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大英博物館:マンガ展 [イギリス・ロンドンの話題]

British Museum.jpg

大英博物館で5月23日から8月26日までの期間で開催されている特別展「Manga マンガ」に行ってきました。
上の画像は大英博物館のHPから拝借しました。

かなり話題になっていまして、大英博物館の特別展の中でも大入りなのだそうです。
土曜のお昼ごろにブラっと行ったら、チケットは売り切れ。翌日日曜日の午後一番のチケットがそのとき手に入る中で一番早い時間のもので、それを買って翌日再訪しました。

こちらのTVでも紹介されていまして、学芸員のかたが
「日本以外で開かれる中では最大規模で、これを観に行けば、マンガの読み方から歴史からなにからなにまで、すっかりわかるようになるんだから素晴らしいな展覧会よ!」
と力強く言い切っていました。

特別展の展示室にはいると、

DSC_0018 BM.jpg
あれ? いきなりアリス。これマンガじゃないよな、と思いましたが、これはマンガを外国の方に身近に感じてもらうための仕掛けなのでしょうね。

外国人向けにマンガの読み方とか歴史とかが示されていたり、編集者のインタビューがあったり、とマンガを文化的に捉えようとするところが面白かったですね。
マンガの読み方(コマをどのような順で読むか、など実務的なところです)は、日本人はあまり意識せずにいるところなので、改めて解説されると新鮮です。
鳥獣戯画とか河鍋暁斎とかもマンガの文脈でとらえられているのも、なんだか興味深かったですね。

展示の中心は原画とマンガ家のインタビューの抜粋でしょうか。
(一部を除いて写真撮影可でした)

DSC_0019 BM.jpg
原画の方は、英文を「浮いた」かたちで処理してあるので、ガラスの下に日本語の手書きの部分がのぞけて楽しい。

インタビューは下のような形で抜粋されています。

竹宮恵子さん
DSC_0028 BM takemiya.jpg

萩尾望都さん
DSC_0030 BM Hagio.jpg

諸星大二郎さん
DSC_0058 BM Moroboshi.jpg

井上雅彦さんは写真じゃなかったですね(笑)
DSC_0038 BM Inoue.jpg
井上雅彦さんの描きおろし?のポスターもあったのですが、それは撮影禁止でした。すごくカッコよかったので撮りたかったのですが。
描かれているところを映したビデオも上映されていました。

進撃の巨人のオブジェもありました。
DSC_0045 BM Titan.jpg


これはこれでおもしろいな、と思いはしましたが、どうでしょうか。
展示会としてみたとき個々の作品は掘り下げ不足になってしまっているので、なんだか中途半端な印象を受けました。
これで19.5ポンド、というのは高すぎるような...

もっとも何ページ、あるいは何巻にも及ぶマンガを展示という形式で見せるのは限界がありますし、マンガ(というもの)を紹介する、というのならこういうかたちでいいのかもしれません。
ただ、ストーリー展開とかキャラクターとか、読者がどこに興味を惹かれて読んでいるのか、そのあたりの解説もあってよいのでは、と感じました。
また、日本では様々な種類の膨大な量のマンガがあるというところが、それほど伝わらない気もしました。

おすすめ、と言い切る自信はないですが、マンガをどのように受容しようとしているのかを伺うにはかなり興味深い体験でした。



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MEMORY [日本の作家 は行]

MEMORY (集英社文庫)

MEMORY (集英社文庫)

  • 作者: 本多 孝好
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/09/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
葬儀店のひとり娘に産まれた森野、そして文房具店の息子である神田。同じ商店街で幼馴染みとしてふたりは育った。中学三年のとき、森野が教師に怪我を負わせて学校に来なくなった。事件の真相はどうだったのか。ふたりと関わった人たちの眼差しを通じて、次第に明らかになる。ふたりの間に流れた時間、共有した想い出、すれ違った思い……。大切な記憶と素敵な未来を優しく包みこんだ珠玉の連作集。


このあらすじ、書きすぎだなぁ......
さておき、この本、出ていることを完全に見逃していて、今年に入って気づいて慌てて買ったものです。本多孝好の本なら、絶対、ですから。
とか言いながら、うかつなことに、
「MOMENT」 (集英社文庫)
「WILL」 (集英社文庫)
に続く連作短編集だということに、この感想を書く時点まで気づいていませんでした。
タイトルの付け方、というか、佇まいというかが、「MOMENT」 「WILL」 に似てるなぁ、出版社もみんな集英社だしなぁ、と思っていながら......耄碌してきました。
シリーズ、というわけではありませんが、登場人物やエピソードが共通している部分があるそうです(もう前の2冊をすっかり忘れてしまっているし、現物も手元にはないので、確認できません...)。
だから、かもしれませんが、きわめて本多孝好らしい作品になっており、手触りというか雰囲気がなんだか懐かしかったですね。

いつもながら、うまいなぁ、と本多孝好には感心するのですが、この作品もそうです。
森野、神田というのが主役級の人物なのですが、この「MEMORY」 (集英社文庫)では脇役なんですよね。
いや、この説明は違いますね。
彼らは視点人物にはならないので、主役ではないように思えますが、脇から眺められるだけで、主役は森野と神田だと思いました。
もちろん、エピソード、エピソードには視点人物がいて、彼らが主役なわけですが、すべてのエピソードを通して、森野と神田の物語が伝わるようになっている。
折々、森野や神田のセリフで語られる部分はあるものの、視点人物にならないのに、この二人の姿が、思いが、どれほどしっかりと浮き上がってくることか。

小説推理新人賞でデビューしたのに、ミステリ味がごくごく薄味だなぁ、というところですが、本多孝好はこれでいいんですよね。






タグ:本多孝好
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読めない遺言書 [日本の作家 ま行]

読めない遺言書 (双葉文庫)

読めない遺言書 (双葉文庫)

  • 作者: 深山 亮
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/10/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙側あらすじ>
中学校教師の竹原に、傷害事件を起こして以降、没交渉だった父親が孤独死したとの連絡が入る。父親は遺言書を残しており、そこには竹原の知らない人物に財産を贈ることが書かれていた。疑問に思いその人物を調べ始める竹原だが、やがてさまざまな事件に巻き込まれていく―。単行本刊行時に各紙誌で絶賛された長編ミステリーが遂に文庫化。第32回小説推理新人賞受賞作家のデビュー作。


「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」 (双葉文庫)感想の際、
「同じ作者の「読めない遺言書」 (双葉文庫)が評判よさそうだったので読んでみようかな、と思ったら品切(絶版)。」
と書いたのですが、未だ本屋さんの店頭では手に入る、という情報を入手したので、知人に買ってきてもらいました!
失礼を顧みずいうと、これは拾い物。人手を煩わせて買ってきてもらってよかった、と思える佳品でした!

もっとも主人公・竹原俊和の小市民さ、というか、うじうじしたところを許容できるか、というのが一つのバー(ハードル)になるような気もします。
断絶していた父親が死に、遺言書が残されていて、遺産が渡る相手・小井戸広美のことを調べ始める。
なのに広美に恋愛感情を抱いてしまい、うじうじ。
女子生徒安田美宇花の態度や振る舞いにうじうじ。
不登校生・岡島大洋とその母親小枝子にうじうじ。
よくもまあ、これだけうじうじできるなぁ、というところですが、面白いのはそんな折にも、斜に構えたというか、皮肉に物事を捉えていて、なんか可笑しいですよね。
余裕がないくせに、余裕があるように思えるというか... 本人も認めている通り、一所懸命でないから、そう思えるのかもしれませんが。

そうして、それらすべてのうじうじエピソードが、相互の関連はない、あるいは非常に乏しいけれども、竹原のもとで意志決定につながっていく。
いいではないですか、こういうの。
そして背後に貫かれているのが、「ライオンズ大全」と、プロ野球史上最高のセカンドとうたわれている、往年の名選手辻発彦。
これもいいではないですか。

だいたいこういう設定の場合、一所懸命でない主人公が、さて、どんなきっかけで、どんなタイミングで一所懸命になり、やる気をだすのか、というのがポイントになるわけですが、辻発彦、やってくれますよ(笑)。
タイミング的には、あまりにもベタな状況での実力発揮(?) となるわけですが、そしてその際も単独自力で解決できはしないのですが、こういうストーリー展開にはそれでいいのです。
そして、それぞれのうじうじが、ちゃんと収まるところへ収まっていく。
この着地が見事なことが、この作品の長所ですね。

3冊目の著書のタイトルが「必殺の三文判」(双葉社)
どんな内容なのか、すごく気になります。
この作品が2016年に出た後、新刊は出ていないようです。
あまり作品数は多くないですが、今後も書き続けていってほしいですね。
また読んでみたいです。

タグ:深山亮
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シフォン・リボン・シフォン [日本の作家 近藤史恵]

シフォン・リボン・シフォン (朝日文庫)

シフォン・リボン・シフォン (朝日文庫)

  • 作者: 近藤史恵
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2015/08/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
乳がんの手術後、故郷に戻ってランジェリーショップをひらいたオーナーのかなえ。彼女のもとを訪れる、それぞれの屈託を抱えた客たちは、レースやリボンで飾られた美しい下着に、やさしく心をほぐされていく。地方都市に生きる人々の希望を描く小説集。


近藤史恵のランジェリーショップをキーにした連作集です。
余談ですが、男なのでブラジャーを身に着けたことがなく、「シフォンチュールレースが」(163ページ)とか言われても何のことやらなのですが、たとえば女性の読者なら、162ページから書かれているような感想、共感できるんでしょうか? そうするとこの作品をもっともっと楽しめるのかも。
あっ、でも、知らなくても楽しめますよ。そのあたりは安心印の近藤史恵さんの作品ですから。

ただ、引用しておいてなんですが、裏表紙側のあらすじは読まないほうがいいですね。
それよりは帯の
「地方都市のさびれた商店街に花ひらいたランジェリーショップ。そこに出入りする人々の屈託と希望を描く小説集。」
くらいの知識のみで読み進めたほうが心地よいと思います。

それこそ繊細な下着のような(とここは想像ですが)、柔らかな手触りにくるまれてはいるものの、物語の芯にあるのは、近藤史恵らしく重いテーマだったりします。
乱暴にまとめてしまうと家族が一番面倒くさい、でしょうか......
そしてそこに、まっすぐ前を向いて生きていく知恵が忍ばせてある。
でも家族だ、ということ。

ミステリ味はほぼないですが、すんなり楽しく読めました。




<蛇足1>
「テレビに映る東京は、なにもかも華やかで新しく、ぺかぺかと輝いているように見えた。」(12ページ)
ぴかぴか、でなく、ぺかぺか、なんですね。

<蛇足2>
「そりゃあ、大変なことも多いだろうけどさ。やっぱり一国一城の主がいいよ。雇われて、だれかの下で働くよりもさ。」(105ページ)
父から米穀店を継いだ兄に、会社員になった弟がいうセリフです。
よく言われる話ですし、どちらにも一長一短、善し悪しがあると思いますが、確かに、自分で決めて自分で引き受けることのできる立場は、サラリーマンからするとうらやましくなりますね。




タグ:近藤史恵
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真赤な子犬 [日本の作家 は行]

真赤な子犬: <新装版> (徳間文庫 ひ 2-8)

真赤な子犬: <新装版> (徳間文庫 ひ 2-8)

  • 作者: 日影丈吉
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/08/02
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
五ツ木守男は自殺しようと準備万端、毒入りステーキを用意した。いざ! その前にトイレ……戻ると、なんと食いしん坊の国務大臣がステーキを頬張っているではないか! 慌てた守男は四階から転落死。現場に駆け付けた四道警部は、真赤な犬を見たという女中の証言が気になっていた。そんな犬、存在する? さらに雪山で扼殺死体まで見つかってさあ大変! ハイカラで流麗な本格ミステリ復刊。


日影丈吉というと一時期徳間文庫にかなり揃っていた印象だったのですが今やほぼ全滅。
近年の復刊ブームに乗って、この「真赤な子犬」 (徳間文庫)も新装版が出ました。
めでたい。

実はタイトルを見てもなんとも思っておらず、本文での指摘で初めて気づいたのですが、「真赤な子犬」 って、変ですよね。
たしかに、真っ赤な犬なんていない...
この点にちゃんと合理的な(?) 説明がついていますし、このことが物語を駆動する仕掛けとしてちゃんと機能しています(でないとタイトルにする意味がないかもしれませんが)。
このあたりの細かい配慮がステキです。

あらすじからもお分かりいただけると思いますが、かなりドタバタ調で、場所もストーリーもあちらへ飛び、こちらへ飛び、かなりスピーディーです。
また、章題に「読者だけが知っている」なんていうのがありますが、読者だけが知っていることと警察が知っていることに差異が設けてあり、そこが物語に趣を与えてもいます。

毒入りステーキを横取りして(?) 食べちゃう国務大臣三渡の影武者を務める(務めさせられる)守衛の山東さんがいい味ですね。
「無欲らしい山東は、こうして見ると三渡氏よりもずっと品がある」(131ページ)
なんて秘書の久我が言うくらいですから。

これらの愉快な要素と物語が語られる勢いの良さ(と巧みな構成)に流されて、事件の真相から目をそらされてしまうんですね。
雪山の足跡のトリックとか、単純なんですがうまく仕組まれていると思いました。

解説で千街晶之が書いている他の成功作「女の家」「孤独の罠」「地獄時計」なんかもどこかで復刊してほしいですね。

<蛇足1>
発表年が1959年と60年近く前の作品なので、時代を感じさせる表現があふれているのが興味深いですよね。
いきなり「ゴチック式」ですし、暖房ではなく煖房。「せせり歩く」なんて表現もクラシカルなイメージ。これが1ページ目です。
あれっと思ったのは、
「今日は幾日だったっけかな?」(101ページ)
というフレーズ、幾日に“いくか”とルビが振ってあります。こういう言い方をしたんですね。
今だと何日(なんにち)というところですね。
今回ここを入力しようとして“いくか”と入れてみても漢字変換されませんでした。
すっかり廃れてしまった言い方、ということでしょう。

<蛇足2>
プランクステーキというのが出て来ます。たとえば27ページ。
知らなかったので、ネットで調べてみましたが、ハンガリー料理なんですね。
「プランクステーキとは、木のお皿に、赤ワインとパプリカでマリネされたステーキに、マッシュポテトと野菜と2種類のソース(ペッパーソースとベアルネーズソース)が盛り付けられているもの」だそうです。(見つけたページにリンクを貼っています。勝手リンクですみません)


タグ:日影丈吉
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吸血鬼と伝説の名舞台 [日本の作家 赤川次郎]

吸血鬼と伝説の名舞台 (集英社オレンジ文庫)

吸血鬼と伝説の名舞台 (集英社オレンジ文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/07/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
観劇に訪れた正統なる吸血鬼の末裔フォン・クロロックと娘のエリカ。クロロックは脇役を演じた若手女優の演技に惹かれる。同様に劇団の大御所女優もその若手女優に自身の当たり役の跡をつがせることを宣言! 重圧を感じながらも必死に稽古に励む彼女に怪しい影が迫り……!? 表題作の他、『吸血鬼と幻の女』『吸血鬼選考会』の2編を収録した大ヒットシリーズ最新作!


「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ 第36弾。オレンジ文庫第4弾です。あいかわらずうすーい本です。
と、このシリーズへの感想について恒例の出だしとなりました。
毎年新刊が出ていますが、これだけ薄いのなら(行間も一行あたりの文字数もすくなく、ぱっと本を開いた印象は、スカスカ、です)、2年か3年に新刊を出すくらいのペースでよいのではないかと思ってしまいますね。
コバルト文庫で出ていた昔の作品も次々と集英社文庫で復刊(?) していますが、その際には合本してもらいたいな、と思います。

前作「吸血鬼の誕生祝」 (集英社オレンジ文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)収録の「明日はわが身と吸血鬼」の感想で、このシリーズにしては極めて珍しく、超常現象とかこの世ならぬものとか黒魔術(のようなもの)とかが出てこないことを指摘しましたが、今回の「吸血鬼と伝説の名舞台」収録の「吸血鬼と幻の女」にも「吸血鬼選考会」にも出て来ません。表題作の「吸血鬼と伝説の名舞台」もややネタバレ気味ではありますが、微妙な仕上がり。
もう一度いいますが、これだと、このシリーズの作品にする必要ないんじゃないかな。

数多くのシリーズ作品を抱える赤川次郎作品の中で、かなり明確な特徴をもっていたシリーズなのですから、そこは大切にしていってもらいたいなぁ、とそんなことを考えます。

そんななか、表題作「吸血鬼と伝説の名舞台」の怪現象(?) はかなり新しい発想ではないかと思いました。似たような発想の作品もないではないような気もしますが、すっと思い出せません。
ただ、この作品の着地がよくわからないんですよね。これで解決になっているのでしょうか? 


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吉祥寺の朝日奈くん [日本の作家 な行]

吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2012/12/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
彼女の名前は、上から読んでも下から読んでも、山田真野(ヤマダマヤ)。吉祥寺の喫茶店に勤める細身で美人の彼女に会いたくて、僕はその店に通い詰めていた。とあるきっかけで仲良くなることに成功したものの、彼女には何か背景がありそうだ…。愛の永続性を祈る心情の瑞々しさが胸を打つ表題作など、せつない五つの恋愛模様を収録。


「百瀬、こっちを向いて。 」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続く中田永一の第2作、とこういう書き方でよいのでしょうか?
中田永一は、乙一の別名義ですし...

表題作のほかに
「交換日記はじめました!」
「ラクガキをめぐる冒険」
「三角形はこわさないでおく」
「うるさいおなか」
が収録されています。


冒頭の「交換日記はじめました!」は、ちょっとこちらと波長が合わなくて、少し心配になりましたが、そのあとの作品からはすっと世界に溶け込めました。

「ラクガキをめぐる冒険」は十四歳のときのできごとを八年後に振り返って行動を起こす主人公・桜井千春の物語ですが、遠山くんまでたどり着く道筋も、十四歳の時のエピソードも、効果的な小道具である油性マーカー・マッキーも、そしてラストのサプライズ(というほどでもなく、予想された結末ですが)も、ピタリと、中田永一(乙一)ならこうでなくちゃ、と思えました。

「三角形はこわさないでおく」も素敵で、この三角関係の当事者になりたいくらい。
でも、ぼくだったら、当事者になってしまったらさっさと三角関係をこわしてしまいそうですけどね。

「うるさいおなか」はお腹が鳴ってしまう少女、という主人公の立ち位置が気の毒ですが、そこにするっと入り込んでくる春日井君のすばらしさにしてやられてしまいます。
ラストの「同じような変態が身内にもいたというのがまずおどろきであり、」(224ページ)で笑ってしまい、続けて書かれている「日本も、もうだめか、と感じた。」のくだりでは爆笑してしまいました。

表題作でラストを飾る「吉祥寺の朝日奈くん」は、タイトルにもなっている朝日奈くんが主人公で視点人物・僕、です。
この朝日奈くん、住むところに困っているという話をすると新しいバイト先でしりあった女の子から、簡単に「うちに来なよ」と告られるような人物で、「顔、きれい」とかルックスがいいとかハンサムとか言われる人物です。自分とまったく異なる境遇の人物なのですが、しっかりしっかり感情移入できてしまいました。
そして中田永一なら、というより、乙一ならお手のもののひねりに、どっぶり浸ることができました。
ラストで朝日奈くんのモノローグでの感慨は、いつまでも味わっていたいな、と思えるものでした。


「百瀬、こっちを向いて。 」感想に書いたコメントをここでも繰り返しておきます。
やっぱり乙一、いいですね。
中田永一名義の作品も、さらに別名義の作品も追いかけていきたいです。



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バルコニーの男 [海外の作家 さ行]

バルコニーの男 刑事マルティン・ベック (角川文庫)

バルコニーの男 刑事マルティン・ベック (角川文庫)

  • 作者: マイ・シューヴァル
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ストックホルム中央の公園で女児の死体が見つかった。彼女は前年、不審な男に話しかけられ、警察に証言を残していた。そのわずか二日後に別の公園で新たな少女が殺害され、ストックホルム市民は恐怖に打ち震えた。連続少女暴行殺人事件に、刑事マルティン・ベックは仲間と事件に取り組むが、手がかりは三歳の男の子のたどたどしい証言と、強盗犯の記憶のみ。捜査は行き詰まる――。警察小説の金字塔シリーズ・第三作!


「ロセアンナ」(角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「煙に消えた男」(角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら
に続く、マイ・シューヴァル ペール・ヴァールーによる、マルティン・ベックシリーズ第3作です。

今回の事件は連続少女暴行殺人事件。痛ましい事件ですね。
一種の通り魔的事件なので、手がかりもほとんどなく、捜査が難航する、という構図の作品です。

読み終えた感想は、誤解を恐れずにいうと、
「この作品、ミステリなのかな?」
というものでした。
別の表現でいうと
「この小説、警察小説ではあっても、警察ミステリじゃないんじゃないかな?」
もちろん、警察小説は広義のミステリの範疇ですから、この「バルコニーの男」 はミステリに位置付けられるわけですが、おもしろさの主眼が、ミステリにはない気がしてなりません。普通の小説?
あらすじにも書いてある、三歳の男の子のたどたどしい証言のくだりなどは、ミステリ風味がちょっぴりしますが、あまりにもあっさり扱われています。
作品の冒頭、バルコニーの男の場面から始まっているのも、ミステリ的にはいろいろと料理のしがいのあるオープニングのようにも思えるのですが、その後とりたてて重視される気配もありませんし、作者はミステリとしてのおもしろさを重視していないような気がします。

それよりは警察の面々の方がよほど重点がおかれているようです。
マルティン・ベックやコルベリといったお馴染みになってきた捜査官以外にも、この「バルコニーの男」 で初お目見えだと思われる、グンヴァルド・ラーソンとか、複雑そうなキャラクターで注目株ですよね。

ミステリ味が薄くても、ぐんぐん読ませる力を持った作品で、優れたシリーズだと再認識しました。
シリーズ次作は「消えた消防車」 (角川文庫)で、楽しみです。


<蛇足>
「新聞と宣伝郵便物ばかりだ」(288ページ)
思わず失笑。宣伝郵便物って... 今どきダイレクトメールと言わない人いますか?
せっかくのスウェーデン語からの新訳。こなれた日本語にしましょうよ。


原題:Mannen pa balkongen
作者:Maj Sjowall & Per Wahloo
刊行:1967年
訳者:柳沢由実子


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黒い睡蓮 [海外の作家 は行]


黒い睡蓮 (集英社文庫)

黒い睡蓮 (集英社文庫)

  • 作者: ミシェル・ビュッシ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
モネの《睡蓮》で有名な村で発生した、奇妙な殺人事件。殺された眼科医は女好きで、絵画のコレクターでもあった。動機は愛憎絡み、あるいは絵画取引きに関する怨恨なのか。事件を担当するセレナック警部は、眼科医が言い寄っていた美貌の女教師に話を聞くうちに、彼女に心惹かれていく。一方、村では風変りな老女が徘徊し……。『彼女のいない飛行機』で人気を博した著者の傑作ミステリ。


「このミステリーがすごい! 2018年版」第5位。
この「黒い睡蓮」 (集英社文庫)は2015年に翻訳された「彼女のいない飛行機」 (集英社文庫)が話題となったミシェル・ビュッシの作品で、「彼女のいない飛行機」 よりも前に発表された作品のようです。
舞台はノルマンディーの村ジヴェルニー。モネで有名なところですね。

書き出しは
「ある村に、三人の女がいた。
 ひとり目は意地悪で二人目は嘘つき、三人目はエゴイストだった。」(11ページ)
そして前語りにあたるこの部分の結部は
「いちばん若い三人目の女はファネットといい、二人目の名前はステファニー・デュパン、いちばん年寄りのひとり目の女、それはこのわたしだ。」(13ページ)
いかにも怪しげですよね。
三人の女それぞれに起こるそれぞれの出来事が綴られていくのですが、つながりはどうなっているのかな、というのが興味の焦点となります。
ミステリを読み慣れた人なら、ある程度見当をつけて読み始めることでしょう。
ところがその見当を裏切るような記述があちこちに。
とするとこちらの考え違いなのかな、と思いつつ読み進む。

それぞれの物語、エピソードがとても興味深かったですね。
絵に活路を見出す少女ファネット、捜査する警察署長と関係が深まっていく学校教師ステファニー、そして過去を回想しながら”観察者”として村を徘徊するわたし。
舞台がジヴェルニーだけに、モネやモネの作品が底流に流れているのも素敵です。ジヴィルニー自体もたっぷり描かれます。

ミステリとしての仕掛けはどうだったか、というと、訳者あとがきでは「大技」と書かれています。
前例はいっぱいある手法・仕掛けですが、一歩前に進んだ感じがします。少なくとも前例よりは踏み出して作り上げられているとは思いました。
ただ、原文がどうなっているかわかりませんが、読み返せばいわくあげな前語りはアンフェアと言わざるを得ないですし(そもそも「三人の女がいた」というのがアウトですしね←ネタバレにつき色を変えています)、本文中にもアンフェアと思えるところがあちこちに。
この仕掛けを成立させるためにもっとも重要なポイント(名前の違いや犬ネプチューンの扱い←ネタバレにつき色を変えています)も説明はされているもののかなり苦しいです。
それでも、アンフェアにならないように、そしてそれらしいヒントをちりばめようとした努力の跡はしっかりうかがえますが。

ただ、この作品についてはミステリとしてアンフェアでも構わないのかもしれないな、という気がしました。
というのは、ちょっとネタバレ気味になりますが、この仕掛けが明かされたときに、三人の女それぞれの物語が違った景色に見えてくるからです。このためだったら、多少のアンフェアは受け入れようではないですか! とそんな気分。

モネに彩られた作品で、芸術作品もあちこちに出てきます。
「モネの『睡蓮』を見ていると、なんだか絵のなかに吸いこまれ、突き抜けていくような気がするでしょ? 井戸のなかか砂の穴にでも、落ちていくみたいに。それがモネの狙いだったのよ。よどんだ水を描くこと、一生の出来事が目の前を通り過ぎていくような印象を与えることが。」(299ページ)
睡蓮を見てもちっともそんなことを思わない芸術オンチなので、こんなことを言われると恐れ入るしかないのですが、しかもこの発言者が11歳くらいの少女(ファネットです)と来ては...

分厚い作品ですが、一気読みしました。
「彼女のいない飛行機」 にも期待します。

<蛇足1>
「アマドゥ・カンドゥに聞いた話だが、十年前、日本の片田舎にモネの家やノルマンディ風の花園、水の庭をそっくり模した庭園ができたのだそうだ。」(248ページ)
と書いてあったので、ネットで調べてみました。
高知県の北川村にある「モネの庭 マルモッタン」(勝手リンクですがHPにリンクを貼っています)のことのようです。
北川村「モネの庭」マルモッタンは、1999年に「アカデミー・デ・ボザール終身書記アルノー・ドートリヴ氏から、それまでは門外不出であった〈モネの庭〉の名称をいただく事となった」うえ、「印象派の巨匠クロードモネが43歳から生涯の半分を過ごした、フランス・ジヴェルニーで丹誠込めて作り上げた〈モネの庭〉を再現した庭として2000年に開園」したとのことです。
なんだかすごいですね。
ちょっと行ってみたくなりました。

<蛇足2>
「ジヴェルニーから一キロ以上ある、人里離れたきれいな場所だ。イラクサの島で待ち合わせるというのは、考えれば考えるほどいいアイディアだと彼女は思った」(449ページ)
「一キロ以上ある」という表現から、一キロちょっとの距離にあるということになります。
人に見つからないよう密会するのなら、ちょっと近すぎるのではないでしょうか? 本筋とは関係ないですが気になりました。

<蛇足3>
「アンティークショップの前で大人たちの一団が、日本語だか韓国語だか、わけのわからない言葉を話している。わたしは動物園の恐竜みたいなものだ。」(551ページ)
日本人が揶揄されているなぁ、と感じないでもないですが、ひと昔前ならこうでも、今なら「中国語だか韓国語だか」と書かないと実情に合わないでしょう。
観光地出会うのは、日本人より圧倒的に韓国人、中国人が多いですから...
それと、動物園の恐竜って、どういうことでしょうか? 動物園に恐竜はいないような...



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ミステリー・アリーナ [日本の作家 深水黎一郎]

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

ミステリー・アリーナ (講談社文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/14
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
嵐で孤立した館で起きた殺人事件!  国民的娯楽番組「推理闘技場(ミステリー・アリーナ)」に出演したミステリー読みのプロたちが、早い者勝ちで謎解きに挑む。誰もが怪しく思える伏線に満ちた難題の答えはなんと15通り! そして番組の裏でも不穏な動きが……。多重解決の究極 にしてミステリー・ランキングを席巻した怒濤の傑作!!


あらすじにミステリー・ランキングを席巻と書いてありますが、帯もすごいですね。
本格ミステリ・ベスト10 (2016年国内・原書房) 第1位
ミステリが読みたい! (2016年版国内篇・早川書房) 第3位
週刊文春ミステリーベスト10 (週刊文春2015年12月10日号国内部門) 第4位
このミステリーがすごい! (2016年版国内編・宝島社) 第6位

読み終わってみて、作者の狙いはよくわかりましたし、各種ベスト10で高評価なのも理解しましたが、残念ながら好き・嫌いでいうと、好きではないですね。

まず娯楽番組内での推理クイズ、なわけです。ここが好きではない最大のポイント。
多重解決ものは好きなんです。最初に読んだ「毒入りチョコレート事件」 (創元推理文庫)には本当にしびれたものです。
でもね、それをゲーム形式にして劇中劇、作中作の枠組みでやるのはどうもねぇ。
ゲーム形式ということは、実際に起こった事件、という裏付けがなく推理合戦をするわけですから、現実的というか現実性というかの担保がそもそもないんですよね。
そしてその劇中劇、作中作を作った人というのがいるわけで、使いかたによっては、なんでもあり、な状況になってしまいます。ルールも後から勝手に追加できそう。
これだと、推理の楽しみが減ってしまうような気がするんですよ。
作中作の方が、現実性がない方が、ピュアに論理に淫することができる、という意見もあるとは思うんですが、すっきりしないんですよね...
その点は作者も意識されていることがわかる部分があちこちにあります。
そして多分その点を逆手に取って、ロジックに淫したというのか、この設定を突き詰めたというのか、そうですね、多重解決ものの極北にたどり着こうとした、というのがこの作品の狙いなんだと思います。
収録されている「文庫化のためのあとがき」に狙いが説明されてはいますが。

もう一つ。あらすじに「番組の裏でも不穏な動き」と書かれている部分。
おもしろい発想だな(と言うと人でなしかと思われてしまいそうですが)と思ったのですが、これ、この物語に必要でしょうか?

ついでに突っ込んでおくと...
出題者側は予想される解決をあらかじめ想定して物語を作っている、という設定になっています。
15ある解決案、となっていますので(数は確認していません)、15通り想定した、という風に書かれていますが、15通り用意してもだめで、それぞれの解決がどの順序で出てくるのかによっても、話の流れは変わってしまうので、15通りの解決の並び方を想定すると、15の階乗、すなわち約1兆3700億通りのストーリーを用意しておかなければならないことになります。
もちろん、ある程度は順番も予想できるとはいえ、たとえばほぼ半分の8個の解決案でも4万通り。5個にしても120通りのストーリーの用意が必要です。
無理じゃない??

と好きではないこと(とアラ)をるる述べましたが、好きではないけれども、たとえば年間ベストを選ぶ際には、本書を選ぶと思います。
本当にすごい作品なんですよ、これ。各種ベスト10で高評価なのも納得の作品です。
ミステリファンなら、読み逃すのがもったいない傑作だと思います。
ただなぁ...どうしてもなぁ...この傑作を「大好き」と言えないのがとても残念。

<蛇足>
「俺はこの<車に乗っていてもうちょっとで死ぬところだった自慢>を、<学生のテスト前の勉強してない自慢>や<サラリーマンの寝てない自慢>、それに<いい年をした大人の若い頃はワルだった自慢>などと並ぶ、世界の四大どうでもいい自慢とひそかに名付けている」(34ページ)
おもしろい!

<蛇足2>
平清盛が「たいらきよもり」、平将門が「たいらまさかど」と「の」が入る理由が説明されていて勉強になりました。(317ページ~)
まず天皇から賜った本姓というのがあり、これが一族の名前。
子孫が枝分かれして増えると区別するために、住んでいる土地の名前や官職名にちなんでつけたのが名字で、これは家の名前。
で、本姓のときに「の」をつけ、名字のときは「の」をつけない。
徳川家康のフルネームは、徳川二郎三郎源朝臣家康で、徳川が名字、二郎三郎が通名、源が本姓、朝臣が姓(かばね)、家康は諱、と説明されています。元々の名字は松平で、藤原氏の胤になるが、源氏の嫡流に近い新田家の《得川》を買い取って、それ以降徳川と名乗った、と。
で、豊臣秀吉の豊臣は天皇から下賜された本姓だから、〈とよとみひでよし〉と読むのが正しい、そうです。


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