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記憶屋 [日本の作家 あ行]


記憶屋 (角川ホラー文庫)

記憶屋 (角川ホラー文庫)



<裏表紙あらすじ>
大学生の遼一は、想いを寄せる先輩・杏子の夜道恐怖症を一緒に治そうとしていた。だが杏子は、忘れたい記憶を消してくれるという都市伝説の怪人「記憶屋」を探しに行き、トラウマと共に遼一のことも忘れてしまう。記憶屋など存在しないと思う遼一。しかし他にも不自然に記憶を失った人がいると知り、真相を探り始めるが……。記憶を消すことは悪なのか正義なのか? 泣けるほど切ない、第22回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作。


第22回日本ホラー小説大賞の読者賞受賞作ということで、読みやすいんだろうな、と思って読み始めました。
この本は、エピソードを連ねた連作短編集のような構成になっていて、全体を貫くように主人公のエピソードが描かれる、という構造です。
最初のエピソードはまだぎくしゃくしたところがありましたが、2番目の弁護士のエピソードくらいからぐんと読みやすくなりました。予想通り。
記憶を消したい理由と、消された後のたたずまいがなかなか美しくて、ノスタルジック、泣ける、切ない、という評はこのあたりから来ているのでしょうね。こういうテイストのエピソード、ずーっと続けることが可能かも。

記憶屋、というから、記憶してくれる人のことかと思ったら、逆なんですね。
記憶を消してくれる人。
それは記憶屋とは呼ばないんじゃないかな、と思ったのは余計な話。
「消してしまいたい、どうしても忘れられない記憶を、消してくれる」(5ページ)
そんなに都合よく、消したい記憶だけ消せるものか、直接的ではなくても関連する部分の記憶はどうするんだ、と思いますが、まあそこはさらっと流すべきなんでしょうね。作中でもいびつな残り方をした記憶に触れられているところがありますが、作者もそのあたりは意識されたのかも。
記憶屋に会ったことは忘れるという設定に概ねなっているようです(記憶屋に会った記憶が残っているエピソードもあり、この辺りのメカニズムは今一つわかりません)が、消された記憶に登場する・関連する人物が持っている記憶までは消されないので、その人物から見ると急に記憶喪失みたいになってしまって怪しい。だから記憶屋なんて都市伝説っぽく語られてしまう。
Aという人物が持つ記憶が消されると、その記憶だけではなく周辺の人物も忘れ去られてしまう。自分が忘れられてしまう哀しみ、というのはおもしろい着眼点と思いましたが、こういう中途半端な設定の賜物ですね。

この記憶屋の存在、考えてみたら結構怖い存在ではありますが、ホラーというテイストにはなっていません。

記憶屋を捜す、つきとめる、という要素もありますが、ちょっと安直ですね。
「ミステリー要素も濃密」と帯に感想を書かれている書店員さんもいるようですが、このレベルで濃密と書かれると、ずっこけてしまいますね。
記憶屋の正体、ミステリー好きならすぐに見抜いてしまうでしょう。

記憶屋に対して懐疑的というか、嫌悪感を抱いていた主人公・遼一が、その記憶屋と遭遇するラストシーンは、なかなか考えさせられるものがあり、ノスタルジック、泣ける、切ない、というところで、印象に残りました。
(どこかで読んだことある感じだなぁ、という思いが拭えないのですが、果たしてどの作品だったのかわかりません)
エンディングは、経緯からしてそうなるしかないよなぁ、というところに着地するのですが、これは哀しいです。

個人的には、変なところに感心し、気に入っています。
記憶を消してくれる人は記憶屋と呼ばないんじゃないかな、という感想を上に記しましたが、遼一と記憶屋の対決シーン(?) で交わされる会話を通して、「記憶屋」と呼ばれるのがふさわしいんだな、と納得できたからです。

また、
第1のエピソードが、忘れたい記憶そのものではないけれど、つれて記憶から消されてしまった人物の視点。
第2のエピソードが、忘れさせたい記憶を持つ人物の視点。
第3のエピソードが、忘れたい記憶=消した記憶のまさに対象となった人物の視点。
最後となる第4のエピソードは、あえていえば、記憶屋の視点。
とそれぞれ記憶をめぐる立ち位置が違う人からみたエピソードが描かれていることもポイントかな、と思いました。

「記憶屋II」 (角川ホラー文庫)
「記憶屋III」 (角川ホラー文庫)
と、これ、シリーズにするの難しそうなのにシリーズ化されています。
興味が湧いてきました。


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レプリカたちの夜 [日本の作家 あ行]


レプリカたちの夜

レプリカたちの夜



<裏表紙作品紹介>
「わかりませんよ。なにがあってもおかしくはない世の中ですから」--登場人物が呟くこのセリフこそ、はてしなく奇妙で、だが最高に魅力的な本作の世界観を代弁している。
 動物のレプリカ製造工場に勤める往本は、残業中の深夜、動くシロクマを目撃する。だが、この世界において、野生のシロクマはとういn絶滅したはずだった。往本は工場長に呼び出され、動くシロクマの正体を内密に探るよう頼まれる。
 はたしてシロクマは本物なのか? それとも工場で作ったレプリカに人が入っているのか? 入っているとしたら、それは一体誰なのか?--往本と共にシロクマを追ううちに、読み手はいつのまにか、ぐにゃりと歪んだ世界に足を踏み入れている。
 気づけば、ものごとはかなりの混乱をきたしている。あったはずのものがなかったり、なかったはずのものが現れたり。そして、その混沌の中で交わされる、妙な登場人物たちのヘンテコな会話に愛着を覚えるようになった頃には、あなたはその世界からすっかり抜け出せなくなっている。


単行本です。
第2回新潮ミステリー大賞受賞作です。
上で引用した内容紹介文、あれで1/3程度なんです。長いので、全部引用するのはやめました。

帯に、選考委員をつとめた伊坂幸太郎のことばが載っています。
いわく
とにかくこの小説を世に出すべきだと思いました。
ミステリーかどうか、そんなことはどうでもいいなあ、と感じるほど僕はこの作品を気に入っています。」
作品の評価は別にして、ミステリーの賞を授賞するのなら、その作品はミステリーでないと困ると思うのですが...

正直この作品をミステリーとして評価するのは難しいと思います。
ミステリー的な展開もあることはありますが、明らかに力点はそこにはない。
次々と出てくる謎は、ほとんど解かれません。
この作品は、大賞ではなく、せめて審査員特別賞とかいう枠組みで出版すべきではなかったか、と。
あるいは、いっそ伊坂幸太郎賞?

とはいえ、この小説をつまらないと思った、ということではありません。
ちゃんと理解できたか、という質問にもまったく自信がないという回答しかできませんが、不思議なおもしろさを感じました。
レプリカと本物、という分け方は、畢竟、人間とは、人とは、自分とは、という問いに重なっていくわけで、そりゃ難しい。

普通じゃない登場人物たちの奇妙な会話は、確かにクセになります。
おそらくはミステリではないのでしょうが、次はどんな作品を出してくるのか、気になる作家です。






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秀頼、西へ [日本の作家 あ行]


秀頼、西へ (光文社時代小説文庫)

秀頼、西へ (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
戦国末期。天下を手中にしようとしていた徳川家康は、大坂城に配下の者を忍び込ませた。一方、真田大助は、父・幸村より、落城の際には秀頼を連れ出し落ち延びよ、という密命を受ける。目指すは薩摩、島津家の元。燃えさかる大坂城を脱出した一行は西へ――。誰が味方で誰が敵なのか? 行く手には、想像を絶する謀略が待ち受けていた! 
迫真の傑作時代ミステリー。


岡田秀文は、カバー袖の作者紹介にもありますが、1999年「見知らぬ侍」で第21回小説推理新人賞を受賞し、2002年に「太閤暗殺」 (双葉文庫)で第5回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作家です。
「太閤暗殺」 は読んでいます。
中身はほとんど覚えていないんですが、おもしろかったと思います。
岡田秀文は、ここ数年「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)「黒龍荘の惨劇」(光文社)が評判ですね。
「伊藤博文邸の怪事件」 を買ってあって、読む前に岡田秀文の別の昔の本も読んでおこうと思って、この「秀頼、西へ」 を手に取りました。
単行本の時のタイトル「落ちた花は西へ奔れ」だったのですが、文庫化で「秀頼、西へ」 へタイトルが変更されています。
中身がわかりやすくなりましたね。
大坂夏の陣で淀君と豊臣秀頼は自決し、豊臣家は滅亡した、という史実がありますが、実は秀頼は生き延びて西へ逃れたていた...と。
解説の細谷正充によると、こういう伝説があるんですね。

主人公は、真田幸村の息子大助。おっ、地味...
でも、この地味さがいい感じに仕上がっています。
一種の成長物語にもなっていますし、大坂城にいた侍女茜との恋(?) もあり、娯楽小説の王道です!

しかし、この作品はポイントはやはり、張り巡らされている策謀・謀略、でしょう。
徳川家康や本多正純、片桐且元に真田幸村・大助父子、そして薩摩の島津義弘に息子の家久。
誰が敵で、誰が味方なのか。
一見敵のようで味方、味方のようで敵、なんて生ぬるい方で、一見敵のようで味方と見せかけた敵なんかもいますし、そもそも何を目指すかによって、味方か敵か自体がくるくると入れ替わってしまう。そんなこの時代ならではの化かし合いがみどころです。
家康と島津義弘なんて、まあ、キツネとタヌキというと、キツネやタヌキが「俺たちそこまで性格悪くないよ」と怒って来そうな...
ラストで明かされるそれぞれの思惑は、なかなか深いです。
一方で、大助・茜がさわやかな読後感を残してくれます。

なかなかよかったですね。
今さらながら、岡田秀文、ちょっと注目です。


<蛇足>
楽しく読みましたが、
「申しわけございません。」(379ページ)
というせりふはあまりにも興ざめですねぇ。


タグ:岡田秀文
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B(ビリヤード)ハナブサへようこそ [日本の作家 あ行]


Bハナブサへようこそ

Bハナブサへようこそ



<表紙前袖あらすじ>
僕――中央(あたりあきら)――は、大学院に通いながら、元世界チャンプ・英雄一郎(はなぶさゆういちろう)先生が経営する、良く言えばレトロな「ビリヤードハナブサ」でアルバイトをしている。
ビリヤードは奥が深く、理論的なゲームだ。そのせいか、常連客たちはいつも議論しながらプレーしている。いや、最近はプレーそっちのけで各人が巻き込まれた事件について議論していることもしばしばだ。
今も、常連客の一人が会社で起きた不審死の話を始めてしまった。いいのかな、球を撞いてくれないと店の売り上げにならないのだが。
気を揉みながらみんなの推理に耳を傾けていると、僕にある閃きが……。
この店には今日もまた不思議な事件が持ち込まれ、推理談義に花が咲く――。
事件解決の鍵はビリヤードにあり。安楽椅子探偵、中央のデビュー戦。


単行本です。
第24回鮎川哲也賞受賞作。
鮎川哲也賞にはよくあることですが、長編ではなく、連作短編になっています。
目次を見ていただいても
第一話 バンキング
第二話 スクラッチ
第三話 テケテケ
第四話 マスワリ
とすっかり短編集の趣。

ちゃんとあらかじめ断っておくと、悪くないと思います。

各話それぞれビリヤード用語のタイトルを冠していて、謎を探偵役が解くきっかけも、その用語という建て付け。
ちなみに、
バンキング=どちらが先に球を撞き始めるか決める儀式のこと
スクラッチ=ショットで手球を落としてしまうこと
テケテケ=壁を使って撞くこと
マスワリ=一ゲームの最初から最後まで一人で球を撞ききること
です。これから、どういう謎を解くのか考えても楽しいかもしれませんね。

ラストの一文も「ビリヤード屋のバイト屋として僕は~~」という感じで統一されていて、洒落ているといえば洒落ています。

それぞれの謎も小粒ですが、すっきりしています。
帯に、「新・《黒後家蜘蛛の会》、誕生」とあるのは、さすがに言い過ぎとしてもウェルメイドといえると思います。

でもね、好きになれないんです、この作品。

第一話で主人公中央が自己紹介します。
「僕の名前は中央(あたりあきら)、生まれてから二十三年もの間、名前を一発で正確に読んでくれた人は一人もいない。ちょっと親を恨んでいる。この店のお客さんは、チュウちゃん、ナカちゃん、チューオーと思い思いに呼ぶ。本名は認知されていないようだ。」
これは、いいです。中央という名前にはちょっと馴染めませんが、小説の主人公にはよいでしょうし。
で、第二話の冒頭でびっくり。
「僕の名前は中央(あたりあきら)、初めて僕の名前を見た人のほとんどが、苗字しか書いていないと思って『下の名前は?』と聞いてくる。ちょっと親を恨んでいる。常連客たちは思い思いにナカ君、チュウちゃん、チューオー呼んでいる。」
おいおい、雑誌連載じゃあるまいし、人物紹介は一度で十分。
自分でも狭量だと思いますが、これにひっかかってしまって純粋に楽しめませんでした。
ちなみに、第三話も、第四話も似たようなものです。げんなり。

さらに、第三話で、
「〇〇市の久慈さんの店」
うーん、〇〇市!? なんじゃそれ。
第四話には「△△市」というのも出てきます。
第一話には、「S女子大」というのが出てくるんだから、〇や△ではなくせめてアルファベットでも使えばいいのに、これまたげんなり。

こうなると、タイトルに使われている用語の説明にも、それぞれ
「銀行業務のことではない。」
「削って当てるくじおことではない。」
「都市伝説に出てくる下半身がなくて両腕でデケテケ進む恐ろしい亡霊のことではなく」
「算数の百マス計算のことではなく、表計算用ソフトで票を作る際にマスを割り振ることでもなくて」
と付け加えられているのも、笑えるどころか、イラッとしてしまいます。

あと、これ、連作短編というよりも、短編集と呼びたくなる構成になっていて、ちょっと不満を抱きました。
最後に、各短編をつなぐ大きな絵を見せてくれないと、長編に対する賞の受賞作としては、どうなのかな、と思います。

選評で北村薫がいうように「形がいい」「居心地のよい本格世界」なのに、変なところでつまづいてしまって個人的には残念でした。





 





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 [日本の作家 あ行]


蛻 (講談社文庫)

蛻 (講談社文庫)



<裏表紙あらすじ>
尾張藩の江戸下屋敷内に実在した「御町屋」と呼ばれる宿場町。この町では、赤の他人が見せかけの夫婦として割り振られた家に住まわされ、仮の商いを営み、藩主が遊覧する時だけ立ち退かねばならなかった。御町屋で連続殺人が発生し偽の住人たちは疑心暗鬼に陥る。人心の謎と闇を射貫く時代小説の決定版。


どこだったのか忘れてしまったのですが、激賞されていたので買いました。
確か、ミステリーっぽかったし、あらすじをチェックしてみてもミステリーみたいで、面白そうだし。
帯も楽しそうなんですよ。
「江戸に実在した「偽の宿場町(テーマパーク)で、連続殺人発生。
すべてが偽で、すべてが嘘?
気鋭の作家が虚実を重ねて仕掛けた渾身の時代小説」
うん、いかにもミステリーっぽい。
ところが、この作品、ミステリーではありません....

尾張藩の下屋敷に宿場町を原寸大で再現した「御町屋」と呼ばれる一画があって、賓客に見せるのに使われていた。より現実味を出すために、御町屋に実際に人を住ませた、という設定。
屋敷の敷地の中にあるわけですから、クローズドサークルが形成されていますし、そこを舞台に連続殺人となると、新しいパターンの「吹雪の山荘」ものですよね、ミステリでいうと。
この着想が、まず素晴らしい、と思ったわけです。
さてさて、そこからどんな手を繰り出してくれるのか。
ストーリーは、まずはミステリっぽく進みます。
誰が犯人なのか、住人たちの間で、探り合い、犯人捜しが始まり、本当に御町屋は閉ざされているのか、という視点の捜査(?)も行われ、ミステリとして面白くなりそうな雰囲気がばんばん出てきます。

ところが、ところが、終盤物語の方向性はガラッと変わってしまいます。
そっちですかぁ、作者の興味があるのは...
要するに、連続殺人っていうのは、それを導くためのだしに使われているだけなんですね...謎解きをする気なんてなかったんだ...
正直、がっかりしました。勝手にミステリを期待したこちらが悪いんですが。
でもね、ミステリとしての結構を整えても、この作品はちゃんと成立するんですよ。なのに、投げ出してしまったみたい。ミステリ好きとしては、正直、手を抜くな、と思ってしまいましたね。

とネガティブなコメントを連ねましたが、つまるところ、ミステリとして読んでしまったこちらが悪いわけで、ミステリだなどと期待せず、淡々と時代小説として読んでいればまた違った感想になったことでしょう。
ミステリという観点を考えないでみても、物語のバランスが悪い点は気になりますが(それも前半をミステリっぽく書いてしまったからだと思います。でも、そうしないとサスペンスで読者をひっぱれなかったのかも)、架空の宿場町を舞台に、いろいろなタイプの人間模様を描いている点も十分おもしろい(はずな)ので、そこを楽しめばよい作品なんだろうな、と思います。

それにしても、この作品は、末國善己の解説が傑作です。
もう、無理やり現代に結びつけて、ありきたりで平凡でつまらない教訓を読み取っています。
こんな読み方をされて可哀想な作品だなぁ、と思えてしまうくらい。
「現代人への教訓として、今こそ重く受け止める必要があるのだ」なんて、そりゃあ、どう読もうが読者の勝手ではありますが、そんな窮屈な読み方をせずとも、読書の楽しみは十分あると思います。
手に取られた方は、ぜひぜひ、解説までお楽しみください。






タグ:犬飼六岐
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烏は主を選ばない [日本の作家 あ行]


烏は主を選ばない (文春文庫)

烏は主を選ばない (文春文庫)



<裏表紙あらすじ>
人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、優秀な兄宮が廃嫡され、日嗣の御子の座についた若宮。世継ぎの后選びには大貴族の勢力争いが絡み、朝廷は一触即発の異常事態に陥る。そんな状況下で、若宮に仕えることになった少年・雪哉は、御身を狙う陰謀に孤立無援の宮廷で巻き込まれていく…。


松本清張賞を受賞した「烏に単は似合わない」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
シリーズの設定は、大矢博子による解説で簡潔に書かれていますが(興味を持たれた場合は、解説の2ページ目をさっと立ち読みされればよいと思います)、平安時代を思わせる舞台に烏が人間の姿をして暮らしていて、朝廷・宮中の様子が描かれます。
この「烏は主を選ばない」 は前作「烏に単は似合わない」とほぼ同じ時間軸となっています。
「烏に単は似合わない」は、お妃選びでしたが、その裏番組(どっちが表でどっちが裏かはわかりませんが)ともいえる、若君(若宮と呼ばれています)サイドのストーリーが描かれます。
(これはこれで、裏事情が分かって面白かったですが、せっかく2冊あわせてこういう構成を取ったのだから、2冊目を読むと1冊目の見え方が変わるとか、1冊目の人物の位置づけが変わるとか、そういう仕掛けがあるとミステリ好きにはより楽しめたでしょうね...完全なないものねだりですが)
「烏に単は似合わない」ではお妃に選ばれるための権謀術数が扱われていたのに対し、この「烏は主を選ばない」 では本家本元の皇位を巡る争いが扱われています。
日嗣の御子で、皇位を継ぐ者としての特徴(「金烏」と呼ばれています)を備えた奇矯な若君、対、人望厚い若君の兄を支持するものたちの争いです。
「奇矯な」と書きましたが、若宮はかなりの変人(変烏?)として描かれていまして(103ページからの、御前会議で御簾の内側の玉座から父親を追い出すシーンが圧巻です)、主人公である雪哉(若宮の側仕えに登用されちゃいます)とのやりとりは定番といえば定番ですが、楽しめます。
もっとも、雪哉だけではなく、若宮に対してはいろいろな人物がかなり失礼な言葉を投げ、振る舞いをします。いくらなんでも、どれほど若宮が変り者であろうとも、皇位継承者に対して失礼な発言をするものなどいやしないと思うので、このあたりの書き方はちょっとどうかなとも思いましたが、烏の世界ではそういうものなのかもしれないですしねぇ。うまく逃げ道を用意してあるな、と感心。
結構この皇位継承をめぐるエピソードはスリリングで、あれこれよく考えられていますし、前作同様、後半で絵姿を変えるところもポイント高いです(もっとも、前作で一度経験しているので、こちらがある程度身構えてしまっていますが)。この点を考えると、さきほど触れた御前会議のシーンはなかなか重要だったりして、ミステリでいうところのアンフェアな記述じゃないかな、と思える部分も興味深いです。

このあとシリーズは、
「黄金の烏」
「空棺の烏」
と続いているので、楽しみです。


<蛇足>
現代風のセリフが特徴ではありますが、それでも
「とんでもございませぬ」(47ページ)、(112ページ)
「力を尽くさせて頂きます」(214ページ)
「会合の様子を鑑みるに」(218ページ)、「向こうの事情を鑑みれば」(261ページ)
といった、現代ならではの誤用を盛り込むのは勘弁してもらいたいですね。
版元の文藝春秋も編集者や校正できちんと修正してあげてほしい。



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空の中 [日本の作家 あ行]


空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2008/06/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは? 一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とは―すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント!!


有川浩、もう大流行作家ですよね。
第10回電撃ゲーム小説大賞受賞のデビュー「塩の街」 (角川文庫)に続く第2作です。
「塩の街」 をずいぶん昔に読んで(手元の記録を見ると、2006年に読んでいます)、おもしろかった記憶があります。

「塩の街」 、この「空の中」 (角川文庫)、そして次の「海の底」 (角川文庫)を「自衛隊三部作」というのだそうです。

この本には、新井素子が解説を書いていまして、それがいかにも新井素子なので好き嫌いはあるかもしれませんが、要領よくまとまっていまして、本書を読もうかどうか迷った時は、解説を先に読んでお確かめください。
なによりも、わかりやすい、というのがこの作者の長所かと思います。
引用したあらすじでは微妙にぼかしてあるのを、以下ではもうすこし明かしてしまいますので、白紙の状態で読みたい方は、以下は読まずに本へ!
「空の中」 というタイトル通り、空に住む(?) 「白鯨」(ディック)と、その分身(?) フェイク。
かなり怖い(?)存在なんですけど、なんだかフェイクかわいい。
かわいいけれど、これに憑かれていく主人公で高校生の瞬。瞬をとりまく、佳江と宮じい。
そして、自衛隊のパイロット三尉武田光稀(みき)と、事故調査委員春名高巳。
作者ご本人が、「大人ライトノベル」がほしくて、そういうものを書いたというだけあって、キャラクターもくっきり。
2つのパートで、さてどうなるのだろうと話をひっぱっていく。
ある意味、甘々なストーリーなんですが、それが心地よい。
巻末に特別書き下ろし「仁淀の神様」が収録されていて、後日談(?)が楽しめます。

次の「海の底」 も楽しみです。
(でも、読むのは一体いつになることやら!?)

<おまけ>
「塩の街」は電撃文庫で読みました。

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 2004/02
  • メディア: 文庫

後で、角川文庫にも収録されていますね。

塩の街 (角川文庫)

塩の街 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/01/23
  • メディア: 文庫





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民王 [日本の作家 あ行]


民王 (文春文庫)

民王 (文春文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目をさましやがれ!」 漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは!? 一気読み間違いなしの政治エンタメ!


漢字の読めない政治家や酔っぱらい大臣というと、あからさまなモデルがありますね。
池井戸潤、売れてきたから、現実によりかかった小説をてすさびに書いたんだろなぁ、いただけないなぁ、というのが、読む前の感想。

読んでみてびっくり。
あらすじではわからないようになっていますが、遠藤憲一、菅田将暉主演で、ドラマ化されたので有名になっちゃったと思いますから明かしてしまいますと、総理とそのバカ息子が入れ替わってしまう、という設定なんですね。
ドラマを見ていないので、その辺を知らずに読んでびっくりしました。
漢字が読めなかったり、とんちんかんだったりしたのは、バカな大学生の息子が中身だったから、というわけですね。なるほど。
入れ替わりのメカニズムにも、SFチックですが、陰謀が...というあたりも、楽しい仕掛けでしょう。

だからと言って、安直な小説が安直でなくなるわけでもなく...そのあたりはシビアにみる必要があるでしょう。
ドタバタコメディとしても上質とはいいがたい。
ただし、さすがは池井戸潤というべきか、ステレオタイプながらも、泣かせ処というか、聞かせ処というか、ラストではしっかりと盛り上げてくるんですね。
主張は生硬で、ありきたりですが、そのぶん普遍性があって、理解しやすい。
こういう作品ばかり書かれると困りますが、1作くらいこういうのに寄り道してもらっても、まあ、よし、ということでしょうか。

タグ:池井戸潤
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あわせ鏡に飛び込んで [日本の作家 あ行]


あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

あわせ鏡に飛び込んで (講談社文庫)

  • 作者: 井上 夢人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/10/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
幻の名作「あわせ鏡に飛び込んで」をはじめ、瞬間接着剤で男をつなぎとめようとする女が出てくる「あなたをはなさない」、全篇、悩み相談の手紙だけで構成されたクライムミステリー「書かれなかった手紙」など、選りすぐりの10篇を収録。精緻に仕掛けられた“おとしあな”の恐怖と快感!


以下の10編を収録した短編集。巻末に、大沢在昌と井上夢人との対談が掲載されています。

「あなたをはなさない」
いきなり強烈な印象を残す作品です。これ、怖いなぁ。
大沢在昌もこれが一番怖かったと言っています。

「ノックを待ちながら」
会社の金に手を付けて返さなければならなくなったので、自分に似た男を殺して、妻と組んで保険金を詐取しようとした主人公。
倒叙形式のサスペンスですが、犯行に及ぶときって、こんな感じかもしれませんね。

「サンセット通りの天使」
FBIによる監視を受けている主人公が、ヘロイン取引の仲間マーシャルを出し抜いて姿を消そうとたくらみます。
サスペンスものの教科書といえそうな、きれいにまとまった作品です。

「空部屋あります」
お屋敷物(?)のホラーの変奏曲ですね。
会話体でするするとオチまで滑らかに進んでいきます。

「千載一遇」
警備仲間に罪を着せ、大金を盗もうとした男。ところが、仲間が彼を殺そうとし、逆に殺してしまう。
これまたサスペンス物の典型的な感じがします。ちょっと典型的すぎて、物足りない!?

「私は死なない」
生命体の肉体と精神意識体を切り離す作用をもっている薬品が登場します。
これも、怖いなぁ。

「ジェイとアイとJI」
扱っているのは、人工知能なんですかね?
書かれた頃より、時代も技術も進歩、大きく進歩していますが、根っこは不変!?

「あわせ鏡に飛び込んで」
医療過誤で死んだ女の夫天沼にパーティーに呼ばれた院長城所(きどころ)。
妻の死の原因をつきとめようとする天沼をかわそうとする城所だが、次第に追いつめられていき...

「さよならの転送」 
携帯電話が普及していない時代だからこそ、といえそうな留守番電話に絡んだ悲劇。
単純なアイデアですが、効果的だと思いました。

「書かれなかった手紙」
手紙だけで構成された作品です。
夫谷口遙一から、妻玲子の高校時代の恩師磯部益達に宛てた手紙。磯部から遙一に宛てた手紙。磯部から玲子へ宛てた手紙。
そして、磯部から教え子で現在は警察に努めている金坂真一郎に宛てた手紙と、金坂から磯部への返信。
登場人物も限られていますので、どこへ持っていくのかな、と思ったら、わりとありふれた着地へ持っていくのですが、すごくスタイリッシュに感じました。
ところで、途中磯部が気づく手がかりは、ちょっと気づくの難しくないでしょうか? 手書きの手紙だとわかりやすいのかな?

井上夢人は、非常に寡作ですが、ぜひぜひ、もっとじゃんじゃん書いてもらいたいです。



タグ:井上夢人
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書物迷宮 [日本の作家 あ行]


書物迷宮 (講談社文庫)

書物迷宮 (講談社文庫)

  • 作者: 赤城 毅
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/10/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
世に出れば歴史の真相を覆しかねない本を、合法非合法を問わずあらゆる手段で入手するプロフェッショナル、“書物狩人 (ル・シャスール)”。スペイン内戦末期に出版された、ロルカの幻の詩集獲得のためグラナダ地方を訪れたル・シャスールは、依頼人である老婦人を前に、この本に隠された驚くべき秘密を語り出す。シリーズ第二弾!


「書物狩人」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾。しかし、前作の感想を書いたのが2011年11月ですから、もうあれから3年以上たつのですね...
主人公である、書物狩人というのは、「書物狩人」 のあらすじから引用すると、
「世に出れば世界を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法を問わずあらゆる手段を用いて入手する『書物狩人』」
ということになります。

この第2作は、
「書庫に入りきらぬ本」
「長い長い眠り」
「愛された娘」
「冷やしすぎた秘密」
の4話を収録しています。

「書庫に入りきらぬ本」は、非常に興味深い点がいろいろとある作品でした。
スペインの内戦、文化人のスパイ活動、ドイツの公文書館のあり方、アンダルシアの「深い歌 (カンテ・ホンド)」そして、「この年齢になれば、ポーカー・フェイスぐらいは、たしなみにうちです」なんていう素敵な老婦人。
「書庫に入りきらぬ本」と聞いて、なにを連想なさいますか? 膨大な冊数の本? あるいは非常に大きな判型の本?
ル・シャスールが手に入れる本は、かなり粋なものだと感じました。

「長い長い眠り」も興味深い点満載です。
そして、変わった本を対象にしています。古い時刻表、ですから、本、と呼ぶのが適切なのかどうか。満鉄の時刻表。
北京にある昔ながらの胡同(ホウトン)や、伝統的な家屋建築、四合院という舞台も素敵だし、北京原人をめぐるロマンティック(?) な物語も、中国の凄まじい権力闘争も、物語の大切な彩りです。

「愛された娘」では、ル・シャスールの車の前へ飛び出してきた少女の謎を解きます。
これまたロマンティックなストーリーが秘められているのですが、それを暴く書物をめぐる部分は、ちょっと無理があるんじゃないかな、と思えました。
とはいえ、そのことがタイトルにも素直に書かれている少女が「愛された娘」であったことの証として機能するあたりは素敵でした。

「冷やしすぎた秘密」では、DIA(アメリカの国防情報局)、AW(アヴ=ポーランド情報局)、ABW(アベヴ=ポーランドの国内保安局)が登場し、冒頭からきな臭い。
「長期にわたり地中に埋没し、湿気を含んで、ページを開くこともできない書類が、空気に触れれば、カビの発生によって、ますます劣化してしまう。これを防ぐために、速やかに冷凍するというのが、最近の文書保存の常識なのです。」
うーん、勉強になるなぁ。普段の生活にはまったく役に立ちませんが...

歴史が(虚実はともかく)、書物を通して滲み出してくるこのシリーズ、楽しいですね。
次の「書物法廷」 (講談社文庫)もすでに文庫化されていますし、その後も
「書物幻戯」 (講談社ノベルス)
「書物輪舞」 (講談社ノベルス)
「書物審問」 (講談社ノベルス)
「書物奏鳴」 (講談社ノベルス)
「書物紗幕」 (講談社ノベルス)
と快調に巻を重ねているので楽しみです。


<蛇足>
「世界史上、もっとも複雑で、もっとも暴力的な戦争の一つ」という記述が22ページにあります。
「もっとも~なものの一つ」という言い方、日本語の「もっとも」は本来、一番、すなわちただ一つを指す単語であり、「もっとも~なものの一つ」という表現はあり得ない、と聞いたことがあります。とすると、これは、英語などの、「one of 最上級」という表現を訳したものから広まった表現かと思います。
日本語は、奥が深い!?







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