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一角獣の繭 [日本の作家 篠田真由美]


一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

一角獣の繭 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/08/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
六月の緑の森の、白い花の咲く木の下で、ぼくは君と出会った。人の姿をした美しい一角獣(ユニコーン)と――。放火殺人事件の生き残りの少女に心惹かれていく蒼。しかし少女の母は、眼窩をイッカクの牙に貫かれて無残な死を遂げた! すべてが明らかにされたとき、桜井京介の下した決断とは!? 大人気シリーズ第13弾。


『最後の「燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)が文庫になる前に追い付いておきたいです。』
と前作「聖女の塔 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)の感想で書いたのですが(リンクはこちら)、今月、その「燔祭の丘」が文庫化されたので、だめでしたね。間に合いませんでした。

蒼の初恋!? とシリーズ的に大注目の巻なんですが、いやいや、それどころではなくて、ラストにはびっくり。
そういう風にこのシリーズ展開するんですね。
京介~

先走ってはいけませんね。
この「一角獣の繭」では、京介と対決する相手との闘いから逃れて(?)、長野県の山奥へ潜む蒼が恋に落ちます。
で、事件は、その蒼の相手である七座晶那の家族に起こった事件となります。回想の殺人、という枠組みになっていますが。
晶那の父とその愛人と祖母が殺された事件。晶那の母と晶那には、確たるアリバイがあった。
こういうストーリーの場合、ミステリーでは、生き残り的少年・少女が犯人であることが多いので(おいおい)、読者は晶那が犯人じゃないか、と疑いながら読み進めることとなるわけですが、作者は慎重に慎重に、晶那が犯人というのは無理があることを述べていきます。すると、まあ、ひねくれもののミステリファンは、一層晶那を疑うようになるのですが...
実際にどうだったかは読んでお確かめください、というところですが、447ページでさらっと明かされるトリック(?) にはニヤリとしてしまいました。
これ、怒る人いますよ、きっと。でも、いいんです。
クリスティのあれを思い出しました(ある意味ネタバレなので、伏せておきます。amazon にリンクを貼っていますので、確かめる方はどうぞ)。あれを初めて読んだときは、フェアじゃないなぁ、と子供心に少し怒りを覚えたことを思い出しましたが、「一角獣の繭」のこの部分を読んでも腹は立ちませんでした。大人になった???

小道具である一角獣の牙などの使い方もおもしろいです。こっちのトリックはあんまりいただけないですが。
目を突き刺される、というのは想像しただけで怖いです。

前作「聖女の塔 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)もそうでしたが、同じ人物が登場することもあり、ミステリ的には、あれれ? と思うような趣向が盛り込まれていますが、本格ミステリという枠組みよりは、むしろ、対決もの、という枠組みと捉えて、よし、とすべきものなのだと思います。京介を目の敵にする人物との対決という枠組みも底流に流れていますので。
(その趣向を除く部分では、本格ミステリとして閉じるようにできていて、そこはそれなりに上述のとおり楽しめます)

しかしなぁ、
「彼(注:蒼のことです)が僕の最大の弱点だとは、いまさら隠しようがないし」(34ページ)
なんて京介のセリフ、いかがなもんでしょうか...
裏返しの蒼からの見方は、166ページから縷々とつづられるのですが、こっちもなぁ...
「親や庇護者に対する子供の思いと『恋』は、どんなふうにどれだけ違うものなのだろうか。」(168ページ)と付け加えられてもなぁ...
でも、まあ、蒼が恋をした、というのはいいことです。きっと。

文庫でそろったことですし、残り2冊
「黒影の館 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)
「燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)
を楽しみに読んでいきます。


<蛇足>
我が仏、隣の宝、婿舅、天下の戦、人の善悪(108ページ)
室町時代の連歌師、牡丹花肖柏がとなえた、茶事の席で口にしてはならない話題の一覧だそうです。
知らなかった。
含蓄深くってよいですね。


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MIDNIGHT DRINKER




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神のゆらぎ [映画]

神のゆらぎ T0021100p.jpg


過去と現在を行き交うサスペンス、と書いてある紹介文を見たんですよ。だから観ました。
でも、これ、サスペンス、ではないです。

映画のHPからストーリーを引用します。

時に人は、ただ奇跡が起きるのを待つしかない。
ともにエホバの証人である看護師と、末期の白血病を患うフィアンセ(グザヴィエ・ドラン)。老境にありながら情熱的な不倫を続ける、バーテンの男とクロークの女。互いへの失望を偽りながら暮らす、アル中の妻とギャンブル狂の夫。そして取り返しのつかない過ちを償うためドラッグの運び屋となるひとりの男……。複数のものがたりが現在と過去を往来しながら、終着点—墜落する運命にあるキューバ行きの機内へと向かう…。


グザヴィエ・ドランといえば、「トム・アット・ザ・ファーム」の人ですね。「わたしはロランス」とか「Mommy/マミー 」で高名な監督・俳優のようですが、そちらはあいにく観ていませんので...
「トム・アット・ザ・ファーム」も、サイコ・サスペンスというふれこみで観に行ったら、サイコ・サスペンスじゃなかったし、今度も「神のゆらぎ」も、サスペンスって思って観に行ったら、サスペンスじゃなかった...

上のあらすじを見ても、サスペンスじゃないってわかりますよね。

いつものシネマ・トゥデイからも引用します。

チェック:『Mommy/マミー』などで監督・俳優として注目を浴びるカナダのグザヴィエ・ドランが出演した、選択と運命をめぐる物語がサスペンスフルに展開するドラマ。ある宗教を信仰する看護師と同じく信者で白血病患者のカップル、不倫を続ける老いた男女などいくつものエピソードが紡がれ、一つの終着点に集約される。監督は、『7 DAYS リベンジ』などのダニエル・グルー。出演の決め手になったとグザヴィエが語る役どころに期待。

ストーリー:看護師と末期の白血病であるフィアンセのエティエンヌ(グザヴィエ・ドラン)は、共にエホバの証人を信仰していた。さらに不倫関係のバーテンダーの男とクロークで働く女、アルコールに溺れる妻とギャンブルが大好きな夫、過ちを償うためにドラッグの運び屋になる男らの運命が交錯していく。

こちらは、「サスペンスフルに展開する」と書かれていても、サスペンスっぽくはないですね。これを先に読んでいたら、観に行かなかったかも。

それにしても、グザヴィエ・ドランは、主役じゃないですよ......まず、そこにびっくり。
群像劇、的に処理されていますが、主役はグザヴィエ・ドランのフィアンセである看護師ジュリーですね。演じているのは、マリリン・キャストンゲという女優さん。

飛行機事故の生存者の治療にあたるジュリー。その婚約者エティエンヌは白血病だけれども、エホバの証人の信者だから輸血できない。

エホバの証人って、知らないんですが、大変そうですね。信仰に反することをすれば、信者の間で排斥されてしまうなんて。
輸血ができない、というのは知っていたのですが、自分が血をもらうのだけがだめなんだと思っていました。信者の身体に他人の血が入ってはいけないのだ、と。
でも、この映画を観ると違うことがわかりました。血を誰かに輸血するために差し出すこともだめなんですね。
「輸血」という行為そのものが禁忌なんですね。

このジュリーのパートと、飛行機事故に関連する人たちの群像劇、です。
だから、「現在と過去を往来」といったところで、混乱はしません。こちらがミステリ好きなもんで、なにか(叙述トリックのような)仕掛けでもあるのかな? と勘ぐりながら観ていましたが、そういうギミックはありません。少し拍子抜け。でも、これはこちらの観方が悪かったので、映画のせいではありません。
ほんの小さなきっかけで、その飛行機に乗り合わせたり、乗らなかったり...
「飛行機が落ちるのはすなわち全能の神がいないということ」というある登場人物のセリフがジュリーに響いてジュリーは決断をします。
たった一人の生存者が誰か、というのも別にトリッキーなわけでもありません。
淡々と、登場人物たちが惨劇へ進んでいくのを見、誰が助かったのかを知る、という感じです。
この淡々としたところが、この映画の特徴であり、ポイントなのだと思います。

Xavier Dolan's Commentとして映画のHP
グザヴィエ・ドランのコメントがあるので、引用しておきます。

私は映画監督ですが、意識としては「俳優業」が一義的です。ただ待っていてもやりたい役のオファーが来ないので自分で自分に役を与えるために監督になったのです。『神のゆらぎ』ではエホバの証人のカップルを演じていますが、いままで演じたことがない新しい役どころだったので、ぜひやってみたいと思いました。役者というものは常に新しい演技を探求する性分なんだと思います。特に今回の役では、宗教の制約から恋人にさえ輸血を拒み死ぬことをよしとするとても難しいキャラクターですが、彼には彼の考え方があって、それを頑なに信じている男なのだと思います。僕にはそんな彼が「とても愛おしい人間」と思えるのです。エホバの証人という宗教心については、とくに感じるものはありません。エホバはホモセクシャルを禁じている宗教ですが、この登場人物を卑下しているわけでもなく、ただ彼の皮膚と自分を同化させるだけだ、と捉えています。僕自身、幼い頃に厳格なカソリックの叔母に連れられて教会へ通っていた経験があることから、何かを強く信じる人間の心について理解がある方だと思います。ですから信仰心がある人間を演じるのは僕にとって難しいことではありません。人が何かを信じるということの意味は理解しているつもりです。

しかしなぁ、このグザヴィエ・ドランが演じたエティエンヌって役柄、新しい演技とか難しい演技とかを要求するような役柄に観えなかったんですが...素人が観てるからなんでしょうか...

ちなみに、原題のMIRACULUMというのは、ラテン語で奇跡だそうです。


原題:MIRACULUM
製作年:2012年
製作国:カナダ




<ネタバレ気味の追記>


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魔女は甦る [日本の作家 中山七里]


魔女は甦る (幻冬舎文庫)

魔女は甦る (幻冬舎文庫)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/08/01
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
元薬物研究員が勤務地の近くで肉と骨の姿で発見された。埼玉県警の槇畑は捜査を開始。だが会社は二ヶ月前に閉鎖され、社員も行方が知れない。同時に嬰児誘拐と、繁華街での日本刀による無差別殺人が起こった。真面目な研究員は何故、無惨な姿に成り果てたのか。それぞれの事件は繋がりを見せながら、恐怖と驚愕のラストへなだれ込んでいく……。


ようやく、引っ越し荷物の中で、読了後の本を詰めた段ボールが見つかりました。なので、以前読んだ本の感想も書いていきます。

この「魔女は甦る」 は作者の中山七里が「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)で第8回このミステリーがすごい! 大賞を受賞する前に、第6回このミステリーがすごい! 大賞に応募した作品を改稿したもの、とのことです。
いろいろなジャンルの作品を書いている中山七里ですが、この作品のジャンルは、広義のミステリーではあっても、どちらかというとホラー??
最初の方は、冒頭の凄惨な殺人の捜査、という趣きではじまるのですが、事件の黒幕と思しき怪しげなドイツの製薬会社と閉鎖された研究所が出てきて、このあたりで、なんとなく事件の真相の見当がついてしまいます。
さて、ここからどうやって展開していくのかなぁ、と思うところで、ずずーっとサスペンスというか活劇に転じているのがポイントですね。

ヒッチコックの映画に似ている、という指摘もありそうですが(作中でも言及されます)、あちらはヒッチコック自身が理由がわからないから怖い、と言っているのに対して、こちらは理由がわかっても怖いよ、と中山七里は言いたいのかもしれませんねぇ。
ただ、この作品を読んでみた感想としては、理由がわかっても怖いことは怖いのですが、怖さの質が変わってしまったように思います。
得体のしれない怖さ、だったものが、単に物理的に怖い(力の強いもの、素早いものが怖い)というふうに。その意味では、幽霊の正体見たり...

タイトルの魔女というのは、被害者が言った言葉
「僕だって魔女の末裔ですよ」
から来ていますね。
この作品でいう魔女は、一般的な魔女のことを指します。
「薬草の調合、災厄封じの祈り、天からの神託。そういったものが最先端の技術であった頃、魔女と称された者たちはその道のスペシャリストだったんですね。彼女たちは土着の医者であり、気象予報士であり、為政者の助言者、信仰の司祭だった。言い換えれば現代に続く職能者の始祖で、薬剤師もその一つでしょう」(91ページ)と説明されています。
そしてまたそれを受けて、ラスト近くで主人公の刑事槇畑が言います。
「これは現代の甦った魔女の物語だ。人間不信に陥っていた◯◯◯という魔女の末裔が、その怨念から人の世に災いを為すような呪いをかけてしまった。」(◯◯の部分はネタバレなので伏せておきます)
「人が憎悪の呪縛から逃れられない限り、魔女はいつでも何度でも甦る」(361ページ)
結局怖いのは人、なんですねぇ。

この作品には続編「ヒートアップ」 (幻冬舎文庫)があります。
そちらも読んでみようと思います。



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海街diary 6 四月になれば彼女は [コミック 吉田秋生]


海街diary(うみまちダイアリー)6 四月になれば彼女は (フラワーコミックス)

海街diary 6 四月になれば彼女は (フラワーコミックス)

  • 作者: 吉田 秋生
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2014/07/10
  • メディア: コミック


<裏表紙あらすじ>
すずの母が生まれ育った街、金沢。会ったことのない祖母の月命日、遺産相続の手続きのため母の生家を初めて訪れたすず。そこで四姉妹を待っていた ”いちがいもん” とは! 鎌倉を舞台に描かれる家族の「絆」の物語。シリーズ第6巻!!


このシリーズ第6弾「海街diary 6 四月になれば彼女は」(フラワーコミックス)には、
「いちがいもんの花」
「逃げ水」
「地図にない場所」
「肩越しの雨音」
「四月になれば彼女は」
の5話 収録。
登場人物たちに、転機、区切りの訪れる巻です。

「いちがいもんの花」では、すずの母方の実家を訪れます。そして祖母の遺産問題 (?) に決着を(アレ? これ、決着ついていないかも、ですね)。
タイトルのいちがいもん、というのは金沢のことばなんでしょうね、頑固者、という意味だそうです。

「逃げ水」では、前巻「海街diary5 群青」 (flowers コミックス)で亡くなった海猫食堂のおばさんの遺産問題に決着がつきます。
坂下課長、やっぱかっこいいですねぇ。
佳乃がきっぱり自らに恋を宣言するシーン登場。

「地図にない場所」では、「いちがいもんの花」で登場したすずの従兄がメインの人物。
いい味だしていますよ。
しかしなぁ、「ものすごーく状態のいいチカちゃんをものすごーく上品にしたカンジ」って、すずよ、姉に対して失礼だぞ。
シリーズ的には、裕也と風太がボーイズトークを繰り広げるところが意外とポイントなんでしょうねぇ。

「肩越しの雨音」は短い作品ですが、すずに重要な事態が発生。
推薦の話がやってきます。
すず本人の視点もありますが、それを周りが慮る視点で描いているところがミソでしょう。

「四月になれば彼女は」も引続いてすずの推薦の話が中心ですが、将志によってオープンにされてしまうのがポイント。
いやあ、だめなんだけど、将志、ストーリー展開的にはいい動き(笑)。
仲間たちのもめごと(?) はひとまず片付いて、すずが決断をしないままの状態でこの巻終り...

ああ、次が気になります!
でも、流れ的には、きっと推薦、受けますね、すずは。



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僕は君を殺せない [日本の作家 は行]


僕は君を殺せない (集英社オレンジ文庫)

僕は君を殺せない (集英社オレンジ文庫)

  • 作者: 長谷川 夕
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/12/17
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
夏、クラスメートの代わりにミステリーツアーに参加し、最悪の連続猟奇殺人を目の当たりにした『おれ』。最近、周囲で葬式が相次いでいる『僕』。--一見、接点のないように見える二人の少年の独白は、思いがけない点で結びつく……!! すべての始まりは、廃遊園地にただよう、幼女の霊の噂……? 誰も想像しない驚愕のラストへ。二度読み必至、新感覚ミステリー!!
問題:だれが「僕」で、だれが「君」でしょう?


2015年度ノベル大賞受賞作らしいです。
帯がかなり煽っています。
いわく「二度読み必至!!」
いわく「誰も想像しない驚愕のラストへ!」

本書でいちばん驚いたのは、この本が短編集だったことでしょうか(笑)。
ノベル大賞、っていうから、長編だと思い込んでいたからです。
本書は表題作の他、「Aさん」「春の遺書」の2編を収録した短編集です。

と書いたことからおわかりのように、「二度読み必至」とは思いませんでしたし、「驚愕のラスト」とも思いませんでした。

実は、冒頭に掲げられた表題作を読み終わってもまだ、ストーリーが続くと思ったんですよね。
ところが続く「Aさん」は別の話で...あれっ? ここで「僕は君を殺せない」は終わりなんだ...
でも、感想はどうだったか、と聞かれると、おもしろかった、となります。
設定とか、二つの世界の接点とかは正直平凡だな、と思いましたが、少なくとも、「新感覚」という部分は楽しみました。
ミステリーに拘らずに、作品を書かれていけばよい作家だと思います。
それが証拠に(?)、続く「Aさん」「春の遺書」はミステリーではありません。
謎、は出てきますが、ミステリー、推理小説ではない扱いです。
表題作も含め、淡々とした印象でありながら、透明感があります。透明感といっても、透き通った透明感というよりは、すりガラスの透明感(いや、それは透明じゃないと言われそうな変な表現なんですが)、そう言いたくなるような不思議な手触りは、強く印象に残っています。
また新刊が出れば買ってしまうかもしれません。







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B5/500世代の読了日記






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帰ってきたヒトラー [映画]

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先日、原作を読んだばかりの「帰ってきたヒトラー」 (上) (下) (河出文庫)の映画化です。原作の感想ページへのリンクはこちら
ぎりぎり映画館での上映に間に合いましたね。

映画のHPからストーリーを引用します。


全てが変わった世界で、何も変わらない〈彼〉は、
再び民衆の支持を集めはじめる。
ヒトラーの姿をした男が突如街に現れたら?
「不謹慎なコスプレ男?」顔が似ていれば、「モノマネ芸人?」。
リストラされたテレビマンに発掘され、復帰の足がかりにテレビ出演させられた男は、
長い沈黙の後、とんでもない演説を繰り出し、視聴者のドギモを抜く。
自信に満ちた演説は、かつてのヒトラーを模した完成度の高い芸と認識され、
過激な毒演は、ユーモラスで真理をついていると話題になり、
大衆の心を掴み始める。しかし、皆気づいていなかった。
彼がタイムスリップしてきた〈ホンモノ〉で、70年前と全く変わっていないことを。
そして、天才扇動者である彼にとって、
現代のネット社会は願ってもない環境であることを―。

いつものシネマ・トゥデイからも引用します。

チェック:ティムール・ヴェルメシュのベストセラー小説を実写化したコメディードラマ。独裁者アドルフ・ヒトラーが突如として現代に出現し、奇想天外かつ恐ろしい騒動を引き起こす。舞台を中心に活躍するオリヴァー・マスッチがヒトラーを演じ、「トレジャー・ハンターズ アインシュタインの秘宝を追え!」などのファビアン・ブッシュや『ビッケと神々の秘宝』などのクリストフ・マリア・ヘルプストらが脇を固める。21世紀の民衆が、知らず知らずのうちにヒトラーに扇動されていくさまに注目。

ストーリー:ナチス・ドイツを率いて世界を震撼(しんかん)させた独裁者アドルフ・ヒトラー(オリヴァー・マスッチ)が、現代によみがえる。非常識なものまね芸人かコスプレ男だと人々に勘違いされる中、クビになった局への復帰をもくろむテレビマンにスカウトされてテレビに出演する。何かに取りつかれたような気迫に満ちた演説を繰り出す彼を、視聴者はヒトラー芸人としてもてはやす。戦争を体験した一人の老女が本物のヒトラーだと気付くが……。

原作では、ヒトラーが語り手で、そこがポイントなので、映画化するとどうなるかな、と思いましたが、オープニングから、ヒトラーのモノローグで、やはりそう処理するのか、と思いました。
ちょっと芸がないなぁ、なんて思って観ていましたが、その後原作とは違う点があちこち目立つようになり、ラストはかなり違うエンディングとなります。

全編を通してのイメージは、ユーモアやコメディというよりは、風刺色が強くなっています。
笑えるシーンも確かにありますが、次第に笑えなくなっていきます。
もちろんいろんな要素を孕んだ作品ではありますが、原作では抑え目に書かれていた部分も、映画ではストレートに、はっきりあからさまに打ち出されています。
もっともそのことが感じられるのは、エンディングですね。露骨です。

このエンディングをどう評価するかで、かなり意見が分かれるのではないかと思うのですが、ぼくはやはり原作に軍配を挙げたいです。
「謂ひおほせて何かある」
映画はやはり少々下品な仕上がりだと思います。


映画の内容とは関係ないのですが、この映画を見た映画館で、たまたま隣に座った見知らぬ人が、最悪でした……
まず、なんだかわからない変な匂い。
そして笑えるシーン、特に単純な笑いのシーンでは、周りに響き渡る高笑い。
笑うな、とは言いませんが、自宅で見ているわけではないのだから、ある程度は周りにも配慮してほしいもんです。続くセリフがまったく聞き取れないくらいの音量。ドイツ語のセリフなんだから聞こえなくてもいいっちゃあいいんですが、セリフ以外の音声も聞き取れないのはちょっと困ります...
その意味では、後半、どんどん笑えなくなっていくのは幸いでした。
(後半にも笑えるシーンはあることはあるのですが、単純に笑えるわかりやすい笑いしかご理解されないお客さんだったようで、助かりました)


原題:LOOK WHO'S BACK
製作年:2015年
製作国:ドイツ





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QJKJQ [日本の作家 さ行]


QJKJQ

QJKJQ

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 単行本


<帯あらすじ>
猟奇殺人鬼一家の長女として育った、17歳の亜李亜(いちのありあ)。一家は秘密を共有しながらひっそりと暮らしていたが、ある日、兄の惨殺死体を発見してしまう。直後に、母親も姿を消し、亜李亜は父と取り残さえっる。何が起こったのか探るうちに、亜李亜は自身の周りに違和感を覚え始め--
私の家族は全員、猟奇殺人鬼。


単行本です。
第62回江戸川乱歩賞受賞作。

なかなかよい表紙だと思うんですが、書名が目立ってなくて、書店で探すのにちょっと苦労しました。

正直、嫌いなタイプの作品だったので、いよいよ乱歩賞もこういう作品が受賞するようになったのか...とちょっと複雑な思い。
作者の気負いが伝わってくるところはいいと思うんですけれど、いかんせん、内容が嫌い。

選評を確認すると、有栖川有栖と今野敏のお二人が強く推したようですね。
今野敏の「殺人そのものを突き詰めることで、人間を見つめている。」ってすごい選評です。
湊かなえも「一番高い評価を付けました」と書いていますが、あまり推した感じはしません。
辻村深月と池井戸潤は消極的ですね。

有栖川有栖は「新しい」と評していますが、これ、新しいですか?
辻村深月ははっきりそのことに異を唱えていて、「すでに既存の小説の世界で名作がいくつもあり、そのパラダイムシフトはノベルスやライトノベルの現場で十年以上前にすでに起きていたという印象である。」と書いています。
ノベルスやライトノベルまで来なくても、SFでは昔っから取り上げられている設定だと思います。ディックなんて、こういうのいっぱい書いていませんでしたっけ?
ミステリでもかなり手垢のついたイメージだと思うのですが...
確かに、乱歩賞にはなかった傾向の作品ですが、それはそういう傾向の作品はミステリとしてはあまりおもしろいものにならないから、だと思っていました。

新しいかどうかは置いておいて、このあたりのことは池井戸潤がかなり的確に突っ込んでいます。
「その謎解きは肩すかしだ。その後の展開も、この小説世界を支える枠組みやルールを後出ししている印象を受け、果たしてこれが周到に準備された小説といえるか、という疑問を最後まで拭えなかった」
そしてこの設定を前提とした物語の構築という点でも、辻村深月が鋭い指摘をしています。
「物語のスタートが脆弱であるがゆえに、作品の土台が厚みを失ってしまっている。本来なら魅力的であるはずの“彼女の現実”が著者にのみ都合のいい単なる舞台装置に読めてしまう。」(真相に絡むので伏字にしておきます)
「混沌を混沌のまま残すに足る小説にするならば、そうした疑問を読者が差し挟む余地がないほどの、こちらの予想を遥かに裏切り、読者の目線を凌駕する何かをもうひと押し見せてほしかった。その〝何か〟は、圧倒的な真相でも、読者を煙に巻くようなさらなる混乱でも破綻でも、なんでもいい。こちらが作品世界の前で呆気に取られて棒立ちになるような瞬間を待ち続けたが、すべてが丁寧にまとまりすぎ、それが果たされないまま終わってしまった。好みの作品であり、かける期待が大きかった分、残念だ。」
湊かなえは「こういう作品があまり好きではない」としたうえで、テクニカルな指摘をしていますが、その指摘はもっともで、確かにそういう配慮があれば、読後感はずいぶん違ってくるかもしれません。

思わせぶりな(?)タイトルも、読む前からトランプでしょ、と予想していたら、そういうエピソードが出てくる。
87ページからのポーカーのシーン。
ところが、あとで、
「トランプのカードが、QJKKJQじゃなく、QJKJQだった理由は? なぜKはひとつなのか--」(238ページ)
となるのは、何かの冗談ですか? ポーカーって、6枚じゃないですよ。
218ページに出てくるKがひとつの理由っていうのも、まず無理筋。
いろいろなところで残念です。

ただ、辻村深月が「真面目」と評しているように、非常に丁寧に書かれています。
これだけ極端な設定の物語を、地道に地道に書き上げていっている。
だからこそ一層、真相が見抜きやすくなってしまっているといえばそうなんですが、このあたりのミステリの文法を守ろうとする手つきは素晴らしい。
おそらくこの佐藤究という作家は、折り目正しいミステリも、きちんと書きこなせる方なんだと思います。
作家の方向性がどちらを向いているかはわかりませんが、時には普通のミステリも書いてみてもらいたいです。


<蛇足>
昨年、呉勝浩「道徳の時間」の感想(リンクはこちら)で
「ところで、この本、乱歩賞受賞作に恒例の作者のことばが掲載されていません。
日本推理作家協会のHPにいけば載っていますが、単行本にも収録しておいてほしかったです。」
と書いたのですが、今回もありません。
「QJKJQ」の作者のことばが掲載されている日本推理作家協会のHPへのリンクはこちらです。
これを読んで、「顔に降りかかる雨」 (講談社文庫)が受賞した際の桐野夏生のことばを思い出してしまいました。



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新参者 [日本の作家 東野圭吾]


新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日本橋の片隅で一人の女性が絞殺された。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは江戸情緒残る街に暮らす普通の人びと。「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。大切な人を守るために生まれた謎が、犯人へと繋がっていく。


自分でも意外に思ったのですが、加賀恭一郎ものの感想を書くのは初めてなんですね...
「このミステリーがすごい! 2010年版」第1位、2009年週刊文春ミステリーベスト10 第1位です。
ちなみに、「2010 本格ミステリ・ベスト10」 では第5位です。

長編という体裁ですが、
第一章 煎餅屋の娘
第二章 料亭の小僧
第三章 瀬戸物屋の嫁
第四章 時計屋の犬
第五章 洋菓子屋の店員
第六章 翻訳家の友
第七章 掃除屋の社長
第八章 民芸品屋の客
第九章 日本橋の刑事
という章立てになっており、全体で一つの事件の捜査でありながら、個々の章ではそれぞれ章のタイトルになっている人物にまつわる「日常の謎」的な小さな謎を解いていく、という構成になっています。各章が緩やかに繋がって、ラストで事件を解きほぐす、というかたち。

日本橋警察署に練馬署から異動してきたばかりの加賀が事件を解決するわけですが、事件を解決していくと同時に、実は9章かけて、細切れに、じっくりと加賀を描いた作品というかたちにもなっています。
つまり主人公は加賀。
いや、探偵役なんだから主人公に決まっているだろう、というツッコミをもらいそうですが、ミステリにおける探偵役って、傍観者というかメインの人物じゃないことが結構ありますよね。
事件を描くのが主目的であって、主人公の人物像は、まあ、おまけ。
でも、この作品は違います。
読後感は、事件の方がおまけみたい。(おまけ、というには贅沢に趣向が凝らされていますけど)
加賀をどう描くか、を考えたときに、東野圭吾はこの作品の構成を思いついたんじゃないかなぁ、なんて思ったりしました。
だからこそ、タイトルは「新参者」なんだよな、と一人で納得したりして。

その意味では、一般に褒められている日本橋・人形町界隈の下町情緒も、加賀を描くための道具なんですよ。ふふふふふ。


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野良猫

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鼠、地獄を巡る [日本の作家 赤川次郎]


鼠、地獄を巡る

鼠、地獄を巡る

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/02
  • メディア: 単行本


<裏表紙あらすじ>
弱きを助け強きを「盗む」
その者、大泥棒、鼠小僧次郎吉。
壱、妹、小袖と〈地獄〉で湯治。人気役者と若い妻に出合い事件が。「鼠、地獄を巡る」
弐、幼い娘を残し、貧乏長屋で腹を切った浪人。驚くべきその理由とは。「鼠、腹切り長屋を覗く」
参、そば屋の女房に頼まれ同行した山奥の村。不穏な空気が充ち満ちて。「鼠、山道に迷う」
肆、大名屋敷で男女の逢引き。男が斬られる場に居合わせた「鼠」だが。「鼠、今宵は月明かり」
伍、大店の旦那が女と心中? 見つけた娘に災難が降り懸かる。「鼠、戸を開ける」
陸、目が不自由ながらも腕の立つ姉とその妹。同じ男に惚れてはいるが。「鼠、闇に数える」

シリーズ第9弾で、今年の3月に出た単行本です。
この第9巻も、第8巻同様、上で引用したあらすじ(?) にもあるように六話収録です。

帯の惹句がいいです。
『「鼠」、今宵も人情の糸が絡まる謎を解く!』
なるほどね。

人情話に仕立てられているわけですが、やはりポイントは長屋暮らしの次郎吉のこと、いわゆる庶民目線である、というところでしょう。
侍だったり、歌舞伎役者だったり、大店の関係者だったり、庶民とはかけ離れた人たちの事件を、庶民目線で語っていく、というベースがしっかりしているからこそ、すっきりした話に仕上がっているのだと改めて思います。

ちょっとあっさりしすぎている感もあるのですが、ただただいたずらに長々と物語る癖のあるほかの作家に学んでほしいかも...




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創薬探偵から祝福を [日本の作家 喜多喜久]


創薬探偵から祝福を (新潮文庫nex)

創薬探偵から祝福を (新潮文庫nex)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/11/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
病の原因を突き止め、命をつなぐ――創薬探偵。
創薬チーム、それは原因不明の難病奇病に苦しむ者の最後の望み。主治医からの依頼を受け、限られた時間内に病のメカニズムを解明、対応する新薬を創造して患者を助けるのが彼らの役割だ。調査担当の薬師寺千佳と化学合成の鬼才・遠藤宗史。ふたりは、数々の難題をクリアして得た成果で、ある女性を救おうとしているのだが――。化学×人間ドラマ。ミステリの新たな扉が開かれる。


この「創薬探偵から祝福を」 より先に、喜多喜久さんでは、「化学探偵Mr.キュリー2」 (中公文庫)を読んでいるのですが、引っ越しのあおりで本が箱詰めのままのため、先にこちらの感想を。

創薬探偵、とありますが、これは探偵ではありませんね。
日本国内の患者数が五万人を超えるかどうかが、「希少疾患」か否かの基準、とのことで、創薬探偵が相手にするのは、それレベルですらない、超希少疾患。世界で一人きりという患者さえ受け入れる。
URT(Ultra Rare-disease Treatment・超希少疾患特別治療)というのが、費用が全て患者の自己負担という前提で、公的な制度として認められている世界。
疾患の原因を突き止めて、治療薬を開発する。面白い設定ですよね。
第1話の疾患が、エボラ出血熱じゃないけど、エボラ出血熱みたいな症状って...いきなりすごい設定です。
このURTのやることを考えると、探偵、とつけたくなる気持ちもよくわかります。
ミステリー色はかなり薄いストーリー展開ですが、主人公たちのやっていることは、病気という対象を相手に、探偵と擬せられるのもむべなるかな。
ただ、まあ、専門的な部分は読者にはよくわかりませんし、詳しくも書いてありません。素人目には、難病奇病というわりには、ありとあっさり治療法が見つかるあたりも、あれ、あれ、というところですが、ここをあんまりこまごまと書かれては退屈極まりないでしょうし、これでいいのでしょうね。

主人公格の一人、遠藤の設定が、
「どんな複雑な物質であっても、遠藤は迷わずに合成ルートを選ぶことができる。」
「いちいちデータを見なくても、頭の中だけで完璧なルート構築ができるのである。」
となっているのにはニヤリ。どこかで読んだ設定だなぁ、と。

感心したのは、費用が全て患者の自己負担、ということは、お金に余裕がないと治療を受けられないわけで、不公平とかの批判も出てきそうな設定であるところ、きちんとそのあたりにも触れていることでしょうか(120ページあたりから)。
難しい問題ですから、クリアな回答が用意されているわけではありませんが、作者がきちんと制度のことを考えていることがわかってうれしくなります。
こういうところを疎かにしないことが作品世界の強度を支えるのだと思います。










タグ:喜多喜久
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