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河原町ルヴォワール [日本の作家 円居挽]

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
賀茂川と高野川が合流する鴨川デルタ。瓶賀流(みかがみつる)が目撃したのは濁流に呑み込まれる友人、龍樹落花(たつきらっか)の姿だった。その夜、下流で発見された紛れもない落花の遺体。撫子は姉の死を信じることができずにいたが、犯人として名前が挙がったのは音信不通の兄、大和だった。京都の歴史を覆す私的裁判・双龍会(そうりゅうえ)が始まる。


「丸太町ルヴォワール」 (講談社文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「烏丸ルヴォワール」 (講談社文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「今出川ルヴォワール」 (講談社文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4弾にして、最終作。
2017年1月に前作「今出川ルヴォワール」 感想)に、「今年中に読みたい」と書いていたものの、結局2018年も暮れになってしまいました。

あらすじにもありますが、冒頭いきなり龍樹落花が死んじゃうんですよね。しかも大和と対決して。
シリーズ読者にはかなり衝撃的なオープニング。
落花の跡を継いだ撫子が渋る中、ようよう始まった双龍会。お膳立てはばっちり。
この双龍会の丁々発止といってもよいやりとりがこのシリーズの醍醐味ですね。おもしろい。
敵と味方が入り乱れ、逆転につぐ逆転。
龍樹家、青蓮院、城坂家、そして、黄昏卿。これまでシリーズを通して培われてきた京都の歴史の奥が暴かれ、ひっくり返される。
いやあ、おもしろかった。

おもしろかったんですが、なんでもありの双龍会とはいえ、ちょっと今回のはアンフェアに思えてなりません。
非常に気を使った書き方がされていることはわかるんですが、それでもなお、アンフェアだな、と感じてしまいました。
一方で「フェアがなんぼのもんじゃい」というような仕掛けに感じ入ったのも事実です。
ここまで仕組んでくれたら、まあ、アンフェアでもよしとしましょうか、とも思えるほど。

楽しいシリーズでした。


<蛇足1>
「ある病院の催事場でちょっとしたパーティがありまして」(64ページ)
私立病院なので、好きなように設計すればよいわけですが、催事場のある病院って...!?

<蛇足2>
「ただ、ばんたび断るのが面倒なのは確かだ」(97ページ)
文脈から意味は分かるんですが、「ばんたび」ってなんだ??
ネットでもあまり出てきませんね。
Weblio辞書によると
=番度=毎度、毎回 ・「ばんたび 許すと思ったら大間違いだ」
ということだそうです。甲州弁、あがつま語ということなので、方言、でしょうか。

<蛇足3>
「もしかして天邪鬼に天邪鬼呼ばわりされるぼくはまともな人間なのでは?」
「異常の反対は別の異常だよ。お互いまともじゃないからこんなところに吹き溜まるんだ」(124ページ)
ああ、こういう切り返し、いいですね。


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イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 [日本の作家 篠田真由美]

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 (角川ホラー文庫)

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
奇妙な外観の埃及(エジプト)屋敷に、心霊科学実験のため集まった4人の男女。戦時中、密かに持ち込まれたエジプト遺物がひしめく地下で、館の主は首無し死体で発見されたという。本人たち曰く“腐れ縁”で結ばれたトリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴は、館に渦巻く不穏な空気と、不可思議な現象に立ち向かう。だがそれは忌まわしい悲劇の始まりにすぎなかった……謎と恐怖が織りなす美麗な館ミステリ・ホラー。


篠田真由美の2016年に始まった新シリーズの第1作。
といいながら、この「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)の次の「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)しか出ていませんが...
うーん、シリーズ第1作ということで、小出しにされているのだろうと思いますが、ちょっと中途半端なイメージを抱きましたね。新しさ、というのもあまり感じません。

まず舞台設定です。
冒頭に、「災厄の年、ノストラダムス・イヤーと俗称される西暦一九九九年から頻発する地震と火山噴火、各地で相継いだ原子力発電所の事故によって、本州の大半が居住不適地域と化した現在の日本」(23ページ)と書かれています。
でも、こういう異世界を舞台にする意味が、少なくともこの「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)を読んだだけではわからないんですよね。

トリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴の関係性も、はっきりしていません。あらすじには「心霊科学実験のため集まった4人」と書かれていますが、御子柴は招待されてもいないのに、ルカについてきた(!) だけ、という特殊ぶり。ついでに言っておくと、あらすじではいかにもこの2人が主役という書き方で、確かにそれはそうなのだと思いますが、視点人物の中心はこの2人ではなく、衿という、子供の頃超能力少女としてTVをにぎわせていた女性なんですよね。
この衿のキャラクターは母に支配される娘、という典型をフォローするものではあるものの、おもしろいと思いましたね。当時TVに一緒に出ていた鏡子との関係もなんだかリアルです。
登場するルカとともにいる犬が、常ならぬものという設定のようですが、いい感じです。

物語は、北軽井沢の洋館(?) 埃及屋敷が舞台。戦前・戦中のエジプト学者呉日向(くれひゅうが)が、「エジプト政府の許可を得ないまま、大量の発掘品を日本に持ち帰って」(9ページ)、コレクションを収蔵するために作った住居兼私設博物館。アル・アシュムーナインの祭祀遺跡(このアル・アシュムーナインというのも、由緒ある怪しげな地名のようですね)から、崖に彫られた岩窟神殿の岩をすべて切り取って持ち帰った、というのですから豪儀です。

ここまででお分かりいただけると思いますが、すべてが思わせぶり、なのです。
そしてこうした思わせぶりな登場人物、舞台設定で、まさにいかにもなホラーが展開します。
様式美、ということでしょうか。
館で起こる怪異(とひとくくりに言ってしまいますが)も、お馴染み(?) のものばかりですね。ホラー、あるいはゴシック・ロマンという観点からいうと新しいものが盛り込まれているのかもしれませんが、そちらのジャンルには明るくないのでよく見分けがつきません...
ちょっと初心者には地味な作品に仕上がってしまっているのかもしれません。

シリーズ続編である「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)でどう展開するのか、確かめてみたいです。



<蛇足>
「まあ。そんな、いきなり悪魔なんてものを、ここでいきなり持ち出さなくても」(231ページ)
校正してないんでしょうか?
会話なので、そんなにうるさく言う必要はないのかもしれませんが、いきなりが重なって少々...見苦しいです。



<蛇足2>
PCの動作がおかしくなるシーンがあるのですが、電源ボタンを押しても変わらないので、
「デスク下の電源コードの束を荒っぽく掴んで引き抜く。ブチッと鈍い音とともにディスプレイがブラックアウトした。」(325ページ)
というシーンがありますが、電源と切り離してもすぐにはブラックアウトしないんじゃないかな、と思ったり...



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dele [日本の作家 は行]

dele (角川文庫)

dele (角川文庫)

  • 作者: 本多 孝好
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除する」。それが『dele.LIFE』(ディーリー・ドット・ライフ)の仕事だ。淡々と依頼をこなす圭司に対し、新入りの祐太郎はどこか疑問を感じていた。詐欺の証拠、謎の写真、隠し金――。依頼人の秘密のデータを覗いてしまった2人は、思わぬ真相や事件に直面してゆく。死にゆく者が依頼に込めた想い。遺された者の胸に残る記憶。生と死、記録と記憶をめぐる、心震わすミステリ。


本多孝好の本を読むのは、「ストレイヤーズ・クロニクル」 ACT-1 ACT-2 ACT-3 (集英社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来です。実に5年ぶり。
この「dele」 (角川文庫)は山田孝之、菅田将暉出演でドラマ化されたようですね。好評のようで、続編「dele2」 (角川文庫)も今年の6月に出ています。
ドラマ化された、という表現は正確ではないですね。詳細はドラマの方のHPで、金城一紀、本多孝好に山田プロデューサーの3人の対談(鼎談?)を見ていただくとして、アイデアの元を本多孝好が出して同時にドラマ化、小説化したみたいですね。
『本多孝好による小説版「dele」 「dele2」  ドラマとは異なるオリジナルストーリー』とも書かれています。
文庫本 の帯には「ドラマの原案・脚本を手掛けた著者自らによるオリジナル小説!」と。
おもしろい試みだと思います。

「ファースト・ハグ」
「シークレット・ガーデン」
「ストーカー・ブルース」
「ドールズ・ドリーム」
「ロスト・メモリーズ」
の5編収録の連作短編集です。

「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除する」という仕事、確かにニーズありそうですよね。デジタル遺品、という語も割と目にするようになりましたし。
この作品集で気になったのは、いずれの話もわりとあっさりと、依頼人が見られたくないはずのデータを主人公たちが見てしまうことでしょうか。祐太郎(や圭司の姉)に引きずられて圭司も仕方なく、という流れには一応なっていますが、それにしてもさらっと見てしまいすぎな気がします。
もっともそうでないと、個人の想いに届くことがかなり難しくなるので、ストーリー要請上やむを得ないのだとは承知しても、気になるポイントですね。
ドラマは観ていませんが、この点どう処理していたのでしょうか?

各話それぞれ、本多孝好らしい話が展開しますが、一番の好みは「ドールズ・ドリーム」。
依頼人の家族が巻き起こす騒動(?) も取り入れてうまくストーリーが組み立てられていますし、データを祐太郎・圭司が覗き見たときのシーンも印象に残ります。依頼人の願いが浮かび上がってくるラストは、依頼人がするささやかな勘違い(?) も含めて納得感があります。連作的には、デジタル遺品の枠を拡げる作品、とも捉えることができるかもしれません。

ラストの「ロスト・メモリーズ」は、もっともミステリに近づいた作品だと思われますが、ミステリ定番のストーリーのその後を本多孝好テイストで描くものとして捉えることができ、なかなか興味深いです。


<蛇足1>
タイトルのdele。
英単語の delete から派生したものですね。
delete の発音を、どちらかというと「デリート」(「デュリート」に近いですが、日本語っぽく書くと「デリート」)という感じで覚えていたので、dele に「ディーリー」とふってあって「あれっ」と思ったりもしましたが、発音記号的には弱母音なのでデだろうと、デュだろうと、ディだろうと、どうとでも聞こえますね。多数派はディーリー(あるいはディリー)。今後気をつけるようにします!

<蛇足2>
「大手ゼネコンの大堂建設で取締役。その後、相談役まで務めた人だ。」(79ページ)
とあります。取締役、となっていますが、常務や専務までいったとすると常務取締役、専務取締役というでしょうから、平取止まりだったということでしょう。
これも会社によって違うかもしれませんが、平取が相談役になるって、通例なんでしょうか? 感覚的に相談役ってもっと偉くならないと就けないポジションではないかと思うんですが...



タグ:本多孝好 dele
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映画:アレックス・ライダー [映画・DVD]

アレックスライダー [DVD]

アレックスライダー [DVD]

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD

「ストームブレイカー」 (集英社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)を読んだときに、映画化されているのに気づいて、気になっていたのでDVDを購入してみました。

映画だとよく引用しているシネマトゥデイから、ここでも引用します。
見どころ:イギリスでシリーズがベストセラーとなった「アレックス・ライダー」の映画化。英国諜報機関MI6にスカウトされた少年が、IT実業家の陰謀を明かすためのミッションを遂行するスパイアクション。少年スパイ役でいきなり主演デビューを果たしたアレックス・ペティファーは、日本でもファンが増えそうなルックスの美少年。アクション監督・ドニー・イェンの指導の下で挑戦した、本格的なアクションは必見。

あらすじ:両親を亡くしたアレックス・ライダー(アレックス・ペティファー)は、一緒に住んでいた叔父(ユアン・マクレガー)の交通事故死をきっかけに、叔父は銀行員ではなくMI6の諜報員で自分がスパイになるべく、武道や語学を仕込まれていたと知る。MI6にスカウトされたアレックスは、叔父の追っていたミッションを引き継ぐことになり……。

引用してケチをつけるのもあれですが、見どころ、で原作のタイトル間違っていますね。「アレックス・ライダー」というのは映画の邦題で、原作タイトルは「ストームブレイカー」。映画の原題も「ストームブレイカー」です。

主役をつとめるアレックス・ペティファーは、14歳に見えるかどうか、微妙かもしれませんが、まあぎりぎりセーフでしょうか。原作でもかなり大人びた、というか大人をしのぎそうな設定でしたしね。
原作は薄い本でしたが、それでも映画にするには刈り込んでいますね。いろいろとすっ飛ばして物語を進めていきます。
原作にないエピソードも楽しいですし(たとえば、馬でロンドンの中心街を駆け抜ける? ところとか)、原作で登場する小道具たちが映像で目に見えるかたちで登場するのも楽しいですね。
ちょっと失礼な言いかたになりますが、これは拾い物でしたね。
わりとおもしろいではないですか。
ただ、原作はシリーズが続いていきましたが、映画は続編が作られていないようですね。興行収入が大したことなかったのでしょう。惜しい気がします。

<蛇足>
エンディングで出てくるアレックスの学校登校シーン。
住んでいるところのすぐ近くがロケ地だったので、なんとなく得した気分になりました。
チャンネル4(テレビ局)が映ったのですぐにわかりました!


原 題:Stormbreaker
製作年:2006年
製作国:ドイツ・アメリカ・イギリス


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SOSの猿 [日本の作家 伊坂幸太郎]

SOSの猿 (中公文庫)

SOSの猿 (中公文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/11/22
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か? そもそも答えは存在するの? 面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。


この「SOSの猿」 (中公文庫)は、五十嵐大介のコミック「SARU」 (上・下) (IKKI COMIX)と対になるもの、ということですが、「SARU」は読んでいません。
「SOSの猿」「SARU」は、「猿」「孫悟空」「エクソシスト」という共通するキーワードを持っているということで、なにやら三題噺みたい。(でも、猿と孫悟空は似たようなものなので-というと孫悟空に叱られますね-、三題噺と呼ぶのにすこし躊躇しますが)
しかしまあ、変な話を考えるなぁ、といつもながら伊坂幸太郎の本には感心します。

なにしろ、孫悟空ですからねえ(ほかにも変なところはありますが)。
お話は、引きこもりの青年を悪魔祓いでなんとかしようとさせられる「私の話」というパートと、証券会社で発生した誤発注事件の原因を探るシステム会社員の「猿の話」というパートの2つが交互に語られます。
こういうタイプのストーリーでは、この2つがどうつながるのかを考えながら読者は読んでいくことになるわけですが、この2つの話のつながりはミステリではよくあるパターンの1つになっていまして、その点ではサプライズは大してないのですが、つなぎ合わせるのが孫悟空、ということですからねぇ...
ただ、伊坂幸太郎の文章や登場人物の佇まいなどからすると、孫悟空くらい出てきてもおかしくないかな、と思えてしまうから不思議です。

それにしても孫悟空なんてテレビ番組で見ただけで、「西遊記」は読んでおらず(ひょっとしたら子供向けのダイジェスト版で読んだことがあったかもしれませんが記憶にはありません)、勝手なイメージだけがありますが、
「俺は東勝神洲傲来国は、花果山の生まれ、水簾洞主人にして、美猴王、斉天大聖、孫悟空だ」(155ページ)
と登場するところから、ほほう、と感心してしまいます。

そのほかにも、何かが起こったようで起こらなかったり、起こらなかったようで起こっていたり、伊坂幸太郎らしい癖のある物語を楽しむ作品だな、と思いました。
(その意味では、伊坂幸太郎初心者には厳しいかもしれません)


<蛇足1>
「この男の中には『繊細な男』と『図太い男』の二人がいて、失敗を反省するのはいつだって繊細な男の方だけ、図太い奴は図太いまま、そういう具合なのだ。
 何千回、反省をしたところで、再発防止にはまったく繋がらない、ミスが治らない人間の典型とも言える。まさに、うっかりミスをするために生まれてきたかのような男ではないか。」(184ページ)
という箇所を読んで、なるほどなー、と思いました。

<蛇足2>
印象に残ったフレーズです。
「少年たちが、大人を試すように口にする、『どうして人を殺してはいけないのか』という質問同様、問いの内容よりも、その問いの裏に潜む意地悪さにげんなりしてしまうのだ。」(290ページ)


タグ:伊坂幸太郎
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いつまでもショパン [日本の作家 中山七里]

いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

いつまでもショパン (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 中山 七里
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/01/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
難聴を患いながらも、ショパン・コンクールに出場するため、ポーランドに向かったピアニスト・岬洋介。しかし、コンクール会場で刑事が何者かに殺害され、遺体の手の指十本がすべて切り取られるという奇怪な事件に遭遇する。さらには会場周辺でテロが頻発し、世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。岬は、鋭い洞察力で殺害現場を検証していく!


第8回『このミス』大賞を受賞したデビュー作「さよならドビュッシー」 (宝島社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)、「おやすみラフマニノフ」 (宝島社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、岬洋介シリーズ第3弾です。
「おやすみラフマニノフ」 を読んだ後、ずいぶん読むのに間が空いてしまいました。
目次をみると、最後に「間奏曲」とあって、あれっと思いましたが、これはボーナストラックのようなもので、短編がおまけについているのですね。

さて、本題の「いつまでもショパン」ですが、ポーランドで開かれるショパン・コンクールが舞台です。
(余談ですが、上で引用したあらすじの冒頭「難聴を患いながらも」と岬洋介に説明がつき、シリーズ読者には周知の事実なので書いてしまっても差し支えない、と言えなくもないですが、この「いつまでもショパン」では視点人物はポーランド人であるヤン・ステファンスであって、岬洋介のことをよく知らない人物で、難聴であることもかなり後まで明かされないのですから、未読の人に対するエチケットとして伏せておくべきではないでしょうか。そしてなにより、あらすじを視点人物でもない岬洋介を主体に書くのもセンスがないなぁ、と思います)

冒頭ポーランド大統領機の墜落事件という大事件で幕が開き、テロを扱い、殺人事件が起こり、とミステリとしての衣装をきちんと纏っていますが、この作品はやはりショパン・コンクールが主役、ピアノが主役です。
ピアニスト(清塚信也さん)が解説を書いているのですが、いや、本当にピアノの描写が、演奏の描写が、音楽の描写が、すごいです。
<ポーランドのショパン>という概念も、なんだかわかった気がします。(実際に聞いてみたところで、わかりゃしないのですが...)
もう、正直、ミステリの部分どうでもいいかな、と思えるくらい。それくらいコンクールの行方と、ヤンその他コンテスタントたちのピアノ演奏の行方が気になるのです。
とはいえ、ミステリ部分はおまけっぽい、と言ってしまってはこの作品に失礼でしょう。
テロリストはかなり恐ろしい人物として迫ってきますし、その正体をめぐるミスディレクションはかなりうまくなされていると思います(だからこそミステリを読みなれた読者には真犯人の見当がつきやすいとも言えますが)。

やっぱりこのシリーズは楽しいですね。
「タイトルに使える作曲家は、まだまだ無数にいますので(!)、ぜひぜひ、続編を次々と書いてほしいシリーズです。」と「おやすみラフマニノフ」 (宝島社文庫)感想に書きましたが、シリーズはちゃんと続いているようですので、楽しみです。


<蛇足>
「ピアニズム」という語を本書で初めて知りました。勉強になりました!




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あなたは誰? [海外の作家 ヘレン・マクロイ]

あなたは誰? (ちくま文庫)

あなたは誰? (ちくま文庫)

  • 作者: ヘレン マクロイ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2015/09/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「ウィロウ・スプリングには行くな」匿名の電話の警告を無視して、フリーダは婚約者の実家へ向かったが、到着早々、何者かが彼女の部屋を荒らす事件が起きる。不穏な空気の中、隣人の上院議員邸で開かれたパーティーでついに殺人事件が……。検事局顧問の精神科医ウィリング博士は、一連の事件にはポルターガイストの行動の特徴が見られると指摘する。本格ミステリの巨匠マクロイの初期傑作。

ヘレン・マクロイの作品の見直しが進んでいて未訳作品の翻訳も進んできているのですが、この「あなたは誰?」 (ちくま文庫)が2015年に出たときにはちょっとびっくりしました。なにしろ版元が筑摩書房でしたから。
筑摩書房、偉い! 
この「あなたは誰?」 は、
「死の舞踏」 (論創海外ミステリ)(感想ページへのリンクはこちら
「月明かりの男」 (創元推理文庫)
「ささやく真実」 (創元推理文庫)
に続くヘレン・マクロイの第4作で、ウィリング博士が探偵役をつとめる第4作でもあります。
「月明かりの男」 は既読ですが感想を書けずじまい、「ささやく真実」 は未読で買ってあったのですがイギリスに持ってくるのを忘れてしまいました...
というわけで、この「あなたは誰?」 です。

冒頭のフリーダ宛の脅迫電話から、田舎のお屋敷あたりに舞台を移し、殺人事件が起こり、と典型的な展開を見せ、登場人物が極めて限定された中での犯人捜しとなるのですが、当時としては極めて前衛的な作品だったんじゃないか、と思いました。
別に明かしてしまっても構わないのではないかとも思うものの、訳者あとがきではプロットの特徴に触れると注意喚起されているので、ここでも伏せておきますが、多重人格を扱っているのですね。
探偵役がウィリング博士、というのもぴったりです。
おもしろいのは、幾多の多重人格を扱った作品と異なり、謎解き(犯人当て)を面白くするためのツールとして使われているところでしょうか。
謎解きの直前、第十章「誰も眠れない」で、各登場人物の心理に分け入ってみせるところなんて、予想外の展開にわくわくしてしまいました。確かに、多重人格を前提にすると、自由気ままに登場人物の心理に入っていけるかもしれません。

興味深かったのは、ポルターガイスト。
一般的には、作中でも
「ポルターガイストって、ノックをする霊のことじゃありません?」(171ページ)
と会話されているように、悪さをする霊、なのですが、ウィリング博士はあっさりと
「こうしたいたずらは、かつてなら実体のない死者の精神が引き起こすものとされたのです」
「しかし、今日広く認められている考えでは、こうした悪ふざけは、生きた人間によるもので、その人間に強く根差している異常心理に由来するものなのです」(172ページ)
と通常の意味合いを否定し、人間の仕業=犯人がいるもの、として扱います。
まあ、犯人がいなけりゃ、普通のミステリには仕上がりませんけど、こうもきっぱりと割り切ってしまうのがおもしろかったです。
これと、多重人格が絡み合って、
「異常心理学の研究者には周知のことがありましてね。皆さんにはこれを受け入れていただく必要があります--つまり、このポルターガイストによる一連の行動は、無意識に行われたものだということです」(272ページ)←ここも伏字にしておきます。
という風につながっていきます。
本格ミステリとして現実的な謎解きに美しく仕立て上げられています。

タイトルの「あなたは誰?」というのは、原題の Who's Calling? を訳したものですが、訳者あとがきにもあるように「電話を受けた際に言う『どちら様ですか?』と意味する言葉」です。
しかし、本書の場合、脅迫電話(いたずら電話)に対するもので、電話の受け手であるフリーダの性格からすると、「あなたは誰?」などという丁寧な物言いをするとは思えませんので、日本語では「お前は誰だ?」とか「あんた誰?」とかいう感じが正解かもしれませんね...
それにしても、脅迫電話でいくら声を変えているとはいっても、この作品のシチュエーションで誰からのものかわからないというのは考えにくいのではないかと思えてならないのですが、そのあたりは時代的に電話の性能が悪かったから、とでも考えて納得するしかないのでしょうね...
あとミステリ的には、フリーダの視点となっている部分は、かなり危ない橋を渡っているな、と読後ニヤリとしてしまいました。


<蛇足1>
「その日は涼しくて、ツイードのジャケットを着ていたが、帽子なしで屋外に座る程度には暖かかった」(20ページ)
えっと...帽子なしで屋外で座れない状態となると、涼しいどころか寒くて仕方がないのではないでしょうか? ツイードのジャケットくらいではおさまらず、ダウンのコートとか必要では?

<蛇足2>
「”幸福は自分自身から来る。不幸は他人から来る”というバラモン教も格言の正しさを証明しているみたいだった」(109ページ)
とあります。そういう格言がバラモン教にはあるんですね。興味深いです。

<蛇足3>
「デュミニーの菓子箱は以前に見たことがありますか?」
「あると思います。デュミニーはパリのマドレーヌ広場の一角にある店ですわね」(159ページ)
というやりとりが出てきます。デュミニー、わからなかったのでネットで調べてみましたが、出てきません。Hotel Duminy Vendome というホテルは見つかりましたが、マドレーヌ広場の一角ではありませんので、別物ですね... 今度パリにいくことがあれば、マドレーヌ広場のあたりをうろうろしてみようかな...

<蛇足4>
「ダンス会場を出たのは、金曜の午前三時頃だ。」「二人でハンバーガーショップに立ち寄り、ホットドッグにコーヒーという消化によくない朝食をとった。」(308ページ)
とありまして、こんな時間に食べる食事も朝食と呼ぶのかな? とふと思いました。



原題:Who's Calling?
作者:Helen McCloy
刊行:1942年
翻訳:渕上痩平


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Ψの悲劇 [日本の作家 森博嗣]

ψの悲劇 The Tragedy of ψ (講談社ノベルス)

ψの悲劇 The Tragedy of ψ (講談社ノベルス)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/05/09
  • メディア: 新書

<裏表紙あらすじ>
遺書ともとれる手紙を残し、八田洋久博士が失踪した。大学教授だった彼は、引退後も自宅で研究を続けていた。
失踪から一年、博士と縁のある者たちが八田家へ集い、島田文子と名乗る女性が、実験室にあったコンピュータから「ψの悲劇」と題された奇妙な小説を発見する。
そしてその夜、死が屋敷を訪れた。
失われた輪(ミッシングリンク)を繋ぐ、Gシリーズ後期三部作、第二幕!


「χの悲劇」 (講談社ノベルス)(感想ページへのリンクはこちら)に続くGシリーズ第11作です。

作中で引用されているのがエラリー・クイーンの「Yの悲劇」 (創元推理文庫)で、舞台となるおうちが八田家で、失踪した元大学教授が小説を残している、ということなので、きわめてミステリらしい展開を見せてくれるんじゃないか、と期待するところですが、いやいや、まったく違いましたね。

主な語り手は、八田家の執事、鈴木なんですが、この語り口がどうもぎこちない。
そして、「χの悲劇」に続いて島田文子が登場するのですが、ずいぶん印象が違っていて、あれれ? と思ったんですが、それすらも作者の手の内でしたね...

ミステリだとかなんとかではなくて、森作品の過去と未来の橋渡しみたいな感じです。
(引用したあらすじでは、「失われた輪(ミッシングリンク)を繋ぐ」という表現になっています)
Wシリーズの前日譚、と言ったらネタばれかもしれませんね...でも、この程度を明かしても、この作品の価値は微塵も損なわれませんね。大丈夫、大丈夫。

恐ろしい作品です。
何が恐ろしいって、プロットそのものが恐ろしいですが、いちばん恐ろしかったのはエピローグですね。
なんじゃ、これ!? あまりの恐ろしさに、さむけがしました...


<蛇足>
「暮坂さんは、刑事だったんですね?」
「うん、辞めたのは、もう十年以上まえのことだから、すっかり世間擦れしてしまった」(244ページ)
とあったので、おやおや「世間擦れ」の意味を間違ってるんじゃないかなぁ、と余計なことを考えたのですが、
「世間擦れ? 警察では、どんな仕事を?」
「私は、公安だった。ずっとね。自分はほとんど官僚、相手も官僚、あるいは政治家だ。世間擦れというのはね、あれだ、一般市民に仲間入りした感じだよ」
と続いていまして、まったく正しい使いかただったことがわかりました。失礼しました。
それにしても、こういう使いかたをしたほうが、「世間擦れ」という単語は映えますね。






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五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ [日本の作家 さ行]

五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社文庫)

五覚堂の殺人 ~Burning Ship~ (講談社文庫)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
放浪の数学者、十和田只人は美しき天才、善知鳥神(うとう かみ)に導かれ第三の館へ。そこで見せられたものは起きたばかりの事件の映像――それは五覚堂に閉じ込められた哲学者、志田幾郎の一族と警察庁キャリア、宮司司の妹、百合子を襲う連続密室殺人だった。「既に起きた」事件に十和田はどう挑むのか。館&理系ミステリ第三弾!


第47回メフィスト賞受賞「眼球堂の殺人 ~The Book~」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)から始まった堂シリーズの第三作です。
第二作「双孔堂の殺人 ~Double Torus~」 (講談社文庫)も読んでいるのですが、感想を書けずじまいです(最近、こんなのばっかりですが)。

ああ、今でもこういう作品を書く作家がいて、ちゃんと受け入れられているんだなぁ、という感想を抱きます。
奇矯な登場人物に、奇矯な建物。
館ミステリにつきものの図面(と数学的なものを説明する図面)が今回もふんだんに盛り込まれています。
しかも、今回は
「五覚堂は『回転する』。大ヒントでしょう?」(32ページ)
などと真相を知ると思われる善知鳥神から冒頭に示唆されるんですよね。

この「回転する」トリックは、この種のミステリにつきものと言ったら叱られるかもしれませんが、ばかばかしいもので、これは笑って流すべきところなんでしょうねぇ。
(数学的なことはわかりませんが、このトリックを「回転する」と表現するのはちょっと違うんじゃないかなぁ、と思いました。)
付随して、いくつかの手がかりをちりばめてあるのはご愛敬ですね。

館をめぐってはもう一つ大きなトリックが仕掛けられているのですが、これもねぇ...
笑ったらいかんのでしょうねぇ。でも425ページの図11で示された(文字通り)絵解きには苦笑してしまいました。
作者も
「滅茶苦茶な仕掛け(トリック)」(426ページ)
と登場人物の一人に考えさせていますが。
それにしても東北って、こんなに土地余っているんですか!?
館ものでは、電気とか水道とかどうしたんだ!? とかも思ったりしますよねぇ。そんなことを言っては興ざめなのはよくわかっているんですが。特にこの「五覚堂の殺人 ~Burning Ship~」 (講談社文庫)では特に。

数学をめぐる蘊蓄は正直うるさいくらいですし、上述の通りトリックにも難点が多いし、過去の因縁が...というあたりの手際もごたごたしているし、登場人物の一人(百合子の友人志田悟)をめぐるエピソードもなんだか蛇足っぽいし、とこう並べるとだめだめな作品のように思えますが、でも、楽しく読めちゃいました。
おそらく、あからさまな手がかりがちりばめられていて、作者の仕掛けをたどっていく楽しみがあふれているから、なのではないかと思います。
個々のトリックや仕掛けは、正直前例がある、ミステリではありふれたものばかり、と言っても構わないくらいのものですが、それらがかえってこの作品を読者にとって「見抜く」楽しさにあふれた作品に仕立て上げてくれているのだと思います。



<蛇足1>
冒頭、善知鳥と十和田の会話で
「7π/3ぶりですね。」
「三百六十五分の四百十八か」(9ページ)
というやりとりがあるのですが、わかりませんでした。
十和田の「三百六十五分の四百十八か」は、四百十八日ぶりだ、ということだとわかるんですが、善知鳥の方がまったく...なんでこんなところに無理数が出てくるんでしょうか!? 天才の言うことはわかりません。

<蛇足2>
いつもいつも噛みついている一生懸命ですが、
「何をそんなに一生懸命に調べているのか気になって」(50ページ)
と登場人物のセリフで出てきた分には、ぎりぎりOKかなと思います。

<蛇足3>
「百合子はきっと、大学の仕事中で」(196ページ)
ここでちょっとあれっと思いました。百合子は大学院生という設定なんですね。
大学院生が仕事!? と思ったわけです。
「彼女がゼミでさまざまな仕事を任され、それらに忙殺されているのは知っている」(257ページ)
とあとで補足のような記述が出てきます。
たしかに、大学生や大学院生の視点から見ると、十分”仕事”なのでしょうね。



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スケアクロウ [海外の作家 か行]

スケアクロウ(上) (講談社文庫)スケアクロウ(下) (講談社文庫)スケアクロウ(下) (講談社文庫)
  • 作者: マイクル・コナリー
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/02/15
  • メディア: ペーパーバック

<裏表紙あらすじ>
人員整理のため二週間後に解雇されることになったLAタイムズの記者マカヴォイは、ロス南部の貧困地区で起こった「ストリッパートランク詰め殺人」で逮捕された少年が冤罪である可能性に気づく。スクープを予感し取材する彼を「農場(ファーム)」から監視するのは案山子(スケアクロウ)。コナリー史上もっとも不気味な殺人犯登場!<上巻>
有能な犯罪心理分析者レイチェルが導き出した案山子(スケアクロウ)の人物像は、女性の下肢装具に性的興奮を覚える倒錯者(アベイショフィリア)。マカヴォイは、情報強者の案山子が張り巡らした幾重もの危険な罠をどうやってかいくぐるのか? 大スクープのゆくえは? 巧妙なストーリー展開で、読む者を一瞬も飽きさせない究極の犯罪小説!


マイクル・コナリーの作品は、以前感想を書いた「死角 オーバールック」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)のあと、リンカーン弁護士シリーズの「真鍮の評決 リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)を読んでいますが、感想を書けないままです。

この「スケアクロウ」(上) (下) (講談社文庫)は、ボッシュ・シリーズでも、リンカーン弁護士シリーズでもなく、新聞記者であるジャック・マカヴォイを主人公にした作品です。
ジャック・マカヴォイは「ザ・ポエット」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)以来の登場です。
「ザ・ポエット」が出版されたのが1996年、「スケアクロウ」は2009年ですから、13年ぶりの登場、ということになります。
「ザ・ポエット」の内容はちっとも覚えていないのですが、そんなことは心配無用、「スケアクロウ」の世界にすっと入り込むことができました。
しかし、いきなり解雇宣告を受けるというのですから、マカヴォイもたいへんですね。
しかもネット事情にも詳しい後任の若い女性記者アンジェラの教育係までやらされる。と思っていたら、このアンジェラがなかなか食えないやつで、抜け目なくマカヴォイを出し抜き、のしていこうとするような...

ストーリーは、マカヴォイの視点と、犯人であるスケアクロウの視点で交互につづられます。
ネットを自由に動き回り種々システムを自在にあやつるスケアクロウに対して、かなりのアナログぶりを発揮するマカヴォイとの対決、というわけですが、こんなの勝負にならないよというレベルのスケアクロウの攻め込みぶりに嘆いていると、マカヴォイのところにはFBIのレイチェルが現れて対決ものの構図がしっかり整う、という流れです。

それでも、まだまだスケアクロウの方が優勢に思える、というのがこの種のお話では定番で、この作品も同じで、そこからどうやってマカヴォイたちが巻き返していくのかがポイントになります。
巻き返すきっかけというのが、スケアクロウ・サイドのミス、というのがちょっと惜しいところだと読んでいる途中は思っていたのですが、読後振り返って考えてみると、確かに安直なミスもあるものの、もともとスケアクロウの戦術がカウンターアタック型であることに鑑みると、当然の結果とも言え、むしろマカヴォイの方が幸運に恵まれているのが気になってきました...
スケアクロウの視点部分が効果的に挿入されますので、この連続殺人犯の不気味さが強調されていますので、これくらいマカヴォイ・サイドにハンデが必要だったのかもしれません。

どのシリーズでも、マイクル・コナリーの作品はジェットコースター・サスペンスで、充実の読書を保証してくれるのですが、この「スケアクロウ」も夢中で読みました。

1. 「ナイトホークス」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
2. 「ブラック・アイス」 (扶桑社ミステリー)
3. 「ブラック・ハート」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
4. 「ラスト・コヨーテ」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
5. 「ザ・ポエット」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
6. 「トランク・ミュージック」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
7. 「わが心臓の痛み」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
8. 「エンジェルズ・フライト」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
9. 「バッドラック・ムーン」〈上〉 〈下〉 (講談社文庫)
10. 「夜より暗き闇」(上) (下) (講談社文庫)
11. 「シティ・オブ・ボーンズ」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
12. 「チェイシング・リリー」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
13. 「暗く聖なる夜」(上) (下) (講談社文庫)
14. 「天使と罪の街」(上) (下) (講談社文庫)
15. 「終決者たち」(上) (下) (講談社文庫)
16. 「リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)
17. 「エコー・パーク」(上) (下) (講談社文庫)
18. 「死角 オーバールック」 (講談社文庫)
19. 「真鍮の評決 リンカーン弁護士」 (上) (下) (講談社文庫)
20. 「スケアクロウ」(上) (下) (講談社文庫)

ここまでの20作品、個人的にはハズレなし、でした。今のところ翻訳されている残りの以下の作品も、きっとハズレなしでしょう。

21. 「ナイン・ドラゴンズ」(上) (下) (講談社文庫)
22. 「判決破棄 リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)
23. 「証言拒否 リンカーン弁護士」(上) (下)(講談社文庫)
24. 「転落の街」(上) (下)(講談社文庫)
25. 「ブラックボックス」(上) (下) (講談社文庫)
26. 「罪責の神々 リンカーン弁護士」(上) (下)(講談社文庫)
27. 「燃える部屋」(上) (下) (講談社文庫)



<蛇足1>
「状況を鑑みて自分で答えを見つけだせるくらいの頭はレスターにある、と踏んだ」(68ページ)
ここにも、「~を鑑みて」が。あ~、がっかり。

<蛇足2>
「一年まえ、リンカーン・タウンカーの後部座席を事務所代わりにして働いている弁護士を取り上げた記事を連載したことがある」(44ページ)
とさらっとリンカーン弁護士が取り上げられていて、にやりとしました。


原題:The Scarecrow
作者:Michael Connelly
刊行:2009年
訳者:古沢嘉通



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