So-net無料ブログ作成
検索選択
日本の作家 な行 ブログトップ
前の10件 | -

夏服パースペクティヴ [日本の作家 な行]


夏服パースペクティヴ (角川文庫)

夏服パースペクティヴ (角川文庫)



<裏表紙あらすじ>
都筑台高校2年生にして弱小映研部長の遊佐渉は、気鋭の映像作家・真壁梓が夏休みに企画した撮影合宿に参加することに。しかし、キャストの女子生徒が突然倒れ込む。なんとその胸にはクロスボウの矢が深々と突き刺さっていた。セミドキュメンタリーの撮影現場で起こる虚構の殺人が、いつしか本物の惨劇へ。交錯する思惑、驚愕のトリック、慟哭の真実。“美少女”探偵・樋口真由が、難攻不落のクローズド・サークルに挑む!


「燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら)に続いて今年3月に読んだ本7冊目で、3月最後の本です。
横溝正史ミステリ大賞「消失グラデーション」 (角川文庫)に続き、樋口真由を探偵役としています。

文庫のカバーには、
樋口真由“消失”シリーズ 少女洋弓銃殺人事件
と書かれています。“消失”シリーズっていうんですか...消失と通してつけるのは違和感があるなぁ、と最初思ったのですが、読後はなるほど、と思えました。ただ、この後もシリーズを消失とつけられるかは疑問を感じますが...
あと、少女洋弓銃殺人事件って、サブタイトルなのかな、と思ったんですが、書いてあるのはカバーにだけで、文庫本本体にはどこにも書いてないんですね。不思議。

それにしても、樋口真由を探偵役とするシリーズが読めるなんて...「消失グラデーション」を読み終わった時には、魅力的な探偵役ではあるけれど、ラストからしてシリーズ化は無理だろうなぁ、と思っていたんですが、なるほどねー、時代(時間)を遡りましたか。時系列的に、本書「夏服パースペクティヴ」は、「消失グラデーション」よりも前に起こった話なんですね。
ということは、樋口真由は転校したんですね、高校生で。
まあ、時代を遡ったところで、シリーズ化が簡単になるわけではなく、作者の筆の冴えというか、苦労しているところがわかってそういう楽しみ方もシリーズ読者にはありました(もっとも、「消失グラデーション」を読んだ身からすると、あれっ、いいのかなと思うところもあって、たとえばラストの1行なんてものすごーく意味深なんですけど...)。

さっと上で引用したあらすじを読んでから本書に取り掛かったのですが、オープニングはあらすじとは大きく異なり、かなり残虐そうな事件からスタートします。
おいおい、と思っていると(あんまり残虐なものは好みでないので)、16ページからの第1章であらすじに記載された物語が始まります。よかった。(とはいえ、折々、残虐な感じのエピソードがつづられるのでそこはちょっと警戒しながらお読みください)
あらすじにも触れてありますが、虚構を作り上げる最中の現実で起こる殺人、というのは、実はあんまり好きじゃないプロットなんですよね。
よほどうまく組み立ててもらわないと、虚構サイドのストーリーや事件が、現実サイドのストーリーや事件をわかりにくくするためだけのものになってしまうことが多いからです。
で、「夏服パースペクティヴ」の首尾はどうだったかというと、さすがは「消失グラデーション」の作者だけあって、周到です。「うまく組み立て」られた作品ですね。
この種の作品では当たり前のことですが、現実と虚構がきちんとリンクしています。現実の謎解きが、虚構の仕掛けと不可分になっているところは、とてもいいです。

ではありますが、全体としての建付けを考えると、ちょっと冗長になったかなぁ、と思います。
虚構と現実に加えて、過去の事件の関係者が現在の誰に相当するか、ということまで盛り込んであるので、なかなか窮屈です。
前半ゆったり進むのは、このあたりを踏まえて、読者に登場人物をきちんと印象付ける目的があるのだと思いますが、そしてそのことは、青春小説としての色合いを打ち出すのにも役立ってはいるのですが、それでもやはり、長いかな、と感じました。
ミステリとしては、早めに事件が起こったほうが、なにかとね。

とはいえ、巧緻というか精緻というか、非常に練りこまれた作品だと感じ入りました。
この作者の本は続けて読んでいこうと思います。


「消失グラデーション」のときに続き、ここでもリンクを貼っておきます。(またもや勝手リンクです。すみません)
a picture is worth a thousand words
*the long fish*
また、以下のブログにトラックバックしています。
積読本は積読け!!
とある暇人の感想日記


<蛇足1>
177ページに、「位置シーン」と書いてあるのは、「一シーン」のタイプミスですね。

<蛇足2>
「全裸探偵」というふざけた作中作が挿入されるのですが、その作中作について
「解決自体はロジカルな手順が踏まれしっかりと描かれていた」(302ページ)
と僕の視点で評されるのですが、うーん、作中作も一部だけだからなんとも言えないのかもしれないけれど、見た感じそれほど「しっかり」とは思えませんでした。自画自賛はほほえましかったですが。




nice!(10)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

魔女は甦る [日本の作家 な行]


魔女は甦る (幻冬舎文庫)

魔女は甦る (幻冬舎文庫)



<裏表紙あらすじ>
元薬物研究員が勤務地の近くで肉と骨の姿で発見された。埼玉県警の槇畑は捜査を開始。だが会社は二ヶ月前に閉鎖され、社員も行方が知れない。同時に嬰児誘拐と、繁華街での日本刀による無差別殺人が起こった。真面目な研究員は何故、無惨な姿に成り果てたのか。それぞれの事件は繋がりを見せながら、恐怖と驚愕のラストへなだれ込んでいく……。


ようやく、引っ越し荷物の中で、読了後の本を詰めた段ボールが見つかりました。なので、以前読んだ本の感想も書いていきます。

この「魔女は甦る」 は作者の中山七里が「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)で第8回このミステリーがすごい! 大賞を受賞する前に、第6回このミステリーがすごい! 大賞に応募した作品を改稿したもの、とのことです。
いろいろなジャンルの作品を書いている中山七里ですが、この作品のジャンルは、広義のミステリーではあっても、どちらかというとホラー??
最初の方は、冒頭の凄惨な殺人の捜査、という趣きではじまるのですが、事件の黒幕と思しき怪しげなドイツの製薬会社と閉鎖された研究所が出てきて、このあたりで、なんとなく事件の真相の見当がついてしまいます。
さて、ここからどうやって展開していくのかなぁ、と思うところで、ずずーっとサスペンスというか活劇に転じているのがポイントですね。

ヒッチコック映画に似ている、という指摘もありそうですが(作中でも言及されます)、あちらはヒッチコック自身が理由がわからないから怖い、と言っているのに対して、こちらは理由がわかっても怖いよ、と中山七里は言いたいのかもしれませんねぇ。
ただ、この作品を読んでみた感想としては、理由がわかっても怖いことは怖いのですが、怖さの質が変わってしまったように思います。
得体のしれない怖さ、だったものが、単に物理的に怖い(力の強いもの、素早いものが怖い)というふうに。その意味では、幽霊の正体見たり...

タイトルの魔女というのは、被害者が言った言葉
「僕だって魔女の末裔ですよ」
から来ていますね。
この作品でいう魔女は、一般的な魔女のことを指します。
「薬草の調合、災厄封じの祈り、天からの神託。そういったものが最先端の技術であった頃、魔女と称された者たちはその道のスペシャリストだったんですね。彼女たちは土着の医者であり、気象予報士であり、為政者の助言者、信仰の司祭だった。言い換えれば現代に続く職能者の始祖で、薬剤師もその一つでしょう」(91ページ)と説明されています。
そしてまたそれを受けて、ラスト近くで主人公の刑事槇畑が言います。
「これは現代の甦った魔女の物語だ。人間不信に陥っていた◯◯◯という魔女の末裔が、その怨念から人の世に災いを為すような呪いをかけてしまった。」(◯◯の部分はネタバレなので伏せておきます)
「人が憎悪の呪縛から逃れられない限り、魔女はいつでも何度でも甦る」(361ページ)
結局怖いのは人、なんですねぇ。

この作品には続編「ヒートアップ」 (幻冬舎文庫)があります。
そちらも読んでみようと思います。



タグ:中山七里
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

百瀬、こっちを向いて。 [日本の作家 な行]


百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

百瀬、こっちを向いて。 (祥伝社文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2010/08/31
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは――。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。
「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった……!」
恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。


解説で、瀧井朝世が、中田永一が覆面作家であること、そして「現在もなおその素顔は明かされていない」と書いていますが、現段階では公開されているのでここでも書いてしまいますが、中田永一が、乙一の別名義だということ、知らなかったんです。
なので、この「百瀬、こっちを向いて。 」は、映画にもなったし、本屋さんでどーんと積み上げられていたんですが、恋愛小説、というふれこみだし、スルーしていたんです。でも、乙一だとわかれば、話は別です。
ミステリであろうとなかろうと、乙一の本なら、読まねば。

表題作のほかに
「なみうちぎわ」
「キャベツ畑に彼の声」
「小梅が通る」
が収録されています。

表題作は、やはり乙一というか、現在と過去の話の切り替えのテンポが絶妙で、すっと世界に入り込めました。
かろうじてレベル1ではないだけのレベル2である底辺に近い僕が身代わりの恋人を頼まれて、「知らなけりゃよかった」気持ちを知ってしまう。
乙一らしい、「切なさ」があふれています。

「なみうちぎわ」は、1997年の9月から5年間昏睡状態だったわたしの物語。
当時16歳だったわたしは、小学六年生の男の子の家庭教師をしていた。5年後、小太郎は高校2年生。当時のわたしを追い越している。いまのわたしは21歳になっているけれど、気持ちは16歳。
これでだいたい想像つくでしょう?  はい、そういう話なんです。
でも、ほかの作家なら、こういう味わいにはなりません。

「キャベツ畑に彼の声」は、バイトテープおこしをした女子高生が、国語教師の本田先生が覆面作家の北川誠二であることを知ったことから始まります。
一種の叙述トリックのような効果が狙われていて、そしてそれが見事なくらいきれいに決まっていて、なのに、ちゃんと切ない。さすがです。

「小梅が通る」の主人公柚木は、美少女です。
でも、見事なまでに控え目というか、目立ちたくない性格で、「夕方からドラマの再放送があり、それをながめながらしぶいお茶を飲むのがわたしの日課である」(207ページ)なんていうありさまで、素顔を隠して変装で毎日すごしている。
「あなたのことを好きになる人なんていない。あなたにちかづく人は、あなたの顔が好きなだけで、あなた自身にはこれっぽっちも興味がないんだからね」と昔の友だちにいわれた言葉が、呪いとなっている。
そこに軽薄な山本寛太というクラスメートがぶつかってくる。後日、変装をとった柚木は、寛太と会ってしまい、とっさに柚木の妹・小梅だと嘘をついてしまう。
なんだか、よくある設定みたいに思うんですが、考えてみると、こういうのってなかったかも。似ているけど、違う。そして、その違うところが、ドラマを生む。
解説では、瀧井朝世が「(『小梅が通る』のほかは)終盤で意外な事実が明かされる、という展開が待っている」と書いていますが、個人的には十分意外性ありましたよ。

やっぱり乙一、いいですね。
中田永一名義の作品も、さらに別名義の作品も追いかけていきたいです。


nice!(21)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎 [日本の作家 な行]


山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎 (ポプラ文庫)

山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎 (ポプラ文庫)

  • 作者: 七尾 与史
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2012/06/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
山手線の電車内だけに現れるといわれる神出鬼没の名探偵――山手線探偵・霧村雨。彼を支えるのは、小学5年生の助手・シホと、見当違いな推理を働かせまくる自称作家の三木幹夫。彼らトンチンカン3人組が、日常の謎から殺人事件まで、どんな事件でも解決します!


まず目次がかわいいです。山手線の路線図(?)。
ページ順に並べ替えると
目白駅→大塚駅→日暮里駅→田端駅→恵比寿駅→上野駅→代々木駅→有楽町駅→駒込駅→新宿駅→東京
の順です。
ポプラ文庫で、若い人向けのイメージだしね。

ところが、オープニングがいきなり、ダークなシーン。
少年がホームから転落し、差し伸べられた男の手を振り払って電車に轢かれる、その一部始終をビデオカメラにおさめる大学生。
なんだ、なんだと思っていると、肝心の(?) 山手線探偵霧村雨(三十五歳)と助手(?)、広報担当(?) の小学生道山シホ、そして霧村の友人でミステリ作家の三木幹夫(ミキミキ)が登場して、ライトな感じになります。
「連続殺人、画期的な手口、意外な犯人、鮮やかな推理。下町情緒あふれる商店街にコロッケに犬に夕焼け! 人間ドラマもバッチリさ」(304ページ)
というところ!?
山手線を回るように、くるっと回ったように事件はつながって解決されていきます。

ラストでは、「国家の存亡がかかっておる」なんて、ジジイに次の事件を依頼されます。
それに、「シホと霧村さんの出会いのきっかけとなったあの事件。あの謎だらけの事件を解くために、シホは彼の助手になったのだ。あの事件の手がかりも真相も何から何まで山手線の中に隠されているのは間違いない」(314ページ)だなんて。そういうネタ振りは、もっと早くから小刻みにすべきですよ。

とはいえ、気になることは気になるので、続編を楽しみにします。
(シリーズは3巻で完結しているようです)



nice!(12)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

智天使(ケルビム)の不思議 [日本の作家 な行]


智天使(ケルビム)の不思議 (光文社文庫)

智天使(ケルビム)の不思議 (光文社文庫)

  • 作者: 二階堂 黎人
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/03/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
昭和二十八年、一人の金貸しが殺された。警察は没落華族の若い女とその家の元使用人を犯人と断定。だが、二人には難攻不落のアリバイがあり、事件は迷宮入りしてしまう。女は後に、一躍、人気マンガ家となるが、三十四年後、今度は彼女の元夫が不審死を遂げる――。二つの事件を追う名探偵・水乃サトルは、悪魔的な完全犯罪計画を見破れるのか? 究極の本格推理。


本書は、東野圭吾の「容疑者Xの献身」 (文春文庫)をめぐる論争に対する回答として書かれたそうです。
そのため「容疑者Xの献身」 を意識した人物配置、人間関係(要するに、“愛” ですが)が取られており、この影響で、いつもの水乃サトルものの軽さがかなり失われてしまっています。
いつもと仕上がり感が違うので、二階堂黎人としては異色の作品になっており、不思議な読みごたえは感じましたので、軽くないということは必ずしもマイナスではありませんが、個人的には、水乃サトルもののこの路線には疑問を感じます。水乃サトルものではない、単独作品にした方がよかったのでは?
ちょっと度を越して時代がかった感があるところは、二階堂蘭子シリーズとも共通する二階堂黎人の持ち味(≒通俗探偵小説風味)でもあるので個人的には楽しみましたが、“愛”という要素に絡めるとちょっと雰囲気が変わりますし、一般受けはしないのではと心配します(まあ、一般受けなど望んでおられないかもしれませんが)。

さて、二階堂黎人といえば、いつもトリックが素敵なのですが、今度はどうでしょうか?
冒頭に出てくる密室トリックはおまけみたいなものなので、これであれこれ言うと作者に気の毒だと思います。
眼目はやはり、アリバイトリックにあるのだと思うのですが、これはさすがにうまくいかないと思います。
事件が発生したのがさまざまな鑑定技術がいまほど発達していない1953年ということを考慮しても、つらいと思います。

ただ、「容疑者Xの献身」 を意識した形のトリックになっていることは、振り返ってみて楽しいな、と思いました。
紅白歌合戦を小道具に使っているのも、個人的には気に入りました(もっとも、個人的にはそのせいで仕掛けに気づきやすくなってしまいましたが)。
一方で、倒叙形式で犯人側の犯行を描いておくがゆえに、一層読者が真相に気づきにくくなる、という構図は、「容疑者Xの献身」 を踏襲したものと考えられますので、「容疑者Xの献身」 論争をめぐる回答としてはどうでしょうか? 違う構図で「容疑者Xの献身」 に勝負を挑むべきではなかったかと、そんな風に思います。

二階堂黎人らしさあふれるところと二階堂黎人らしくないところの入り混じったとても興味深い作品でした。

<おまけ>
本書は三部構成で
第一部 過去と現在 で 時代背景が1953~1954年と1984年
第二部 現在     で 時代背景が1987年
第三部 もっと現在  で 時代背景が1996年
となっているのですが、「もっと現在」って表現、どうですか?
言いたいことはわかりますが、作家の書く表現とは思えませんね...



nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

傍聞き [日本の作家 な行]


傍聞き (双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

  • 作者: 長岡 弘樹
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2011/09/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心揺さぶられる「傍聞き」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。まったく予想のつかない展開と、人間ドラマが見事に融合した4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞!


「迷走」
「傍聞き」
「899」
「迷い箱」
の4作収録短篇集で、表題作である「傍聞き」が日本推理作家協会賞の受賞作です。

解説でもいくつか引用されていますが、「傍聞き」、協会賞の選評でかなり褒められています。
「真相に至るキーワードを堂々と題名に掲げながら、なお読み手を欺く腕前に感服した。私自身、眉に唾して読んだのだが、まんまといっぱい食わされた。きれいな投げ技である。推理小説ならではの面白さを持ちつつ、家庭小説としての味わいも好ましく、読者を選ばない作品だろう。」(有栖川有栖)
「他の作品に比べて頭ひとつ分もふたつ分も抜きん出た作品だったからです。最後の最後まで、『傍聞き』というタイトルが生かされていた点についても、この作品しかないだろうと思って選考に臨みましたが、果たしてそのとおりになったことに選考委員として満足しております。」(北森鴻)
「『傍聞き』が高得点で抜きん出た。警察小説という枠組のなか、日常的犯罪の意外な犯人、犯罪者の心性、ヒロイン刑事の家庭問題などの要素を立体交叉させ、タイトルを生かした結末に運び、しかもそこに<救い>を読ませることに成功している。」(野崎六助)
「私は不勉強で『傍聞き』という言葉を知らなかったのだが、人の話をそばで聞くとはなしに聞くことを『傍聞き』と呼ぶらしい。
 この作品では『傍聞き』が前後三度出てくるのだが、そのバリエーションの見事さ、鮮やかな手際は、ほとんど名人芸といっていいほどに思う。繊細だし、なにより温かい。警察小説としても家庭小説としても人情小説としても抜群の出来ばえを見せている。
 ここ何年間、私が読んだなかで、優にベストと呼んでもいい作品で、あらためて短編小説のすばらしさを教えられた気がした。
 作者には最大級の敬意を表したい。」(山田正紀)
ただ一人馳星周だけが辛口で
「突出した輝きはない、が、瑕瑾がなく、よくまとまっている。総じて得票数も多かった『傍聞き』だ。
 わたし以外の選考委員たちがこの作品を受賞作にと口を揃えた時、わたしには反対する気持ちも理由もなかった。」
で、個人的な読後感は、実は馳星周に近いです。
まさに「突出した輝きはない、が、瑕瑾がなく、よくまとまっている」作品です。
こういう優等生的な作品、書くのは難しいのだろうなと想像はするのですが、わがままな読者としては、歪でもどこか強烈な印象を持った作品に惹かれてしまいます。

ほかの3作も、よく練られていると思いました。
「迷走」では救急救命士、「傍聞き」では刑事、「899」では消防士、「迷い箱」では更生保護施設長と、それぞれプロを主人公に据えているのも、最近そういう作例が増えてきてはいますが、ポイントだと思います。
ただ、よく練られているがゆえにでしょう、どことなく作り過ぎな感が...
ミステリで作り過ぎというのは決してマイナスではないと常々思っているのですが、あらすじでいうところの「人間ドラマ」と組み合わせると、ちょっと食い合わせが悪いのでしょう。

「傍聞き」で協会賞を受賞されたので、この方向で進んでいかれるのかもしれませんが、一度、ミステリに淫したような、作り過ぎ大歓迎という感じの作品も書いてみてもらいたいな、と思いました。


nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ミハスの落日 [日本の作家 な行]


ミハスの落日 (新潮文庫)

ミハスの落日 (新潮文庫)

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/03/29
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
一面識もない財界実力者に呼び出された青年ジュアン。訪れたミハスの地で明かされたのは、亡き母の記憶と、30年前に起きた密室殺人の真相であった。スペインを舞台にした表題作他、憧れの女性に裏切られ、殺意を抱いた男が予期せぬ殺人事件に巻き込まれる「ストックホルムの埋み火」など5編。本格ミステリ、警察小説、そして驚愕のどんでん返し。貫井徳郎の全てが詰まった短編集。


ミステリではもはや定番となった題材・テーマでも、とらえる角度を変えると新鮮に見えると思った「ミハスの落日」。
事件の謎解きそのものは、ちょっといかにもなトリック過ぎてあまり感心しなかったのですが、最後のエピソードが強烈に印象に残る「ストックホルムの埋み火」。
ありふれた(失礼!) 保険金詐欺と思える事件を切り口を変えて光をあてて、闇を浮かび上がらせる「サンフランシスコの深い闇」。
犯人が判明してからの会話のおそろしさにぞっとする「ジャカルタの黎明」。
外国人向けガイドが美しいアメリカ人女性客を手助けした結果の受難を描く「カイロの残照」。
の5編収録の短編集です。
各話のタイトルが、外国の地名+光・明かりに関する単語で統一されていて洒落ています。

いずれも中心的に語られるストーリー展開の横(だか斜めだかわかりませんが)に、趣きある物語が隠されているという特徴があると思いました。
たとえば表題作は、あとがきで作者自身が書いているように「この作品のトリックは、まともに書いていたら噴飯ものでしかない」ものですが、それを物語の中に組み込んで、全体の構図に奉仕するかたちになっているところがポイントなのだと思います。

こういうタッチの作品、また書いてもらいたいです。
タグ:貫井徳郎
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

死亡フラグが立ちました!  カレーde人類滅亡!? 殺人事件 [日本の作家 な行]

死亡フラグが立ちました! ~カレーde人類滅亡!? 殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

死亡フラグが立ちました! ~カレーde人類滅亡!? 殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 七尾 与史
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/11/06
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
廃刊寸前のオカルト雑誌「アーバン・レジェンド」の編集長・岩波美里は頭を悩ませていた。謎の殺し屋を追った「死神」特集が大コケした責任を問われた彼女は、新しい題材を探すようライターの陣内に命じる。ネットで話題になっている呪いの映像の真相を追い始めた陣内は、恐ろしい人類滅亡計画に辿りつき……。「死神」に狙われながらも計画を防ごうと奮闘する陣内と天才投資家の本宮の運命は!?

「死亡フラグが立ちました!」 (宝島社文庫) (感想へのリンクはこちら)が帰ってきました。帰ってきた、どころか、もうさらに次の作品「死亡フラグが立つ前に」 (宝島社文庫)も出ています。
(ちなみに、前作「死亡フラグが立ちました!」 の感想ページは、このブログの中でしばらくアクセス数が一位でした。気になっている人、多い作品なんですね)
前作の感想で「B級というか、ドタバタというか、ハチャメチャというか、勢いで勝負! みたいな印象を受けます。」と書きましたが、その傾向は引き続き健在です。
一方、前回は副題「凶器は…バナナの皮!? 殺人事件」通りのプロットでしたが、今回の副題「カレーde人類滅亡!? 殺人事件」は、それほど内容を反映していません。
感想の「ミステリを好きな人が、ミステリのおもちゃをあれこれいっぱい組み合わせて」という部分は今回もその通りで、メインとなる某ホラー作品の仕掛けをはじめとして(ネタばれになるので、リンクだけここに貼っておきます。ネタばれを気にしない方はクリックしてください)、既視感のあるアイデアが満載です(笑)。
ミステリとしての評価はさすがに高くはできないけれど、たまにはいいかもしれませんね。


nice!(10)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題 [日本の作家 な行]


犯罪ホロスコープ〈1〉六人の女王の問題 (光文社文庫)

犯罪ホロスコープ〈1〉六人の女王の問題 (光文社文庫)

  • 作者: 法月 綸太郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/07/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
売れっ子ライター・虻原がマンションから転落死した。その建物にはかつて虻原が所属していた劇団の主宰者が住んでいた。二人には感情のもつれがあったらしいのだが……。虻原は連載コラムの最終回に不可解な俳句を残していた。はたして俳句に隠された意味とは? (表題作)。六つの星座にまつわる謎の数々を、名探偵・法月綸太郎が鮮やかに解決してゆく。連作本格推理。

あとがきで作者自身が〈星座〉シリーズと呼んでいる連作の前半6編を収めた短編集。
収録作は
[牡羊座] ギリシャ羊の秘密
[牡牛座] 六人の女王の問題
[双子座] ゼウスの息子たち
[蟹 座] ヒュドラ第十の首
[獅子座] 鏡の中のライオン
[乙女座] 冥府に囚われた娘
各編のタイトルが8文字に統一されているのもいい感じです。
こういう連作の場合、ミステリーとしてのプロットにどう星座を組み込むのか、というのが腕の見せ処となるわけですが、法月綸太郎の場合は、謎解きミステリーを志向されているので、一層厳しいハードルのように思えます。
「獅子座づくしのまぐれあたりじゃないか。」なんて法月警視のせりふも出てきたりしますが、それくらい星座関連を緊密に練り込んである証拠でもあります。楽しい。
個人的には双子座の「ゼウスの息子たち」がお気に入りです。
双子って、ミステリでは定番のテーマで、出てくるだけである程度わくわくできるのですが、その分がっかりすることも多く、いろいろと邪推しながら読んでいくミステリー読者の裏をかくのもたいへん。この「ゼウスの息子たち」は、きっちり騙してくれました。どうして気づかなかったのかなぁ、とくやしい。神話の絡ませ方も堂々としていて、謎解きのヒントとなってしかるべきなのにヒントと気づかなかった不明を恥じます。そこがまたうれしい。
娯楽としての謎解きミステリーとして優れた連作だとおすすめです。

nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

三幕の殺意 [日本の作家 な行]


三幕の殺意 (創元推理文庫)

三幕の殺意 (創元推理文庫)

  • 作者: 中町 信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/05/30
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
昭和四十年十二月初旬。名峰、燧ヶ岳が目の前にそびえる尾瀬沼の湖畔に建つ、朝日小屋。その冬はじめての雪が降り積もる夜、離れに住む日田原聖太が頭を殴打され、殺された。山小屋には被害者に殺意を抱く複数の男女が宿泊していた。容疑者の一人でもある、刑事の津村武彦を中心に、お互いのアリバイを検証してゆくが……。叙述トリックの名手として独自の世界を築いた著者の遺作。

前回の「エージェント6 (シックス)」〈上〉 〈下〉 (新潮文庫)までが5月に読んだ本の感想で、いよいよ今月の本になりました! 

中町信は近年旧作を改稿して創元推理文庫に相次いで収録され、今、書店にいくと平積みされていたりしますね。
「模倣の殺意」 (創元推理文庫) 旧題「新人賞殺人事件」
「天啓の殺意」 (創元推理文庫) 旧題「散歩する死者」
「空白の殺意」 (創元推理文庫) 旧題「高校野球殺人事件」
の3作です。
どんでん返しの名手として広く知られて読まれるのはとってもよいことですね。
いずれの3冊も旧版で読んでいますが、改稿されてらしいいるので、改めて読んでみるかな? と思っていました。
その前に、この新作「三幕の殺意」 を読んでおこう、とそう考えたのです。
この作品も昭和43年に発表された中編「湖畔に死す」を長編化したもの、ということで全くのオリジナル長編ではないようですが、久しぶりの中町信作品ということで楽しみでした。
ずいぶん昔に読んだきりなので、記憶も定かではないものの、「三幕の殺意」 は他の「~の殺意」三作とは趣が違うようです。
いわゆる「吹雪の山荘」を舞台にした殺人事件で、被害者が誰からも殺意を抱かれるような嫌な奴、というきわめてミステリらしい設定です。
もともとが昭和43年の作品だからでしょう、きわめて古めかしい作品のように思われました。舞台が昭和40年だからということではなく、展開や筆運びからそう思いました。
読者への挑戦も挿入されていて、その使い方もすこしひねってあるところ、中町信の面目躍如、という感じでしょうか。
ただ、肝心のミステリの骨格部分が、やはり古めかしく、今読むと苦しい感じがしてなりません。お得意の叙述トリック、吹雪の山荘の扱い方、アリバイトリックの使い方、いずれもストレートではなく、ひねりを効かせてあるのですが、全体として一昔前、というか、なんだか時代を感じました。
あと気になったのは、ラスト。
あとがきでも、
「本編は、最後の三行に、ちょっとしたひねりを加えてあるのだ。読者がこの三行をどう受け取り、どう評価してくれるのか、いささか気がかりではある」
と触れられていまして、「気がかり」とはいいながら、作者自信の仕掛け、なのだと思いますが、読者の想定の範囲内に収まっているようで、あまり意外感はないのではないでしょうか。
ということで、期待していたレベルと比較すると厳しく言ってしまいますが、あちらこちらに仕掛けられているひねりは楽しめました。
それにしても、この作品が、遺作になってしまったのですね。残念。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
前の10件 | - 日本の作家 な行 ブログトップ