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煽動者 [日本の作家 石持浅海]


煽動者 (実業之日本社文庫)

煽動者 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2015/08/01
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日曜夕刻までに指摘せよ。“名前”のない犯人を--。
テロ組織内部で殺人事件が起きた。この組織のメンバーは、平日は一般人を装い、週末だけ作戦を実行。互いの本名も素性も秘密だ。外部からの侵入が不可能な、軽井沢の施設に招集された八人のメンバー。発生した殺人の犯人は誰か?テロ組織ゆえ警察は呼べない。週明けには一般人に戻らなければならない刻限下、犯人探求の頭脳戦が始まった―。閉鎖状況本格ミステリー!


「攪乱者」 (実業之日本社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、シリーズ第2弾です。
施設に召集されたテロリストのメンバーのなかで殺人事件が起こる...
おもしろいことを考えますよねぇ。嵐でもないのに、嵐の山荘が成立する。
作中にも書いてありますが
「しかしここは反政府組織だ。警察は来ないし、上司からの指示はもう出されている。事件は放っておいて、任務を継続するようにと。」(199ページ)
ということなんですね。

さらにおもしろいのが、この任務。
「攪乱者」 に続いて、こんなテロがあるかなあ? というような任務です。
この微妙な匙加減がこのシリーズのポイントですね。

そしてさらにさらにおもしろいのが、嵐の山荘での殺人が発生したというのに、このテロ組織の面々はいったんその施設を離れ、翌週またこの施設に”出勤”するというところですね。

こういう異常な設定の物語ですから、異常なことがあっても普通なのかもしれませんが、この作品の動機にはやはり首をかしげざるを得ません。
まあ、動機が理解を超えているなんていうのは、石持浅海作品には普通のことですから、苦笑するしかないのですが...
こんな動機で殺されては、たまったものではありません...

と、石持浅海らしい作品で仕方ないなぁ~、と思っていたら、ラストでこの組織の秘密が明かされます。
これには感心しました。おもしろい!
出発点はさほど突飛な発想ではないのではと思いますが、そこからこういうテロ組織に持ってきたのはアイデア賞だと思いました。
こんなテロがあるかなぁ?、こんなのテロに入るかなぁ? という疑問にさらっと答えていて、ニヤニヤと笑ってしまいます。
馬鹿馬鹿しいことを作品に仕立て上げるなら、ここまでやらないとね!


<蛇足>
「一般企業ならば、部下のやる気を削ぐとして、管理者のべからず集に載る態度だ」(189ページ)
というところで、おやと思いました。
「べからず集」
最近聞かない表現ですね。




タグ:石持浅海
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虚像の道化師 [日本の作家 東野圭吾]


虚像の道化師 (文春文庫)

虚像の道化師 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ビル5階にある新興宗教の道場から、信者の男が転落死した。男は何かから逃れるように勝手に窓から飛び降りた様子だったが、教祖は自分が念を送って落としたと自首してきた。教祖は本当にその力を持っているのか、そして湯川はからくりを見破ることができるのか(「幻惑す」)。ボリューム満点、7編収録の文庫オリジナル編集。


ガリレオ・シリーズ第7弾。
もともと単行本のときには、
「虚像の道化師 ガリレオ 7」
「禁断の魔術 ガリレオ8」
と2冊の短編集だったのを再編集し、「猛射つ」以外の作品を文庫版の「虚像の道化師」 (文春文庫)に収録、「猛射つ」は長編化して文庫版の「禁断の魔術」 (文春文庫)にした、ということのようです。
ああ、ややこしい。

ということで、この「虚像の道化師」には
「幻惑す まどわす」
「透視す みとおす」
「心聴る きこえる」
「曲球る まがる」
「念波る おくる」
「偽装う よそおう」
「演技る えんじる」
の7編収録です。
もっとも目次では、第一話、第二話、ではなく、第一章、第二章、となっていて長編のような形で掲げられていますが、各話につながりがあるわけではなく、短編集ですね。

このシリーズいわゆる物理トリックの限界に挑んでいる、という側面もありますが、そして最初の頃はそういう興味が強かったように思うのですが、最近では、物理トリックをどう物語に組み込むか、あるいは、物理トリックでどう物語を盛り立てるか、に焦点が当たっているような気がします。
たとえば、「心聴る きこえる」の幻聴(?)トリック、最後に作者注として「二〇一二年五月時点で実用化は確認されていません」と書かれていまして、その点では不可能なトリック、あるいは実際にはない技術を用いたトリックとして、アンフェアという非難を受けかねないトリックではありますが、物語にきれいに溶け込んでいるのであまり不満を感じません。
「透視す みとおす」の透視トリックも、そんなにうまくいくかなぁ、と思わないでもないですが、このトリックをきっかけとして登場人物間の関係に新しい光があたるので、これはこれであり、と思えてしまいます。
そのほかの作品にも簡単に触れておくと、
「幻惑す まどわす」
教団教祖の念の正体(?) はちょっと笑えてしまうのも、物理トリックならではでしょうか。
「曲球る まがる」
物理トリックらしいものは登場しないのですが、物理現象が謎解きに貢献します。
むしろピッチャーの投球をガリレオが解明しようとするのがおもしろいですね。
「念波る おくる」
双子がテレパシーを使う、という題材。
こういうのって、理に落ちるとおもしろくなくなりそうなのですが、そして理に落ちた着地を見せるのですが、謎をあばく方向に使っている点がよかったのかな、と思いました。
「偽装う よそおう」
物理トリックではなく、事件の解明を科学的に行っていく、という展開になっています。
しかし、湯川のキャラクター、ずいぶん変わってきていませんか!?
「演技る えんじる」
物理トリック、ではないですね、この作品で使われているトリックは。
ただ、一般人でも思いつきそうな、でもそれなりに凝ったトリックになっていて、個人的にお気に入りのトリックです。

全編を通して、若干のネタバレにはなりますが、事件の犯人以外の人物がトリックを使うという設定がちらほらあるのが気になりました。トリックにもいろいろな使いかたがある、ということですね。



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目白雑録 2 [日本の作家 か行]

目白雑録 2 (朝日文庫)

目白雑録 2 (朝日文庫)

  • 作者: 金井 美恵子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/07/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
小説を書き、本を上梓し、愛する老猫の健康を気遣う日々のなかで出合うさまざまな事象、メディアに現れるさまざまな言説を、金井美恵子が斬りまくる! 素敵で過激な「日々のあれこれ」。大好評エッセイの第2弾。


第1巻の「目白雑録」 (朝日文庫)をずいぶん前に読んでいます。おもしろいと何かで読むか聞くかしたんだったと思います。
日頃の読書傾向とはまったく異なるのですが、おもしろかった記憶があります。
続巻については文庫化されると買って積読という状態を続けてきましたが、ロンドンへ来る際まとめて持ってきたものです。だけど、第1巻を読み直そうと思っていたのに、第2巻からしか持ってきていなかった...不覚。
2004年4月から2006年3月まで雑誌に連載され、2006年6月に単行本が出て、2009年7月に文庫化されたものなので、ずいぶん前に書かれたエッセイで、懐かしいこともいっぱい出てきます。
ちなみに、目白雑録には、「日々のあれこれ」というルビ(?) がふってあります。

「目白雑録」と比べると、楽しみにしていた毒舌が抑え気味のようにも思いましたが、たとえば、
「歩いていける距離にある池袋のシネ・リーブルで『華氏911』を上映していると知人の夫妻に誘われて観に行ったのだが、これはもちろん見る前から愚作とわかっていたものの、クエンティン・タランティーノが審査委員長だった今年のカンヌ映画祭でパルム・ドールだったというのは、これもまあ、あきれたところで無意味だろう。今村昌平の『楢山節考』にもやるパルム・ドールだのだから、と書いていて思い出したのが、9・11の一年後に、世界の九人だったか十一人の映画監督が、それぞれ9分11秒の戦争と平和についての短編を撮ったオムニバス映画がテレビで放映され、ほとんど覚えてはいないのだが、クロード・ルルーシュや今村昌平の短編もあって、そもそも大した水準ではない九本だか十一本の中でも、群を抜いていたのが今村の作品で、戦争中、村で非国民呼ばわりされた男が蛇になっちゃう、という筋。ブーイングするのさえ無駄で、溜息さえ出ない。」(58ページ)
なんて、すごいですよね。
思い出したついでに、ここまで馬鹿にされるとちょっとかわいそうです(笑)。

金井美恵子の筆が向かう攻撃対象は、なんといっても島田雅彦なんですが、それも抑え目です。
《〈「『風流夢譚』の出版自体は罪ではないし、言論の自由として認められるべきだが、出版によって起こり得る事態を想定しなかったことは責められる」と島田雅彦は書いた〉という長いタイトルの回(’02年六月)と、こうタイトルを書きうつしていると、また腹が立ってくるのだが》(69ページ)
と思い出し攻撃(?) までされているし、
「この巻の解説を島田雅彦が書いているが、まったくツマラナイ。絶対なりたくないし、なれないものが またもう一つあった。男の利口ぶった小説家である」(94ページ)
なんて、ひどい言われよう。
がんばれ島田雅彦!

わりと攻撃対象はあちこちにいまして(笑)
「メディチ家といえば、日本では塩野七生の通俗伝記物語で有名なのだろうが」(73ページ)
とさらっと、塩野七生をあしらったりするのは軽い方で、
「歌舞伎というのもまったく苦手で、玉三郎のデビュー当時は、話題の一つとして何回か見物に行ったこともあって、玉三郎は見た眼に美しいからいいのだが、正月のテレビ中継で見た人間国宝の中村雀右衛門について言えば、姉と私の共通の意見として、栗本慎一郎みたいな顔の女形はやだ、ということにつきる。芸だか技だか知らないが、顔がクリモトというのは、いやである。同じ観点から藤間系の顔のでかいデブのおやじたちが派手なフトンのように着ぶくれて女装してヨタヨタ踊る日本舞踊というのも、人間国宝だかなんだか知らないけれど、いやな物の一つだ」(102ページ)
「ヴェネチアの特別金獅子賞とやらを受賞した宮崎アニメというのが私は嫌いで、いやいや見はじめて最後まで見たためしがない。もともとアニメーションというものに興味がないのだが、あの宮崎アニメの絵とストーリーの下品さが、私の許容できる下品さと本質的に別のものなのだろう。相米慎二の映画の間抜けなくどさにも苛立ったし、北野武のバツの悪い間抜けなテンポも苛立つし、それとは次元が異なるが、ヴィデオで初めて見た成瀬巳喜男の『桃中軒雲右衛門』と溝口健二の『名刀美女丸』にも期待が外れる」(112ページ)
あたり、読んでいてニヤニヤ。
当然、対象は人間とは限りませんので、
「京都風の白っぽいお汁のかけそばの上に、でんと載っているニシンの煮いたんは、おいしいのだけれど、ニシン特有の生ぐささがあるし、それに細い小骨が歯にはさまったりして、恋する者の食べる食物ではないだろうし、京都風のソバはグチャグチャしていて最悪である」(70ページ)
というようなくだりも。

金井美恵子はサッカーファンとしても知られているようで(この「目白雑録 2」 (朝日文庫)の解説は田口賢二)、サッカーにも矛先は。
「チャンネルを回すとJリーグの、なんとかとかんとかのゲームをやっていて、これはサッカーというよりピッチでお散歩というか、幼稚園か老人ホームのカン蹴りに近い」(125ページ)
「三浦がゴールを決めた時の、男性ストリッパーの腰振りを模したなんとも下品な劇画センスのダンスも知っている。私がレフェリーだったら、みっともないしエロでさえなくて下手だという理由で、即座にレッド・カードを出して退場を命ずる」(185ページ)
そういえば、
「チェルシーはチャンピオンズ・リーグでスペインのベティスにも負けているのだが、勝つためのチェルシーのガツガツしたプレーを見ているとムカムカしていたので、マンUの圧勝とは言えない一点だが、チェルシーのガツガツしたやり口とロボットじみて魅力に欠ける選手に比べて、マンユーの若手選手たちは下流階級出の不良たちのケンカの素ばしっこい連係プレーを思わせるところが、いいよね、MFは現役の牧羊犬みたいに走るしさあ、などと姉と話しながら、夜中に銀杏を齧ってサッカーを見ていると、なんとなく〈下流〉という気分になる」(198ページ。2005年12月のエッセイ)
と書かれていますが、サッカーは間違いなく下流階級のためのスポーツですから、たっぷりと下流気分に浸るのが正しい観方かと思います(その観点では、ラグビーが上流階級のためのフットボールです)。

悪口の間にあっても...
浅間山の噴火で灰をかぶってしまったキャベツが格安で売られているのを買って“支援”したつもりになっている奥さんや、筑摩書房が倒産した際に著者・学者等がした“支援”のことを取りあげて、
「ようするに、支援(サポート)というのは、ささやかで、決して自分の負担にはならない範囲でできる何かなのであって、どの場合でも、それをすると、経済的な負担(もしかすると、岩波の方が部数を多く出してくれるかもしれない、という幻想の上の)はほとんど軽微なうえに、良心は満足、というものなのかもしれない」(62ページ)
と書かれていて、この種の話題にあうといつもぼんやり思っていたことをすぱっと指摘してもらって満足したりもしますし、
「誰も読んでいない」や「誰も見ていない」という表現をめぐる論考(210ページ~)は、島田雅彦の文章を発端とするものではあるけれども(笑)、視点がおもしろくてためになりました。

文庫化は、次の「目白雑録 3」 (朝日文庫)で止まってしまっているようですね。残りも文庫化してくださいね、朝日さん。


<蛇足>
「海舟の書いたり語ったものより、親父の勝小吉の『夢酔独言』のほうが、ダンゼン面白いことを連想してしまう」(78ページ)
とあって、「~たり、~たり」となっていなくて、おやおや、と思いました。


タグ:金井美恵子
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YAMATO Passion [イギリス・ロンドンの話題]

先週の土曜日23日に、Peacock Theatre に、Yamato のショーを観に行ってきました。

Yamato。知らなかったのですが、HPを拝見すると、「和太鼓プロ集団」ということで、
「結成26年
世界54ヶ国
公演数3,800回
観客動員数7,000,000人」
と書いてあります。
なんだかすごいですね。

日本にいると、コンサートとかショーとかってなかなか行けないのですが、こちらにいると割と身近ですね。
ということで、Yamatoそのものを知らなかったのですが、地下鉄の駅にポスターも貼ってあって、興味がわいて観に行きました。
うつりが悪いですが、地下鉄の駅で撮ったポスターがこちら↓。
Yamato ポスター.jpg
ミュージカルとか演劇もいいのですが、やはり壁になるのはセリフ。その点、和太鼓だったらセリフないからOKですよね。(もともと日本人の集団なので、なおよし)

驚いたことに、満席の客席、ほとんどが外国の方で、日本人には行き当たりませんでした。
海外でやってる公演って、客席は日本人が多いのが普通だと思っていたのですが、Yamatoは違いましたね。
こういう世界は言葉の壁もなく、万国共通で訴えるものがあるのでしょうね。

ショーは、とても素敵でした。
演奏は迫力満点で、ずんずん響いてくる音の世界!
と同時に、コミカルな演出も用意してあって、言葉はなくても観客も一体で楽しめます!

写真はケータイで撮ったので、ダメダメな写真ですが、雰囲気が伝わればいいな、と思います。
Yamato 1.jpg
Yamato 2.jpg Yamato 3.jpg
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猿島六人殺し [日本の作家 な行]


猿島六人殺し 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)

猿島六人殺し 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 鳴神 響一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2017/12/06
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
浪人者の多田文治郎は江ノ島・鎌倉見物のあと足を伸ばした米ヶ浜で、浦賀奉行所与力を務める学友の宮本甚五左衛門に出会い、対岸の猿島で起きた殺しの検分に同道してほしいと頼まれる。甚五左衛門が「面妖な事件」と評したことに興味をそそられ、承諾した文治郎。酸鼻を極める現場で彼が見たものとはいったい……? 驚天動地の時代ミステリ!


たぶん日本経済新聞だったと思うのですが、読書欄というのか書評欄というのかで(評者は縄田一男だったかと)、シリーズ第2作の「能舞台の赤光 多田文治郎推理帖」 (幻冬舎文庫)が取り上げられていまして、それがおもしろそうだな、と思ってシリーズ第1作のこの「猿島六人殺し 多田文治郎推理帖」 (幻冬舎文庫)をチェックしてみたら、こちらがこれまたおもしろそう。ということで購入!

離れ小島である猿島にある茶寮で六人が殺されていて、でも生きている者はだれ一人いない状態。茶寮は険しい崖の上に建っていて、門には頑丈な閂がかけられていて...
おお、「そして誰もいなくなった」 (ハヤカワ・クリスティー文庫)ではありませんか!!

探偵役をつとめる多田文治郎とワトソン役の甚五左衛門が事件現場に赴くまでの第一章のあと、第二章は事件の当事者の手記となっており、まさに「そして誰もいなくなった」

「そして誰もいなくなった」と違うのは、手記のあと、第三章以下で謎解きが行われること、です。
「そして誰もいなくなった」型のミステリは、皆殺しの部分が終わるとすとんとラストを迎えるパターンが多い(、そして、そのすとんと落とす切れ味で勝負する作品が多い)と思うのですが、この「猿島六人殺し 多田文治郎推理帖」は違います。手記が終わる段階で152ページほど。まだ200ページもあります。
そして、手記と現場を見たのをベースに謎解きを行う。
これは新しいように思いました。わくわく。
でもね、ちょっと残念なことに、次から次へとトリックをたちまちのうちに見抜いてしまうんですよね。
第三章でほぼすべての殺人の真相が明かされてしまいます。
ああ、もったいない。
もっともっと、ああでもない、こうでもない、とひねくり回してくれればよいのに。推理するという余裕もなく、ぱっぱと真相が語られてしまいます。
犯人もあっさり突き止められてしまいます。
ついでに文句を言っておくと、それぞれのトリックも特段とりたてていうほどのものでもないんですよね...だから多田文治郎でなくとも、読者も真相やトリックの見当が割と簡単についてしまうようになっています。

このあと犯人の手記があって背景が語られ、プラスαで物語は幕を閉じる、という流れ。
「そして誰もいなくなった」型のミステリに犯人の手記は必須アイテムではありますが、本作ではトリックや事件の流れが解き明かされてしまっていますので、手記は事件の仕掛けを明かすという役割を担うのではなく、事件の背景を語るものとなっています。
ここも新しい試みですよね。
この手記に新たな謎を仕掛けるというのも、楽しい仕組みだと思いました。

ということで文句もつけてしまいましたが、トータルでは大満足。
「そして誰もいなくなった」の変奏曲を時代小説の枠組みで構築した、なんて、素晴らしい!

シリーズを追いかけていきたいです。


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ポリス猫DCの事件簿 [日本の作家 若竹七海]


ポリス猫DCの事件簿 (光文社文庫)

ポリス猫DCの事件簿 (光文社文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
三十人ほどの人間と百匹以上の猫がのん気に暮らす通称「猫島」。島の臨時派出所の巡査・七瀬晃の相棒は、丸顔で目つきの悪いでっかいドラ猫、DCだ。個性的すぎる島民や困った観光客が引き起こす騒動にてんてこまいの毎日。そんな中には、大きな事件も隠されていて…。お気楽だけど真面目な青年警官とポリス猫が、意外な(?)活躍を見せる傑作コージー・ミステリ。


ずいぶん久しぶりの若竹七海です。
このブログで感想を書くのは、「さよならの手口」 (文春文庫)(リンクはこちら)以来で、実に2年10ヶ月ぶり。
例によって感想を書けていない本として日本推理作家協会賞受賞作を表題作にした短編集「暗い越流」 (光文社文庫)があるのですが、これすら手元の記録では読んだのは2016年12月なので、2年3ヶ月前ですね。
佳多山大地による解説によると葉崎市シリーズの7作目とのことです。
「ヴィラ・マグノリアの殺人」 (光文社文庫)
「古書店アゼリアの死体」 (光文社文庫)
「クール・キャンデー」 (祥伝社文庫)
「猫島ハウスの騒動」 (光文社文庫)(リンクはこちら
「プラスマイナスゼロ」 (ポプラ文庫ピュアフル)(リンクはこちら
「みんなのふこう~葉崎は今夜も眠れない」 (ポプラ文庫ピュアフル)(リンクはこちら
「ポリス猫DCの事件簿」 (光文社文庫)

事件簿、というだけあって短編集でして
「ポリス猫DCと多忙な相棒」
「ポリス猫DCと草もちの謎」
「ポリス猫DCと爆弾騒動」
「ポリス猫DCと女王陛下の秘密」
「ポリス猫DCと南洋の仮面」
「ポリス猫DCと消えた魔猫」
「ポリス猫DCと幻の雪男」
の7編に、全体のプロローグ、エピローグとして
「ポリス猫の食前酒」
「ポリス猫のデザート」
が付け加わっています。

各話、猫島(のお馴染みの面々)と直接関係なさそうなエピソードから始まり、そのあと、いつもの猫島のドタバタ(?) となります。冒頭のエピソードがどう猫島と絡んでくるのか、興味を惹かれます。
また、若竹七海らしいと申しますか、猫島の外での事件が全編の根底にあって、1冊を最後まで読むことでその事件の真相が浮かび上がってくる、という趣向が忍ばせてあります(これ、一種のネタバレかもしれませんが、最初から放り投げてあるような事件、記述があるので、ある程度ミステリを読んだことのあるならすぐなにかあると気づくと思いますので書いてしまっても構わないと思います)。
他愛ない事件がほとんどですが、そんな中にも若竹七海らしい意地悪な視線があって楽しい作品集でした。


<蛇足1>
「招き猫だって、もともとは客寄せだったのが金寄せになって、厄除けになったり方位除けになったりしたじゃん。それと同じでしょ」(83ページ)
というセリフが出てきまして、招き猫が金寄せになっている、ということまでは知っていましたが、厄除け、方位除けにまで活躍しているとは知りませんでした...

<蛇足2>
猫島観光協会とやらが作ったポスターのキャッチコピー(?) が注目です(141ページ)。
「よそにくらべりゃすいてます 猫島海岸」
「よそとくらべりゃ及べます 猫島海岸」
「よそより海がよく見えます 猫島海岸」
これを見て、つい最近話題になった三重県にある志摩スペイン村の宣伝を思い浮かべました。
「①並ばないから乗り放題
 ②空いてるから映え放題
 ③ライバルが少ないから目立ち放題
 ④距離も近いから仲良し放題」
ぜひHPをご覧ください! とってもおもしろいですよ。(←HPと書いてあるところをクリックするとスペイン村のHPが開きます。勝手リンクです)

<蛇足3>
「神事の直後から、低気圧が日本付近に腰を据えててこでも動かなくなり、海上には稲妻が走り、葉崎付近では一時間に四十八ミリという豪雨を観測し、葉崎山で土砂崩れが起きて、葉崎在住の作家・角田港大先生宅が半壊し、高価なスコッチウイスキー数本と、こつこつ集めたハードボイルドのペーパーバック・コレクションが土砂とともに押し流された。」(143ページ)
というのが出てきまして、この嵐、「火天風神」 (光文社文庫)の背景でしょうか??

<蛇足4>
「あいかわらず貧乏かわかしている、という財政事情を除けば」(160ページ)
この「貧乏かわかしている」の意味がわかりません....どなたかお分かりになりませんか?

<蛇足5>
「温泉の二文字は、葉崎のロコの心をしっかりとらえ、日帰り入浴にやってくる地元民がひきもきらない。」(280ページ)
ロコ? 
ネットで調べたら、
『「ロコ」とは、ハワイ生まれ、ハワイ育ち、ハワイ英語を第一言語とする人たちを指します。 厳密にはハワイで生まれ育った、白人以外の人々のことなんだそうです。』(勝手リンクです)
とありました。Local が訛っている(か、そう聞こえる)もののようですね。
その転用ということでしょうか。


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そしてミランダを殺す [海外の作家 さ行]


そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・スワンソン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/21
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
実業家のテッドは空港のバーで見知らぬ美女リリーに出会う。彼は酔った勢いで、妻ミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて当然だと断言し協力を申し出る。だが殺人計画が具体化され決行日が近づいたとき、予想外の事件が……。男女4人のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の攻防を描く傑作ミステリ!


「このミステリーがすごい! 2019年版」、2018年週刊文春ミステリーベスト10、ともに第2位です。
とてもおもしろく読みましたが、うーん、第2位になるほどのものか、と思わないでもないですね。

空港のラウンジで偶然隣り合った女性リリーに、工事業者ブラッドと不倫に走っている妻ミランダの愚痴をテッドが話し、「僕の本当の望みは、妻を殺すことだよ」と言ってみたら、リリーは「そうすべきだと思う」と応じ...
解説で三橋曉も書いているように、パトリシア・ハイスミスの「見知らぬ乗客」 (河出文庫)を思い出させるオープニングですが、「見知らぬ乗客」は交換殺人で双方向であるのに対し、この「そしてミランダを殺す」は単に妻を殺したいと思っている主人公が助けてもらう、手伝ってもらうだけという一方向(一緒に殺人計画をたてる)なので、より一層信じがたい設定ですね。
テッド、リリー双方を語り手として登場させることで、この部分をなんとかクリアしているように思いました。
さてどうなるかな、と興味を惹かれてぐんぐん読み進んでいくと、第一部の終わりでびっくり。
ああ、こう来ましたか... これは意外でした。
たぶん、「見知らぬ乗客」を連想させることを逆手にとっているのでしょうね。

このミステリ、引用したあらすじにも、帯にも書いてあるのですが「男女四人の語り」で進行します。
先入観なく読むには邪魔なコメントになってしまいますが、<伏字この四人が誰か>、というのもポイントですね。
<伏字リリー、テッド、そしてミランダとブラッドだと思うじゃないですか、普通...でも、違うんですよね。
この作品は全体を通して、リリーの物語、として成立している、と思いました。過去を振り返るシーンが結構な比重です。

意外な展開(過去の話も含め)にワクワクしながら読み進んでいったのですが、ラストがちょっとねぇ...
このラスト、この展開にしてはつまらないラストだと思いました。
なんか安っぽくなっちゃった感じがします。

あとミステリ的に不満が残るのは、殺人を犯すというのに計画が極めて杜撰なこと。
失敗してもいい、捕まってもいい、と思っているわけではないのだから、しっかり考えてもらわないと、ミステリとしてはつまらなくなってしまいますよね。いくら話の展開が重点のサスペンスだとは言っても...

不満は述べましたが、2位だと思えばこその不満、とも言えまして、読んでいる最中はどっぷり世界に浸ってしまいましたので(だからこそ、第一部の終わりでびっくりしました)、十分おもしろい作品でした。

原題はThe Kind Worth Killing。
直訳すると、殺すに値する種類(の人間)というくらいの意味でしょうか。解説でも触れてありますが。
「あなたの奥さんは、殺されて当然の人間に思えるわ」(43ページ)
というリリーがテッドに言うセリフが当てはまりますね。当然、と訳してあるのはさすがプロ、ですね。



原題:The Kind Worth Killing
作者:Peter Swanson
刊行:2015年
訳者:務台夏子












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僕と先生 [日本の作家 坂木司]


僕と先生 (双葉文庫)

僕と先生 (双葉文庫)

  • 作者: 坂木 司
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2017/06/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
こわがりなのに、大学の推理小説研究会に入ってしまった「僕」と、ミステリが大好きな中学生の「先生」が、身のまわりで起きるちょっとした「?」を解決していく“二葉と隼人の事件簿”シリーズの第2弾。前作『先生と僕』同様、ふたりの活躍に加え、ミステリガイドとしてみなさんを愉しいミステリの世界へと導く!


「先生と僕」 (双葉文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く《二葉と隼人の事件簿》シリーズの第2弾です。
このシリーズ、《二葉と隼人の事件簿》というんですね。「先生と僕」 の文庫本が出たときにはシリーズ名はこうなっていなかった気がしますが。
それにしても、「先生と僕」の次が「僕と先生」というのは極めて紛らわしいですね。
文庫版あとがきで作者も
「まず最初にひと言謝らせて下さい。ややこしいタイトルですみません。」
と書いています。続けて
「『しかも解説も同じ人だし』」
というのは、逆にちょっと楽しいですけどね。

「レディバード」
「優しい人」
「差別と区別」
「ないだけじゃない」
「秋の肖像」
の5編に、ボーナストラックというか後日譚というかという位置づけの
「指先の理由」が収録されています。

「先生と僕」感想に書いた不満はまったく解消していません。
不満は大きく2点。
紹介されている作品があまりにも有名すぎて新鮮味がない、ということと、扱われている謎が魅力的ではないこと。
紹介される作品が、
「ブラウン神父の童心」 (創元推理文庫)
「怪盗紳士リュパン」 (創元推理文庫)
「ポー名作集」 (中公文庫)
ってラインナップだと、ちょっとなぁと思いませんか?? 
いくらなんでも、このラインナップはないですよね。
ヘンリイ・スレッサーの「快盗ルビイ・マーチンスン」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
天藤真の「大誘拐」 (創元推理文庫)
あたりは、ぎりぎりアウトでしょうか...

ただ、帯に「二葉と隼人に強敵あらわれる!?」とあるように、冒頭の「レディバード」から新キャラが登場していて、この人、楽しそうなんですよね。
ミステリ味を濃くして、かつ、紹介するミステリを入門編から一歩も二歩も踏み出して、続編を書いてください。



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消えたメイドと空家の死体 [海外の作家 は行]


消えたメイドと空家の死体 (創元推理文庫)

消えたメイドと空家の死体 (創元推理文庫)

  • 作者: エミリー・ブライトウェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/09/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
人柄の良さに反比例して刑事の才能はない主の警部補のため、こっそり事件を解決してきた屋敷の家政婦ジェフリーズ夫人と使用人たちは、その実績を見こんだ知人に、行方知れずのメイド捜しを依頼される。一方、警部補は新たに身元不明の若い女性が殺された事件を担当することに。捜査を始めるや、このふたつの事件が意外な形で結びつく?話題沸騰、痛快ヴィクトリア朝ミステリ。


もう3月ですか...
1月末から仕事上でちょっとごたごたし、本を読む気にもあまりならず、ブログの更新もできませんでした...あ~あ。まだすっきりとはいっていないのですが、なんとかもとの状態に戻りたいところです。

さて、この「消えたメイドと空家の死体」 (創元推理文庫)「家政婦は名探偵」 (創元推理文庫)に続くシリーズ第2弾なのですが、「家政婦は名探偵」 を昨年2月に読んだものの感想は書けないまま、第2作を1年ぶりに読みました。

ヴィクトリア朝を背景にしているのですが、コージーと言いたくなるような雰囲気に浸れるところがポイントの作品かと思います。ミステリとして突出したところがあるわけではないのですが、楽しく読めるのがいいですね。
「家政婦は名探偵」というと、市川悦子さん主演だった「家政婦は見た」シリーズみたいなのを思い浮かべるかもしれませんね。あちらは名家の秘密を家政婦が暴いていく、という設定ですが、「家政婦は名探偵」シリーズは、ご主人様であるスコットランドヤードのウィザースプーン警部補を助けるために家の外で起こった普通の殺人事件を捜査する、という設定になっています。
このウィザースプーン警部補のぼんくらぶりが笑えるのですが、事件がわからない、というだけではなく、ジェフリー夫人があれこれいっても、助けてもらっていると気づかないあたりがすごいです。
探偵をつとめるのは、家政婦のジェフリー夫人だけではなく、ハウスメイドのベッツィ、料理人のグッジ夫人、従僕のウィギンズに馭者のスミスと、ウィザースプーン家の面々全員(!) で、さながら探偵団。
この探偵団に支えられて事件は解決できるので、ウィザースプーン警部補は実はヤードでは切れ者として通っているのかも(笑)。だって、ウィザースプーン警部補を目の敵にするライバル(?) ニーヴンズ警部補なんてのもいるんですから。

メイド探し、と廃墟と化したマグパイ・レーンの元地下室と思しき場所で見つかった若い女性の死体、という二つの事件が交差するのか、交差しないのか、このあたりの匙加減がうまくいっているなと思いました。
ヴィクトリア朝の、雇う側と雇われる側の大きな溝、というのが軽やかな物語の中にしっかりとした軸として入っていて、ミステリ面でもすっきり整理されているイメージです。
(その点で、雇われる側のジェフリー夫人が、雇う側のところに乗り込んでいくシーンにはちょっと首をかしげてしまいました。使用人ごときが正面から家に入れてもらえなくてもおかしくないのですから... アメリカ人の未亡人、ルティは雇う側ながら、ジェフリー夫人と仲がいいという設定で、これはアメリカ人だから、開けた性格の人だから、という背景が用意されているので、たとえばルティを使って探らせる、というように運んだほうがこうした疑問を抱かれずにすんだのにな、と思いました)

同じような困難や時代背景は、アン・ペリーの作品にも使われていますが、物語のテイストがまったく違うのが興味深く感じました。



原題:Mrs. Jeffries Dusts for Clues
作者:Emily Brightwell
刊行:1993年
訳者:田辺千幸








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猿の悲しみ [日本の作家 樋口有介]

猿の悲しみ (中公文庫)

猿の悲しみ (中公文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
弁護士事務所で働く風町サエは、殺人罪で服役経験を持つシングルマザー。十六歳で不登校の息子がいる。表向きは事務員だが、実際には様々な手口で依頼主の要望に応える調査員。プロ野球選手とモデルの離婚慰謝料を巡り動くサエだったが、同時にある殺害事件についての調査も言い渡される。歪んだ愛の発端は三十四年前に遡り――。


樋口有介の新シリーズです。
続く「遠い国からきた少年」 (中公文庫)(単行本のときのタイトルは「笑う少年」)もすでに文庫化されていますね。

女性が主人公で探偵役...
正直読み始めるまでは不安がありましたね。
樋口有介はやはり男の子が主人公をつとめる作品がよい、と個人的に信奉しているので。(その意味では、樋口有介の看板シリーズである柚木草平シリーズですら、個人的には劣後します)
しかし、杞憂でした。いつもどおりの樋口節ともいうべき物語を楽しめました。
柚木草平が娘、加奈子に対して抱く感情・感想と、風町サエが息子、聖也に対して抱く感情・感想を比べてみるのもおもしろいかもしれません。どちらも、表立った行動にはなかなか出しませんが、溺愛していることに違いはありませんし。

サエを取り巻く周りの人物が彩り豊かなのがポイントかと思います。
いわゆるハードボイルド、私立探偵ものの王道ですね。
息子、聖也もそうですし、サエを雇っている弁護士羽田愁作の事務所の面々(若手弁護士・島袋智之、事務員?・雪原玲香)も一癖も二癖もある面々。
サエを手伝うフリーターでオタクの大野克好、大野と会う場所であるサエの行きつけのスナック「鼻歌まじり」のママ・横内亜季奈(サエの昔の不良仲間)もいい感じ。
そうそう、柚木草平シリーズに出てくる山川刑事も活躍しますよ。
そういえば、愁作とサエが寄る新宿二丁目のゲイバー「クロコダイル」で、草平もカメオ出演というのでしょうか? ちらっとだけ出てきます(243ページ)。

今後シリーズが展開していくにつれて、息子の父親である(とほのめかされている)政治家(の息子で出馬が噂されている)・深崎朋也が物語に絡んでくるのでしょうか??

ミステリ的には、急成長した家電の量販店。高級官僚。巨額の資金が動く慈善事業団体と揃った道具立てとそれを追う編集者たちの死、という枠組みで、これがなだらかに語られていくところがポイントなんだなと思います。
ハードボイルド、私立探偵ものの王道といえば...本書を読み終わったとき、ふた昔ほど前(世紀が変わる前あたりでしょうか)に流行ったハードボイルドの一つのテーマを思い出したんですよね。たとえば真保裕一のあれとかです。
落ち着いて考えると、違うのでは、と思いましたが、それでもあれの変奏曲という連想が働いてしまったんですよね。
この作品のラストであるサエとの対決シーンはすごく静かに行われるのですが、かなり強烈に怖いですよ。だからかもしれません。

ラストがかなり思わせぶり、というか、はっきり書いていないところがあって、さて、どうこうことなんだろう、と考えるわけですが、そして個人的にはこういう(血の繋がった兄妹であることを知りつつ男女の関係に持ち込んだ)ことかな(ネタバレにつき色を変えています)、と思っていることはあるのですが、
「まさか、いくら〇〇でも……」(390ページ。はっきり名前がさらしてあるので伏字にしています)
とサエが言うのとちょっとそぐわないかな、とも思っています。
どなたか、はっきりわかっている方がいらっしゃったら教えてほしいです...

タイトルの「猿の悲しみ」。
その意味するところもこれまたはっきりとは書いてありませんが、サエが収監中に弁護士羽田愁作が差し入れてくれたデズモンド・モリスの文庫本「裸のサル」を念頭に置いたものです。
『内容的には人間をただの猿とみなした生物学の解説書で、善だの悪だの愛だの倫理だのを「猿としての人間」という観点から一蹴している。』
『全体としてはすっきりと、人間をただの動物時限へおとしめている。』
『今でもつまらない人間特有の感情に流されそうになると「私なんかしょせんはただの猿」と自分に言い聞かせる』(63ページ)
とサエが語るところがありますが、そうやって抑えようとしても出てくる悲しみを指すのだろうな、と考えました。



タグ:樋口有介
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