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死と呪いの島で、僕らは [日本の作家 や行]


死と呪いの島で、僕らは (角川ホラー文庫)

死と呪いの島で、僕らは (角川ホラー文庫)

  • 作者: 雪富 千晶紀
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/09/22
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
東京都の果ての美しい島。少女、椰々子(ややこ)は、死者を通し預言を聞く力を持ち、不吉だと疎まれている。高校の同級生で名家の息子の杜弥(もりや)は、そんな彼女に片想い。しかし椰々子が「災いが来る」という預言を聞いた日から、島に異変が。浜辺に沈没船が漂着し、海で死んだ男が甦り、巨大な人喰い鮫が現れる。やがて島に迫る、殺戮の気配。呪われているのは、島か、少女か。怖さも面白さも圧倒的!! 第21回日本ホラー小説大賞〈大賞〉受賞作!


日本ホラー大賞受賞作です。
単行本の時のタイトルは、「死呪の島」。文庫化の際に改題されました。(ちなみに、応募時点のタイトルは、「死咒の島」だったそうです)
これ、大賞、ですか...歴代受賞作と比べるとかなり軽い感じがします。

なかなか大賞が出ないことで知られる日本ホラー小説大賞、歴代の受賞作を並べてみると、
第2回 瀬名秀明「パラサイト・イヴ」 (新潮文庫)
第4回 貴志祐介「黒い家」 (角川ホラー文庫)
第6回 岩井志磨子「ぼっけえ、きょうてえ」 (角川ホラー文庫)
第8回 伊島りすと「ジュリエット」 (角川ホラー文庫)
第10回 遠藤徹「姉飼」 (角川ホラー文庫)
第12回 恒川光太郎「夜市」 (角川ホラー文庫)
第15回 真藤順丈「庵堂三兄弟の聖職」 (角川ホラー文庫)
第16回 宮ノ川顕「化身」 (角川ホラー文庫)
第17回  一路晃司 「お初の繭」 (角川ホラー文庫)
第19回 小杉英了「先導者」 (角川ホラー文庫)
第21回 雪富千晶紀「死と呪いの島で、僕らは」 (角川ホラー文庫)
第22回 澤村伊智「ぼぎわんが、来る」
全部が全部傑作とは思いませんが、確かに面白い作品が多いです。
その中でこの「死と呪いの島で、僕らは」 は軽めで、なんだか大賞受賞作というより、最近でいう読者賞受賞作みたいです。

と言うことでお分かりかと思いますが、非常に読みやすいです。
なんだかネガティブトーンのように受け止められそうなので、念のため申し添えておくと、軽いけれど、面白いです。高校生が主役を張っていることもあって、個人的には好印象の作品。
ただ、大賞受賞作というのが意外だった、ということです。

須栄島という南の離島を舞台に、「来るぞ、来るぞ」型のストーリー展開で物語は進んでいきます。
徐々に奇怪なエピソードが積み重ねられていくわけですが、うーん、振り返ってみるとちょっと無理がありましたでしょうか。
それぞれのエピソードが割とばらばらな印象を受けました。
最後のカタストロフィへ向かって、順々に盛り上がっていく、というよりは、いろんなエピソードが(相互に特段の結びつきなく)続けて起きて、最後にドーンと大きなエピソードが来た、みたいな印象です。
言い換えると、いろんなエピソードがつながった長編というよりは、同じ須栄島を舞台にしたいくつかの短編が並んでいて、最後の話が一番派手、という感じ?
逆にいうと、アイデア満載とも言えますね。
大森望が解説を書いていて、賞の選評を引用しているのですが、
「『死咒の島』が成功したのは、お約束の展開を守りつつ、次々と発生する怪奇な事件や現象にはバラエティを持たせ、そのひとつひとつをほどよくコンパクトにまとめて、物語を停滞させなかったからだろうと思います」(宮部みゆき)
というのも、そういう印象を裏付けますね。

全般的には、和のテイストなのですが(〈顔取り〉のエピソードが象徴的です)、豪華クルーズの話とか、遠く離れたハイチの話とかが混じっている点を、好ましくないと思われる読者もいることでしょう。
主人公杜弥と彼が想いを寄せる椰々子の設定や関係性も、型通りと言えば型通りなのですが、そういった様々な要素が、まさに「ほどよく」まとまっていて、抜群のリーダビリティとなっていますので、エンターテイメントとして優れていると思いました。
ホラー小説大賞には、そういったもの=読みやすさやバランスよりも、むしろ破壊力を期待するところがあるので、軽い、という印象を受けますが、次も読んでみようかな、と思わせてくれる居心地良さがあります(ホラーなのに、居心地良いのか、とまた叱責を喰らいそうですが)。







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最後の証人 [日本の作家 や行]


最後の証人 (宝島社文庫)

最後の証人 (宝島社文庫)

  • 作者: 柚月 裕子
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2011/06/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
元検察官の佐方貞人は刑事事件専門の敏腕弁護士。犯罪の背後にある動機を重視し、罪をまっとうに裁かせることが、彼の弁護スタンスだ。そんな彼の許に舞い込んだのは、状況証拠、物的証拠とも被告人有罪を示す殺人事件の弁護だった。果たして佐方は、無実を主張する依頼人を救えるのか。感動を呼ぶ圧倒的人間ドラマとトリッキーなミステリー的興趣が、見事に融合した傑作法廷サスペンス。


作者柚月裕子は、「臨床真理」 (上)   (下) (宝島社文庫)で第7回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビューした作家です。
「臨床真理」 (上)   (下) には正直あまり感心しなかったのですが、この「最後の証人」 は評判がいいので手に取りました。
面白く、楽しく読みました。
でも、傑作とは呼べないな、というのが正直なところ。

元優秀な検察官ながら正義感から辞め、今は弁護士の佐方。
塾帰りの息子を交通事故で亡くしたが、加害者が罪から逃れたことから加害者への復讐を企図する高瀬夫妻。
見事なまでに、手垢のついた題材、人物像です。何回もこういう設定読んだことありますよね。
それを法廷ミステリの形で提示して見せ、かつ、過去を振り返るカットバークシーンをちりばめる。
冒頭プロローグが事件のシーンで、すぐに法廷シーン、回想シーンと続きます。
ちょっとした趣向を作者は盛り込んでいますが、それほど効果的なものでもないので、後半であっさりと読者に明かしてしまったところは、なかなかやるな、と思いました。
そのあと、過去の交通事故の真相、そして現在の事件に切り込んでいくところは鮮やかです。このあたりの構成はいい感じです。

でも。面白かったんなら、文句言うな、というところではありますが...
その真相がちょっと見え見え。親子愛とか夫婦愛とか、警察・司法システムへの批判とか、容易に見当がつきすぎて、もうちょっとひねってもらいたい。
法廷ミステリとして着地させるためにあらわれる「最後の証人」も、作者が意図したほどには盛り上がらない人物です。
弁護士佐方もパターン通り。
佐方をヒーローに仕立てるために、相手役の検事は不備が目立つし、法廷の進行もちょっと現実離れ。リアルな感じで警察・司法システムへの批判を盛り込むなら、法廷シーンは現実に即しておかないと (あまり取材されていないんでしょうか?)。

と粗は目立つのですが、面白かったんです。
新鮮味のない題材の組み合わせであっても、十分楽しめる作品に仕上がっています。組み合わせ方がよいということなのでしょう。
ドラマにすると、かなり面白くなるんじゃないでしょうか。
続けて読んでいきたい作家です。




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その日まで [日本の作家 や行]


その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)

その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)

  • 作者: 吉永 南央
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/11/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の近くに、ライバル店「つづら」が開店した。つづらは元和菓子屋だったが、近隣では経営難のオーナーから詐欺まがいの手口で土地家屋を買い叩く業者グループがいるという噂がある。小蔵屋を営む気丈なおばあちゃん・杉浦草は、背景を調べ始めるが……。人気シリーズ第2弾。


「萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ」 (文春文庫) (感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
「如月の人形」
「卯月に飛んで」
「水無月、揺れる緑の」
「葉月の雪の下」
「神無月の声」
「師走、その日まで」
の6話で構成されています。
各話のタイトルに月の旧名が使われていて、6話を通して、変わっていく紅雲町の1年の様子をゆっくりと描いていきます。
解説では「地方都市小説」なんて呼称も使われていますが、物語が身近な感じがしますね。
あらすじにも、帯にも、ミステリという語は使われていません。謎を解いていくというよりは、騒動を落着させるというような風情の作品が多いです。
草も名探偵としてずばっと見抜くという感じではなく、構図は見抜いても、悩みが多いというか、いろいろと思うところがあって、内省的です。
草自身の過去のエピソードを折々振り返ったりもして、シリーズがぐんと深まった気がします。
ぼくがミステリに期待するものとは違う方向へ向かっているシリーズですが、これはこれで悪くないな、と思いはじめました。


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魔獣狩りIII 鬼哭編 [日本の作家 や行]


魔獣狩りIII 鬼哭編 (新潮文庫)

魔獣狩りIII 鬼哭編 (新潮文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
密教僧美空は天上の笑みを浮かべて、妖人猿翁と邂逅した。文成仙吉は仇敵蟠虎への復讐の機会を得た。そして九門鳳介は空海へ精神ダイブし、奇怪なものどもが蠢いているさまを目撃した。男たちの壮絶な闘い。そのなかで、秘密結社“ぱんしがる”の暗黒のヴェールが剥がれ、驚愕の真実が次々と判明してゆく。伝説として語り継がれる、最強エンターテインメント。轟音と哀惜の完結編。


完結しました。魔獣狩り(第一シリーズとか言わないといけないですが...)
いやあ、すごいなぁ。
サイコダイバーのシーンも、この「魔獣狩りIII 鬼哭編」 には満載です。なんといっても、いよいよ空海にダイブしますから。
それにしても、空海の扱いが....
裏表紙側の帯に、(本文より)ということで引用されているところが
「--あれが空海なのか!?
と鳳介は思う。
--あれが即身成仏なのか!?
伝説的な異僧、空海。
その空海が、即身成仏して千五十年--あのようなものに成り果てたのか--」
ですから。
「あれ」で「もの」で、「成り果てた」ですよ。
偉人として扱われることが多い人物だと思うんですが、うーん、まるで怪物・妖怪(笑)。確かに、怪物クラスの巨人だったとは思うのですが、ここまでくると天晴れ。
この空海をベースにし、性と暴力が一体化したかのようなクライマックスも迫力あります。
「酸鼻--という言葉がある。
血の臭いで、鼻が酸っぱくなるという意味の言葉である」(P370)
なんてところに、ぞくりとしたりします。

常日頃読んでいるミステリとはまったく別の世界ですが、ひさしぶりに伝奇を楽しみました。

魔獣狩りI 淫楽編 (新潮文庫) 魔獣狩りII 暗黒編 (新潮文庫)魔獣狩りIII 鬼哭編 (新潮文庫)







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魔獣狩りII 暗黒編 [日本の作家 や行]


魔獣狩りII 暗黒編 (新潮文庫)

魔獣狩りII 暗黒編 (新潮文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/04/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
文成仙吉は宿敵を求め、餓狼のように彷徨っていた。高野山の依頼を受けた美空は、冷徹な判断のもと、行動していた。九門鳳介は、子供のような好奇心にその身を任せた。三者三様の強さをそなえる男たちが、闇を喰らって生きる“ぱんしがる”の眷属と火花を散らす。そして、遂に空海のミイラがその姿を現した。圧倒的な熱量があなたを痺れさせる、伝奇小説の頂きへと向かう第二幕。


魔獣狩りI 淫楽編 (新潮文庫) に続く第2弾。前作の感想ページへのリンクはこちら
最初の方に、“ぱんしがる” の元となった(?) インドの秘儀集団「パンシガル」の話が出てきます。ヒンドゥー教のカーリー神を信仰する集団で、インドでは十二~三世紀頃から知られていた、旅人を襲い、首を絞めて殺すのを一つの儀礼としていた、とのことです。
“ぱんしがる” が行う怪しい奇祭・儀式も、それらしく意味づけがされます(たとえば、107ページ以降)。
「性的な快楽の究極にある、宇宙との一体感を持った快楽が最勝楽(サンヴァラ)である。
 男女の交合によって得られる最高の歓喜を、『理趣経』では“菩薩の位なり”と記しているが、この“菩薩の位”も“最勝楽”もまさしく同じものである。
インドにおける“サンヴァラ宗教”とは、すなわちタントラ仏教のことである。タントラ仏教、つまり、左道(さどう)密教のことである。
左道密教とは何か。
それは、ヒンドゥー教の創造神のして破壊神であるシヴァ神の配偶女神であるカーリーに象徴される、性力(シャクティ)と呼ばれる力を崇拝する宗教である。この性力は、蛇によって象徴されるクンダリニーと呼ばれる力でもあり、進化するすべての生き物の内にも内在すると言われている。
男女の交合によって生まれる歓喜により、クンダリニーを目醒めさせ、その力によって宇宙的意識に至ろうとするのが左道密教の根幹である。
日本における左道密教としては、真言僧仁寛(にんかん)」を開祖とし、平安末期に真言宗により派生した立川流が知られている」
つい長々と引用してしまいましたが、こういう仕掛けいいですね。なにやら怪しげな異国の集団とつながっているのか、つながっていないのか。嘘でもいいのです。伝奇では、風呂敷はちゃんと拡げてほしい。だって、ミステリと違って畳む必要がないのですから、精一杯拡げて見せてほしいです。
文成仙吉、美空、九門鳳介の三人が、同志というのではなく、時につき時に離れ物語が進んでいくのがなんだか楽しかったですね。対する悪者(という単純に捉えてよいのかわかりませんが)の、黒御所、蓮王母、猿翁の怪しさも迫力十分。
若干ネタバレ気味ではありますが、ほかに対象がないので最初からわかっていることではあるので書いてしまいますが、サイコダイバーである九門鳳介がこのシリーズで“潜る”対象は、空海のミイラ!
この空海のミイラ、すごいですよ。運び込まれただけで、屋敷に瘴気が立ち込めるのですから。
この第2巻「魔獣狩りII 暗黒編」 では、まみえただけで潜りませんが、期待がどんどん高まりますね。「魔獣狩りIII 鬼哭編」 (新潮文庫)が楽しみです。



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リカーシブル [日本の作家 や行]


リカーシブル

リカーシブル

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/01/22
  • メディア: 単行本


<裏表紙側帯あらすじ>
この町はどこかおかしい
父が失踪し、母の故郷に引越してきた姉ハルカと弟サトル。弟は急に予知能力を発揮し始め、姉は「タマナヒメ」なる伝説上の女が、この町に実在することを知る――。
血の繋がらない姉と弟が、ほろ苦い家族の過去を乗り越えて地方都市のミステリーに迫る!


この「リカーシブル」から6月に読んだ本の感想となります。
単行本です。
「このミステリーがすごい! 2014年版」 第7位、「2014本格ミステリ・ベスト10」 第10位。

このブログを始めて2年以上たちますが、米澤穂信を採り上げるのは初めてです。なんだか意外でした。
表側の帯に
「45万部 青春の痛ましさを描いた名作ボトルネックの感動ふたたび」
「2年ぶり待望のミステリー長編」
と書かれています。
米澤穂信といえば、「氷菓」 (角川文庫) から始まる古典部シリーズや「春期限定いちごタルト事件」 (創元推理文庫) から始まる小市民シリーズが有名でどちらのシリーズもファンなのですが、個人的に今のところ最高傑作は「ボトルネック」 (新潮文庫)ではないかと思っています。
その「ボトルネック」 を思わせるタイトルで、帯もそういう煽り。米澤穂信は文庫化されれば必ず買っているのですが、これは期待値高く、単行本で購入。
半年ほど積読にしてしまいましたが、期待が高まった状態で読みました。

「リカーシブル」という語は表紙に RECURSI-BLE と書かれています。この語英和辞典を引いても載っていません。リカーシブ(recursive)を捻った米澤穂信の造語のようですね。ちなみに、リカーシブは冒頭に掲げられていますが「(形容詞)再帰的な。自分自身に戻ってくるような。プログラミング言語においては、処理中に自らを呼ぶ出すような処理をいう」語です。
主人公であるハルカが中学1年生で、弟サトルは小学3年生。ちょっと二人とも設定が幼すぎるかなぁ、と思わないでもないですが、サトルが予知能力を発揮することを考えるとこのくらいの幼さが必須だったのかもしれません。
ハルカの立ち位置が、いきなり難しい状況です。
ハルカにとってママとサトルは血のつながらない家族。ママはお父さんの後妻でサトルはママの連れ後。で、お父さんが横領で逃亡。やむなくママの故郷へ。ママは優しいけれど(継子いじめのようなことはありません)、なにかと思うところの多い毎日。
この故郷坂牧市がかなりの田舎という設定で、伝説が色濃く残っている。そしてその坂牧での生活が始まると現れたサトルの予知能力。因習残る田舎の生活っていうのも、なかなか気疲れするものですよね、慣れないと。
「ボトルネック」 のことを考えると、ハルカにいったい何が降りかかってくるのだろうと、身構えて読んでしまいます。
非常に後味の悪い、実にいやーな結末を迎える点は「ボトルネック」 と同じといえると思いますが、個人的には衝撃度は「ボトルネック」 の方が上でした。先に読んだから、ということではなく、「ボトルネック」 の方は主人公自らが沈み込んでいくような辛さであるのに対し、この「リカーシブル」はまわりがもたらす辛さであるからだと思いました。言い換えると、自分が自分であることそのものの辛さと自分がここにいることの辛さの違い、でしょうか。
ネタバレにならないよう、詳しくは書けませんが、そういう意味でタイトルは象徴的だと感じました。「ボトルネック」 「リカーシブル」のタイトルがさすもの、状況の位置づけが大きく異なっているように思われます。
ということで、「ボトルネックの感動ふたたび」とはいきませんでしたが、きわめて設計図をきっちり引いて書かれた企みに満ちた小説で堪能できました。
また、こういう作品書いてください。


<2015年07月追記>
6月に文庫化されたので、書影を追加しておきます。
リカーシブル (新潮文庫)

リカーシブル (新潮文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/06/26
  • メディア: 文庫


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魔獣狩りI 淫楽編 [日本の作家 や行]


魔獣狩りI 淫楽編 (新潮文庫)

魔獣狩りI 淫楽編 (新潮文庫)

  • 作者: 夢枕 獏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/03/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大金を手にしたばかりの荒事師・文成仙吉は、丹沢山中で女を生贄に捧げる奇祭を目撃する。それが全ての始まりだった。寒気すら覚える美貌と華麗な体技を誇る密教僧、美空。人の心に侵入し情報を掴む、天衣無縫の凄腕精神(サイコ)ダイバー、九門鳳介。空海の即身仏をめぐり、三人が対峙するのは秘密結社“ぱんしがる”だった。小説世界に革命を起こした夢枕獏の代表作、血湧き肉躍る第一章。


夢枕獏の本を読むのは初めてです。
最近、また、文庫でいっぱい刊行されるようになりましたね。
夢枕獏には、サイコダイバーシリーズや、闇狩り師シリーズ、キマイラシリーズなど、巻数を多数重ねたものが多く、なかなか手に取りづらいものを感じていました。
この「魔獣狩りI 淫楽編」 は、サイコダイバーシリーズですね。サイコダイバーシリーズはどんどん続いていくのですが、「魔獣狩り」としては、一旦、
「魔獣狩りI 淫楽編」 (新潮文庫)
「魔獣狩りII 暗黒編」 (新潮文庫)
「魔獣狩りIII 鬼哭編」 (新潮文庫)
という3冊で完結するということなので、冊数がそんなにかさまないな、と思ってトライしてみました。
伝奇小説、伝奇バイオレンス、というジャンルになるのでしょうか? 同じジャンルとしては、菊池秀行を連想します。
読む前の予想では、タイトルに「淫楽」なんてついているし、セックスシーン満載なんだろうなぁ、と思っていました。伝奇バイオレンスって、なんだかそういうイメージなんですね。
でも、読んでみると、確かにセックスシーンはいっぱいあるのですが、思ったよりあっさりしているというか、あまりねちっこくは感じませんでした。ちょっとひどい想像をし過ぎていたのかも。(--もっとも、セックスシーン自体はふんだんにあるので、そういうのが嫌いな場合は、このシリーズは厳しいと思います。)
それよりはむしろ、空海だとか密教だとか、あるいは秘密結社といったアイテムの方がつまっている感じです。
そしてなによりも、格闘シーン。肉体を扱うので、グロいシーンも多いですが、闘いの緊迫感はやはりすごいですね。
本シリーズのならではのガジェットとして、サイコダイバーというものがあります。
北上次郎の解説中に触れられている大倉貴之からの孫引きですが、
「サイコダイバーとは、サイコ・コンバーターという機械を用いることで他人の意識のなかに潜ることができる者のことである。サイコダイブは、優れた資質をもった者が訓練を積むことによってのみ可能であり、どうやら世界的な資格試験があり、その最高資格保持者を超A級と呼」ぶらしいです。
シリーズ1作目のこの「魔獣狩りI 淫楽編」 では、サイコダイバーとして「潜る」シーンがあまりなかったので、そちらの楽しみは、次巻以降に期待します。

さて、伝奇小説といったら、やはり半村良です。
「石の血脈」 (集英社文庫)「産霊山秘録」 (集英社文庫)はずいぶん昔ですが、楽しんだ記憶があります。
シリーズが進んでいくと、「石の血脈」 「産霊山秘録」 を読んだ時のようなわくわく感がよみがえってくるのでしょうか。楽しみです。


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神狩り [日本の作家 や行]


神狩り (ハヤカワ文庫JA)

神狩り (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 山田 正紀
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/04/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
情報工学の天才、島津圭助は花崗岩石室に刻まれた謎の《古代文字》を調査中に落盤事故にあう。古代文字の解明に没頭した圭助は、それが人間には理解不能な構造を持つことをつきとめた。この言語を操るもの――それは神なのか。では、その意志とは? やがて、人間の営為を覆う神の悪意に気づいた圭助は、人類の未来をかけた壮大な戦いの渦にまきこまれてゆくのだった。


SFです。いやあ、懐かしい。子供の頃に読んだのですが(中学生くらいだったでしょうか?)、すごく惹きこまれた記憶があり、新版がでたのを機に読み返したくなって購入しました。
今では巨匠と呼びたくなるような、SFとミステリーで傑作を数多くものにしている山田正紀の1974年に発表デビュー作。
いやあ、今読むと、気負っていますねぇ。
タイトルからしてすごいですもんね。「神狩り」
闘う、とかじゃないんです。狩ろうというのですから。
「狩る」という動詞には、狩るものの方が狩られるものよりも上位にあるようなニュアンスを感じ取りませんか? 
そして、プロローグは、ヴィトゲンシュタインが登場し、バートランド・ラッセルからの手紙が届くのです。
いやあ、気負っています。でも、その気負いがなんだか好もしいですね。

言語からアプローチして神に到達する、というアイデアもおもしろいと思いました。
「論理記号を二つしか存在しない言葉」というのは覚えていませんでしたが、「関係代名詞が十三重以上に入り組んでいる」というのは覚えていました。
というのも
「人間は、関係代名詞が七重以上入り組んだ文章を理解することができない」
という部分が理解できなかったからです。今回も、ここはわかりませんでした。
“関係代名詞が入り組んだ”というのが、まずわかりません。単に関係代名詞を沢山使うだけなら、7つ以上でも余裕で理解できますよね? 英語の詩(?) に、これはジャックの建てた家うんぬん、というのがあって、それこそ中学校の英語の教科書にでも出てくるかもしれませんが、関係代名詞7つどころではありません。ただ、まあ、これは関係代名詞をどんどんつなげていっているだけで“入り組んだ”とは言えないのでしょう。とすると、入り組んだとは!?

あと今回読んで意外だったのはラスト。こういう終わり方でしたっけ?
なんだか中途半端なところで終わったというか、物語はこれからというところで終わったというか。
当時このラストに不満を持った記憶はありません。
逆にこの傑作を読むことができて、読み終わってもわくわくしていたと思います。

そうなんです。この「神狩り」 には、センス・オブ・ワンダーが溢れているのです。
今まで知らなかった世界、考えてもみなかった世界を、考えてもみなかった切り口で示してくれるのです。
言語からアプローチして神に到達する、というのもそうですし、〈神はわれわれに悪意を持っている〉というテーマもそうです。
読む人によって感じ取ることは違うかもしれませんが、世界が拡がっていく快感が、「神狩り」 にはあります。
本当に再読できてよかった。

タグ:山田正紀
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ミステリーズ《完全版》 [日本の作家 や行]


ミステリーズ《完全版》 (講談社文庫)

ミステリーズ《完全版》 (講談社文庫)

  • 作者: 山口 雅也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/07/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
密室殺人にとりつかれた男の心の闇、一場面に盛り込まれた連続どんでん返し、不思議な公開捜査番組、姿を見せない最後の客。人気の本格推理作家が明確な意図を持ってみずからの手で精密に組み上げた短編集。謎とトリックと推理の巧みな組み合わせが、人間の深奥にひそむ「ミステリー」を鮮やかに描き出す。


この文庫が出たのが1998年7月で、15年以上前です。
「このミステリーがすごい! 〈’95年版〉」第1位です。短編集が第1位になったのは、これが初めてだったと思います。
ちなみに、1994年週刊文春ミステリーベスト10 では第4位。
その後講談社ノベルスに収録されたときに、「《世界劇場》の鼓動」という作品が追加収録されました。音楽のアルバムにちなんで、ボーナストラック、と呼ばれていますね(作者あとがきにあたる「ノベルス版のためのLINER NOTE」には、作品配列も変えたと書かれています)。
なので、《完全版》。

実はこの本自体は、単行本(1994年)を買って読んでいます。

ミステリーズ

ミステリーズ

  • 作者: 山口 雅也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/09
  • メディア: 単行本

同じ絵を使っているのですが、雰囲気が違いますね。
ノベルス版で新たに収録された作品も読みたいな、と文庫化されたときに購入しておいたものです。
ただ、10作収録の短編集のうち9作までもが既読、ということもあってなかなか手に取らずにおりまして...それにしても15年とは積読にもほどがありますが。
なので各編の内容はすっかり忘れてしまっていて、そのおかげで(?) 新鮮な気持ちで楽しめました。

巻末に作者の「LINER NOTE」があって、各作の意図が説明されています。
それぞれが、拡がりのあるアイデアというか、各作品は作者のアイデアのショーケースのようなものとなっていて、それを発展させていくと新たなフィールドが開けるのだろうな、と感じさせてくれるようなものとなっています。
なので逆に言うと、そういう「あり得るかもしれない」拡がりを考えずに、それぞれの作品だけを取り出してしまうと、ちょっと食い足りないという感想になるかもしれません。

象徴的なのは、「解決ドミノ倒し」ではないでしょうか。
この作品は「一編の中にどれだけ連続したドンデン返しを盛り込めるかという技術的な挑戦」であると同時に「事件の解決シーンだけで小説を書いてしまおう」という挑戦に挑んだ作品なのですが、前提となる事件のありさまがわからない段階からのドンデン返しの連続、というものが、はたしてドンデン返しのカタルシスを与えてくれるものか。読者の思い込みをひっくり返してくれるところにドンデン返しの快感はあると思うのですが、「思い込み」のない段階でただひたすら二転三転していくというのが、ドンデン返しとして機能しているのか、非常におもしろいテーマを提出してくれていると思うので、個人的には楽しんで読みましたが、純粋にドンデン返しを期待する読者には肩すかしかもしれません。作中人物には意外な転換でも、読者は前提がないので、ああそうですか、という感じで置き去りだからです。
でも、作者の言う通り、
「こうした技術的な挑戦は、ヒッチコックが自嘲して言うように『実に馬鹿ばかしい』と思う向きもあるだろうが、ミステリーの歴史は、ある意味で技術的挑戦の歴史でもある。そうしたことが最近、意外に軽んじられているのではないかと少々危惧している次第。」
ということなので、ちょっと「LINER NOTE」に感動してしまいました。

そういう意味で、非常にバラエティに富んだ作品集です。
巻頭に、Mysteries perfect edition と英語のタイトルが書かれていますが、日本語「ミステリーズ」は、複数形の Mysteries であると同時に、その所有格でもある Mysteries' でもあるのかもしれないなぁ、なんてふと考えました。




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虚夢 [日本の作家 や行]


虚夢 (講談社文庫)

虚夢 (講談社文庫)

  • 作者: 薬丸 岳
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/05/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
通り魔事件によって娘の命は奪われた。だが犯人は「心神喪失」状態であったとされ、罪に問われることはなかった。心に大きな傷を負った男は妻とも別れてしまう。そして事件から4年、元嫁から突然、「あの男」を街で見たと告げられる。娘を殺めた男に近づこうとするが……。人の心の脆さと強さに踏み込んだ感動作。

この作品から、昨年12月に読んだ本となります。
「天使のナイフ」 (講談社文庫)で少年犯罪、「闇の底」 (講談社文庫)で少年への性犯罪を採り上げた薬丸岳の第3作。
今回のテーマは刑法第39条。
「心神喪失者の行為は、これを罰しない、心神耗弱者の行為は、その刑を軽減する。」
というものです。心神喪失者の犯罪をテーマにした作品です。
精神を病んだ犯人藤崎に娘を殺された三上とその元妻佐和子の物語と、統合失調症の弟を抱えるキャバクラ嬢ゆきと藤崎がめぐりあう物語が軸となります。
被害者の遺族や、障害者を抱える家族が追いつめられていく構図がとてもやりきれない。つらいでしょうね。
ミステリとしても展開がよく考えられています。
322ページから明かされる部分は、前例のあるアイデアで、割とおもいつきやすい内容だと思うのですが、この作品のような角度から使うのはちょっと意外でした。このアイデア、確かにこういう使い方をする方が冴えますね。

でも、これ、「感動作」と言ってよいのでしょうか?
そういう括りにしないほうがよい作品です。
読後、読者がいろいろと思いをめぐらすことに意義のある作品ではないかと思います。



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