではいつまでたっても再開できないので、趣向を変えまして(?)、いま読み終わったばかりの本を採り上げたいと思います。

今回の「20億の針」は、創元SF文庫から新訳が出た作品ですが、むかーし小学生の頃、児童書で読んでいます。
覚えていたのはあらすじにも書かれているような程度のことで、細かいところは全くでした。

いやぁ、面白かったですねぇ。
もっと早く大人物としても読んでおけばよかったです。
帯には
『「寄生獣」「ヒドゥン」など、様々な共生生命SFの原点となった歴史的傑作を新訳で贈る』
と書かれていまして、なるほど、そういう歴史的意義のある作品でもあるんですね。

宇宙人で捜査官側である"捕り手(ハンター)"が、少年の体に入り込んで、"殺し屋(キラー)"(“ホシ”とも呼ばれます)をつきとめるという話。
共生する人間と、宇宙人(ゼリー状)が交流する、ファーストコンタクトもなかなかいい感じです。
人間サイドを少年に設定したことが功を奏しています。このことは本文中にも触れられていますが。
なるほどなぁ。
大学生くらいに設定したほうが物語は転がりやすかったように思いますが(まずもって少年には移動の自由が少ない)、ラストの展開などを考えると15歳というティーンエイジャーにしたのはやはり正解ですね。
個人的には、子どもを主人公にした作品は好みなので、ありがたい。

タヒチあたりの島で遭遇し、少年の学校があるシアトルでコンタクトして共生関係を築き、“ホシ”を探しに島へと戻る。ここまでで90ページ。ざっくり全体の1/4程度。
学校でのコンタクトのくだりもとてもおもしろかったですし、その後島へ戻ってからも、島でも少年の生活がいきいきしていて楽しくなりました。
おいおい、そんなことでどうやって探すんだよ、と思わないでもなかったですが...

地球全体から、"殺し屋"が潜んでいる人間を探るということで、当時の地球の人口を使って「20億の針」なわけですが、実際は島に限定されていますし、まあ、ちょっと大げさですね。
でも原題は
「Needle」
シンプルに、針、です。日本語訳するときに20億ってつけたんですね。大げさでも、なかなか良いタイトルです。

20億はおおげさでも、犯人捜しというかマンハント的要素があるわけで、ミステリ好きとしても楽しめて良いですね。

本書の続編「一千億の針」 (創元SF文庫)も新版が6月に出ていますので、読んでみたいと思います。


原題:Needle
著者:Hal Clement
刊行:1950年
訳者:鍛治靖子



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