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緋色の研究 [海外の作家 た行]

緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 作者: アーサー・コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/07/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ホームズとワトスンが初めて会い、ベイカー街221Bに共同で部屋を借りた、記念すべき第一作。ワトスンへの第一声「あなた、アフガニスタンに行っていましたね?」は、ホームズが依頼人の過去を当てる推理のはしり。第一部はホームズたちの出会いから殺人事件解決まで。第二部は犯人の告白による物語で、米ユタ州からロンドンにいたる復讐劇。


ミステリの基本中の基本ともいえるホームズ物ですが、実は子供向けのものしか読んだことがありませんでした。
山中峯太郎の訳のもの(訳というより翻案というべきだ、というご指摘もあるようですが)が図書館にあったのでそれを子供の頃に読んだきりです。
あまりに高名・有名すぎて、またそれぞれ印象的な作品が多すぎて読み返す気にならなかったんですね。
今さらホームズ物かよ、と思う気持ちもないわけでもないのですが、イギリスに来たのもなにかの縁、大人物でちゃんと読み通してみようと思ったのです。
とすると悩んだのが、どの版で読むか、ということ。(原書で読む、という選択肢はありません...)
さすがはシャーロック・ホームズ、各社から文庫本が出ています。
深町真理子さんによる 創元推理文庫の新訳?、表紙イラストが印象的な角川文庫の新訳?、あるいは伝統の延原謙訳の新潮文庫? シャーロッキアンとして高名な小林司・東山あかね訳の河出文庫版?
悩んだ末に、日暮雅通さん訳の光文社文庫版にしました。

本書「緋色の研究」 (光文社文庫)はホームズ初登場作です。

シャーロック・ホームズの職業ですが、本人が語っています。
「ぼくはね、ちょっと変わった仕事をしているんだ。おそらく、世界じゅうでもぼくひとりしかいない。つまり、諮問探偵というやつなんだが、わかるかな。このロンドンには警察の刑事や民間の探偵が大勢いる。その連中が捜査や調査に行き詰まると、みんなぼくのところへやってくるんだ。」(36ページ)
普通の私立探偵と違って、客が刑事や(私立)探偵、というわけですね。
松岡圭祐に「探偵の探偵」 (講談社文庫)というシリーズがありますが、あちらは探偵を捜査対象とする探偵なので違いますね。
という意味では、探偵から依頼を受けて捜査する探偵というのは、ホームズの後にも存在していないのかもしれません。
でも、職業というからには、刑事からも報酬を受けとっていたのでしょうか? レストレード警部やグレグスン警部も金を払っていたのでしょうか?

ホームズはかなり奇矯な性格、ふるまいだった印象はあったのですが、警察を除いて、他の探偵をくさしているとは思いませんでした。
デュパンとルコックが槍玉にあがっています(38ページ)
「デュパンはずっと落ちるね。十五分も黙り込んでおいて、おもむろに鋭い意見を吐いて友人を驚かすなんてやり方は、薄っぺらでわざとらしいことこのうえない。確かに分析的才能はちょっとしたものだが、決してポーが考えていたほどの大天才じゃないよ」
「ルコックなんて哀れな不器用ものさ。とりえはただひとつ。動物的なエネルギーだけ。」「あんなもの、“探偵たるものこうはすべからず”っていう教則本にでもすりゃいい」
さんざんです。

一方で、
「彼は探偵術についての賛辞を聞くと、美人だと褒められた女性のように敏感に反応してしまうのだ」(64ページ)
だなんて、かわいいところもあるではないですか。
このあたりが広く人気を博している理由のひとつなのかもしれませんね。

タイトルの理由も割と早い段階で出て来ます。
「君がいかなかったらぼくは出かけなかったかもしれないし、こんなすばらしい研究対象(スタディ)を危うく逃すところだった。芸術の用語を使うなら、『緋色の習作(スタディ・イン・スカーレット)』とでもいったところじゃないか? 人生という無色の糸の束には、殺人という緋色の糸が一本混じっている。ぼくらの仕事は、その糸の束を解きほぐし、緋色の糸を引き抜いて、端から端までを明るみに出すことなんだ。」(72ページ)
この部分を受けて、河出文庫版は邦題を「緋色の習作」としていますが、個人的には「習作」ではなく「研究」に軍配を上げたいです。
解説で訳者・日暮雅通も触れていますが、ここは、研究と習作の両方の意味を持つ study を一種の掛詞としてホームズが語ったのだと思いますし、仕事、であるなら、習作ではないと思いますから。(さらに言うと、芸術サイドの study を「習作」と訳しているということですが、これも「研究」と訳して差し支えないのではないかと思います)

ホームズの推理のお手並みは、あざやか、と言いたいところですが、わりと決めつけが多い印象でしたね。
そうとは限らないんじゃないの、と突っ込みたくなるところがいっぱい。
終盤振り返って語る部分でも(210ページくらいから)、鼻血の件や変名・本名の件、ちょっと根拠なく(根拠なくは言い過ぎかもしれませんが、きわめて根拠薄くとは言えます) 決めつけちゃっていますよね。
ただ、何気ない部分に違った角度の光を当てて、意外な推理を導き出す醍醐味は十分感じられます。

二部構成になっているので余計そう思ったのかもしれませんが、ミステリ、謎解きとしてというよりも、物語性が強いことに驚きました。
ある意味ネタバレにはなりますが、早い段階で明かされているので(現場に残された血文字 RACHE はドイツ語で『復讐』と60ページで明かされます)書いてしまうと復讐譚なんですね。これが物語に奥行を与えている、というか第二部はその復讐の背景が描かれます。
この犯人が復讐したくなったのはよくわかるのですが、現在の視点で見ると、復讐の相手方、復讐すべき相手としてつけ狙うべき対象は、果たしてこの事件の被害者たちでよかったのだろうか、とちょっと考えてしまいました...余計な話ではありますが。
謎解き物の始祖的扱いを後に受けるわけですが、そんなことをドイルは想定もしていなかったのでしょうね。もっともっと物語性豊かなものを書いていきたかったのかもしれません。

原書刊行順に読もうと思っているので、次は「四つの署名」 (光文社文庫)です。読むのがいつになることやら......


<蛇足1>
「『表が出ればおれの勝ち、裏が出ればおまえの負け』というわけさ。」(87ページ)
ミステリではちょくちょく出てくるこのフレーズ、ホームズにも出てきていたんですね。

<蛇足2>
「刑事警察のベイカー街分隊さ」(87ページ)
この作品では、(未だ)ベイカー街イレギュラーズとは呼ばれていないんですね。
それにしても89ページのイラスト、ちっとも可愛げがない。イメージがあわない...


<蛇足3>
「海軍におります息子にもずいぶんお金がかかります。」(96ぺージ)
下宿を営むシャルパンティエ夫人のセリフなのですが、海軍ってお金がかかるんですか?
軍人は一種の公務員なので、給金が十分に出るでしょうから、お金がかかるというのが理解できませんでした。

原題:A Study in Scarlet
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1887年(この文庫本には原書刊行年の記載がありません...)
訳者:日暮雅通



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