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エジプト十字架の謎 [海外の作家 エラリー・クイーン]


エジプト十字架の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

エジプト十字架の謎【新訳版】 (創元推理文庫)



<裏表紙あらすじ>
クリスマスの寒村で起きた、丁字路にあるT字形の道標に、首を切断されたT字形の死体がはりつけにされる酸鼻な殺人。半年後、遠く離れた土地で第二の首なし殺人が発生したのを知ったエラリーは、ただちに駆けつけ捜査に当たる。〈国名シリーズ〉第五弾は、残酷な連続殺人に秘められた驚天動地の真相を、名探偵が入神の推理で解き明かす、本格ミステリの金字塔。


言わずと知れた、国名シリーズを代表する名作です。
帯にも「燦然たる本格ミステリの金字塔」とあります。
なんですが、個人的にはあんまり相性がよろしくない。そんなに凄まじい傑作とは思ってこなかったのです。
はじめて出会いは、小学校の図書室に置いてあった、子ども向けに訳されたものだったと思います。
そこそこ面白かったのですが、むしろカップリングだった「靴に棲む老婆」 に魅かれました。

その後、大人向けの普通の翻訳を創元推理文庫で(中学生か高校生のときに)読んだのですが...感想は、長い...途中でだれちゃった。
遥かに動きの少ない、「フランス白粉の謎」 (創元推理文庫)「オランダ靴の謎」 (創元推理文庫)は退屈などせず、むしろわくわくして読んだんですが...

今回新訳を読んでみての感想は、よくできているなぁ、というもの。天下の名作に失礼な言い方ですが、今回は素直にそう思えました。ただ、今回も長いな、と思ったのは内緒...

この作品を特徴づける、首切り死体連続というのも、ミステリとして、やはり優れていますね。
読者は誰だって、犯人が死体だった被害者と入れ替わる、と想定して読むわけですから、意外性を期待する身としては、作者がちゃんとそれを乗り越えてくれないと困る。
この部分の緩急のつけ方と、見せ方がすばらしい。

猟奇的な残忍な殺人事件ですが、わりとあっさり書かれているのがまず良いところかと思います。T字の十字架も、モンテネグロの因縁話も、おどろおどろしくなりそうな要素山盛りなのに、あっさり。ステキです。
そしてびっくりしたのは、ヌーディスト・ビーチというかヌーディスト島が登場するところ。
あれ? そうでしたか...記憶にないなぁ。
子供向けのリライト版ではたぶん割愛されていたか、書き換えられていたのでしょうが、創元推理文庫版で読んでたはずなのにまったく記憶がありません。
チェッカーの推理も、ヨードチンキの壜の推理も覚えていたのにね。(パイプは忘れていました)
そうなんです。国名シリーズならでは、というべきか、推理の過程が頭に強く残っています。
それくらい、印象的であざやか。

今回も長いと思ったのは、たぶん、第二、第三と殺人が続いても、有効な手がかりがなかなか出てこないから...せっかくの手がかりも犯人追及の決め手にはなっていない。なにしろ、第四の殺人でどーんと出てくるのですから。

なので、というべきでしょうか。
本書のもう一つの特徴である、クライマックスの追跡劇が、個人的には退屈でした。
ここを魅力に挙げる人も多いというのに、楽しめませんでした。
当時としてはかなり新しいデューセンバーグと高速交通機関を利用した追跡劇、エラリー・クイーンには不要でしょう...論理だけで十分楽しいのに。
推理して犯人を追いつめる、という手順が、犯人を追いつめてから後で推理を披露する、という流れになっていて、それはプロットの要請で必要なのは理解できても、エラリー・クイーンには推理の切れ味でおしきってほしかった気分。
たぶん、同じ1932年に発表された、「ギリシャ棺の謎」 (創元推理文庫)と対になっているのでしょう。
マニア向けが「ギリシャ棺の謎」 で、一般向けがこの「エジプト十字架の謎」
一般向けでも、推理の切れ味が劣るどころか、一層冴えわたっているところが、クイーンのクイーンたるところ。

ということで、ミステリ読みとしてまだまだ未熟だということを改めて実感させてくれた「エジプト十字架の謎」でした。


原題:The Egyptian Cross Mystery
作者:Ellery Queen
刊行:1932年
訳者:中村有希


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