So-net無料ブログ作成
  • ブログをはじめる
  • ログイン
前の10件 | -

イングリッシュネス [イギリス・ロンドンの話題]

イングリッシュネス

イングリッシュネス

  • 作者: ケイト・フォックス
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2017/12/09
  • メディア: 単行本

<裏表紙あらすじ>
名乗りながら笑顔でイギリス人に手を差し出したとき、鼻に皺をよせてあいまいな笑みが返ってきても、肩すかしをくった気分になることはない。どんな仕事をしているのか、結婚はしているか……知りたくても、尋ねてはいけない。「推理ゲーム」「相互情報開示計画」に参加して外側からじわりじわりと正解にたどりつくのがルール。
パブで、いつ果てるともしれぬ客同士の応酬――自慢し合い、罵り合いを目の当たりにしても、はらはらするにはおよばない。カウンターに群がる客の中で、注文をとってもらおうと手をあげてウェイターを呼んだら顰蹙をかう。そこには「パブでの会話」の、「見えない列」の、「パントマイム」のルールが存在している。
晴れていようが吹雪こうが会えばまず天気の話。感情をあらわにすることを避け、ひとこと話すにも独特のユーモアとアイロニー。これを使ったが最後「下の階級」の烙印を押されてしまう7つの言葉とは…… 
男性・女性を問わず、あらゆる年代、階級の英国人のふるまいと会話を人類学の手法によって観察し、隠れたコードを導き出す。リアルなイギリス文化をかろやかな筆致で描いた本書は、第一版刊行より10年来のベストセラー。本書はその前半を収める。


いつもの読書傾向とは極端に違う本です。
なにしろ小説じゃない!

社会人類学者(作者自身の言葉によれば、ポップ人類学だそうです)によるイギリス人の特性を書いた本です。
ここでいうイギリス人とは、グレート・ブリテン全体を指すのではなく、England です(このことは作者も序章の最後のところで述べています)。
対象としているのはイングランド人であって、British ではないのですね。スコットランド人、ウェールズ人、アイルランド人は含まれていません(ちなみに、作者は『確かに厳密には、北アイルランドは「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」の一部で、ブリテンの一部ではない。だがわたしが北アイルランドの人びとから受け取った手紙には、彼らが自分たちをブリティッシュとみなし、「連合王国」という枠の中に入れられることをよしとしない旨が述べられている』(31ページ注)と注意深く書き加えています。)。
この訳書は原書の前半部分だけを訳したものだそうですが、うーん、正直もうおなか一杯です。この種の本、読みつけてないからなぁ。
(2017年12月に出たもののようなので、おそらくいずれ後半も訳されるのでしょう。ひょっとしたらこの「イングリッシュネス」の売れ行き次第だったりして...)

端的にいうと訳者はあとがきで、「むきになる」ことをよしとしない、と美しくまとめられています。
ここでいうむきになるという原語は、earnest。
どんどん繰り出される事例はそれぞれ興味深いですが、このある意味醒めた部分こそイングランド人の肝ということでしょうか。
身も蓋もない言い方をすると、面倒くさい人たち(笑)。
でも、これ日本人にも共通するところが多々あって、苦笑します。
第5章「パブの作法」の結びで、「唯一日本人が似ている。おそらく慎みや形式、社会的立場の違いにひどく敏感な文化を持つ、狭く密集した島国社会だからだろう」(171ページ)と書いてありますが、このパブの作法のみならず、あちこちで共通点が見つかります。

ちなみに、パブについては、
『パブはイギリス文化の重要な一部だが、同時に「社会的限定区域」であり、ある意味で「識閾」である。つまり、両義的、周辺的、境界的な場所で、そこではある程度の「文化的寛解」ーー通常の社会的ルールの、構造化された一時的緩和ないし停止ーーが見られる(「正当化された逸脱」「タイムアウト中の行動」と呼ばれることもある)』(147ページ)
とされています。大層な...

興味深い点は多々ある本ですが、やっぱり第4章にあたる「言語と階級」がいちばんおもしろく感じましたね。作者のいう「七つの大罪」は、勉強になるのを通り越していっそ笑えます。
・パードン
上流階級と上層中産階級は使わない。上層中産階級がソーリー? で、上流階級(と労働者階級)はホワット? というそうです。
・トイレット
上層中産/上流階級は、ルーかラバトリー。労働者階級もトイレット。
・セルヴィエット
上層はナプキン。
「これもお上品ことばのひとつで、普通の英語ではなく気取ったフランス語を使うことでステイタスを上げようとする、見当違いの例である」(132ページ)と痛烈な記載があります。
・ディナー
昼食を指す場合、労働者階級。夕食をティーと呼ぶのも労働者階級とのこと。
上流階級は夕食をディナーまたはサパーと呼ぶ、と。
興味深いのは『高い階級の人たちにとって「ティー」は、四時ごろにとるお茶とケーキ、スコン(「スコーン」と伸ばさない)、または軽いサンウィッジュ(「サンドウィッチ」とは発音しない)のことである。低い階級の人たちはこれを「アフタヌーン・ティー」と言い、「ティー」は夕食を指す』(134ページ)と書かれていること。こんなの知らないや!
・セティ
セティやカウチと呼ぶのはせいぜい中層中産階級で、上層中産階級かそれ以上はソファと呼ぶそうです。
・ラウンジ
これはソファを置く部屋の呼び方です。
セティは「ラウンジ」か「リビングルーム」に、ソファは「シッティングルーム」か「ドローイングルーム」に置かれるそうです。
そういえば「ドローイングルーム」の語源を知らなかったのですが、「ディナーの後、食堂から下がって(ウィズドロー)女性たちがくつろぐ部屋」(135ページ)から来ているのですね。
・スイーツ
これは料理のコースの最後に供されるもののことで、上層中産/上流階級は「プディング」。決して「スイーツ」「アフターズ」「デザート」とは言わないらしいです。

「ポッシュに(上流階級のように)」という語は上流階級は使わず、スマートだとか(スマートに対する語は、コモンやチャヴ)、「マム」「ダッド」がコモンで、「マミー」「ダディー」がスマートだとか...
こういう話の種はつきないのでしょうね。

あとは、『イギリスの「国家記念日」ともいうべき聖ジョージの祝日は四月二三日」』(100ページ)という記載があって、この日を意識したことがなかったので勉強になりました。
でもこれ、お休みになる日ではないような気がします...それくらい祝われていない!?





原題:Watching The English
   The Hidden Rules of English Behaviour Second Edition
作者:Kete Fox
刊行:2004年、2014年
訳者:北條文緒・香川由紀子



nice!(10)  コメント(0) 
共通テーマ:

花嫁をガードせよ! [日本の作家 赤川次郎]


花嫁をガードせよ! (ジョイ・ノベルス)

花嫁をガードせよ! (ジョイ・ノベルス)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2017/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


<裏表紙あらすじ>
甘い生活は夢のまた夢?
結婚を控えた女性警官・西脇仁美は、暗殺されかけた政治家の蔵本をかばって撃たれてしまう。偶然通りがかった女子大生・塚川亜由美と愛犬ドン・ファンの気転で一命をとりとめるが、けがが原因で歩くことができなくなり、新聞記者の彼との婚約も解消されそうだ。その上、蔵本を撃った男は取り調べ中に自殺をしてしまったという。事件の裏には大きな闇がうごめくようで――!? 大人気シリーズ第31弾!(ほか「花嫁は日曜日に走る」収録)


花嫁シリーズも31作目です。
毎年年末に新刊が出るシリーズですが、「四次元の花嫁」 (実業之日本社文庫)の感想(リンクはこちら)のあと、シリーズ新刊も折々で購入し読んではいましたが、感想を書けていません。
間に
「演じられた花嫁」 (実業之日本社文庫)
「綱わたりの花嫁」 (ジョイ・ノベルス)
の2冊が抜けています。

表題作「花嫁をガードせよ!」と「花嫁は日曜日に走る」の2話収録。
どちらもストーリーに無理がありますね。

「花嫁をガードせよ!」は政治家襲撃事件を扱っているのですが、あまりにも非現実的すぎてびっくりします。
こういうストーリーに、亜由美とドン・ファンは似合わないと思います。
しかし、殿永刑事ってどんだけすごい刑事なんでしょうね?
「必ずあなたの身を守ります。」(125ページ)って、そりゃ、そう言わないといけないと思いますが、この種の事件が現実になったとして、一介の刑事(失礼な言い方ですが)が保証できるとは思えません...かっこいいけど...
あと、ラストシーン、記者会見場が舞台になっているのですが、途中から記者たちがまるでいないかのよう... ちょっと気になりました。

「花嫁は日曜日に走る」は「花嫁をガードせよ!」よりもっと無理があります。
無理というか、プロットが無茶苦茶です。オリンピック開催にかかわる利権を背景にしているようですが、あまり考えずに書き飛ばされたのでしょう。
亜由美とドン・ファンが少女の命を救うところから物語はスタートするのですが、この少女の家も放火されていることがわかる。
少女ではなく母親が狙われたのだということが臭わされるのですが、はっきりとは書いていない。
黒幕は早々に出てくる上に、165ページで決定的な場面が描かれます。
しかし、臭わされている理由で、放火しますか? 娘まで狙いますか?
悪辣な政治家や企業家が出てきたら、何をやらせてもよいとでも思っているのでしょうか?
一方で、もうひとつ少女の陸上部でのエピソードが絡むのですが、それと上に書いた165ページの場面との連関がわからない。一歩どころか百歩譲って繋がりを持っているとしても、高校と政治家・建設会社が結びつこうとする理由がわかりません。
さらに、
「スポーツは、それ自体に価値があるのだ。オリンピックなんて、一つの機会にすぎない。そんなものに、人々が振り回されて、それのどこにスポーツの喜びがあるのだろう」(141ページ)
と極めてストレートかつダイレクトに作者の主張が顔を出すのも興ざめです。
ずいぶん残念な作品に仕上がっていますね。
ところでこの話、高校生がメインの話で、花嫁はまったく関係ないです...結婚に近そうな女性は登場しますけれども... これでいいのでしょうか?

<蛇足>
あらすじに書かれている「ドン・ファンの気転で」の「気転」。
機転の間違いでは? と思ったのですが、気転も載っていますね...


<さらなる蛇足>
本日、イングランドがフットボール(日本ではサッカーと呼ぶスポーツです)のワールドカップで、3位決定戦でベルギーに敗れました...

nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

ストームブレイカー [海外の作家 は行]

ストームブレイカー (女王陛下の少年スパイ! アレックスシリーズ) (集英社文庫)

ストームブレイカー (女王陛下の少年スパイ! アレックスシリーズ) (集英社文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/07/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「シートベルトの締め忘れで即死?叔父に限ってありえない!」親代わりだった人の事故死を悲しみながらもアレックスの明晰な頭脳と運動神経はフル回転、解体工場に忍び込み弾痕だらけの叔父の車を発見。翌日叔父の勤務先から呼び出された彼に、さらに驚愕の事実が突きつけられる。「叔父さんは我国の特殊工作員だった。今度は君が手を貸す番だ」14歳の少年スパイ、アレックス誕生の第1弾。


この「ストームブレイカー」 (集英社文庫)の作者、アンソニー・ホロヴィッツは、ロンドン暮らしとなって、最初に読んだ本「シャーロック・ホームズ 絹の家」 (角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら)の作者でもあります。
「シャーロック・ホームズ 絹の家」 が不満はあるものの楽しめたので、ほかにどんな作品があるのか Amazon で調べてみたらこのシリーズの邦訳がありました。
少年もの(ジュヴナイル)ぽかったですが、面白そうだったので購入。
表紙絵が、荒木飛呂彦さんです。

イギリスの作品には珍しく(?)、スーパーヒーローです。
(勝手な思い込みですが、イギリスの作品はあまり派手なヒーローっぽいのは設定されないような印象があります。ハリー・ポッターなんかそうですよね)
冒頭いきなり、ハンサム・ボーイ(8ページ)と書かれていますし、「十四歳とはいえ、スポーツ選手の筋骨をおもわせるたくました」とも。頭もよさそうです(授業中ぼっとしていても、黒板に書かれている方程式を見てすぐに正解を口にできるくらい(25ページ))。

なので、子供が知恵を使ってがんばる、という感じよりは、大人顔負け、というところ。
あんまり頭を使うところはなく、かなり行き当たりばったりの体力勝負の点は不満といえば不満ですが、物語が快調に進む点は〇。

子供がスパイ役をつとめる必然性も、ちょっと弱いかな、と思うものの考えられていますし、敵が子供ゆえ油断する、という点が底流に流れているので(変な話ですが)安心して読めます。
あと、映画の007シリーズにあやかったのか、ガジェットが繰り出されるのが楽しいですね。
本体にモーターが入っていて、ひもの長さが30メートルで、100キロまでの重量に耐えられるヨーヨーと、金属に接触させると金属を燃え上がらせ壊してしまうクリーム(ニキビ対策用のクリームに擬装してある)と、本部との通信機能だけではなく、ソフトを入れ替えることでX線カメラと収音マイク、盗聴探知機、発煙装置にもなる携帯ゲーム機!
銃器といった武器は持たなくともこれらのガジェットを駆使して危機を切り抜けていきます。
ね? 楽しそうでしょう?
ちなみに、タイトルのストームブレイカーというのは、最新の機能を備えたハイスペックのPCです。

ネットで見てみると、映画化もされているようです。
タイトルは主人公の名前の「アレックスライダー 」[DVD]。ちょっと気になります。

何作か邦訳が出ているようです。読んでみるかもしれません。


<蛇足>
マークス&スペンサーに(イギリスの有名デパート)という説明がついているのですが(14ページ)、マークス&スペンサーは、デパートというよりは大型スーパーというほうがふさわしいですけどねぇ。



原題:Stormbreaker
作者:Anthony Horowitz
刊行:2000年
訳者:竜村風也








nice!(7)  コメント(0) 
共通テーマ:

外付けハードディスクご臨終? [イギリス・ロンドンの話題]

先日ご報告(?) しましたように、船便が届きました!

その中に、写真とか動画とかその他ファイルを保存していた外付けハードディスクもいくつかあったんですね。
うれしくなって、あれこれPCにつないでみたりしていたんですが、そのうち一番古いものをコンセントにつないだところ、なにやらいやーな、ボンというような音がして、ハードディスクから煙が...
あわててコンセントを引き抜いたものの、そのあとも数秒間ボンという音が断続的に。煙も音に合わせて何度も上がるありさま。
あれ~??
まさか電圧対応していない!?

今どきの電化製品は昔と違い、日本やアメリカの100V近辺の電圧でも、イギリスをはじめとする240Vの電圧でも平気なように作られているので、油断していました。
確かに、古いものだしなぁ。500GBしか容量もない。
(ご参考までですが、それ以外のHDDは240V でも大丈夫です!)


正直、今回の引っ越しでも変圧器は持ってきていないんですよね...
そりゃあ、まあ、100Vにしか対応していないのを、240Vにつないじゃったらひとたまりもないよなぁ...あ~あ。
結構な音と煙だったしなぁ。

仕方がないので「決して分解しないでください」とマニュアル(?) には書いてあるでしょうが、分解してみて様子を探ることに。
うーん、よくわからない。でも、ケースの部分やそれに連なる回路はさておき、ハードディスクそのものはなんか異常なさそうに見えます。

日本でならハードディスクケース持っていましたが、こちらには持ってきてないよ~。
ということで、こちらの Amazon でハードディスクケースを購入して試してみることに。
516W2TNstaL._SL1001_.jpg
注文した翌日には届いて、さて、Try。
ドキドキしましたが、なんと、無事!
やったー。ついてる。
心なしか、ハードディスクケースがかっこよく見える。
(いや、確かに日本で持っていたケースもかなり古いので、実際、それと比べるとずいぶんデザインもよくなっています!)

被害に遭ったHDD(加害者はぼくですが)は、BUFFALOのもので、下の写真はBAFFALOのHPから拝借しました。ちなみに、とっくに販売終了です。

hd-csu2.jpg

丈夫な設計をしてくれていたおかげでしょうか? 
そういえば、ハードディスクの寿命は3年程度、と言われていますが、いやいや、なんのなんの。その数倍は持っていますよ。
BUFFALOさん、偉い!
なんにしても、よかった、よかった...

<蛇足>
たった今、イングランドがフットボールのワールドカップで、クロアチアに敗れました...


nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

憂国のモリアーティ 1 [コミック]


憂国のモリアーティ 1 (ジャンプコミックス)

憂国のモリアーティ 1 (ジャンプコミックス)

  • 作者: 三好 輝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/11/04
  • メディア: コミック


<裏表紙あらすじ>
時は19世紀末、大英帝国最盛期のロンドン──。
この国に根付く階級制度に辟易するモリアーティ伯爵家家長子・アルバート。孤児院から引き取ったある兄弟との出会いによって、世界を浄化するための壮大な計画が動き出す。名探偵シャーロック・ホームズの宿敵、モリアーティ教授の語られざる物語の幕が開く──!!


ついに船便が到着しました!
日本を出てから約2ヶ月。結構時間がかかりましたね。
でも、はるばる日本からイギリスまで海の上をやってきたのかと思うと、なんとなく感慨深い。
本、読めていないのに、船便でも本を送ってきてしまっています。
そんななかコミックも2シリーズだけ持ってきていまして(といいつつ、船便の段ボール全部開けきっていないので、どこかにまだ紛れ込んでいる可能性は否定できませんが)、そのうちの一つがこの「憂国のモリアーティ」 (ジャンプコミックス)です。

#1 緋色の瞳 (The scarlet Eyes)
#2 グレープフルーツのパイ一つ (The one grapefruit Pie)
#3 橋の上の踊り子 (The Dancers on the Bridge)
の3話収録です。

シャーロック・ホームズの宿敵であるモリアーティを主人公に据える、というのは小説で例がないではないですが、若かりし頃から、しかもコミックで、というのが冒険ですね。
巻末のおまけまんがに、ホームズ正典のなかで、モリアーティに触れられているのはわずか6作品と書かれていますが、逆に意外と多いな、という印象ですね。ライヘンバッハの滝にホームズと一緒に落ちた印象が強すぎるので、それ以外の作品にあんまり出てきたという感じがしません...
ホームズの正典もまったくといっていいほど読み返していませんので、この程度の印象しかもっていない人間の感想だと思って受け止めていただければと思います。

まず、モリアーティって、こんな人物でしたっけ?
人殺しはばんばんやっちゃうのですが、路線としては義賊というか、正義の味方っぽいんですよね。
「命の価値は同じであるはずなのに
 誰しもが平等に幸せになる権利があるはずなのに
 この国にはそれが無い…
 人々に呪いをかける階級制度
 それにより人の心は汚れ歪み
 悪魔が生まれる
 …ならばその逆も然り
 悪魔が消え去れば人の心は澄み渡り呪いは解ける
 この国はきっと美しい」
こう信じて、打倒階級制度で、忌まわしい貴族やその取り巻きたちを成敗する。
イギリス版必殺仕事人?

階級社会が薄れた(日本のようになくなったわけではなく、イギリスにはきちんと残っています!)現代の視点から見ると、平等というのは「正しい」わけで、悪の権化だったモリアーティが正義の味方に早変わり
おそらくオリジナルのモリアーティの設定はこうではなかったと思います。
その意味では、この作品、表紙に「原案/コナン・ドイル」と書いてあるのは、なかなか大胆ですね。

この留保をクリアしてしまうと、あとは快調ですね。
ちょっとモリアーティの考える手口がやわい感じがしていまいますが、虐げられているものを救うための殺人、というのは勧善懲悪として受け入れられやすいですし、逆にこのコミックから正典に入っていく人もいるだろうと思うと(世間はミステリファンが思うほどホームズを読んでいません)、これはこれでありかな、と思いました。
ミステリ的にはトリックにもう一工夫も二工夫もしてほしいところですが、それはないものねだりでしょうね。



<蛇足>
第2話のタイトルの英語版 The one grapefruit Pie というのは...どうなんでしょうか?
The one ~?
<2018.7.12追記>
正典に、「オレンジの種五つ」(The Five Orange Pips)という作品があるので、その連想かと思われますが、あちらには The をつける理由があったと思われます。
一方、こちらの「グレープフルーツのパイ一つ」には The をつける理由が見当たりません。


nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

横浜ではまだキスをしない [日本の作家 は行]


横浜ではまだキスをしない (ハルキ文庫)

横浜ではまだキスをしない (ハルキ文庫)

  • 作者: 樋口有介
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2018/05/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ぼくが母と貧乏暮らしをするハメになったのは、十年前、親父が盗撮で逮捕され、両親が離婚したからだ。父から呼び出されたぼくは、父の「隠し子」を名乗る女刑事の身元調査を引き受けた。それが本当なら姉となる美人刑事は、父を陥れた盗撮事件の裏に警察の陰謀があったことを教えてくれた。人生暗転の理由を悟ったぼくの前に、幼なじみだったメイが、ネジのぶっ飛んだ美少女として現れる。高二の夏休み、ぼくとメイは電動自転車を駆って、人生を取り戻すミステリーへ走り出す!


樋口有介の青春ミステリ。ときたら、即買いです。
単行本の時のタイトルは、「ぼくはまだ、横浜でキスをしない」
微妙に変わっていますね。
表紙が、モデルを使った写真...さらに、扉をめくったところや目次、章題のところに同じように写真がつかわれています。

樋口有介の作品の場合、おもしろかったです、以上! で個人的にはOKなんですが、特に青春ミステリは最高です。そんなに頻繁に書いてくれる作家ではないので、新刊が青春ミステリだとうれしいですね。
最近は、旧作を改稿して創元推理文庫から出ることが多くなっているのも楽しみです。

出版社(角川春樹事務所)の単行本のところでみつけた内容紹介がよかったので引用します。
夏休み目前の7月。母と離婚した父に、半年振りに呼びだされた高校二年生のぼくは、父の隠し子を名乗って現れた女性・熊代早葉子さんの身元調査を頼まれる。早葉子さんが横浜県警の刑事であるため、10年前の盗撮事件で逮捕されてからすっかり警察嫌いになった父は、僕を頼ってきたのだ。だが実際に会ってみると、僕は彼女から盗撮事件の背後には、父をハメようとしていた陰謀の存在があったことを知らされる。加えて、幼馴染で不思議な美少女お嬢様・メイに、言葉を喋る猫「ミケ」が登場したことで、僕の夏休みは「ミステリー」と「恋」が交錯することに……そしてそれは人生をかけた大事件へと変わっていってしまう――。青春ミステリの鬼才が新境地を開いた傑作の登場!

やはり特徴的なのは主人公の造型ですね。
こういう感じの男の子を主人公にすると、樋口有介の腕が冴え渡ります。
ちょっと古風な感じのする男の子です。あまり熱量も感じさせません。
青春を謳歌しているわけじゃなく、でも青春を謳歌できないような状況に追い込まれても淡々と対処している。だからといってやることはやっている...
そして、主人公をとりまく女性陣。これがみんな魅力的に見えるんですよね。
帯にも「美少女×猫×ミステリー」と書いてありますが。
猫、は、今回なんとしゃべる猫。幽霊というか、人間の魂(?) が移っているという設定です。
つまり、主人公は美女二人(人間と猫)に囲まれるわけです。あっ、人間の方はもうふたりいるから、四人か。あっ、一人は姉だから三人か。いずれにしてもなんて羨ましい...

美女たちと主人公のやりとりがいちばんの味わいどころですね。(猫とのやりとり、というのもあれですが、ここもなかなか趣き深いのでおすすめです)
もう、ずーっと、このまま、この物語が続けばいいのに、と思えてしまうくらい。

ミステリ的には平凡です、いや本書の場合は、そういう持って行き方はないんじゃないかなぁ、という方向に進んだ、という感じ、といったほうがいいかもしれません。
拍子抜け、というか、肩透かしというか。
ただ、この作品の世界観には合っているところがポイントなのかもしれません。
主人公にも一大事というような事実が判明するのですが、それがさらっと扱われているところがポイントですね。まあ美女に助けられ、というところかもしれませんが。

P.S.
ヒロイン役の村崎明(メイ)が、結構変わった娘として描かれています。
フェリス女学院に通っていて、親戚には皇室の関係者もいて、父親は経団連や赤十字の名誉ナントカをやっているお嬢様で...

この「横浜ではまだキスをしない」では

<2018.7.7追記>
なんか変なところでアップしてしまっていました。
ドラフト(下書き)で置いておいたのですが、もう書き終わっていると思ってアップしちゃっていました。
気づいていませんでした。大変失礼しました。

この「横浜ではまだキスをしない」では触れられていませんが、メイも小学校や中学校での生活は大変だったんじゃないかな、と思います。
その意味では、主人公と合っているとも言えますね。
ふたりがこれからはどんどん仲良く過ごせたらいいですね。
あと、この二人の組み合わせだと、シリーズ化も可かもしれません...

と書くつもりでした。



タグ: 樋口有介
nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

象を護ろう [イギリス・ロンドンの話題]

読書を離れまして...

7月になりました。
ようやく夏らしい気候になってきました、ロンドンも。
テレビの天気予報で、もう6日連続で雨が降ってないよ、すげーな、とか言っています。気温も暑い日が続いていますね。
それでも朝晩は涼しい、場合によっては暑かったりもするんですが。

天気がいいと、ふらふらと出歩いてしまうのは、イギリス人も日本人も一緒。
ボンドストリート駅近くのSouth Molton Street(車の通れない通りです)で、象の彫刻(置物?)が設置されていました。
DSC_0163.JPGDSC_0158.JPGDSC_0162.JPG
結構なインパクトですよね。下↓のお店(?)が置いたもののようです。
絶滅しそうな象を保護しましょう、っていうアピールのようですが、FOR SALE って、こんなもの買う人いるんでしょうか? こんな大きなもの、買ってどこに置くのだろう?
お店の中には、もっと手ごろな大きさの置物もありました。
DSC_0160.JPG
全く関係なく、途中にくまの置物もありました。ついでに写真とりました。
DSC_0166.JPG
ぷらぷら歩いて、ニュー・ボンドストリートへたどりついたんですが、ここは有名なブランド街。あまり立ち寄る場所ではありませんね...場違い。
ここ、それぞれ立派なブランド店なんですが、通りの共通のコンセプトということなのか、それぞれの店が旗を掲げているのが目を惹きました。こういうのなんかいいですね。日本でもどこかやればいいのになぁ。
DSC_0169.JPG


nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿 [日本の作家 は行]


陸の孤島の司法書士事件簿 紙一重 (双葉文庫)

陸の孤島の司法書士事件簿 紙一重 (双葉文庫)

  • 作者: 深山 亮
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/02/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日本一の過疎の村へ訳あって落ちてきた司法書士の久我原。村唯一の法律家となった彼のもとを、遺産相続や家庭問題を抱えた依頼人が訪れる。ところが田舎ならではの因習や濃密な人間関係に翻弄され―はたして人々の苦悩を解決できるのか!?人情味あふれる連作ミステリー。


同じ作者の「読めない遺言書」 (双葉文庫)が評判よさそうだったので読んでみようかな、と思ったら品切(絶版)。
代わりにこちらを。
(しかし、帯に好評既刊と「読めない遺言書」を紹介しておいて、絶版にするなんて! この「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」が文庫化された2018年2月にはまだ残っていたのかもしれませんが、絶版にするようなら紹介しなけりゃいいのに)
作者の深山亮は、本書「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」に収録されている「遠田の蛙」で第32回小説推理新人賞を受賞してデビューしています。本書の主人公同様、司法書士をされているようですね。
個人的な印象ですが、小説推理新人賞という賞は、”推理”の部分よりも”小説”の部分に重きをおいた作品が受賞してきているような感じがしています。
帯に「人情ミステリーの傑作」と書いてあるように、本書も、ミステリとしての切れ味で勝負するのではなく、”人情”に比重をおいて勝負する作品です。

第一章、第二章と章立てになっていますが、
「遠田の蛙」
「深淵」
「マドンナの後ろ髪」
「孤島の港」
「境界」
「紙一重」
の6編収録の短編集です。

単行本の時のタイトルは「ゼロワン 陸の孤島の司法書士事件簿」で、ゼロワンというタイトルの作品はありませんが、
「法律家が一人もいないか、いても一人だけの司法過疎地を『ゼロワン地域』と呼んだりする」(12ページ)
と書かれているところからきています。
「この場合の『法律家』に司法書士が含まれるかどうかは微妙なところだ」
と続けて書かれているあたりに、司法書士の置かれている状況がうかがわれます。

しかし、どういう事情があったのか詳しくはわかりませんが、要するに町の事務所で疲れてしまった、という感じで、司法書士はここまでの過疎地には来ないでしょうねぇ。収入が途絶えてしまいますから。
ましてや連作にするほどの事件が起こるとは...いくら因習の田舎といってもねぇ...(もっとも第一話を新人賞に応募した段階ではシリーズにしようとは思っていなかったでしょうけれど)
過疎地に司法書士ということなので、なにか事務所の義理があって、とか特段の事情があって主人公の久我原流されてきたのか、とあらすじを読んで思っていたのですが、そうではなく自分で選んでということだったので、読みだした段階で、あまりの非現実的な設定に正直ちょっと期待がしぼんでしまったんですよね。

小説推理新人賞受賞作である第一話「遠田の蛙」を読み終わっての感想は、ミステリとしては期待通りしょぼい(失礼)。一方、人情話としては、まずまずなのかな、と思いました。
ミステリ的にはあまりにも手垢のついた真相に嫌気がさしてもおかしくないところですが、一方で、こういう事件(?) はかなり決着をつけるのが難しい題材なのに、見事な着地といってもいいところにたどり着きます。
言ってみれば、今までのミステリが置き去りにしていたところに光をあてているとも言えますね。なかなか狙いはおもしろい。

第二話(目次に従えば第二章)「深淵」は、あまりにも世知辛くてどっきりしますが、よくある話といえばよくある話ですし、人情の裏には(横には?)こういう世界がある、ということですよね。

第三話「マドンナの後ろ髪」は、さすがに過疎地舞台を続けるのは無理があったのか、主人公が切り替わり、町の話となります。
この話がいちばんお気に入りですね、本書の中では。
群馬司法書士青年会に所属する女性司法書士の視点で、彼女自身の事件ともいえる題材です。

第四話「孤島の港」は、久我山に視点が戻って、過疎の村・南鹿村に道の港ができることになり、土地買収で久我山のところに仕事が。
陸の孤島である過疎の村に道の港ができるので「孤島の港」というタイトルなんですが、いや、それは「道の駅」でしょ。無理してつけたタイトルには感心できないなぁ...
久我山の幼少期の記憶を重ねて工夫はしてありますが、ううん、回想の殺人としてはやはり平凡と言わないといけないのでしょうねぇ。

第五話「境界」は文庫化にあたって新規収録されたようですが、視点がまた久我山を離れて、町の司法書士会の重鎮(元群馬司法書士会会長)の視点となります。息子の葬式で幕を開けます。
息子・賢二は15年かけても司法書士試験に合格できておらず、自殺で人生を閉じた。息子の机にあった、19723という数字。
司法書士ならではの事件の方は、まさに司法書士ならではの解決のきっかけを経て、面白く感じました。一方で、19723という数字がそれに絡むのはすごいなぁ、と思ったものの、あまりすっきりした感じはしませんでしたね...このようなケースで、19723と書きますかねぇ...書かないとは言い切れませんが。
ただ、これまた人情話としては難しそうなところを親子関係と夫婦関係を交差させ、うまく処理していて感心しました。

最後の「紙一重」では、久我山は法律相談のために町までやってきています!
なるほどなぁ、と感心できるトリックがつかわれていますが、地味なトリックなので小説にするのがすごく難しそうです。さすが司法書士、という仕上がりですね。
第三話「マドンナの後ろ髪」に出てきた印象的な司法書士さんが出てくるのも〇です。

全体として、やはり地味、ですねぇ。司法書士だから、というわけではないでしょうが...
だから「読めない遺言書」も絶版になっちゃったのでしょうか。
この作品自体ではミステリとして取り立てていうほどの部分はないように思われますが、それでもおやっと思えるところは何か所もあり、人情話に落とし込む手腕は優れていますので、ミステリの比重を大きくしてくれると、すごく楽しみな作家になるような気がするのですが...
でも、こういう作家は、さらっと時代小説とか、普通の小説に行ってしまったりするんですよね...



nice!(6)  コメント(0) 
共通テーマ:

モノグラム殺人事件 [海外の作家 は行]


モノグラム殺人事件 (クリスティー文庫)

モノグラム殺人事件 (クリスティー文庫)

  • 作者: ソフィー ハナ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
ポアロが夕べを過ごしていた珈琲館に、半狂乱の女が駆け込んできた。誰かに追われている様子。事情を聞くと、女は自分は殺される予定なのだと震えながら答える。同じ頃、近くのホテルでは三つの死体が発見されていた。それぞれの口には同じカフスボタンが入れられていて……。〈名探偵ポアロ〉シリーズ、公認続篇。


ポアロ(個人的にはポワロと書きたい...)の公認続編。なんという魅力的な 
遅れ馳せながら、読みました(奥付によると文庫化は2016年9月です)。

まあ、しかし、なんだか読みにくかったですね。
作者が悪いのか、訳者が悪いのか、わかりませんが。
文章があまりこなれていないので、訳のせいという部分もかなりありそうに感じましたが。
語り手が刑事、というのもいただけないなぁ、と感じました。解説の数藤康雄によれば年代的にヘイスティングス大尉は使えなかったようですが、やはりヘイスティングスに出てきてほしかったですね。ヘイスティングスでなくても刑事は避けたほうがよかったのではないでしょうか? クリスティの世界なら。しかも、刑事のトラウマみたいなのが繰り返し出てくるのはやりすぎというものです。不要です。
また、お話そのものの方も、本家クリスティーに似たテイストを求めちゃいかんのでしょうが、期待外れでした。
なによりもクリスティにしては、プロットが複雑すぎます。
複雑にしすぎたせいで、あいまいになっちゃっている点もあったような。
たとえば、あらすじでも触れられているカフスボタン。被害者の口の中で置かれていた位置が一人だけ違うのはなぜか、とポアロがしつこく、しつこく拘って(まさに字義通り拘って)取り上げたのに、解決ではさほど...あれ? どうなったのかな? こんなに強調したのなら、少なくともミステリ的にはおおっと思わせるような、あるいはニヤリとさせるような解釈を用意しておいてくれないと、がっかりします。
ここまで複雑に入り組ませてわかりにくくしなくても、クリスティならどーんと背負い投げを食らわせてくれたはず。真相を読者に掴ませないように、せっせせっせと複雑に複雑にしてしまったんでしょうねぇ。
そういう郷愁(?)を求めるのは間違いなんでしょうけどね。でもやはり公認続編なんていうと、期待してしまうではないですか。
(ちなみに、あまりパスティーシュのないポアロ物が公認という形で今頃出てきた背景が数藤康雄の解説に書かれていますが、なんか切ないですねぇ。泉下のクリスティ、まったく喜んでないのではないでしょうか。)

とはいえ、複雑すぎて損をしていますが、意外と(失礼)謎解きにクリスティらしさを盛り込もうとした痕跡はあるんですよね。
そういう面での長所を挙げておくと、まずなにより、謎解きの根幹となる部分が、クリスティのように人間関係の逆転(ネタバレに限りなく近いので色を変えて伏字にしています)をキーにしているところ。
これには満足! ちょっと現代風にどぎつくなっているのは気になりましたが、こういうリスペクトはいいですね!
また小技ですが、あらすじにも引用されている珈琲館での冒頭のシーンでも、クリスティならでは、というか、クリスティが得意としたひねり(小技)が加えられていて、冒頭のシーン(16ページ)でも堂々と、また途中(272ページ)にもはっきりとあからさまにヒントが出されているのですが、333ページでさらっと説明されると、やはりにやりとできました。

ということで、我ながらネガティブなコメントが勝っているように思いますが、ポアロ物だと思わなければ(まあ、名前がポアロで何度も出てくるんでそう思わないのもなかなか骨が折れるんですが)、謎解きミステリとしては面白かったと思います。
クリスティらしさを期待して読むと欠点だと感じてしまう複雑なプロットも、現代の謎解きとしてはそれなりに味わい深いです。



<蛇足1>
ここは翻訳するのが非常に難しいところだと思うので、本書の翻訳がまずい例として挙げるわけではないのですが、
「あなたの目は……頭の良さ以上のものを見せています。賢さです。」(245ページ)
というのはなんとかならなかったのか、と思いますね。
原文をあたっていないのにこんなことを言うのはいけないのかもしれませんが、「頭の良さ」と「賢さ」という訳語の対比ではまったく伝わらないのでは?

<蛇足2>
途中章題にもなっている「ノックせよ、誰が戸口に現れるか」。
ポアロのセリフで、『「ノックせよ、誰が戸口に現れるか」というゲーム』とされていますが、ひょっとすると、これ、ノックノック・ジョークのことではないでしょうか?
英語圏では非常によく知られたもので、wikipedia にリンクを貼ったのでそちらの説明をご覧いただければ詳しいですが、
Knock! Knock!
Knock Who?
に続けて、英語の駄洒落をいうもので、最初の Knock Knockは、ノックせよ、という命令文というより、むしろ日本語ではコン、コンと叩くノックの音=擬音語なんじゃないかという気がします。
高校の英語の教科書に出てきました...

<蛇足3>
「冷めた紅茶! 考えられません(デギュラス)」(109ページ)
というポアロのセリフににやりとしてしまいました。
ポアロの発言なのでこれはベルギー人のセリフということになりますが、イギリス人はいまでもこういうことを言う人多いです。アイス・ティーもいまやふんだんに売ってはいますが。
対する冷めた紅茶を飲むのは、イギリス人の刑事さん。ほんの20年ほど前にはアイスティーなどほとんど存在しない国だったことを考えると、舞台となっている年代的にはかなりの変わり者、ということになりますね。


nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

キネマの天使 レンズの奥の殺人者 [日本の作家 赤川次郎]


キネマの天使 レンズの奥の殺人者

キネマの天使 レンズの奥の殺人者

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/12/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


<裏表紙帯あらすじ>
Q.スクリプターとは?
A.映画の撮影現場で、フィルムを繋ぐときに矛盾が出ないように、役者の動き・衣装など映像に写るすべてを記録&管理する係。
スクリプター・東風亜矢子。ベテランの多い映画業界ではまだまだ若手。人気映画監督が率いるチーム〈正木組〉で、現場全体を冷静に眺めることができるスクリプターゆえに、トラブル解決に奔走する日々だ。カメラマン、録音技師、照明……職人気質のスタッフたちと、強烈な個性をもった役者たちと共に取り組む新作撮影もこれからが佳境――という最中、アクションシーンに欠かせないスタントマンが刺殺されてしまう。一体誰が、何のために!?
ニューヒロインにして名探偵は、
映画について何でも知ってるスクリプター!


単行本です。航空便で持ってきた本です。
帯に周防監督が
「物語と登場人物を知り尽くすスクリプター。
気をよく見るが、森を忘れない――
細部に目を配りながら、俯瞰も怠らない。
なるほど、探偵にピッタリだ!
とコメントを寄せられていて、読んでみるとスクリプターは確かに探偵役にはうってつけのポジションだなぁ、と思いました。

映画界、芸能界、というのは赤川次郎でおなじみの世界ですし、テンポ早く次々と起こる出来事、大勢の登場人物を手際よく捌いていくところは、安心して浸れる世界でした。
肝心のスクリプターの仕事が、言葉でいちいち説明されるのではなく、亜矢子の行動などを通して浮かび上がってくるあたりはさすがベテラン作家。

映画への思い入れも感じられます。
『でも、ハリウッドのように、巨大なマシンのような「CG映画自動製造機」になってしまうのもいやだ』(139ページ)
という記述があります。主人公亜矢子の感慨なのですが、作者:赤川次郎の主張でもありますね。
「CG映画自動製造機」ですか。なかなか痛烈なコメントですね。ただ「CG映画自動製造機」であったとしても、ハリウッド映画にはハリウッドの映画のよさがあると思うので、ハリウッド映画好きとしてはちょっと複雑な気分ですが、こういうところはもっと出てきてもいいのかもしれません。

また、
「業界の言葉で『笑う』とは、邪魔なものを片付ける、という意味である」(167ページ)
と業界ならではの知識をヒントにするところがありますが、せっかくこういう舞台と探偵役・登場人物なので、こういう部分をもっともっと盛り込んでくれると面白いのに、と思いました。

ただ、ミステリとしては、うーん、この動機はいくら映画界、芸能界が狂気の世界(失礼)といっても、納得できるレベルを超えちゃってる感がありますね。
<ちなみに、帯の中江有里さん(女優・作家)のコメントに「映画という美しき夢と狂気の世界。」というのがあります>
この動機を前提にするなら、犯人の人物像をもっと途中でも色濃く出しておく必要があったのではないでしょうか?

最後に...
本そのものではなくて、折り込みのチラシ(講談社2017年12月の新刊案内)に、
「クランクアップまでに謎を解け
ニューヒロインはスクリプター(記録係) 新シリーズ堂々開幕!」
と書いてあって、びっくりしました。
あれ? 「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」に続いてまたまた新シリーズですか... なんと執筆意欲旺盛なこと。それはそれでファンとしては喜ばしいのですが...
ただでさえ赤川次郎はシリーズが多いのに、また...
「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」感想にも書きましたが、いつもの赤川次郎節、といいたい感じの話でして、正直新シリーズとして打ち出す必然性があまり感じられません。このシリーズならでは特色をどう出していくかが問われていくので、このシリーズについても、そのあたりを気にしながら読み進めていけたらと思います、というところです。

<蛇足1>
「よし、今度このラーメンチェーンのCMに使ってやる」(152ページ)
と若いタレントを気に入った社長(?) が言うシーンがあるのですが、あまりラーメンチェーンのCMって見ないですよね...知らないだけで、ラーメン屋さんもCMばんばんやっていますか?

<蛇足2>
「私も一流のスクリプターです」(166ページ)
と亜矢子が言うシーンがあるのですが、亜矢子の性格からして自分で一流って、言うかなぁ、とちょっと不思議な感じがしました。

タグ:赤川次郎
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:
前の10件 | -