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粘膜蜥蜴 [日本の作家 あ行]


粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

粘膜蜥蜴 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 飴村 行
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/08/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
国民学校初等科に通う堀川真樹夫と中沢大吉は、ある時同級生の月ノ森雪麻呂から自宅に招待された。父は町で唯一の病院、月ノ森総合病院の院長であり、権勢を誇る月ノ森家に、2人は畏怖を抱いていた。〈ヘルビノ〉と呼ばれる頭部が蜥蜴の爬虫人に出迎えられた2人は、自宅に併設された病院地下の死体安置所に連れて行かれた。だがそこでは、権力を笠に着た雪麻呂の傍若無人な振る舞いと、凄惨な事件が待ち受けていた……。


第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作「粘膜人間」 (角川ホラー文庫)に続く第2作で、2010年の第63回日本推理作家協会賞を獲っています。
「粘膜人間」が好みの作風ではなかったので、この「粘膜蜥蜴」を読もうかどうか迷っていたのですが、日本推理作家協会賞ということで、読むことにしました。
これが推理作家協会賞か...

当時の選考委員の方々の選評を長いですが、それぞれ引用しておきたいです。

赤川次郎
飴村さんの「粘膜蜥蜴」が候補に上っていることに驚いた。今「ミステリー」の範囲はここまで広がっているのかと思った。この作品については、私の考える「小説」と、あまりにかけ離れていて、判定ができないので、他の選考委員の判断に委ねた。
伊坂幸太郎
『粘膜蜥蜴』の凄さは、不気味さや気持ち悪さ、乱暴さといった「イロモノ」的な部分ではなく、むしろ、それに甘えることなく、贅沢なほどに魅力的なエピソードを積み重ねているところだと思います。しかも、「不快感に満ちた作品」のように見えて、(意外にも!)バランスが取れています。それはたぶん著者の視線に、人間を分析し、見下すような傲慢さがないからかもしれません。
歌野晶午
先を読まずにはおれない、破格のエンターテイメントである。もしこの作品に賞を与えないことがあったとしたら、その理由は、登場人物、舞台設定、発生する出来事が非常識きわまりないからであろう。しかし異様な作風でありながら、実は抑制がきいており、推理小説、冒険小説としての根幹はしっかりしている。破天荒であるがゆえ、どのような結末でも許されるところ、きちんと着地し、合理的な驚きが用意されている。嫌な作品にふさわしい嫌な伏線の数々は見事。
北村薫
彩り豊かな悪夢、裏返しの『春琴抄』──といっていい物語『粘膜蜥蜴』を推した。整合性という意味では、おかしな点も眼につく。だが、そういう指摘は無意味だろう。理性は、夢から覚めて後に働くものである。
佐々木譲
飴村行さん『粘膜蜥蜴』は、わたしにとって初めて読む種類の小説。「蜥蜴人間」が登場した冒頭から、わたしは読み方もわからないまま、感動のラストへと引きずられていったのだった。ラストで、まるで妄想全開で書かれた小説のように見えていたこの作品が、じつは緻密な構成と記述を持っていたことに気づいて、唸って次点。もっとも、解釈できなかった部分もかなりあったのだが、「この作品に整合性を求めるのは無意味」という、ある選考委員の見方を受け入れる。

これを見てから、作者飴村行の受賞の言葉を読むと味わい深いです。
「今回の受賞作にしても、デビュー作が余りにも未熟でストーリー構成が不完全だった為、二作目はせめて最後にオチのある小説を書こうという思いしかありませんでした。しかも純度百パーセントのエログロホラーを書いたつもりだったので、ミステリ小説としてここまで注目され、ここまで評価していただけるとは夢想だにしませんでした。」

赤川次郎に「ちゃんとしっかり読め」といいたい気もしますし、同時に推した選考委員たちには「本当に推理小説(ミステリ)として高く評価できる作品ですか?」と改めて聞いてみたい気もします。
確かにラストへ向けた伏線はあちこちにはってありますし、構成も考えられているように思いますが、それでもミステリの賞を与えるほどのものかなぁ、と思えてなりません。
嫌悪感を催すようなエピソードや世界観に引きずりまわされてたどり着いた地点から振り返ってみると、(失礼な物言いながら)意外と構成が考えられているな、ということで、選考委員も酔わされてしまったのではないでしょうか。
歌野晶午が言うように、「破天荒であるがゆえ、どのような結末でも許される」わけで、きちんと着地したといっても、都合のいいように組み替えただけ、と意地悪な言い方もできなくはありません。
普通に書かれていたら、もう一段(か何段かわかりませんが)高いレベルを要求されていたような気がします。(一方で、現実感ある物語のふりをしていながら、支離滅裂というかでたらめだらけの小説よりはよほど潔いとは思いますが)

飴村さんの本はまだ2冊しか読んでいませんが、あまり好きな作風ではないので、これが最後になる可能性大です。





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影姫 [日本の作家 あ行]


影姫 (角川ホラー文庫)

影姫 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 飯野 文彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/11/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
地方都市の私立大学に入学した真太郎は、鬱屈した日々を送っていた。極度の奥手ゆえ、憧れる放送部の玉木清実に声をかけられずにいたのだ。やがて、友人で遊び人の孝一の助けで、皆で湖への1泊旅行の機会を得る。だが、同行していた友人が、湖畔で不審な死を遂げた……。直後、清実が豹変、真太郎に淫乱に迫ってきた。なぜ? 古来から土地に巣くうという妖怪「影女」の仕業か? 異才が放つエロティック・ホラー。


5月に読んだ4冊目の本です。
えー、すみません、こんな本買っちゃって。

オープニングはどうやら飛行機っぽいのですが、すぐに、セックスで頭いっぱいの地方大学のバカ学生の話に切り替わります。
淫魔というのでしょうか? セックス好きの妖怪に憑りつかれた女子大生が狂言回し(?) になって、男子大学生の目からストーリーが進みます。
「浮気したら殺すよ」
というのがキーワードとして出てきますが、こういう性格付け(?) された妖怪の場合、特定の人間を自分に縛り付けるよりも、もっと不特定多数の男を相手にすることを目指すんじゃないかなぁ。そのほうが回数稼げますよね。
まあ、そうなってしまうとストーリーが展開していきませんけど。
童貞学生の妄想炸裂なところと、それに対するイケメン発展家(!) の対比とか、いかにもなキャラクター設定で悪くないですし、探偵役(?) なんでしょうか、変な大学教授も、まあいいかな、というところ。

ミステリ的な興味はほとんどないですが、一応、この怪の正体にはちょっとしたどんでん返し(?) が仕込まれています。
ちょっとネタバレ気味ですが、書いてしまうと、タイトルが「影女」ではなく「影姫」になっているのがポイントなのですが、ほぼほぼほったらかしになっている冒頭の飛行機のシーンをお忘れなく、というのは面白かったです。
この後は伏字にしておきます。
shadow girl ねぇ。 沙希川学院大学で、Sakigawa Gakuin University と Shadow Girl Union を混同してShadow Girl が日本にやってくる。それもリーダー格のプリンセスが。だから、Shadow Princess で影姫。

エロティック・ホラーとあらすじに書いてあるだけあって(?) 全体的にエロにバランスが傾いていて、セックスシーン連発なんだけどそんなにエロい感じを受けない、という不思議な仕上がりなのはどうなのかなぁ...

飯野文彦の作品を読むのはこれが初めてでしたが、うーん、ミステリからは遠いし、別の作品を読むことはないかも...折々に面白い発想が盛り込まれているんですけどね。


タグ:飯野文彦
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記憶屋 [日本の作家 あ行]


記憶屋 (角川ホラー文庫)

記憶屋 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 織守きょうや
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/10/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大学生の遼一は、想いを寄せる先輩・杏子の夜道恐怖症を一緒に治そうとしていた。だが杏子は、忘れたい記憶を消してくれるという都市伝説の怪人「記憶屋」を探しに行き、トラウマと共に遼一のことも忘れてしまう。記憶屋など存在しないと思う遼一。しかし他にも不自然に記憶を失った人がいると知り、真相を探り始めるが……。記憶を消すことは悪なのか正義なのか? 泣けるほど切ない、第22回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作。


第22回日本ホラー小説大賞の読者賞受賞作ということで、読みやすいんだろうな、と思って読み始めました。
この本は、エピソードを連ねた連作短編集のような構成になっていて、全体を貫くように主人公のエピソードが描かれる、という構造です。
最初のエピソードはまだぎくしゃくしたところがありましたが、2番目の弁護士のエピソードくらいからぐんと読みやすくなりました。予想通り。
記憶を消したい理由と、消された後のたたずまいがなかなか美しくて、ノスタルジック、泣ける、切ない、という評はこのあたりから来ているのでしょうね。こういうテイストのエピソード、ずーっと続けることが可能かも。

記憶屋、というから、記憶してくれる人のことかと思ったら、逆なんですね。
記憶を消してくれる人。
それは記憶屋とは呼ばないんじゃないかな、と思ったのは余計な話。
「消してしまいたい、どうしても忘れられない記憶を、消してくれる」(5ページ)
そんなに都合よく、消したい記憶だけ消せるものか、直接的ではなくても関連する部分の記憶はどうするんだ、と思いますが、まあそこはさらっと流すべきなんでしょうね。作中でもいびつな残り方をした記憶に触れられているところがありますが、作者もそのあたりは意識されたのかも。
記憶屋に会ったことは忘れるという設定に概ねなっているようです(記憶屋に会った記憶が残っているエピソードもあり、この辺りのメカニズムは今一つわかりません)が、消された記憶に登場する・関連する人物が持っている記憶までは消されないので、その人物から見ると急に記憶喪失みたいになってしまって怪しい。だから記憶屋なんて都市伝説っぽく語られてしまう。
Aという人物が持つ記憶が消されると、その記憶だけではなく周辺の人物も忘れ去られてしまう。自分が忘れられてしまう哀しみ、というのはおもしろい着眼点と思いましたが、こういう中途半端な設定の賜物ですね。

この記憶屋の存在、考えてみたら結構怖い存在ではありますが、ホラーというテイストにはなっていません。

記憶屋を捜す、つきとめる、という要素もありますが、ちょっと安直ですね。
「ミステリー要素も濃密」と帯に感想を書かれている書店員さんもいるようですが、このレベルで濃密と書かれると、ずっこけてしまいますね。
記憶屋の正体、ミステリー好きならすぐに見抜いてしまうでしょう。

記憶屋に対して懐疑的というか、嫌悪感を抱いていた主人公・遼一が、その記憶屋と遭遇するラストシーンは、なかなか考えさせられるものがあり、ノスタルジック、泣ける、切ない、というところで、印象に残りました。
(どこかで読んだことある感じだなぁ、という思いが拭えないのですが、果たしてどの作品だったのかわかりません)
エンディングは、経緯からしてそうなるしかないよなぁ、というところに着地するのですが、これは哀しいです。

個人的には、変なところに感心し、気に入っています。
記憶を消してくれる人は記憶屋と呼ばないんじゃないかな、という感想を上に記しましたが、遼一と記憶屋の対決シーン(?) で交わされる会話を通して、「記憶屋」と呼ばれるのがふさわしいんだな、と納得できたからです。

また、
第1のエピソードが、忘れたい記憶そのものではないけれど、つれて記憶から消されてしまった人物の視点。
第2のエピソードが、忘れさせたい記憶を持つ人物の視点。
第3のエピソードが、忘れたい記憶=消した記憶のまさに対象となった人物の視点。
最後となる第4のエピソードは、あえていえば、記憶屋の視点。
とそれぞれ記憶をめぐる立ち位置が違う人からみたエピソードが描かれていることもポイントかな、と思いました。

「記憶屋II」 (角川ホラー文庫)
「記憶屋III」 (角川ホラー文庫)
と、これ、シリーズにするの難しそうなのにシリーズ化されています。
興味が湧いてきました。


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レプリカたちの夜 [日本の作家 あ行]


レプリカたちの夜

レプリカたちの夜

  • 作者: 一條 次郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/01/22
  • メディア: 単行本


<裏表紙作品紹介>
「わかりませんよ。なにがあってもおかしくはない世の中ですから」--登場人物が呟くこのセリフこそ、はてしなく奇妙で、だが最高に魅力的な本作の世界観を代弁している。
 動物のレプリカ製造工場に勤める往本は、残業中の深夜、動くシロクマを目撃する。だが、この世界において、野生のシロクマはとういn絶滅したはずだった。往本は工場長に呼び出され、動くシロクマの正体を内密に探るよう頼まれる。
 はたしてシロクマは本物なのか? それとも工場で作ったレプリカに人が入っているのか? 入っているとしたら、それは一体誰なのか?--往本と共にシロクマを追ううちに、読み手はいつのまにか、ぐにゃりと歪んだ世界に足を踏み入れている。
 気づけば、ものごとはかなりの混乱をきたしている。あったはずのものがなかったり、なかったはずのものが現れたり。そして、その混沌の中で交わされる、妙な登場人物たちのヘンテコな会話に愛着を覚えるようになった頃には、あなたはその世界からすっかり抜け出せなくなっている。


単行本です。
第2回新潮ミステリー大賞受賞作です。
上で引用した内容紹介文、あれで1/3程度なんです。長いので、全部引用するのはやめました。

帯に、選考委員をつとめた伊坂幸太郎のことばが載っています。
いわく
とにかくこの小説を世に出すべきだと思いました。
ミステリーかどうか、そんなことはどうでもいいなあ、と感じるほど僕はこの作品を気に入っています。」
作品の評価は別にして、ミステリーの賞を授賞するのなら、その作品はミステリーでないと困ると思うのですが...

正直この作品をミステリーとして評価するのは難しいと思います。
ミステリー的な展開もあることはありますが、明らかに力点はそこにはない。
次々と出てくる謎は、ほとんど解かれません。
この作品は、大賞ではなく、せめて審査員特別賞とかいう枠組みで出版すべきではなかったか、と。
あるいは、いっそ伊坂幸太郎賞?

とはいえ、この小説をつまらないと思った、ということではありません。
ちゃんと理解できたか、という質問にもまったく自信がないという回答しかできませんが、不思議なおもしろさを感じました。
レプリカと本物、という分け方は、畢竟、人間とは、人とは、自分とは、という問いに重なっていくわけで、そりゃ難しい。

普通じゃない登場人物たちの奇妙な会話は、確かにクセになります。
おそらくはミステリではないのでしょうが、次はどんな作品を出してくるのか、気になる作家です。






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秀頼、西へ [日本の作家 あ行]


秀頼、西へ (光文社時代小説文庫)

秀頼、西へ (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
戦国末期。天下を手中にしようとしていた徳川家康は、大坂城に配下の者を忍び込ませた。一方、真田大助は、父・幸村より、落城の際には秀頼を連れ出し落ち延びよ、という密命を受ける。目指すは薩摩、島津家の元。燃えさかる大坂城を脱出した一行は西へ――。誰が味方で誰が敵なのか? 行く手には、想像を絶する謀略が待ち受けていた! 
迫真の傑作時代ミステリー。


岡田秀文は、カバー袖の作者紹介にもありますが、1999年「見知らぬ侍」で第21回小説推理新人賞を受賞し、2002年に「太閤暗殺」 (双葉文庫)で第5回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作家です。
「太閤暗殺」 は読んでいます。
中身はほとんど覚えていないんですが、おもしろかったと思います。
岡田秀文は、ここ数年「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)「黒龍荘の惨劇」(光文社)が評判ですね。
「伊藤博文邸の怪事件」 を買ってあって、読む前に岡田秀文の別の昔の本も読んでおこうと思って、この「秀頼、西へ」 を手に取りました。
単行本の時のタイトルは「落ちた花は西へ奔れ」だったのですが、文庫化で「秀頼、西へ」 へタイトルが変更されています。
中身がわかりやすくなりましたね。
大坂夏の陣で淀君と豊臣秀頼は自決し、豊臣家は滅亡した、という史実がありますが、実は秀頼は生き延びて西へ逃れたていた...と。
解説の細谷正充によると、こういう伝説があるんですね。

主人公は、真田幸村の息子大助。おっ、地味...
でも、この地味さがいい感じに仕上がっています。
一種の成長物語にもなっていますし、大坂城にいた侍女茜との恋(?) もあり、娯楽小説の王道です!

しかし、この作品はポイントはやはり、張り巡らされている策謀・謀略、でしょう。
徳川家康や本多正純、片桐且元に真田幸村・大助父子、そして薩摩の島津義弘に息子の家久。
誰が敵で、誰が味方なのか。
一見敵のようで味方、味方のようで敵、なんて生ぬるい方で、一見敵のようで味方と見せかけた敵なんかもいますし、そもそも何を目指すかによって、味方か敵か自体がくるくると入れ替わってしまう。そんなこの時代ならではの化かし合いがみどころです。
家康と島津義弘なんて、まあ、キツネとタヌキというと、キツネやタヌキが「俺たちそこまで性格悪くないよ」と怒って来そうな...
ラストで明かされるそれぞれの思惑は、なかなか深いです。
一方で、大助・茜がさわやかな読後感を残してくれます。

なかなかよかったですね。
今さらながら、岡田秀文、ちょっと注目です。


<蛇足>
楽しく読みましたが、
「申しわけございません。」(379ページ)
というせりふはあまりにも興ざめですねぇ。


タグ:岡田秀文
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B(ビリヤード)ハナブサへようこそ [日本の作家 あ行]


Bハナブサへようこそ

Bハナブサへようこそ

  • 作者: 内山 純
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/10/14
  • メディア: 単行本


<表紙前袖あらすじ>
僕――中央(あたりあきら)――は、大学院に通いながら、元世界チャンプ・英雄一郎(はなぶさゆういちろう)先生が経営する、良く言えばレトロな「ビリヤードハナブサ」でアルバイトをしている。
ビリヤードは奥が深く、理論的なゲームだ。そのせいか、常連客たちはいつも議論しながらプレーしている。いや、最近はプレーそっちのけで各人が巻き込まれた事件について議論していることもしばしばだ。
今も、常連客の一人が会社で起きた不審死の話を始めてしまった。いいのかな、球を撞いてくれないと店の売り上げにならないのだが。
気を揉みながらみんなの推理に耳を傾けていると、僕にある閃きが……。
この店には今日もまた不思議な事件が持ち込まれ、推理談義に花が咲く――。
事件解決の鍵はビリヤードにあり。安楽椅子探偵、中央のデビュー戦。


単行本です。
第24回鮎川哲也賞受賞作。
鮎川哲也賞にはよくあることですが、長編ではなく、連作短編になっています。
目次を見ていただいても
第一話 バンキング
第二話 スクラッチ
第三話 テケテケ
第四話 マスワリ
とすっかり短編集の趣。

ちゃんとあらかじめ断っておくと、悪くないと思います。

各話それぞれビリヤード用語のタイトルを冠していて、謎を探偵役が解くきっかけも、その用語という建て付け。
ちなみに、
バンキング=どちらが先に球を撞き始めるか決める儀式のこと
スクラッチ=ショットで手球を落としてしまうこと
テケテケ=壁を使って撞くこと
マスワリ=一ゲームの最初から最後まで一人で球を撞ききること
です。これから、どういう謎を解くのか考えても楽しいかもしれませんね。

ラストの一文も「ビリヤード屋のバイト屋として僕は~~」という感じで統一されていて、洒落ているといえば洒落ています。

それぞれの謎も小粒ですが、すっきりしています。
帯に、「新・《黒後家蜘蛛の会》、誕生」とあるのは、さすがに言い過ぎとしてもウェルメイドといえると思います。

でもね、好きになれないんです、この作品。

第一話で主人公中央が自己紹介します。
「僕の名前は中央(あたりあきら)、生まれてから二十三年もの間、名前を一発で正確に読んでくれた人は一人もいない。ちょっと親を恨んでいる。この店のお客さんは、チュウちゃん、ナカちゃん、チューオーと思い思いに呼ぶ。本名は認知されていないようだ。」
これは、いいです。中央という名前にはちょっと馴染めませんが、小説の主人公にはよいでしょうし。
で、第二話の冒頭でびっくり。
「僕の名前は中央(あたりあきら)、初めて僕の名前を見た人のほとんどが、苗字しか書いていないと思って『下の名前は?』と聞いてくる。ちょっと親を恨んでいる。常連客たちは思い思いにナカ君、チュウちゃん、チューオー呼んでいる。」
おいおい、雑誌連載じゃあるまいし、人物紹介は一度で十分。
自分でも狭量だと思いますが、これにひっかかってしまって純粋に楽しめませんでした。
ちなみに、第三話も、第四話も似たようなものです。げんなり。

さらに、第三話で、
「〇〇市の久慈さんの店」
うーん、〇〇市!? なんじゃそれ。
第四話には「△△市」というのも出てきます。
第一話には、「S女子大」というのが出てくるんだから、〇や△ではなくせめてアルファベットでも使えばいいのに、これまたげんなり。

こうなると、タイトルに使われている用語の説明にも、それぞれ
「銀行業務のことではない。」
「削って当てるくじおことではない。」
「都市伝説に出てくる下半身がなくて両腕でデケテケ進む恐ろしい亡霊のことではなく」
「算数の百マス計算のことではなく、表計算用ソフトで票を作る際にマスを割り振ることでもなくて」
と付け加えられているのも、笑えるどころか、イラッとしてしまいます。

あと、これ、連作短編というよりも、短編集と呼びたくなる構成になっていて、ちょっと不満を抱きました。
最後に、各短編をつなぐ大きな絵を見せてくれないと、長編に対する賞の受賞作としては、どうなのかな、と思います。

選評で北村薫がいうように「形がいい」「居心地のよい本格世界」なのに、変なところでつまづいてしまって個人的には残念でした。





 





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 [日本の作家 あ行]


蛻 (講談社文庫)

蛻 (講談社文庫)

  • 作者: 犬飼 六岐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
尾張藩の江戸下屋敷内に実在した「御町屋」と呼ばれる宿場町。この町では、赤の他人が見せかけの夫婦として割り振られた家に住まわされ、仮の商いを営み、藩主が遊覧する時だけ立ち退かねばならなかった。御町屋で連続殺人が発生し偽の住人たちは疑心暗鬼に陥る。人心の謎と闇を射貫く時代小説の決定版。


どこだったのか忘れてしまったのですが、激賞されていたので買いました。
確か、ミステリーっぽかったし、あらすじをチェックしてみてもミステリーみたいで、面白そうだし。
帯も楽しそうなんですよ。
「江戸に実在した「偽の宿場町(テーマパーク)で、連続殺人発生。
すべてが偽で、すべてが嘘?
気鋭の作家が虚実を重ねて仕掛けた渾身の時代小説」
うん、いかにもミステリーっぽい。
ところが、この作品、ミステリーではありません....

尾張藩の下屋敷に宿場町を原寸大で再現した「御町屋」と呼ばれる一画があって、賓客に見せるのに使われていた。より現実味を出すために、御町屋に実際に人を住ませた、という設定。
屋敷の敷地の中にあるわけですから、クローズドサークルが形成されていますし、そこを舞台に連続殺人となると、新しいパターンの「吹雪の山荘」ものですよね、ミステリでいうと。
この着想が、まず素晴らしい、と思ったわけです。
さてさて、そこからどんな手を繰り出してくれるのか。
ストーリーは、まずはミステリっぽく進みます。
誰が犯人なのか、住人たちの間で、探り合い、犯人捜しが始まり、本当に御町屋は閉ざされているのか、という視点の捜査(?)も行われ、ミステリとして面白くなりそうな雰囲気がばんばん出てきます。

ところが、ところが、終盤物語の方向性はガラッと変わってしまいます。
そっちですかぁ、作者の興味があるのは...
要するに、連続殺人っていうのは、それを導くためのだしに使われているだけなんですね...謎解きをする気なんてなかったんだ...
正直、がっかりしました。勝手にミステリを期待したこちらが悪いんですが。
でもね、ミステリとしての結構を整えても、この作品はちゃんと成立するんですよ。なのに、投げ出してしまったみたい。ミステリ好きとしては、正直、手を抜くな、と思ってしまいましたね。

とネガティブなコメントを連ねましたが、つまるところ、ミステリとして読んでしまったこちらが悪いわけで、ミステリだなどと期待せず、淡々と時代小説として読んでいればまた違った感想になったことでしょう。
ミステリという観点を考えないでみても、物語のバランスが悪い点は気になりますが(それも前半をミステリっぽく書いてしまったからだと思います。でも、そうしないとサスペンスで読者をひっぱれなかったのかも)、架空の宿場町を舞台に、いろいろなタイプの人間模様を描いている点も十分おもしろい(はずな)ので、そこを楽しめばよい作品なんだろうな、と思います。

それにしても、この作品は、末國善己の解説が傑作です。
もう、無理やり現代に結びつけて、ありきたりで平凡でつまらない教訓を読み取っています。
こんな読み方をされて可哀想な作品だなぁ、と思えてしまうくらい。
「現代人への教訓として、今こそ重く受け止める必要があるのだ」なんて、そりゃあ、どう読もうが読者の勝手ではありますが、そんな窮屈な読み方をせずとも、読書の楽しみは十分あると思います。
手に取られた方は、ぜひぜひ、解説までお楽しみください。






タグ:犬飼六岐
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烏は主を選ばない [日本の作家 あ行]


烏は主を選ばない (文春文庫)

烏は主を選ばない (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、優秀な兄宮が廃嫡され、日嗣の御子の座についた若宮。世継ぎの后選びには大貴族の勢力争いが絡み、朝廷は一触即発の異常事態に陥る。そんな状況下で、若宮に仕えることになった少年・雪哉は、御身を狙う陰謀に孤立無援の宮廷で巻き込まれていく…。


松本清張賞を受賞した「烏に単は似合わない」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
シリーズの設定は、大矢博子による解説で簡潔に書かれていますが(興味を持たれた場合は、解説の2ページ目をさっと立ち読みされればよいと思います)、平安時代を思わせる舞台に烏が人間の姿をして暮らしていて、朝廷・宮中の様子が描かれます。
この「烏は主を選ばない」 は前作「烏に単は似合わない」とほぼ同じ時間軸となっています。
「烏に単は似合わない」は、お妃選びでしたが、その裏番組(どっちが表でどっちが裏かはわかりませんが)ともいえる、若君(若宮と呼ばれています)サイドのストーリーが描かれます。
(これはこれで、裏事情が分かって面白かったですが、せっかく2冊あわせてこういう構成を取ったのだから、2冊目を読むと1冊目の見え方が変わるとか、1冊目の人物の位置づけが変わるとか、そういう仕掛けがあるとミステリ好きにはより楽しめたでしょうね...完全なないものねだりですが)
「烏に単は似合わない」ではお妃に選ばれるための権謀術数が扱われていたのに対し、この「烏は主を選ばない」 では本家本元の皇位を巡る争いが扱われています。
日嗣の御子で、皇位を継ぐ者としての特徴(「金烏」と呼ばれています)を備えた奇矯な若君、対、人望厚い若君の兄を支持するものたちの争いです。
「奇矯な」と書きましたが、若宮はかなりの変人(変烏?)として描かれていまして(103ページからの、御前会議で御簾の内側の玉座から父親を追い出すシーンが圧巻です)、主人公である雪哉(若宮の側仕えに登用されちゃいます)とのやりとりは定番といえば定番ですが、楽しめます。
もっとも、雪哉だけではなく、若宮に対してはいろいろな人物がかなり失礼な言葉を投げ、振る舞いをします。いくらなんでも、どれほど若宮が変り者であろうとも、皇位継承者に対して失礼な発言をするものなどいやしないと思うので、このあたりの書き方はちょっとどうかなとも思いましたが、烏の世界ではそういうものなのかもしれないですしねぇ。うまく逃げ道を用意してあるな、と感心。
結構この皇位継承をめぐるエピソードはスリリングで、あれこれよく考えられていますし、前作同様、後半で絵姿を変えるところもポイント高いです(もっとも、前作で一度経験しているので、こちらがある程度身構えてしまっていますが)。この点を考えると、さきほど触れた御前会議のシーンはなかなか重要だったりして、ミステリでいうところのアンフェアな記述じゃないかな、と思える部分も興味深いです。

このあとシリーズは、
「黄金の烏」
「空棺の烏」
と続いているので、楽しみです。


<蛇足>
現代風のセリフが特徴ではありますが、それでも
「とんでもございませぬ」(47ページ)、(112ページ)
「力を尽くさせて頂きます」(214ページ)
「会合の様子を鑑みるに」(218ページ)、「向こうの事情を鑑みれば」(261ページ)
といった、現代ならではの誤用を盛り込むのは勘弁してもらいたいですね。
版元の文藝春秋も編集者や校正できちんと修正してあげてほしい。



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空の中 [日本の作家 あ行]


空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/06/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは? 一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント!!


有川浩、もう大流行作家ですよね。
第10回電撃ゲーム小説大賞受賞のデビュー作「塩の街」 (角川文庫)に続く第2作です。
「塩の街」 をずいぶん昔に読んで(手元の記録を見ると、2006年に読んでいます)、おもしろかった記憶があります。

「塩の街」 、この「空の中」 (角川文庫)、そして次の「海の底」 (角川文庫)を「自衛隊三部作」というのだそうです。

この本には、新井素子が解説を書いていまして、それがいかにも新井素子なので好き嫌いはあるかもしれませんが、要領よくまとまっていまして、本書を読もうかどうか迷った時は、解説を先に読んでお確かめください。
なによりも、わかりやすい、というのがこの作者の長所かと思います。
引用したあらすじでは微妙にぼかしてあるのを、以下ではもうすこし明かしてしまいますので、白紙の状態で読みたい方は、以下は読まずに本へ!
「空の中」 というタイトル通り、空に住む(?) 「白鯨」(ディック)と、その分身(?) フェイク。
かなり怖い(?)存在なんですけど、なんだかフェイクかわいい。
かわいいけれど、これに憑かれていく主人公で高校生の瞬。瞬をとりまく、佳江と宮じい。
そして、自衛隊のパイロット三尉武田光稀(みき)と、事故調査委員春名高巳。
作者ご本人が、「大人ライトノベル」がほしくて、そういうものを書いたというだけあって、キャラクターもくっきり。
2つのパートで、さてどうなるのだろうと話をひっぱっていく。
ある意味、甘々なストーリーなんですが、それが心地よい。
巻末に特別書き下ろし「仁淀の神様」が収録されていて、後日談(?)が楽しめます。

次の「海の底」 も楽しみです。
(でも、読むのは一体いつになることやら!?)

<おまけ>
「塩の街」は電撃文庫で読みました。

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 文庫

後で、角川文庫にも収録されていますね。

塩の街 (角川文庫)

塩の街 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/01/23
  • メディア: 文庫





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民王 [日本の作家 あ行]


民王 (文春文庫)

民王 (文春文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目をさましやがれ!」 漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは!? 一気読み間違いなしの政治エンタメ!


漢字の読めない政治家や酔っぱらい大臣というと、あからさまなモデルがありますね。
池井戸潤、売れてきたから、現実によりかかった小説をてすさびに書いたんだろなぁ、いただけないなぁ、というのが、読む前の感想。

読んでみてびっくり。
あらすじではわからないようになっていますが、遠藤憲一、菅田将暉主演で、ドラマ化されたので有名になっちゃったと思いますから明かしてしまいますと、総理とそのバカ息子が入れ替わってしまう、という設定なんですね。
ドラマを見ていないので、その辺を知らずに読んでびっくりしました。
漢字が読めなかったり、とんちんかんだったりしたのは、バカな大学生の息子が中身だったから、というわけですね。なるほど。
入れ替わりのメカニズムにも、SFチックですが、陰謀が...というあたりも、楽しい仕掛けでしょう。

だからと言って、安直な小説が安直でなくなるわけでもなく...そのあたりはシビアにみる必要があるでしょう。
ドタバタコメディとしても上質とはいいがたい。
ただし、さすがは池井戸潤というべきか、ステレオタイプながらも、泣かせ処というか、聞かせ処というか、ラストではしっかりと盛り上げてくるんですね。
主張は生硬で、ありきたりですが、そのぶん普遍性があって、理解しやすい。
こういう作品ばかり書かれると困りますが、1作くらいこういうのに寄り道してもらっても、まあ、よし、ということでしょうか。

タグ:池井戸潤
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