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船から消えた男 [海外の作家 F・W・クロフツ]


船から消えた男 (創元推理文庫)

船から消えた男 (創元推理文庫)

  • 作者: フリーマン・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1982/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
やむを得ず長い婚約期間を過ごしているジャックとパムの許に、桁外れの儲け話が舞い込んだ。懸案の経済問題が解決し憧れの結婚生活は目前--と思われたそのとき運命は暗転する。失意のどん底でパムは一縷の望みを見出し、海を渡ってロンドンへ。フレンチ主席警部に会おう。管轄外の事件ながら、捜査に関わり、公正で親切そうだったあの人なら助けてくれるんじゃないかしら……。


2015年の復刊フェアの1冊です。
引用しておいてなんですが、↑ あらすじとは思えませんね...
ここに書かれているパムの行動は、物語もかなり後半になってからのものですから。


創元推理文庫恒例で扉のあらすじも引用します。

北アイルランドの小さな町で平穏な毎日を送っていたパミラと婚約者ジャックはある化学上の発見の実用化計画に参加することになった。発見とは、ガソリンの引火性をなくし危険性のない燃料にできるというものだった。実用化されれば彼らが巨万の富を得るのは間違いない。計画が進み、ロンドンのある化学会社との契約成立も間近というとき、その化学会社の社員が失踪した。ロンドンへ向かう船から姿を消したのだ。数日後、彼は水死体となって発見された。ベルファスト警察からの要請で捜査に乗り出すフレンチ警部。事態は意外な展開を見せ……。


こちらの方がストーリーがわかりますね。
ここに書かれているようなガソリンを安定化させる技術、実現したら確かにさぞかしお金になることでしょう。
パムが喜ぶのもわかる。

この作品の特徴は、このようにパムの視点のパートが結構多いということでしょう。
逆にいうと、フレンチ警部の視点のパートの方が少ない。ほかにも2名視点となる人物がいまして、合計4名の視点でつづられます。
この視点の切り替えがなかなか物語としては効果的だったと思います。
パムの視点が多いので、本格ミステリのごりごりした感じがやわらいでいるのもポイントですね。
法廷シーンもあるのですが、パムの視点で描かれるので、結構はらはらします。

犯人をつきとめる手がかりであったり、船を舞台にしたトリックだったりは、お世辞にもうまくいっているとはいえない出来栄えですが、結構どぎつい事件をあっさりと読ませてしまう作品に仕立てている点、クロフツもうまいもんだなぁ、と感心しました。
ただ、ストーリー展開の核となった、ガソリンを巡る技術、ちょっと軽く扱いすぎですよ、クロフツさん。ものすごい注目を集めちゃうテーマなんだから、もう少し気を配ってもらえれば...



<蛇足1>
被害者が会社に打っている電報が、真相を知ってから考えるとちょっと???です。
こんな電報、打たないでしょ...


<蛇足2>
原題、Man Overboard! って、船から「人が落ちたぞ~」という言葉なんですが、そういうシーン、本書にありません...


原題:Man Overboard!
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1936年
訳者:中山善之





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 [海外の作家 F・W・クロフツ]


樽【新訳版】 (創元推理文庫)

樽【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: F・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/11/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
パリ発ロンドン行き、彫像在中――荷揚げ中に破損した樽に疑惑を抱いた海運会社の社員がバーンリー警部を伴って船に戻ると、樽は忽然と消えていた。紆余曲折を経て回収された樽から出てきたのは女性の遺体。何らかの事実が判明するたび謎が深まり、ドーヴァー海峡を往き来した樽は英仏の警察官、弁護士、そして私立探偵を翻弄する。永遠の光輝を放つ奇蹟の探偵小説、新訳成る。


今さらながら、この新訳版の「樽」 (創元推理文庫)から2月に読んだ本の感想となります。
子どもの頃読んだきりで、新訳をきっかけとした読み直しでしたが、ずいぶん昔に読んだなぁ、というところ。
以前読んだものは講談社文庫版。訳者は三浦朱門(!) でした。かなり分厚い本だった記憶が。
そのときの印象は、正直ぱっとしませんでした。古典だ、名作だと言われているので、ミステリ好きである以上、教養として(?) 読みましたが、正直退屈でしたね。
今回の新訳は、なんだか薄くなったみたいな。分厚い本が増えて、「樽」 の長さが目立たなくなっただけかもしれませんが。

で、中身。
今回、少々身構えて読んだわけですが、退屈しませんでした。むしろ、楽しんで読めました。
創元推理文庫恒例で扉のあらすじも引用します。

埠頭で荷揚げ中に落下事故が起こり、珍しい形状の異様に重い樽が破損した。樽はパリ発ロンドン行き、中身は「彫像」である。こぼれたおが屑に交じって金貨が数枚見つかったので割れ目を拡げたところ、とんでもないものが入っていた。荷の受取人と海運会社間の駆け引きを経て樽はスコットランドヤードの手に渡り、中から若い女性の絞殺死体が……。次々に判明する事実は謎に満ち、事件はめまぐるしい展開を見せつつ混迷の度を増していく。真相究明の担い手もまた英仏警察官から弁護士、私立探偵に移り緊迫の終局へ向かう。クロフツ渾身の処女作にして探偵小説史にその名を刻んだ大傑作。

こちらのあらすじ、なんだかわくわくしますね。
冒頭ちょっと活劇っぽいのも意外。こういうオープニングでしたか。樽が英仏海峡を挟んでいったりきたりして複雑だ、というふれこみですが、この程度だと、ちっとも複雑とは言えないですね。
もっともかねてより指摘されているミス(解説に書かれています)のおかげで、わかりにくくなっているのは事実ですが、むしろシンプルなトリックのように見受けられます。
それを複雑なものと感じさせるところに、クロフツの腕の冴えがあるのではないか、と思いました。

天才型の名探偵が、ひらめき一つで犯人を追いつめていくのではなく、凡人型の探偵が登場するのがクロフツの作品とも言われますが、地道な捜査をすることはしますが、ちゃんとひらめきは見せるんですよね。だから、凡人型というのはあまり正しい表現ではなく、現実的な地に足のついた捜査をする名探偵というべきかもしれません。
この「樽」 では、扉のあらすじにもある通り探偵がリレー形式でバトンタッチしていく構成を取っています。
これはこれで昔不満を抱いたところですが(やはり子供心に、神のごとき名探偵に憧れを抱いていたわけです)、現実的ということを考えると、「樽」 の場合、一人の名探偵に推理させるよりもふさわしいものだと感じました。国を跨いだ捜査をする大事件、この方が似つかわしい。スコットランドヤードもちゃんとパリ警視庁に捜査協力依頼をします。
そして複数の探偵が関与していることがまた、事件を複雑に見せるのに一役買っているのが素晴らしい。

あとこの本、解説を有栖川有栖が書いていまして、これが素敵で楽しい。
ミスにもきちんと触れられています。
個人的には、指摘されているミスに加えて、電話を巡るエピソードも気になりました。
たとえば246ページに、カフェで電話をかけたことは確認は容易で、かつ、実際に電話をかけたかどうかは相手を調べればわかる、というような部分があるのですが、ほかにいくらでも考え方は成立するように思われる(電話をかけたことは事実でも、どこからかけたかをはっきりさせるのは難しいと思います)ので、ちょっと真偽をつきとめる考え方としては不十分かなぁ、と。

それにしても、退屈と思っていた「樽」 をここまで楽しめるとは、収穫でした。
新訳、ありがとう。



原題:The Cask
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1920年
訳者:霜島義明





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製材所の秘密 [海外の作家 F・W・クロフツ]


製材所の秘密 (創元推理文庫)

製材所の秘密 (創元推理文庫)

  • 作者: F.W. クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1979/02
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
シーモア・メリマンは商用の途次に立ち寄ったフランスの製材所でふと不審を覚え、帰国後クラブの喫煙室で披露に及んだ。聴き手の一人ヒラードが非常な興味を示し、密輸ではないか、調べようと提案、二人は休暇を利用して危険に満ちた探索に乗り出した。疑惑は深まるものの決定打を欠く膠着状況が意外な形で打ち破られるに至って、遂にメリマンは警視庁を訪れ経緯を明かすが……。

創元推理文庫の2012年の復刊フェアで復刊された作品です。
クロフツの作品でなんだか恒例となってしまった感がありますが、 表紙をめくったところにある扉に書かれたあらすじを引用します。

商用でフランスを旅行中のメリマンは奇妙なトラックに出合った。はじめに道ですれちがった時にはNo4のプレートをつけていたというのに数分後に立ち寄った製材所で見たときにはNo3のプレートを付けているではないか! そればかりか、この発見に運転手は敵意にみちた目で彼を見つめ、製材所の主任は顔を曇らせ、主任の娘は見るまに青ざめたのだ。ここではいったい何が行われているのか? <サンデー・タイムズ紙>のミステリ・ベスト・99にクロフツの作品としてはただ一作選ばれた名作の本邦初の完訳決定版!


両方を足し合わせると、作品のイメージをつかんでいただけると思います。
若干ネタバレ気味にはなりますが、製材所は何をしているのか? ということなので、今風にいうと、企業犯罪・経済犯罪を扱っています。
これ、本格ミステリで扱うのがとっても難しい犯罪だと思うのです。
素人がふとしたことで犯罪の端っこをつかみ捜査に乗り出す。そしてその後警察へ、という段取りは、クロフツにはよくあるパターンのようですが、この種の犯罪を警察が真っ先に気づくというのはありそうもないのでアマチュアを出発点にするのは向いている犯罪かもしれません。
そしてこの犯罪、非常に精緻というか、クロフツらしく細かく考えられていまして、よく考えたね、と誉めてあげたい。
一方で、この種の犯罪で殺人まで起こるのか? というと個人的には否定的で、そこはやはりこの作品でも気になるところではありますが、メリマンのロマンス(!) という要素を盛り込んで緩和しようとしています。
このロマンス部分、正直現在の視点で見ると、ばかばかしいような会話が繰り広げられちゃったりするのですが、そこも味があるというか、なんというか。
クロフツが実はバラエティに富んだ作家だったことを改めて確認しました。


原題:The Pit-Prop Syndicate
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1922年


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サウサンプトンの殺人 [海外の作家 F・W・クロフツ]


サウサンプトンの殺人 (創元推理文庫)

サウサンプトンの殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: F.W. クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1984/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
セメントの新製法を探るべくチェイル社に侵入したジョイマウント社の二人は、見咎めた夜警をノックアウトし、間の悪いことに死なせてしまう。遺体を運び出し自動車事故に偽装するが、素人の悲しさ、首席警部フレンチの目を誤魔化せるわけもない。更にはチェイル社の首脳陣にねじこまれ、事態は新たな局面を迎える。恐喝まがいの要求を呑むしかないのか。ジョイマウント絶体絶命!


創元推理文庫の2011年の復刊フェアで復刊された作品です。
表紙をめくったところにある扉に書かれたあらすじを引用します。

セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、暗闇に横たわる死体を前に立ちすくんでいた。経営危機に陥った社を救うためにライバル会社の工場に忍び込み、セメントの新製法を盗み出そうとした二人だったが夜警に見つかってしまい、これをなくり倒して殺してしまったのだ。彼らは自動車事故を偽装して死体の始末をはかるが、主席警部フレンチが、この事故に殺人の匂いをかぎとらないはずはなかった! しかしさしもの彼も、犯罪を隠蔽せんとする企業の策謀の厚い壁に行手をはばまれるのだった。構成の妙が冴える倒叙推理!

こちらの方がしっくりきます。
以前、「フレンチ警部とチェインの謎」 (創元推理文庫)の感想のとき(ブログへのリンクはこちら)に、「フレンチ警部ものの構成としても変わっていて、前半にはフレンチ警部は出てきません」と書きましたが、この「サウサンプトンの殺人」 でも同様の構成をとっています。さらに「フレンチ警部と毒蛇の謎」 (創元推理文庫)もそうだったし(ブログへのリンクはこちら)、ひょっとしてフレンチ警部ものはこちらが普通だったりして!?
なので、倒叙もの、のようにスタートします。(為念ですが、「フレンチ警部とチェインの謎」は倒叙ものではありません)
産業スパイを試みる視点人物であるブランドがなかなか良い奴っぽいところがポイントでしょうか。
そしてフレンチ警部の視点となり、物語のなかほどで再びブランドに視点が戻ります。
ここがおもしろいところで、ブランド自身思いがけない事件が起こるのです。
最後に再びフレンチ警部の視点になって、解決を迎えます。
この視点のキャッチボール(?) が楽しかったですね。普通の倒叙ミステリからのずれ方が心地よい。

あとひとつ、原書は1934年発行のようですが、企業間の競争を描いているところが当時としては新しかったのではなかろうかと思います。
これが、大昔の話なのに、なんだかわくわくできるんです。
企業の生き残りをかけた競争が、本格ミステリの作家から提示されている、というのが、意外なようで、それでいて妙にしっくりきます。

使われているトリックが現実感なかったり、あるいは使い古されたようなものだったり、フレンチ警部の捜査がつまずきはあっても妙に鋭く真相を射抜いたり、真相が最後の数ページであわただしく乱暴にまとめられていたり、と、ミステリとしての疵は簡単に指摘できますが、構成とテーマの新奇性には強く惹きつけられました。
昔はあまり好みではなかったクロフツですが、最近いいな、と思うようになりました。
東京創元社には、引き続き復刊を根気強く続けてほしいです。



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フレンチ警視最初の事件 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フレンチ警視最初の事件 (創元推理文庫)

フレンチ警視最初の事件 (創元推理文庫)

  • 作者: F・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/06/29
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
リデル弁護士はダルシー・ヒースの奇妙な依頼を反芻していた。裕福な老紳士が亡くなり自殺と評決された後に他殺と判明し真相が解明される。そんな推理小説を書きたい。犯人が仕掛けたトリックを考えてくれという依頼だ。何だかおかしい、本当に小説を書くのが目的なのか。リデルはミス・ヒースを調べさせ、ついにはスコットランドヤードのフレンチ警視に自分の憂慮を打ち明ける。

創元推理文庫にはままあることですが、この「フレンチ警視最初の事件」、裏表紙あらすじと、表紙をめくったところにある扉に書かれたあらすじがずいぶん違います。
扉のあらすじを引用します。

愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクが貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーの許を去ってからも、良心の咎める行為をやめられずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。これでサー・ローランドの娘は莫大な遺産を相続し、結婚相手がどこの馬の骨だろうと文句をつける人間はいないわけだ。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然なのかしら。一方、検視審問で自殺と評決されたサー・ローランド事件の再検討が始まり、警視に昇進したばかりのフレンチが出馬を要請されて……。

扉のあらすじの方がストーリー展開に忠実ですね。ダルシーが疑問に思って弁護士に相談にいったあとのことを裏表紙あらすじは書いています。
しかし、「Silence for the Murderer」という原題を、「フレンチ警視最初の事件」にしてしまうって、すごいセンスですねぇ。フレンチ警部が警視に昇進するのって、この本で扱う事件と何の関係もないのに...

事件のほうは、詐欺の片棒をかつがさせれたダルシーが、捨てられた恋人が殺人犯なのではないかと思い悩む、というもので、なんだかカーにありそうな設定だなぁ、と思いました。
視点人物とはいえ、ダルシーは犯罪の共犯者ですし、フランクが去ってからも一人で詐欺を続けているあたりの弱さをどうとらえるか、読み手のスタンスが分かれそうです。
カーならば、無理やりにでもハッピーエンドに持ち込んで見せるところですが、果たしてクロフツはどうか、そんな興味も湧いてきます。
以前あまりちゃんと読んでいなかったことと、創元推理文庫からじっくりではあるものの快調に復刊がされていることとで、ここ数年クロフツを読む機会が増えているのですが、退屈なアリバイ崩しが多い作家、というイメージと違って、いろいろとバラエティに富んだ作品を次々と発表していた作家なのだなぁ、とあらためて感じます。
確かに展開は、今の作品と比べるとゆっくりとしていますが、退屈というわけではなく、ゆっくり、というよりも、ゆったり、と言ったほうがよいのかも。この「フレンチ警視最初の事件」にもみられるように、決してセンスが良いとはいえないものの、ロマンス(!)も古き良きというか、時代を感じさせる滋味あるロマンスで取り入れられており、いろいろと目配りの効いた作家だったのではないでしょうか。
派手さはないものの、真犯人を差し出す手つきはなかなか微妙なラインを突いていて手堅い印象。
やはり、今後も着実に読んでいきたい作家です。
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フレンチ警部とチェインの謎 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フレンチ警部とチェインの謎 (創元推理文庫 106-5)

フレンチ警部とチェインの謎 (創元推理文庫 106-5)

  • 作者: F.W.クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1971/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
快活な青年チェイン氏はある日、ホテルで初対面の男に薬を盛られ、意識を失う。翌日自宅に戻ると、家は何者かに荒らされていた。一連の犯行の目的は何か? 独自の調査を始めたチェイン氏を襲う危機また危機。いよいよ進退窮まったとき、フレンチ警部が登場し事件の全貌解明に乗り出す。本書は冒険小説と謎解きミステリの妙味を兼ね備えた、クロフツ初期の輝かしい傑作である。

いつものことなので裏表紙のあらすじを上に引用しましたが、表紙を開いたところにある扉のあらすじが、なんか勢いがあっていいんです。
「プリマス市のホテルでチェイン氏を襲ったパークスと名乗る男は、何者なのか? また呼応するように自宅を荒らした者の目的は何か? 文字と数字と曲線を囲む無数の輪で構成された暗号表は、何を物語るのか! 殺人、誘拐、脅迫そしてパークス一味がねらうチェイン氏の秘密とは何か! チェイン氏は事件の究明に奔走したが行きづまった。やがて事件はフレンチ警部の手へ移り、本格的な捜査が始まる。処女作『樽』から数えて第六作目。フレンチ警部ものとしては第二作目にあたるクロフツ初期の輝かしい傑作。」
? とか ! が力強く、なんだか、紹介している人に力が入っているのが伝わってきます。
フレンチ警部ものの構成としても変わっていて、前半にはフレンチ警部は出てきません。主人公である青年チェインの冒険物語になっているのです。「冒険小説と謎解きミステリの妙味を兼ね備えた」というのは、冒険小説の妙味とは何か、という命題の答えによってイエスともノーとも言えてしまうと思いますが、危機が迫ってもどこかおっとりしている昔懐かしい冒険小説の味わいは感じることができます。
フレンチ警部が出てきてから、謎解きが始まるのですが、326ページの暗号(?)の出来は、よく作ったなぁと関心はできるもののなんだか中途半端ですし、一つのフラスコから注いだ二杯のお酒の片方だけにどうやって薬を入れるのかという謎解きも、図入りで説明してくれているのですが、たぶん「なんだかなぁ」という感想に落ち着きそうですし、ミステリ部分の仕掛けがとってもしょぼくって、笑ってしまうくらいなんですが、それでも憎めないというか、楽しく読んでしまいました。
作者は一所懸命だったんだろうと思うんですが、どことなく余裕を感じるというか、読者として鷹揚に構えたくなるような、不思議な作品です。暗号を解読した結果たどり着く地点も、再び冒険小説テイストになるというお茶目さ。だからか、訳者のあとがきも「本文庫に収録されたクロフツの作品もすでに二十編を越えたが、なかでも、この作品はクロフツの新しい試みのひとつとして、読者の思い出に残ることが期待される」なんて、褒めてるんだかどうだかよくわからないコメントで締めくくられています。
出来はいいとは言えないのだと思いますが、でも個人的にはなかなかよかったと、印象に残る作品でした。

ところで、タイトルはちょっといただけないですよね。
チェインって、主人公の名前ですよ。このタイトルだと、チェインという人物が謎だらけ、とかいうことかと思ってしまいます。原題もそのままなのですが、チェインに謎があるわけではないんだけど...

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フレンチ警部と毒蛇の謎 [海外の作家 F・W・クロフツ]


フレンチ警部と毒蛇の謎 (創元推理文庫)

フレンチ警部と毒蛇の謎 (創元推理文庫)

  • 作者: F・W・クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/03/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
私はジョージ・サリッジ。仕事はともかく家庭に満足しているとは言えない。だから博打に入れあげることにもなった。運命の女性ナンシーに逢った今や、二重生活を支える資金も必要だ。だから“叔母の遺産で万事解決”の皮算用が吹っ飛んだ衝撃といったらなかった。あげく悪事のお先棒を担がされ、心沈む日々。しかも、事故とされた一件をフレンチという男が掻き回している……。

「午後からはワニ日和」 (文春文庫)の次に読んだこの本にも動物園が登場しました。狙ったわけではなく、偶然ですけどね。
フレンチ警部が登場しますが、ミステリのジャンルでいうと倒叙のパターンで幕開けです。
ただ普通の倒叙ものと違って、視点人物となるサリッジは、共犯者というところがミソ。実際の殺人については知らないので、犯行部分は読者に伏せられています。この肝心なところが明かされないのが、なかなか興味深い。
そのうちフレンチ警部の捜査へ視点が移るわけですが、その着実な捜査ぶりが大きな読みどころですね。
共犯者サイドから見たときに、これは捜査しにくそう、手掛かりや決め手がすくなそうだなぁ、と思って読んでいかれると思いますので、フレンチ警部の腕の冴え、頭の冴えが、きちんと伝わってくると思います。
伏せられている犯行手段がちょっとわかりづらい点はたまにキズですが、じわっじわっと捜査が犯人(たち)へ向かって絞られていく様子を堪能しました。
本書はクロフツの最後の未訳長編だったそうです。最後に回された理由はわかりませんが、決して不出来だったから、ではないですね。手堅い、充実したミステリでした。
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ギルフォードの犯罪 [海外の作家 F・W・クロフツ]


ギルフォードの犯罪 (創元推理文庫 106-24)

ギルフォードの犯罪 (創元推理文庫 106-24)

  • 作者: F.W.クロフツ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1979/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ロンドン有数の宝石商ノーンズ商会の役員たちは、ギルフォードに参集した。ところが夜のうちに経理部長が殺され、さらにつづいて会社の金庫から、50万ポンド相当の宝石類が紛失していることが発見される。経理部長の死と紛失した宝石類──二つの謎はどう関連しているのか? 堅固なアリバイを持つ容疑者たちに対する、フレンチ首席警部の執拗な捜査を描いた力作長編。

創元推理文庫が毎年やっている復刊フェアで、クロフツは常連となっており、この作品も2009年の復刊です。この年は文庫創刊50周年記念だったようです。この調子で全部読めるようになるとうれしいですね。いまAmazonでチェックすると、本書は再び絶版になっているようですが...
金庫からの宝石盗難事件と、一見自殺に見える死亡事件が扱われています。
フレンチ主席警部は凡人型とよく言われますが、推理そのものはぽんとひらめくことが多いので、努力型ではあっても実際のところは天才型とあまり変わらないのではないかと思います。ただ、小刻みに捜査が進展することで、ひらめきとひらめきの間が写実的というか、派手なところがなくじっくりなので、凡人タイプといわれるのではないでしょうか? そしてクロフツの作品はこのつなぎの部分が読みどころのひとつだと思います。
たとえば、金庫盗難事件の鍵をめぐるトリックは、果たして実行可能なのかどうか疑問に思うところもありますが、このつなぎ部分が隙間を着実に埋めていく雰囲気を醸していて、なんとなく現実的なトリックであるように思えるところなど特徴的かと思います。
最後にすっと舞台が広がるところもクロフツらしい作品です。
手堅い本格ミステリとして、なかなかよかったと思います。続けてほかの作品も復刊してくださいね。

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