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迫りくる自分 [日本の作家 似鳥鶏]


迫りくる自分 (光文社文庫)

迫りくる自分 (光文社文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/02/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
総武線で隣を並走する電車に乗っていた、自分に瓜二つの男。後日その男と再会した俺は、気づけば犯罪者にさせられていた。顔が同じことを利用して周到に仕組まれたらしい冤罪。あいつはいったい誰だ? なぜこんなことを? 日常を突然奪われた俺の、必死の逃走劇が始まった。自分から過去から警察から、逃げて逃げて逃げまくれ。疾走する新感覚のエンタメ小説。


似鳥鶏さんらしい部分もいっぱいありますが、それでも基本ラインとして似鳥さんらしくない作品だと思いました。
文体とか、キーとなる人物で主人公の同僚である朴さんのキャラクターとかは、いつもの似鳥さんなんですが、自分と瓜二つの人物と出会ったことから陥れられ、はじまる逃走劇、というあたりのサスペンス風の展開は、似鳥さんのいつもの手触りとは違います。
これがおもしろかったんですよ。
まあ、こういうストーリーの場合、最後には主人公が勝つ、と考えながら読まれると思うので、ここでも書いてしまいますが、特に、234ページの「反撃は、ここからだ。」以降に痺れました。
なんと、そう来ますか...
似鳥さんの作品は、やわらかな語り口にくるまれていても、芯には棘があるというか、そういう部分もきちんと拾い上げて作品になっていることが多いですが、やわらかな語り口を控え目にして、もっとサスペンス色を盛り込むとこういう風になるんですね。

あと個人的にいいなと思ったのは、ネタバレになりそうなので色を変えて書いておきますが、主人公が陥れられるという状況は不条理というか、単に似ていたからって...ということかと思いきや、きちんと犯人サイドでは主人公を狙う理由が用意されている、ということです。しかも、その理由から判断するに、いくら子供の頃の話とはいえ主人公も清廉潔白とはいいがたい設定になっているわけです。このあたり、物語設定上のバランス感覚としていいですよね。
「平穏な日々というのは、トラブルとトラブルの間の休憩時間のようなものにすぎないのだ。こちらがいくら真面目に暮らしていても、トラブルはいずれまた、勝手に降りかかってくる。そういうものなのだ」(270ページ)
なんて言っていますが、今回のトラブルは「勝手に降りかかって」きたわけではない、ということですね。 こういう風に、平凡な読者の平穏な日々を確保したうえで、物語が構築されている、というのは美点だと思います。

いつもの似鳥節が大好きですが、たまにはこういうブラック似鳥も読んでみたいです。



タグ:似鳥鶏