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團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 [日本の作家 た行]


團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

團十郎切腹事件―中村雅楽探偵全集〈1〉 (創元推理文庫)

  • 作者: 戸板 康二
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2007/02/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
江戸川乱歩に見いだされた「車引殺人事件」にはじまる、老歌舞伎俳優・中村雅楽の推理譚。美しい立女形の行方を突きとめる「立女形失踪事件」、八代目市川團十郎自刃の謎を読み解く、第42回直木賞受賞作「團十郎切腹事件」など全18編。旧「宝石」掲載時の各編解説をはじめ豊富な資料も併録。ミステリ史に燦然と輝く名推理の数々を完全収録。


歌舞伎役者を探偵役に据えた中村雅楽シリーズです。
講談社版文庫版の「団十郎切腹事件」もその次の「グリーン車の子供」も読んだことがあるのですが、2007年から全集というかたちで創元推理文庫から全5巻で刊行されだしたので、うれしくなって老後の楽しみにとっておこうと思いながら買い込みました。老後の楽しみのはずが、つい気になって2017年10月に引っ張り出して読んでしまいました。
堪能しました!
歌舞伎役者を探偵役にしているだけあって歌舞伎界が舞台になっていることが多いですが、それだからというだけではなく、全体のトーンが典雅というか「大人のミステリ」といった風格になっています。日下三蔵による編者解題では「滋味あふれる老優の名推理」と書かれています。
とはいえ、歌舞伎を知らなくても大丈夫、ちゃんとしっかり楽しめます。

「車引殺人事件」
「尊像紛失事件」
「立女形失踪事件」
「等々力座殺人事件」
「松王丸変死事件」
「盲女殺人事件」
「ノラ失踪事件」
「團十郎切腹事件」
「六スタ殺人事件」
「不当な解雇」
「奈落殺人事件」
「八重歯の女」
「死んでもCM」
「ほくろの男」
「ある絵解き」
「滝に誘う女」
「加納座実説」
「文士劇と蠅の話」
と18編も収録されています。

ミステリデビュー作でもある「車引殺人事件」は、手堅い古典的トリックで(決して陳腐とは言いません!)「菅原伝授手習鑑」の「車引(くるまびき)」の最中舞台上で起きた変死事件を扱っています。
歌舞伎界を舞台にしているだけではなく、「車引殺人事件」同様、舞台上の事件や開演中の事件を扱っている作品が多いのはとても特徴的です。
続く「尊像紛失事件」もそうですし、「盲女殺人事件」、「六スタ殺人事件」、「奈落殺人事件」もそうです。舞台って、いろいろ危険なんですね(笑)。
個人的には「等々力座殺人事件」にびっくりしました。ここで「〇〇〇〇」(ネタバレにつき伏字)をやりますかぁ... 短い中にも割と忠実に「〇〇〇〇」を模したかのような仕掛けが入っていて楽しみました。

あとオリジナルの発表年(1958年~1960年)のおかげもあって時代色豊かなところも読みどころですよね。
「尊像紛失事件」で紙芝居を犯行時刻をつきとめる仕掛けにつかっているのにもニヤリ(ほかにも劇の進行度合いで時刻を特定する話もあちこちにあります)。
時代色とは言えないかも、ですが、「不当な解雇」にはルパシカ(346ページ)が出てきます。ルパシカ? 
ロシアの民族服の一つ。詰め襟,長袖,左前開きで腰丈の男性用上衣。襟や袖口や縁辺には刺繍が施されており,腰帯を締めて着用する。本来,厚地の白麻製で,ウエストを絞らずゆるやかでしかも暖かいのが特色であるが,近年はさまざまな生地が使われる。」らしいです。
「八重歯の女」には「やなあさって(明々後日)」(419ページ)という語が出てきます。こういうんですね。今だと、使っても通じないかも。
それぞれの物語は短いものなので、そんなに細かく詳細には書かれていないですが、数々の小道具(と言ってはいけないのかもしれませんが)で、臨場感たっぷりに時代色も、舞台も伝わってきます。
表題作である「團十郎切腹事件」では直木賞も受賞しています。
昔読んでいたのに、もうすっかり忘れていましたが、「團十郎切腹事件」はタイトル通りの團十郎の切腹の謎を解くだけではなく、ちょっとしゃれたエピソードが加えられていたんですね。こういう小粋なところがポイントかもしれません。
ミステリとして派手さはありませんが、いずれも小技は効いていますし、なによりも世界観がしっかり伝わってくるのが強みだと思いました。
シリーズ全巻買い揃えていますが、老後の楽しみといわず、ときどき取り出して読んでいきたいと思います。



<蛇足1>
「五二七九、二八二三九百、七九三三四、九九六三三四八、八七十三千四百」(410ページ)
というのが「八重歯の女」に出てきます。
「いつになく 庭に咲く桃 なくさみし 心さみしや 花と満ちしを」という歌で、四代目坂東三津五郎の戯作らしいです。すごい。

<蛇足2>
「ほくろの男」に
「都築という珍しい姓を書いた名札が貼ってある」(463ページ)
とありますが、都築ってそこまで珍しい名前ではないような気もします...
ミステリ作家に都筑道夫がいるからかもしれませんが...

<蛇足3>
「吉野君は、一生懸命、やってますがね」(439ページ)と「死んでもCM」に出てきますが、一生懸命...
この作品、初出は1960年なんですが、このころからこういう言い間違いが定着していたんでしょうか...
歌舞伎に詳しく、古典に精通していそうな戸板康二さんをもってして...うーむ、複雑です。




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時を巡る肖像 [日本の作家 た行]


時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/12/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
キャンバス越しに観察眼が見たものは…
フィレンツェで絵画修復技術を学び、ミケランジェロの天井画の修復工事にも参加経験を持つ主人公・御倉瞬介が巻き込まれる、名画に関わる不可解な事件。世界の文化遺産ともいうべき名画にまつわる、修復されない傷みに隠された「生と死」の謎を、キャンバス越しに冴えた観察眼で究明していく。驚愕の、柄刀美術ミステリーの傑作6編を収録する本格推理連作。


副題に「絵画修復士 御倉瞬介の推理」とあります。
シリーズになっていまして、この「時を巡る肖像」 (実業之日本社文庫)が第1作で、続いて
「黄昏たゆたい美術館―絵画修復士 御倉瞬介の推理」 (実業之日本社文庫)
「システィーナ・スカル - ミケランジェロ 聖堂の幻」 (実業之日本社文庫)
が出ています。
2015年10月に読んだ本でして、今あらためて感想を書こうとしたら、すっかり内容を忘れてしまっています。今回ぱらぱらと読み返してみて、主人公である御倉瞬介の設定がさっと思い出されました。
イタリア人・シモーナと結婚したけど死別して、7歳の子供・圭介を一人で育てている。家には家政夫・加護祥斎がいて家事を取り仕切ってくれている。瞬介は圭介を仕事場に連れて行くこともある。

連作短編集でして、六話収録。各話のタイトルページに絵が掲げられています。
「ピカソの空白」…ピカソ「犬と少年」
「『金蓉』の前の二人」…安井曾太郎「金蓉」
「遺影、『デルフトの眺望』」…フェルメール「デルフトの眺望」
「モネの赤い睡蓮」…モネ「睡蓮」
「デューラーの瞳」…デューラー「自画像」
「時を巡る肖像」…この作品にはなし。

それぞれかっちり作ってあるんですが、ミステリとしては印象が薄い。
農薬には強烈な匂いと苦味があることを逆手にとった「モネの赤い睡蓮」とか、大がかりなトリックを持ち込んだ「デューラーの瞳」とか、印象に残ってもよさそうなんですが、覚えていなかった(こちらの記憶力がひどい、ということもありますが)。
せっかく絵画修復士を主人公(探偵役)にして、名画も登場させるんだから、絵画修復士ならではの謎解きを見せてほしいと思うんですが、なかなかねぇ。名画の解説とか巨匠をめぐる考察も、事件や謎解きとさほどリンクもしない。ミステリとしては残念なポイントです。
一方で、人物設定はすぐに思い出したんです。シモーナと瞬介をめぐるエピソードは印象深い点があちこちにあります。
たとえば、
「彼女は、恋愛を加速させるのは“悔い”なのよ、と言っていた。それを形にするのも、質を量るのも“悔い”なの、と……」(83ページ)
「向こうの家族の同意を得て、火葬にしましたから、遺灰を少し手元に残してありましてね、幾つかあるあのデルフト焼の壺におさめてあるのですよ。家のいろいろな場所で、圭介の姿を観たり、声を聞いたりできるように」(189ページ)
彼らにはまた会いたいですね。
それに、ミステリとの結びつきには不満を持つものの、名画や巨匠をめぐる考察がとてもおもしろいのです!
例によってよたよたとではありますが、シリーズは続けて読んでいきたいな、と思います


<蛇足>
「睡蓮を描き続けて、そこに“船”見た。」(262ページ)
とありますが、そこに“船”見た、ですよね...

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仮面病棟 [日本の作家 た行]

仮面病棟 (実業之日本社文庫)

仮面病棟 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 知念 実希人
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
強盗犯により密室と化す病院
息詰まる心理戦の幕が開く!
療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る―。閉ざされた病院でくり広げられる究極の心理戦。そして迎える衝撃の結末とは。現役医師が描く、一気読み必至の“本格ミステリー×医療サスペンス”。著者初の文庫書き下ろし!


5月に読んだ8冊目の本です。サイン付きの本を紀伊国屋書店で買いました。知念さんの本を読むのは初めてです。

話題作、というのでしょうか。少し前まで本屋さんで大きく平積み展開されていました。
帯に「怒涛のどんでん返し!! 一気読み注意!」と書いてあります。
一気読み、しました。おもしろかったですね。
ただ、確かにどんでん返しが仕掛けられていますが、あまりどんでん返し、どんでん返しと声高に宣伝してまわらないほうがいい作品ではないかと思いました。

病院を舞台に、一晩の出来事を描いたスピーディな作品です。
ピエロのマスクをかぶった男が、人質連れで病院へやってきて立て籠もる。
単なる立て籠もりかと思いきや、途中、病院の抱える秘密が暴かれていく...

このあたりでミステリを読みなれている読者であれば仕掛けに見当がついてくるんじゃないかと思います。

一方でちょっと安直かな、と思うところもないではないですが、非常にスピーディーな中で、よく考えられていると思いましたし、楽しい作品でした。
また、物語の展開上あまり意識されないのかもしれませんが、「そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)」のバリエーションになっているのでは、と思いました。あるいは「十角館の殺人 (講談社文庫)」のバリエーションというほうが近いかもしれません。(ともに、書いてしまっても妨げにはならないと思いましたが、予断を与えないよう為念伏字にしておきます)
この辺も実は読みどころなのではないかと思いました。

知念さんのほかの作品もぜひ読んでみたくなりました。


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ボランティアバスで行こう! [日本の作家 た行]


ボランティアバスで行こう! (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ボランティアバスで行こう! (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 友井 羊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
東北で大地震が発生した。多くの支援活動が行われるなか、大学生の和磨は、バスをチャーターして援助活動に参加する「ボランティアバス」を主催することに。行方不明になった父親の痕跡を探す姉弟に出会う女子高校生の紗月。あることから逃亡するため、無理やりバスに乗り込んだ陣内など、さまざまな人がそれぞれの思惑を抱えてバスに乗り合わせるが……。驚きのラストが感動に変わる!


「僕はお父さんを訴えます」 (宝島社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で第10回このミステリーがすごい! 大賞優秀賞を受賞してデビューした友井羊の第2作です。
前作の感想で
「次作が楽しみだと思いました」
なんて生意気をことを書いてしまったのですが、楽しみにしていたので買いました。
帯の惹句がすごいんです。いわく、
「どんでん返しを見事に決めた傑作」
ダ・ヴィンチ2013年11月号に掲載された千街晶之のコメントを引用したもののようですが、どんでん返しで傑作、ときたらミステリファンとしては読まずには...
読み終わっての感想は、確かにどんでん返しはあるものの、それをあからさまに「売り」にしないほうが良い作品なのではないだろうか、というものでした。
日常の謎といってもよいような謎解きの連なる連作なのですが、どんでん返しがある、と思って身構えて読むと、この作品で用意されているどんでん返しは新味のあるものではなく、事前に気づく人も多いと思われますし、仮に気づかずに明かされてもさほど驚かないと思われるからです。

どんでん返しそのものよりも、どんでん返しを通してボランティアというテーマ、恩送りというテーマが浮かび上がって来ることの方が重要なポイントなのだと思いました。
「恩送り、という言葉があるそうだ。誰かから受けた恩をその人に返すのではなく、他の人に送るという言葉らしい。」(P.87)
と早い段階でさらっと書かれていますが、難しいボランティアというテーマを印象付けるのに非常に効果的です。

連作という体裁で、いろんな立場のボランティアが登場しますし、ボランティアと地元の被害者の方々とのやりとりも描かれます。
ボランティアが抱える問題やいいところが、手際よく紹介されていきます。
それだけでも十分な作品に仕上がったと思いますが、どんでん返しを仕掛けることで、さらに印象が強くなったように思います。
あまり書くとネタバレになってしまいますが、どんでん返しがあることで物語が重層構造となり、その重層構造そのものが「ボランティア」の本質(?) をついている、ということではないでしょうか?
募金や寄付をするだけで実際のボランティアをやったことのないものがわかったようなことを書くことはよくないのかもしれませんが、ミステリ好きが本書を読んで、そんなことを考えました。


タグ:友井羊
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ミレイの囚人 [日本の作家 た行]


ミレイの囚人 (光文社文庫)

ミレイの囚人 (光文社文庫)

  • 作者: 土屋 隆夫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2000/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
推理作家・江葉章二は、大学時代に家庭教師をしていた、白河ミレイに、監禁されてしまった。江葉の足には、重りの付いた鎖が……。彼が監禁されているとき一人の新人作家が殺された。現場に残る謎。殺人者はだれだ? 江葉はどうなる?
事件の結末は、恐ろしく、そして悲しい過去に遡る。そこには非道な犯罪に対する底知れぬ怒りがたぎっていた……。


引っ越し効果とでも言うのでしょうか。引っ越し前は、本棚の奥の方にひっそり追いやられていた本が、引っ越したらどこになにがあるかわからないので逆に表の方へ出てきます。
この「ミレイの囚人」 (光文社文庫)もそんな一冊。
土屋隆夫を読むのは、いつ以来でしょうか?? 手元の記録をみると2009年に「華やかな喪服」 (光文社文庫)を読んでいますね。意外と最近。
7年ぶりの土屋隆夫となるわけですが、この「ミレイの囚人」 は単行本が出たのが1999年。文庫が出たのが2000年ですから、ずいぶん古い本ですね。
端正な本格推理で昔は好きで読んでいたのですが、やはり古めかしいですね。

この作品を書かれたとき、作者は82歳だった、ということで、すげーって感じはしますが、古めかしいのは古めかしい。
冒頭、かなりおっさんくさい作家の視点で物語が始まるのですが、その江葉の年齢が32歳(14ページ)。こんなに老けた32歳、いますか?

作家が閉じ込められる、というのは「ミザリー」 (文春文庫)ですが、あちらはホラーで、こちらは本格ミステリ。ずいぶん手触りが違いますね。
本格ミステリに転じてからの謎解きは、ちょっとアンフェアというか、バカミスというか...楽しみましたけど。
なにより、途中まで読んだところで、「犯人は××なんじゃないの?」と思ったら、その通りだった、という個人的には脱力感あり、だったのですが、この作品のポイントはそっちよりもむしろ叙述にあると思います。
叙述トリック、というほどの仕掛けではないのですが、土屋隆夫にしては珍しい(?) 流れに注目です。
文中に、神の視点ともいえる作者の視点があちこちに顔を出すのに違和感を感じていたのですが、これも土屋隆夫による「仕掛けがあるよ~」というメッセージだったのでしょうね。

一時期(この作品が発表された頃なのかもしれませんね)ミステリで流行った◯◯法の問題を扱っているところも、作者の年齢を考えるとすごいことですね。ありきたりの主張であっても、貪欲に自らの作品に取り込んでいく心意気がいいですね。
でも、考えてみれば、「盲目の鴉」 (光文社文庫)の犯人像の裏返しともいえるメッセージですから、流行りを取り入れた、というよりは、もともと土屋隆夫がもっていた問題意識を作品に盛り込んだ、ということなのかもしれません。

土屋隆夫は、このあと、
「聖悪女」 (光文社文庫)
「物狂い」 (光文社文庫)
「人形が死んだ夜」 (光文社文庫)
と発表しているのですが、いずれも買えていません。
絶版になっているようなので、買っておけばよかったかなぁ。

タグ:土屋隆夫
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機龍警察 [日本の作家 た行]


機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/03/19
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
大量破壊兵器の衰退に伴い台頭した近接戦闘兵器体系・機甲兵装。『龍機兵(ドラグーン)』と呼ばれる新型機を導入した警視庁特捜部は、その搭乗要員として姿俊之ら3人の傭兵と契約した。閉鎖的な警察組織内に大きな軋轢をもたらした彼らは、密造機甲兵装による立て篭もり事件の現場で、SATと激しく対立する。だが、事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていた……“至近未来”警察小説を描く実力派脚本家の小説デビュー作!


この文庫本を買って積読にしてぼやぼやしている間に、「機龍警察〔完全版〕」 (ハヤカワ・ミステリワールド)なんてものが出てしまいました。
なので、この感想は文庫本である旧版のものです。

あらすじにもありますが、警察で機甲兵装に搭乗してうんぬんかんぬんって言ったら、これはゆうきまさみの「機動警察パトレイバー」 (小学館文庫)ではありませんか。ああ、懐かしい。
しかし、コミックではない、小説で? うーん、と思って読みましたが、いや、ちゃんとおもしろかったですね。
付け加えておくと、(当然ながら)「機動警察パトレイバー」とはテイストがずいぶん違います。

機甲兵装は「龍機兵」
特捜部がSIPD (Special Investigators, Police Dragoon)

警察小説の枠組みで書かれているのがまず第一のポイント。
そしてその機甲兵装(警察の隠語では、キモノ)に乗るのが、傭兵--すなわち警察プロパーでないというのが第二のポイントですね。

正直読む前は、アクションに傾斜した雑なつくりの小説かも、なんて思っていたのですが、たいへん失礼しました。
定型といえば定型かもしれませんが、3人の傭兵が過去も含めそれなりに描かれていて(それなり、というのは巻を追うごとにもっともっと深掘りされていくのだろうなと思えたからです)、既存の警察組織や警察官との摩擦もきちんとフォローされています。
そして、魅力は文体ですね。きびきびしていて、心地よいテンポ。緊迫したシーンと、緩んだシーンの緩急もついて、リズムよく読めます。
これらのことが、第1章(この文庫で62ページまで)を読むだけでわかります。
派手な戦闘は冒頭とラストだけで、途中はちゃんと警察捜査になっているのも、ミステリ好きにはポイント高い。

とても面白かったですが、この「機龍警察」は、
「機龍警察 自爆条項」〈上〉  〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
「機龍警察 暗黒市場」 (ミステリ・ワールド)
「機龍警察 未亡旅団」 (ハヤカワ・ミステリワールド)
「機龍警察 火宅」 (ハヤカワ・ミステリワールド)
と続いていくシリーズの導入部、いわばご紹介といった感じなので、続きを読むのが楽しみです!



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シチュエーションパズルの攻防 [日本の作家 た行]


シチュエーションパズルの攻防 (創元推理文庫)

シチュエーションパズルの攻防 (創元推理文庫)

  • 作者: 竹内 真
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/02/27
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
銀座の文壇バー『ミューズ』に夜な夜な現われる大御所ミステリー作家・辻堂珊瑚朗。普段はホステスにちょっかいを出しながら葉巻と酒を楽しむサンゴ先生だが、一度不思議な謎に遭遇すると、さりげなく推理を披露する。ライバル作家と競う推理ゲームの顛末、男女の駆け引きに絡む謎など五つの事件を、ボーイの「僕」の視点から軽やかに描く、遊び心あふれる安楽椅子探偵ミステリー。


タイトルにもなっているシチュエーション・パズルというのは、wikipedia から引きましょう。
「シチュエーションパズルは通常何人かのグループで遊ぶ。一人が問題を出し、他の人はイエス(はい、肯定)・ノー(いいえ、否定)で答えられる質問を出す(場合によっては「関係ありません」などのイエス・ノー以外の答もあり得る)。質問者は、出題者が考えているストーリー、あるいは物を推測して語る。それがすべての謎を説明できたとき、このパズルは解けたことになる。」

裏表紙側の帯に、各話の紹介があります。
街角でホステスが目撃した、拉致事件の真相は? 「クロロホルムの厩火事」
差出人不明のFAXを元に、ライバル作家と推理ゲームを繰り広げる。 「シチュエーションパズルの攻防」
大御所作家ふたりを手玉に取って姿を消した、銀座一のホステスの伝説を追う。「ダブルヘッダーの伝説」
若き日のサンゴ先生とミーコママが遭遇した名画盗難事件の謎。 「クリスマスカードの舞台裏」
文壇バー『ミューズ』を訪れるひとりの紳士。彼の抱える悩みとは。 「アームチェアの極意」

こういうクイズを扱う作品は難しいのですね。
なんだかおもしろそうに思って手に取ったのですが、結論からいうと、期待外れでした。
かなり手のかかった作品だとは感じるのですが、それを素直にそのまま楽しむことはできませんでした。

シチュエーションパズル自体が試行錯誤を楽しむものであるため、結論に至っても鮮やかな推理とはいきませんし、舞台を銀座のバーに設定していることもあって、謎を解くよりもどう落としどころを見つけるか、ということに気を付ける必要もあります。
であれば、大人の物語になるか、というと、確かにそういう側面もないではないですが、人物の書き込みもさほどなされているわけではないので(なにしろ各話短いです)、そこにまでは至っていない。
全般的に中途半端な印象で終わってしまいました。

登場人物はかなり気に入ったんですが。
サンゴ先生って、北方謙三みたいだし、とすると、藤沢先生はやはり(何がやはりだ!?)大沢在昌?




タグ:竹内真
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僕はお父さんを訴えます [日本の作家 た行]


僕はお父さんを訴えます (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

僕はお父さんを訴えます (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 友井 羊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/03/06
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学一年生の向井光一は、同級生の原村沙紗と犯人捜しをはじめる。「ある証拠」から実父に疑念を持った光一は、司法浪人の友人に教わり、実父を民事裁判で訴えることを決意する。周囲の戸惑いと反対を押して父親を法廷に引きずり出した光一だったが、やがて裁判は驚くべき真実に突き当たる!


昨日の「弁護士探偵物語 天使の分け前」 (宝島社文庫)が大賞を受賞したときの「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作です。
この年は、大賞作にも優秀作にも法廷が出てきたんですね。

まず、「僕はお父さんを訴えます」というキャッチーなタイトルがなかなかよいではないですか。
タイトルをみたとき、どういう話になっているんだろう、といろいろと想像したんですが、あらすじを読んでびっくり。タイトル通り、息子が父親を民事で訴える。なんとまあ、ストレートな。
中学一年生が、父親を訴える、というのは、あちこちに無理がありそうです。ちょっと危ないところもありますが、訴訟に持ち込むまで、それなりに丁寧に、130ページまで描かれていきます。ここが結構楽しい。

ミステリとして作品を構成する以上このまま単に民事裁判を進めていっても意外性はないので、作者は何を仕掛けているのかな、と想像しながら読んでいくことになるわけですが、そう考えると逆に作者の狙いに見当がついてしまいます。
かなりあからさまな部分(伏線?)もありますし、ミステリを読み慣れた人にとっては、この結末は「驚くべき真実」ではありません。でも、そこへ至る道筋が楽しい。
その意味では、帯に書かれた乙一の
「想像の斜め上! 僕はこの本を推薦します。」
という推薦文が光っていますね。
想像を超えている、と言い切るのはちょっとためらってしまいますが、想像の範囲内でつまらない、というわけでもない。「斜め上」って、ステキな表現だと思います。

とても重苦しいラストではありますが、全般的にあっさりした筆致で、主人公の光一を取り巻く人間もそれなりに個性的に描かれていますし、次作が楽しみだと思いました。


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ちみどろ砂絵 くらやみ砂絵 [日本の作家 た行]


ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ〈1〉 (光文社時代小説文庫)

ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵―なめくじ長屋捕物さわぎ〈1〉 (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 都筑 道夫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/10/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
江戸は神田の橋本町、貧乏長屋に住まう砂絵かきのセンセーを始めとしたおかしな面々が、わずかな礼金めあてに、奇妙奇天烈な謎を解く異色の捕物帳シリーズ!  四季折々の江戸の風物を織り込み、大胆かつ巧緻な構成で展開する探偵噺は、時代小説のみならず本格ミステリーファンをも夢中にした傑作揃い。その名作が装いも新たに、ボリューム満点の二冊合本で刊行。


この「なめくじ長屋」シリーズは、都筑道夫の高名な捕物帳です。
以前、角川文庫に収録されていましたが、その後光文社文庫に収録され、2010年に合本して全6巻にまとめたものの第1弾がこれです。
角川文庫版で「血みどろ砂絵」(角川文庫版では、“血”が漢字でした)も「くらやみ砂絵」も読んでいますが、本屋に並んでいるのを見て、すごく懐かしくなりました。
実は「小梅富士」を読み返してみたくて、たしか最初の巻に入っていたよな、と思ってこの「ちみどろ砂絵・くらやみ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ〈1〉」 (光文社時代小説文庫)を中身も確かめもせず買ったのですが、記憶違いで、「小梅富士」が入っているのは第3巻の「からくり砂絵」のようで、次の「からくり砂絵 あやかし砂絵」 (光文社時代小説文庫)を後日買いました。
ということで、せっかく買ったので予期せぬ再読となった「ちみどろ砂絵 くらやみ砂絵」 ですが、いやあ、やはりおもしろかったですね。

「ちみどろ砂絵」の方は
渡し舟での人間消失を扱う、第一席 よろいの渡し
女の着物を着た男の首なし死体を扱う、第二席 ろくろっ首
とある商家から風呂桶を盗み出してくれと言われる、第三席 春暁八幡鐘
番頭を切り付けた手代が倉から消えてしまう、第四席 三番倉
本所七不思議の見立て殺人、第五席 本所七不思議
博打のかたにとられた妾を旗本屋敷から取り返すよう頼まれる、第六席 いのしし屋敷
心中相手が店に来たときの姿と違い老婆に代わっていたという、第七席 心中不忍池

「くらやみ砂絵」は
父子がそれぞれ相手を呪い殺そうとする、第一席 不動坊火焔
通夜の席で客が刺殺され、もとの死体が消えてしまう、第二席 天狗起し
見世物小屋の女太夫の内腿に浮かび上がる殺人予告、第三席 やれ突けそれ突け
手妻師と砂絵のセンセーの対決から意外な方向へ話が転がる、第四席 南蛮大魔術
火の見櫓で半鐘が鳴ったが火事はなく、鳴らし手が殺された、第五席 雪もよい明神下
役者絵を付けた羽子板が切り裂かれ、その役者が殺されていく、第六席 春狂言役者づくし
質屋に入った盗人はその時点で既に死んでいたはずという、第七席 地口行灯
とそれぞれ7話収録です。

ミステリとして不可能興味も満載ですし、シリーズ物といってもワンパターンではなく、事件も、なめくじ長屋の連中の事件へのかかわり方もそれぞれ工夫が凝らされています。
たとえば、解説で都筑道夫自身のコメントを引いて触れられていますが、最後の「地口行灯」はダイイング・メッセージを取り扱っていますが、唖然とするくらい素晴らしいアイデアです。
各話短い中にも趣向盛りだくさん。
脱奴(ぬーど)、巣乱(すらむ)、蕃拉布(はんかちーふ)、書場簾(かんばす)、倶游夫(ぐるーぷ)、混凝土(こんくりいと)、娯知譜(ごしっぷ)、破落窟(ばらっく)などなど、地の文で見られる言葉遊びもやはり楽しいです。

さて、次は待望の(?)「小梅富士」収録の「からくり砂絵 あやかし砂絵」 です。
とはいえ積読という悪い癖のせいで、いつになることやら....


<おまけ>
211ページに
「とんでもございません」
というセリフが出てきます。
「とんでもない」で一語なので「とんでもございません」というのは間違いで、「とんでもないことでございます」というべき、と教えられてきましたが、都筑道夫ほどの作家がこう書くと、「とんでもございません」というのも間違いではなかったのか、と思えてしまいますね。


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名前探しの放課後 [日本の作家 た行]


名前探しの放課後(上) (講談社文庫)名前探しの放課後(下) (講談社文庫)名前探しの放課後(下) (講談社文庫)
  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/09/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
依田いつかが最初に感じた違和感は撤去されたはずの看板だった。「俺、もしかして過去に戻された?」 動揺する中で浮かぶ一つの記憶。いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに相談を持ちかける。「今から俺たちの同級生が自殺する。でもそれが誰なのか思い出せないんだ」二人はその「誰か」を探し始める。 <上巻>
坂崎あすなは、自殺してしまう「誰か」を依田いつかとともに探し続ける。ある日、あすなは自分の死亡記事を書き続ける河野という男子生徒に出会う。彼はクラスでいじめに遭っているらしい。見えない動機を抱える同級生。全員が容疑者だ。「俺がいた未来すごく暗かったんだ」 二人はXデーを回避できるのか。 <下巻>


過去に戻される、というギミックを前提として、自殺する同級生を探して自殺を食い止める。
こういう設定は、やはり学生生活を舞台にするのがふさわしいですね。
読んでいる途中、読者はなにやら違和感を覚えるというか、ひっかかるところを感じると思います。
作者は、丹念に、丹念に、人物紹介を重ねていきます。
なので、ミステリを読み慣れている方なら、真相はわりと簡単に見当がつくと思います。
でも、これが実にいい。
表面の物語も十分楽しめますし、上に書いた“真相”をベースにしても、高校生の気持ちは心地よい。
主人公のいつか、気に入りました。こんなに見た目もよくて、スポーツもできるやつ、あまりにも自分とかけ離れているのですが、なんとなく感情移入。

と、こう読み終わってもよい、十分楽しい作品だと思うのですが、作者はもう一つネタを抛り込んでいます。
ネタバレになると思うので、下の方↓に畳んでおきます。
ただ、「ぼくのメジャースプーン」(講談社文庫) を読んでいないとわからない内容なので、この名前探しの放課後(上) (下) を読む前に、「ぼくのメジャースプーン」 を読んでおいた方がよいと言っておきます。


<蛇足>
本書の章題、名作のタイトルが並べられています。
第一章 秘密の花園
第二章 裸の王様
第三章 オオカミ少年
第四章 エーミールと探偵たち
第五章 星の王子さま
第六章 みにくいあひるの子
第七章 白雪姫
第八章 失われた時を求めて
第九章 クリスマス・キャロル
第十章 青い鳥
そして最後
第十一章 石のスープ
この石のスープだけ、知りませんでした...


ネタバレになると思うので、ここに畳んでおきます。


タグ:辻村深月
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